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The 4th Attack!! 5

 一方、荒野シュツルクの空を滑るように飛空していたのは赤き翼竜ナルドリンガと、その腕に抱かれて眠る葉介である。


 駐屯地から飛び立ったは良いものの、実を言って当初、ナルドに行く当てなど無かった。ナルドは単に葉介の従者であって、黒曜軍の兵員ではない。葉介が黒曜軍の力になりたいと言うのに従っているのみだから、黒曜軍の動きであるとか、サングリアの思惑であるとか、そういった政治向きのことに彼女はまるで興味がない。国そのものさえ、滅びるならば滅びるが良いと思っている。

 ナルドにとって大切なのはたった一人の主と自らの使命のみであるため、今回ジュノらがいずこに布陣し、いずかたへと進軍するのか、ナルドはまるで知らなかったのだ。


 ただ、ナルドは紅玉鉱脈の従者として、主を守るためにのみ発揮される超的感覚を備えていた。

 空から俯瞰する白き荒野のあちこちに、染みのように布陣する者ども。それらの中から、本来風にかき消されるような金属鎧独特の摩擦音や怒号、悲鳴、汗の臭いを嗅ぎ分け、万の数の人間の中からジュノという小さな人間の男を捜し出すのは、困難ではあったが、しかし、竜の姿へと変じた彼女にとって不可能なことではなかった。


 ナルドは見つけだしたジュノの気配より十分…ざっと一キロほども離れたところでぐるぐると旋回を始めた。

 地上は戦場である。安全を求めて駐屯地を離れたのだ。風無し、踏み台無しでは飛び立てぬ身であるナルドが無思慮に着陸するわけにはいかない。まだ飛び慣れない柔らかい翼は悲鳴を上げ、腕に抱く葉介の体は冷え始めていたが、慎重に慎重を期す他なかった。


 シュツルクの空を舞うのはゲルダガンドの翼竜ばかりのようだ。十頭ばかりの翼竜部隊は十メートルほど舞い上がっては地上すれすれに突撃し、屍人の群を喰い荒らしてはまた舞い上がっている。サングリアの兵はみな屍人ばかりで、それを指揮する魔導兵の姿は、上手くまぎれているようで見つからない。

 しかし空をじっと見ているうち、ただ一頭、何をするでもなくゆったりとその場に滞空する竜の姿をナルドは見とがめた。

 部隊のように突撃を繰り返すでもなく、それを邪魔するでもなく、そしてナルドのように旋回を繰り返すでもなく、ただゆったりとその場にとどまるということは実は大変なことである。風の揚力の助けを借りず、あの巨体を自らの翼のみで支えなくてはならない。はちどりのように身の軽い小鳥ならいざ知らず、翼竜のように大きなものがあのようにして滞空できるはずがない。

 ナルドは、あの竜には必ず重力魔法が働いているはずだと見当をつけた。

 たった一頭で何をしているとも知れないが、異常なものを見いだしたナルドは、その場を速やかに離れるべく首を背の方へ返す。風を切って飛ぶナルドの脳裏に、取り残してきた花奈のことは一瞬たりともよぎることはない。


 しかし、ナルドの羽根はか弱かった。大きく距離をとっていたにも関わらず、驚くべき速度でその翼竜は距離を詰めていく。

 逃げ切れぬと見てとったナルドは、すぐさま方向を更に変え、地上のジュノの方へと一直線に進む。このままだと、傷ついたジュノが指揮する戦場に新手の敵を呼び込むことになるが、それはナルドの知ったことではない。葉介の命を救うことのみが、ナルドの至上目的である。


