表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/75

The 3rd Attack!! 3

 ……なんていうか、白昼堂々、そういう言葉を聞くとは思わなかった。それも、ナルドみたいな美少女の口から……いや、美少女じゃなくて実は男の娘だった、ってことでいいのか? 両性具有……無性? 

 ちょっと現実逃避気味の私をよそに、ナルドは珍しく饒舌に話し続けた。

「そもそも鉱の姫の従者というものには、必要となるまで月経も精通も無いのですが、せっかくなのでお話しておきます。葉介には内密にお願いしたいのですが、花奈ちゃんにはいつか手伝いをお願いすることがあるかもしれないので、この機会に」


 なんで? 必要になるまで生理が無いってどういうこと? 身体の成長に伴って生理が来る、ってことではなく? なんで葉介には内緒? ていうか私は何を手伝えば良いの?


 おろおろするばかりの私の手を自分のお腹にあてさせたまま、ナルドは両手を暖めるように上に重ねた。

「鉱の姫の従者は、鉱の姫のためだけに存在します。恋の出来る生き物ではない。しかし、血は残さねばなりません……」

「あ、ちょ、ちょっと……ちょっと待って」

 なんかややこしい話が始まりそうだ。今ちょっとそれどころじゃないのに。

 私はひたすらおろおろしているばっかりだったけど、ナルドは突然、ぴたりと話すのをやめた。

 そして、ナルドはそのルビーみたいな眼をぱちぱちとまたたかせながら、私の肩越しに何かを見つめた。ナルドのお腹の上に乗せられていた私の手がゆるっとした動作で解放される。私も、それに合わせてナルドの視線の先を追った。ナルドは、炊事場の方を見ていた。


「ええと、あの……。………気にしないで、続けてください」

 視線の先ではアジュが立ちすくんでいた。どこから聞いてたんだか知らないけど、アジュは気まずそうな苦笑を浮かべている。おちんちんがうんたらってところは聞いてないことを祈るけど。アジュは鶏ガラみたいなものを山盛りにしたバケツを両手に一つずつ提げていた。たぶん、出汁をとった後の鶏ガラを片づけに出てきたところだったんだろう。


「ちょ、ちょうど良いところに!!」

 しかし私はアジュに叫んだ。この雰囲気を打破するには第三者の介入が不可欠だ。

 たぶん今、ナルドはものすごく大切な話をしてくれようとしたんだろうけど、ちょっと今はそれどころじゃない。ギャルゲーだったら今、完全にフラグが折れた感じだけど、でも、ちょっと、今だけは!!

「ごめん、ほんとにごめん、あの、もう一回あとでゆっくり…良い? あとで絶対聞くから」

 ナルドに向かって拝むようなポーズをとると、彼女は…彼女でいいのかな、ナルドはやっぱり笑顔のまま、はい、と答えた。


 とにかく、頼みにしていたナルドに生理が来ていないとなると、よその奴に聞くしかない。

 葉介には聞けないし、ジュノは知らないからナルドに聞けって言ったんだろうし、ミュゼとベルは論外、クラージュに弱みを握られるのは絶対嫌だ。

 その点アジュは彼女がいるそうだし、ふつうの男に頼むよりはまだハードルが低い。

 私はジュノの長衣のあわせをぎゅっと掴みながらアジュにつめよった。大きな声では言いづらい。私はひそひそ怒鳴った。

「あのさ……頼みがあるんだけど」

「はい、なにか?」

 アジュは軽く首を傾げた。立ち聞きしてしまった気まずさが残っているのか、軽く笑顔が引きつっている。

「あのさ、生理の時の手当ての仕方ってアジュ知らない?」

「……………………」

 アジュの、引きつってた笑顔が凍り付いた。

「………えーと」

 長すぎる沈黙に、やっぱダメか、と思いかけた瞬間、鶏ガラのバケツを手に持ったまま、アジュは輝くような笑顔で言った。

「…それなら、止める方法を知っています」

「は?」

「私は手伝ってあげられませんけど」

「ん?」

「しかも十月十日しか持たないんです」

 …………。

「セクハラか!! 期待させやがって!! 失せろ!!」

「はい、では」

 アジュはあからさまにほっとした顔をしていそいそと逃げかかったので、私はあわててアジュの服の背中をひっつかんだ。

「待て待て待て!! マジに行かないで!!」

 するとアジュは無念そうに振り返る。

「……失せろって言ったじゃないですか……」

「撤回!!」

「撤回だなんてそんな、遠慮しないで」

「やかましいわ!」

 おちょくるだけおちょくっといて逃げるなんて絶対許さない。私の恥ずかしい事情を知られたからには、手伝ってもらわなきゃ割に合わない。私はアジュの服の襟を掴んで、彼の耳を私の口の近くまで引きずりおろしてきた。近づいた耳に、大声でささやく。

「へーちょからなんか布もらってきて! できれば固くないやつ! 汚してもいいやつ! 台拭きでもこの際我慢するけどできればきれいなの!」

 結局自分でなんとかするしかないらしい。私は覚悟を決めた。アジュはパシリに決定だ。これ以上人目につきたくないし、へーちょに会うのはためらわれる。

 なにせへーちょは常時十人以上の兵隊を切り回す、鍋と雑貨と医薬品の魔人だ。どんなに人目を忍んで行こうとも、ジュノの長衣にくるまった私がへーちょのところに行けば、下手をすると生理用品を要求したことがよそまで漏れ伝わるかもしれない。

