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The 6th Attack!! 10

 無事、私たちがグラナアーデから故郷K県K市へ帰ってきてから一週間。

 学校帰りに本屋さんに寄ったら、クラージュがいた。



 私が入っている合気道部は、月・木だけのゆるーい部活だ。ゆるくならざるを得ないとも言う。なぜかというと、普段は葉介が所属している強豪・剣道部が武道場を完全占拠していて、合気道部がスペースを貸してもらえるのが月・木だけだから。合気道部はほとんど同好会みたいな扱いで、実は顧問もほとんど顔を出さない。


 ということで、火曜日の今日は寄り道の日だ。今日学校で読ませてもらったセ○ンティーンを買って、ふろくのシュシュをゲットするつもりだった。

 ほんとに何気なく、お昼休みから向こう、ずっと小花柄シュシュに意識を奪われたままふらふら入った本屋さんで、すっごいナチュラルに雑誌を立ち読みしているクラージュを見つけたときの私の驚きときたら、もう、誰とも分かちあえないのが悔しくてならないほどだ。


 喉から漏れる名状しがたいうめき声を聞きとがめた人は、幸い、クラージュを含め、いないようだった。私はとっさに本棚の陰に隠れてクラージュを盗み見る。クラージュはずいぶん地球人ぽい格好をしていた。

 男の人にしては長い鎖骨まである金茶の髪も、いつもみたいに流したままじゃ目立つからか、襟足のところで女の子みたいに編み込みにして短くまとめている。

 それに、まず一番目立つだろう、キラキラ飾りがいっぱいついた、いつものかさばる長衣は脱いでいた。代わりにユニクロで買ったみたいな普通のカットソーにチノパンの格好だ。


 とにかく、彼なりに地球人にとけ込もうとしている努力の跡をそこかしこに感じる。

 気づかない振りをしてあげるのが優しさかと思ってそっとクラージュの背中を通り過ぎた。そして抜き足差し足セ○ンティーンを手に取った瞬間、くるっと編み込みの金茶の頭が振り返る。



「おや、花奈さん。こんなところで、奇遇ですね」

「……くっそー!!」

 私はその場で地団太踏んだ。クラージュはしてやったりの顔だ。


「なにしに来てんの!! なにしに来てんの!! ていうか何でいんの!?」

 腹立ちまぎれに手に持っていた薄っぺらい鞄を振り回し、一発クラージュに食らわせる。クラージュは当然みたいに私の学生鞄を受け取めると、重くもないそれを代わりに持ってくれる。奪われたとも言う。

「英恵さんから聞いたんですよ。今日は雑誌の発売日だから、ここで待っていれば、花奈さんがきっと寄るだろうって」

「人のお母さんを名前で呼ぶな!!」

 私のパンチをクラージュはまた軽く受け止める。

 そのついでに私のセ○ンティーンと、見出しに『原発にまつわる黒いカネ』とか『新人アイドル含羞のグラビア』なんて踊っているゴシップ誌を二三冊、さらに『今最もほしいジャケット89』特集の男性ファッション誌を二冊重ねてレジに持っていく。手当たり次第か。



 重そうなレジ袋を一つ作って、お釣りを受け取って、クラージュは振り返った。

「お待たせしました、花奈さん」

 レジのお姉さんの顔がぽーっとしているのは完全に無視の、明るい笑顔だ。クラージュがごく自然に私のスクールバッグを右肩に、レジ袋を右手に提げて、左手を差し出してくる。その手を軽くよけながら私は首をかしげる。


「……なんか変な本ばっかり買ってるね?」

「変ですか?」

 クラージュはにこにこしたまま首をかしげる。ゴシップ誌のセレクトがおっさんっぽい、とは言いにくい。

 もごもご口の中で呟いやいていると、クラージュは私によけられた左手をひっこめた。そうやって、私とクラージュは手をつながず、少し距離を保ったまま帰途につく。

 本当のことを言うと、最近のクラージュはおとなしくて、なんとなく不気味だ。1メートル未満50センチ以上の距離を保っていたい。その、手をつなぐには遠い、70センチくらいの距離からクラージュは言う。


「僕、日本のことを勉強したいって思うんです。…いけないでしょうか? 魔具も、あまり仰々しいものでなく、もっと花奈さん好みのものをプレゼントしたいな、と思います。あなたが出かけている時間に、あなたの家へ押し掛けるような真似をしたくないな、と思います。