「騎手がGに負けて落ちたのか…? 腕に抱いて落とさぬとは、賢い翼竜だ。…抱いているのは、男だな」

 鋼色の髪をした翼竜の騎手が後方でこうつぶやいたのを、風にかき消されて当然の声量であったが、ナルドの耳は聞き取っていた。言葉にはなぜか安堵の色が読みとれる。


 敵が安堵しているなら、それはこちらの危険の合図だ。射かけられる矢から主を守るため、ナルドは腕の中の葉介へ牙の並んだ顎を寄せ、そっと囁く。

「すみません、葉介。もう少し頑張ってください」

 すると、意識を失っているはずの葉介の口がほんのわずか開いて、葉介はこう言った。

「…………ナルド逃げろ……俺はいいから」

「……」

 ナルドは、胸を突き上げるような不思議な思いがした。主は、意識朦朧としていても、そして自分が姿をどのように変えていても、自分が主の従者であると悟るのだ。

 むろん、ナルドに一人で逃げるつもりなど毛頭ない。確かに人一人の重みがナルドの翼に負担となっていることは事実だが、しょせん葉介のために得た翼である。葉介を見捨てて生きるための翼ではない。


 折れるほど羽ばたいてもジュノの元に届かないのを悟っても、これまでか、とはナルドは思わない。

 ナルドは翼を畳んで、慣性と重力に身を任せる。羽ばたきをやめ、空気抵抗を最小にしたナルドの巨体は弾丸のように地上を目指す。


「! 引け、追うなっ」

 十分に引き離した…というより、翼竜の騎手がチキンレースから降りたと見えたが、もはや空中で体勢を立て直し、羽ばたけるほどの高度はない。せめてとナルドは体を反転させ、翼を大きく広げる。むろん、葉介を守るためだ。

 背中から墜落しながら、ナルドはこう囁き続けた。

「大丈夫です、葉介。大丈夫です」

「……やめろ、よせ…」

「大丈夫…目を閉じていてください、風が強いですよ。砂埃が、目に」

「!!」

 ナルドの発達した胸筋に埋めこまれた葉介への言葉は、最後まで囁かれることはなかった。水気のない大地に衝突したナルドの体は、大きな衝突音ともうもうと立ち上る砂埃にいったんはその身をすっぽりと包み込まれる。


 やがて土煙が収まると、ナルドは固く抱いていた腕をほどいた。その中の葉介の骨などが折れていないのを見てとると、ナルドは優しい声で言った。


「…ね、大丈夫だったでしょう」



 一方あっけにとられたのは一軍を率いていたジュノらの方である。突如として墜落した見慣れぬ小さな翼竜に抱かれているのは、駐屯地で帰りを待つはずの葉介である。衝突に黒曜軍も翼竜たちも巻き込まないでいられたのは不幸中の幸いと言ったところだろうか。

「………」

 さすがのジュノもしばし絶句していたが、すぐに傍のベルとミュゼに命じて赤い翼竜から葉介を引きはがさせる。ベルがぐったりとした葉介を翼竜の腕から奪う時だけ翼竜はわずかにふるえたが、それきりぴくりとも動かない。葉介は地面に引きずりおろされながら、夢心地にベルに懇願した。

「ベル…あれ、ナルドだ…助けてやって」

 もちろん、ベルにはあの見慣れない赤い小さな翼竜の正体がナルドであることは分からない。


「よくわかんない。ミュゼに言って」

 にべもなく葉介の言葉をはねのけてすぐ、ベルは無言のまま剣を胸の高さに構えた。今さっき赤い翼竜を追い落としたばかりの、空を舞う翼竜の喉笛の他、爛々と輝く彼の目に映るものはない。独り言の多い件の騎手が「天に唾するどころか、あの子供……」と、つぶやいていたのは、もちろんベルの耳には届かない。ベルを止めたのは、二頭立ての戦車に乗るジュノだった。