 その点、アジュは元からへーちょの手下だから、へーちょのところへいそいそ行っても全く不自然じゃない。

 我ながら良い考えだと思ったけど、アジュは渋い顔をした。

「セクハラですよ」

「……………」

 おまえが言うな。という気持ちを目にこめてアジュをにらみつけると、アジュはちょっと黙った。こほん、と控えめな咳払いで仕切り直し、彼はまだうだうだと文句を言い連ねる。

「……へーちょって主計兵長のことですよね? 主計兵長に直接頼んでもらえませんか……?」

「やだ!! 私まだなんだかんだでへーちょに軍服ありがとうございましたってお礼言えてなかったもん! お礼言う前から汚しちゃうなんてもう顔合わせらんない所業!」

「主計兵長はそんなことで目くじらをたてる人じゃありませんよ。汚したのもわざとじゃないんですから、またお願いすればきっと助けてくれます。言いにくいのは分かりますけど、自分で行ってきた方が良いでしょう。今後のためにも」

「くそっ…いちいち正論を……っ」

 私の完璧な計画の、唯一の欠点がそこだ。まだへーちょにお礼を言ってない。

 できるだけ早いうちにお礼を言わなきゃ不義理になるけど、普段はジュノを(というか、ジュノの真上に空いてる時空の穴を)見張るのに忙しかったし、私がお昼を食べにいくときとかでちょっと体が空くと、今度はへーちょの方が怒濤のように忙しかったりで、言うタイミングがなかったのだ。

 言葉に詰まった私に、アジュが口ごもりながらも追い打ちをかける。

「それに失礼ですけど、花奈さん、これが初めての、その、『それ』ではないんでしょう? 今まで通りに手当てすれば良いじゃありませんか」

「…………」

 痛いところ突きやがって!!

 ジュノの遠縁という設定でここにいる以上、たぶんそれはへーちょにも言われるだろうけど、私のロリエは遥か彼方地球に置き去りである。今まで通りに手当てするのは、はっきり言って不可能だ。天才の幹也もさすがにそこまで気が回らないだろうし、仮に気を利かせて送ってくれたとしても、届くのがいつになるか。ていうかやっぱ、そんな気がきく幹也、やだし。

「……………」

 五枚重ねただけのポケットティッシュの戦闘力はさほど期待できない。時間がないのは分かってるけど、私は途方に暮れてしまった。

 

 そのときである。アジュはちょっと考え込むそぶりを見せた後、私にこう問う。

「何か事情があるんですね?」

 私はうなずいた。

「のっぴきならないのがね」

 何せ異世界トリップだからね。

 するとアジュは、私の肩から落ちかけたジュノの長衣を引っかけなおしてくれながらこう言った。

「でしたら、クラージュ様に相談したら?」

「……クラージュに?」

 私は露骨にいやな顔をした。クラージュって、借りを作りたくない人ナンバーワンなんだけど。この前も手相を見てやれとか言っておちょくられたばっかりだし、ミカン騒動のせいでそのことをなじり損ねたから、私の中でクラージュへのわだかまりが残っているのだ。

 私は口をとがらせたけど、しかしアジュは言い募る。

「クラージュ様が花奈さんのことを気にかけているのは確かですよ」

「なに、アジュはクラージュの肩持つの?」

「いえ、私はクラージュ様のこと嫌いですけど」

「うおおおい!?」

 ここは尊敬してますって言う流れじゃなかったか!?

 とっさに変な声が出た私を、アジュは涼しい顔で見下ろした。

「困ってるときはどういうものであろうと利用すべきだと私は思いますよ。彼は尊敬すべき人物ではありませんが、曲がりなりにもこの駐屯地で一番の魔法の使い手なわけですから、何かしら方法を見つけるでしょう」

 今まで完全に空気と化してたナルドもおっとりとうなずく。

「クラージュ様ならば、何か手だてをご存じでしょう。最悪でも、必要なものを取り寄せてくださるはず」

「うーん……」

 確かに、『何かあったらどんなことでも頼ってほしい』って言ってたのは確かだ。これが『どんなことでも』の範疇に入ってるのかどうかはちょっと怪しいけど。

 しかし、時間がないのも確かだった。私はええいと思い切り、アジュに言った。

「分かった。クラージュのところに言ってみる。ごめん、アジュ。巻き込まれ損だったね」

「いえ。幸運を祈ります」

 まるで私が死地に赴くような口振りでアジュは私に言った。あながち間違ってるわけでもない。

 そういうわけで、私はまたジュノの長衣をかきあわせ、あてどなくクラージュを探すことになったのだった。

 ……家に帰りたい。


男の娘…性別は男性でありながら傍目には女性にしか見えないキャラクター属性です。ショタであることが多いようです。『THE IDOLM@STER Dearly Stars』(秋月涼)、『おと×まほ』(白姫彼方)など、元は男の人向けの属性でしたが、『ミントな僕ら』(南野のえる)、『うそつきリリィ』(篠原苑)など少女漫画の中でも描かれます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