 あなたと、親しくするための障害があるのなら、すぐに対応できる自分でありたいと思う」

「………………」


 つまり、クラージュはこれ以前にも、私たちが学校に来てる間に家に来て、待ちぼうけを食らったことがあるらしかった。

「……あ、あんま無理しないように……。ていうか、あんまりこっちに頻繁に来られても……」

 結局私は、ぼんやりにごしたことしか言えない。こんなせりふで、百戦錬磨のクラージュをかわせるはずがなかった。クラージュはまるで私がボケたみたいに、わざとらしく声をあげた。


「ナイスジョークですね。まさか。花奈さんたちはそろそろ中間テストでしょう? 勉強の邪魔をするわけにいきません」

「うーわー。うーーわーー」

 私は歩きながら頭を抱えた。まさかクラージュから、『ナイスジョーク』だとか『中間テスト』だとか、俗極まりない言葉がきかされるなんて………いや、中間テストのことがバレてるなんて思いもしなかったのだ。もともと私はまじめに勉強する方じゃないから、いつも言い訳には苦慮させられている。今回は、『グラナアーデ方面の人付き合いが忙しくて』で決まりとして、テスト週間はゲルダガンドに逃げ込む気満々だったのに。



「もーやだー。もぉー、やだー」

 逃げ場はない。葉介がゲルダガンドに残るって聞かされたときにも匹敵しそうな衝撃にうちふるえているそのとき突然、クラージュは立ち止まって西の空を指さした。

「………あ、UFO」

「ええっ!?」

 当然私はワンテンポ遅れて立ち止まり、指された方を見るわけだけど、クラージュの指さした方には薄ピンクに染まった夕焼けが見えるだけで、そのほかはカラス一羽飛んでいない。

「なに!? え!? どこよ!?」

「………ふふ」

 一生懸命目を凝らす私の髪のあたりをクラージュがふっと触れたので、私はからかわれたことにやっと気づいた。

「クラージュ!」

 私はクラージュをくるっと振り返った。

「ふ……くく、はは。…いや、すみません」

 クラージュは私が目をつりあげているのにおびえた様子もなく、声をあげて笑い続ける。しかも古いネタをよく勉強したものだ。中間テストに、ナイスジョークに、あっUFO!?


 あんまり悔しかったので、私は今度は藍色に染まり出した東の空を指さして大声をあげた。

「あーーー!! UFOだーー!!!」

「………」

 むろんクラージュは微動だにしない。

「………………」

「……ふふふ」

 クラージュはおかしくって仕方ない様子だ。

「………あーもーいい!! もーいい!! はやく帰ってよー!!」

 とうとうかんしゃくを起こして、私はクラージュの背中を後ろからぐいぐい押す。

「ははは。花奈さん、押さないで」

 押してみるとクラージュはかなり重たくて、遅々としてなかなか進まない。ほんの十秒押したくらいのところで、クラージュは突然くるっと振り返って、押してた私の手をとって、無理矢理手をつなぐ。

「ね、花奈さん。仲良く帰りませんか」

「ケンカ売ってるのはどっちなの!」

 つないだ手を妙に元気よくぷらんぷらん振られながら、私はくってかかる。あれ、おかしいなとクラージュはしらばくれた。

「花奈さん、こうやってつないだ手を振りながら歩くの、好きでしょう?」

「そんなもの幹也と葉介限定だよ!!」

「じゃ、僕も混ぜてください」

「まぜっ……」


 絶句する私を、今度はクラージュが引っ張る。

「あなたと葉介が、二人だけの合い言葉みたいに、日本のことを話すのがうらやましかった。……覚えていてくださいね。僕がこれからすること、全部、あなたのためですよ」

「……な…」

 何言ってるんだかちょっと分かんないです。

 私がいままでの人生でもっとも多く使ったフレーズだけど、今現在、そのフレーズすら出てこない。


 クラージュはつないでた手をほどいた。いつの間にか家まで帰りついている。

 彼は慣れた足取りで門から庭へ進み、立ち尽くしてる私を後目にして、縁側に私の鞄とセ○ンティーンを粛々と並べ、クラージュはまた、にっこり笑った。

「……『それ』、とてもよくお似合いです。

 ではまた、明日来ます」


 きっぱり言い放つと、クラージュはくるっと背中を向けて、池に飛び込んだ。暗闇の飛沫があがり、水面に波紋とともにクラージュは消える。


「………引くわ………」

 私は捨てぜりふのようにこうつぶやくっきゃない。



 部屋に帰って鏡を見てみると、少し伸びた髪をかきあげるように、つけた覚えのない花の飾りのヘアピンが一つ差してあった。






 恐怖のラブコメパートに突入です。




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