「ベル、退け。翼竜の相手は翼竜にさせる」

「ジュノさま。おれならやれる」

「聞こえなかったのか。退け」

 ジュノの言葉は、この場での最高司令官の言葉である。ミュゼは、自分がベルの護衛兵である手前、ベルの悪い癖を無理にでも止めねばならないことを悟った。

「おいベル、やめとけ。剣じゃ届かない。弓かなんかじゃないと」

「うるさいな」

 言うことを聞かない一応の上官を再度止めるべくミュゼが口を開きなおした瞬間だった。


 突然、ジュノの頭上に一条の光明が射す。か細い、ありかなきかというほどの弱々しいものだったが、その光をはしごにしたように、突然虚空から一人の少年が飛び降りてくる。

 黒い髪に黒い瞳、同じ年頃の少年と…葉介と比べると、かなり細身だ。高校指定のダッフルコートの前を大きく開けて、大きな銀のスーツケースを左手に、右手にはレジ袋代わりにもらえる可燃用ゴミ袋いっぱいにミカンと電動工具らしきものを詰めている。


 少年が片手に握りしめるスーツケースを、ジュノはすんでのところで避けた。少年はそれに一瞬遅れてジュノの目前にぎこちなく着地すると、立ち上がって砂のついた膝をぱんぱんと払う。

 

 彼を直接見知っているものは葉介の他にはいなかったが、その場の誰もが、少年の正体を本能的に悟っていた。葉介はうめく。

「……幹也…お前、なんでいんの…?」

 やけに背の高い少年に吊り上げられるように肩を貸されてようやく立っている弟の姿をまじまじと観察しながら、たった今降り立った少年は……幹也は、おっとりと答えた。

「なんか二人ともピンチな気がしたから、飛んできちゃった。あ、これおみやげね」

「お願い幹也、もうちょっとだけ空気読んで。なんで今このタイミングでミカン? 誰か『口ん中さっぱりさせたいわー』って顔してる?」

 差し出されたミカンの袋を誰も受け取らない。結局幹也はミカンの袋を自分で持っていることに決めたらしく、スーツケースの上に乗せた。そして、開いた手で校則すれすれの長い前髪をかきあげる。

「……で、今どうなってるの?」 

 葉介に肩を貸すミュゼがそのままの体勢でぐったりとうなだれた。

「そんなの俺が聞きてえよ……」


 説明出来るものは、今ここには誰もいない。




 …………………



 こちら、地獄より花奈がお送りします。……と言いたいところだけど、まだ心臓がどくどく鳴ってるのが聞こえるところを見るとまだ死んでないらしい。私は死んだ。スイーツ(笑)で済まないのが浮き世の憂いところだ。


 ………いや、落ち着こう。たかだか口と口がぶつかった程度で人生に絶望するのはまだ早い。ていうかよくよく考えたらあれ、初めてじゃなかった。幼稚園の時に済んでた。幹也とだけど。あれ、葉介とだっけ。まあいいや。とにかく今の私に出来ることは、いつまでもうちひしがれてないで、さっきのアレを人生最後のアレにしないですむように頑張ることだけだ。せめて誰かいけすかなくないイケメンにほっぺちゅーしてもらってから死のう。そうしよう。

 人生の目標を決めてから、私はゆっくり目を開けた。もちろん周りに人の気配がないことを確認してからだ。


 私がいたのは、テントの中だった。その中のベッドに転がされている。ただしテントと言ってもいつも私が暮らしてるテントとは違うってことはすぐにわかった。

 駐屯地で使ってる折り畳み式のベッドは、粗末ながらマットレスの中にばねがしこまれているんだけど、今私が転がされているベッドは藤みたいな蔓系の植物を編んで、その上に敷き布団を乗せているっていう、まるでゲルダガンド風じゃないベッドだったのだ。冬なんか寒そうじゃないか。……たぶん、なんとなくだけど、このベッド、サングリアのなんじゃないかな。

 私がつけてた魔具は全部外されて、傍のデスクに一個一個並べてある。


 まだ体中から静電気をくらったような痺れがとれていない。私はまず、試しに指の先をぴくぴく動かした。問題なく動く。が、爪を立ててみた時の感触がどうも鈍い。私はため息をついた。クラージュ、さっき口と口をぶつけた時に私に何か細工をしやがったらしい。


 特に舌と両足の麻痺がひどい。うかつに口を開けると歯医者に行った後みたいによだれが垂れるし、何故か声もでない。両足はよじりあわされたままぴたっとくっついて開かないし、最悪である。悲鳴もあげられないし走って逃げることもできない。

 つまりこれ、口封じされた上見捨てられたんだな。私はまた、ため息をついた。

 まったく、ちょっとくらい私を信用してほしいものだ。確かにアジュの言葉に揺れたけど。私が裏切らないのは葉介だけだから場合によったらクラージュのことなんかガンガン裏切るけど。


 …そういえば、アジュはどこにいるんだろう。

 動きは不自由だけど縛り上げられてるわけじゃない。私は体をうねらせて、なんとかテントの外まで出ていこうとすると、ちょうどテントの垂れ幕が外から勢いよく跳ね上げられる。

「!」

 やっぱり声は出ないんだけど、ちょっとびっくりした。悲鳴をあげずにすんだことを思えば、声が出なくなることも悪いだけじゃなさそうだ。

 しかし、噂をすれば、でアジュが来てくれたんだと思ったけど………誰だこいつ。

 男だ。薔薇色の髪に薄オレンジの目をしている。背が高くて、殺風景なデザインのシャツを着ている。年はそんなにいってない。せいぜい一個か二個上ってとこだろう。

「…………」


 ミルクティー色に日焼けしているせいもあるだろうけど、顔色が変だ。多分お酒を飲んでるんだろう。

 そいつは完全に黙ったまま半分起きあがってた私をベッドの上に元通り転がして、何故か私の着ているもののボタンを上からぷちぷち外していく。妙に思い詰めた表情だ。

「………?」

 よくわかんないけど、脱がして貰わなきゃ手当出来ない怪我はない。外されたボタンを、きゅっきゅっと留めなおしていく。

「…………」

 そうしていると男は何故かぎゅーっと眉間にしわを寄せた。でも多分、眉間の筋肉がそんなに鍛えられてないんだろう。ジュノほどの渓谷っぽさはない。

「………」

 そいつはまた最初から私のボタンを外し始める。くそ、せっかく留めなおしたのに。声が出なくて抗議もできないから、私は仕方なくまた、外されるそばから留めていくけど、そいつは私の両手首を片手でぎゅっと握って上に持っていって、ベッドにぎゅっと押さえつけた。

「………?」

 両足が動かないから、これじゃまるで動けない。肩や腰をよじったり、目に力をこめて睨みつけてみたりしたけど、そいつは私の抵抗なんかものともせず、軍服の下に着ていたブラウスのボタンもぷちぷち開けていって、ブラウスの前をくつろげる。

「…!?」

「……」

 そいつは下から出てきたブラジャーが見慣れなかったのかどうなのか、眉間に皺を寄せたまま軽く首を傾げているけど、ぎょっとしたのは私の方だ。


 え? え? ちょっとまずくないか?

 事ここに至って、ようやく私は慌て始めた。


 今何が起こってるの? 何で脱がされてるの? 何かされちゃうの?

 なんで葉介は助けてくれないの? なんで幹也は飛んで来てくれないの?

 なんで二人ともここにいないの?

 なんで私、こんなところで一人なの?

 

 何が起こってるのかわからない。恐怖感と有り余る怒りが全身を竦ませる。目が潤んで前が見えないけど、ぎゅっと両手首を握り絞められてるからそれも拭けない。

 涙が一粒、ぽろんと耳の方へ転がっていった。

「…………………」

 黙って乱暴されてやる義理は無い。というか、絶対に許さない。何が何でも噛みついてやろうと、私にのしかかる男から思いっきり顔をそむけて肘の先を狙っていたんだけど、ブラウスを剥いだ後の男は、ちょっぴり様子が変だった。

 ぴくりとも動かない。

「……………?」

 薄目を開けて、そーっと顔を男の方に向けると、日焼けした男はさっきまで赤らめていた頬を今は蒼白にして、私の体を見下ろしていた。


 一体何があったっていうんだ……何でもいいけどどいてくれないかな。

 何にせよ相手が隙を見せてきたのは確かだった。今ならいける! と力一杯もがきまくったちょうどその時、事は動いた。



「………だめだ、俺には出来…ぐがあ!!」

 テントそのものを揺るがすようなものすごい勢いでアジュが飛び込んできて、男の後頭部をバールのような物ですっぱーーーん、と殴り倒したのだ。

 のっかってる男は奇声をあげつつこっちにぶっ倒れてきて、私の肋骨に頭突きをかます。痛い! 私もあんまりびっくりしたので涙も引っ込んだ。元々ほとんど出てなかったけど。


「花奈さん!!」

 アジュはバールのような物あらため、白い剣の鞘を構えたまま、叫んだ。私も相当ひどい格好だけどアジュもすごい格好だ。今までアジュのがっちがちにガードを固めていたターバンがほつれて、頭だけ保存状態の悪いミイラみたいになっちゃっている。アジュはそのすごい格好のまま、ターバンの隙間から良い笑顔でこう言い放った。

「……………この世界の男がどいつもこいつもクズばかりだということがよく分かりました。こうなると彼女のことが心配です。早々に彼女を助けだした暁にはさっさととんずらさせていただきます」

「待て待て待て待て待てアジュール! 俺はまだ何もしていな……」

「する気満々だったでしょう」

「いやなんかこの女とこのシチュエーションが気の毒すぎてぶっちゃけ勃たぐぶっ」

 何か言おうとしたそいつの頭が、またすっぱーーーーんっていう良い音と共に後頭部からぶっ倒される。

「言わせませんよ?」

 アジュは両手に握って再度振り抜いた剣の鞘を左の腰に納めながら荒んだ笑みを浮かべた。どうでもいいけど、鞘だけで剣はない。今のアジュはその場のノリだけで剣をぶん回しそうだから、無くて幸いと言ったところか。

 しかし何で鞘からスリッパみたいな音がするんだろうな……スリッパで出来てんのかな。

 男は首と後頭部をさすりながらアジュを恨みがましい目で見る。

「むち打ちになるかと思ったぞ……と、初対面の奴のための軽いジョークはこのへんにしといてだな! おいアジュール、この女様子がおかしいぞ」

「花奈さん、乱暴されなかったでしょうか?」

「お茶目なジョークはこのへんにしといてだな!!!」


 今まで自分がやっていたことを冗談ってことにして片づけたいらしい薔薇色の髪の男を、アジュはガン無視して私を助け起こす。無事ですんだからいいようなものの、結構怖かった……怖かったぞ!!

 私が手首をさすりながら、改めて薔薇色の髪の男を睨みつけていると、アジュは心配そうに私の目をじっと見て言った。

「花奈さん、私がわかりますか?」

 わかるよ。ミイラ男状態でもさすがにどっからどう見てもアジュだってわかるよ。

 私は薔薇色の髪の男からアジュへと目を移す。

 そこで、やっと気づいた。アジュの髪の毛がターバンの隙間からちらちらと覗いている。私はぽかーんと口を開ける。そこには、ハゲ疑惑以上に重要な、アジュの秘密が隠されていたって分かったからだ。


 アジュはほどけたターバンをずるんとおでこまでひっぱりあげて、ちゃんと束ねもせずに頭からすぽんと抜いてしまう。ターバンからは今まで隠されていた、柔らかそうな髪の毛がこぼれ落ちる。

 彼の左耳の下でふんわりゆったり一つに束ねられていた髪は、だいたい鎖骨のあたりに毛先がきている。髪が見えると、ターバンをしていた時よりも幼い感じの顔になった。……いや、顔の印象なんかどうでもいい。問題は髪だ。髪の毛だ。


 その、薄緑色した髪の毛先からは、青いパンジーの花がちらほらと咲いていた。






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