The 3rd Attack!! 2
まずトイレで応急処置をすると、私は全力疾走…には多少へっぴり腰で、ナルドの元へ急いだ。
行く途中、あの手相見以来、ちょっと仲良くなれた人たちから、私がひっかぶってる長衣について何度か聞かれたけど、私はそれを蹴散らすようにして第二エリアの厩舎へ向かった。ナルドはもちろん葉介といつも一緒にいるけど、葉介はこの前から、念願だったらしい翼竜の騎乗訓練に入っているのだ。
聞くところによると翼竜とは、目玉が飛び出るくらい高価で、度肝を抜くくらい気位の高い生き物なのだそうだ。しかもサングリア…絶賛戦争中の、敵国が原産。敵国であるゲルダガンドにサングリアが翼竜を売るわけもないので、ゲルダガンドは秘密裏に他国から転売してもらうしかないのだけど、その他国とやらが横流しのリスクがどうたらの理由で、ものすごい仲買料をとるらしい。おかげで、葉介のルビーが大活躍だそうだ。……翼竜につられてだまされてるんじゃないだろうな、葉介。
繰り返しになるけど、翼竜が稀少である理由は、めちゃくちゃ高いこと、そして気位が高く、調教がものすごく難しいことにある。葉介も、翼竜に騎乗させてもらうにはかなりの苦労があるらしく、ごはんを食べる時も寝る時も翼竜の厩舎で過ごすという徹底ぶりだ。
とまあ、今は翼竜について長々話してる場合じゃない。ナルドだ。
ナルドは巨大な厩舎の中の日当たりのいいところに立っていた。そばでは葉介が大まじめな顔で、象より大きな翼竜に肉の塊を差し出している。それを彼女は幸せそうに眺めていた。羨ましそうにしているようにも見える。
「ちょっと葉介、ナルド貸して!!」
ナルドと葉介の変な関係にも十分慣れたものだ。私は二人に駆け寄るなり、ナルド本人に今良いか聞くより先に、葉介に許可を求めた。葉介がいいよって言わないと、ナルドは梃子でも葉介から離れたりはしないからだ。しかし葉介はそこんところが分かってないのか、翼竜から目をそらさないまま上の空で言う。
「俺は良いけどナルドに聞けよ」
ほんとに真剣みたいだ。私がジュノの長衣にくるまって、裾をずるずる引きずっているという異様な格好をしているのにすら気づかない。
「ナルド、ちょっと来て!」
「はい……」
ナルドは葉介から許可が出ちゃった以上、我を通すことはない。たとえ自分が葉介のそばにいたくても。ナルドは若干切なそうな顔で、葉介から引きはがされていった。
「ごめんね、すぐ済ますから」
ナルドを厩舎から連れ出して、炊事場の裏のあたりまでつれてくると、私はナルドの形のいい耳に口を寄せた。
「悪いんだけど生理用品をちょっと分けてほしいの。あと、使い方も教えてほしい」
ゲルダガンドの人たちががどういう風に生理を乗り切ってるのか知らないけど、文明がかなり発達してるらしい国だ。まさか部屋に閉じこもって一週間息をひそめてるわけじゃないだろう。きっと何か便利な道具を作り出してるはずだ。できたらナプキンがいいんだけど。
しかし、ナルドの返事は私の想像を超えていた。
「花奈ちゃん。生理とは一体なんですか?」
「…………………」
いや、ええと、その、なんだ。……どう答えたものか。
今までナルドは同い年だと…つまり十七歳くらいだと思ってたけど、外人は実年齢より上に見えるってことはよくあるし、遅い子ならまだ来てないってこともあるかもしれない。それにしたって、知識くらいはあってよさそうだけど。
まさかとは思いつつも、私は遠慮がちに聞き返した。
「もしかしてナルド、まだ来てない……?」
ナルドもまた、にこやかに聞き返す。
「来るとは?」
そこからか。小学校の時にどう教わったのか思い出しながら、私は遠回しに遠回しに説明した。
「あの…ええと、女の子のお腹の中には赤ちゃんのベッドがあってですね、月に一度お掃除を…」
しかし言い終わる前に、ナルドはああ、とうなずいた。
「月経のことですね」
「………」
分かってるなら言わせんな恥ずかしい。私はきまずくうなずいた。しかし、恥を忍んだにもかかわらず、期待していた返事は返らなかった。
「でしたら、私はお役に立てません」
ナルドは答えながら私の手を取って自分のお腹に…おへその下あたりに当てさせた。
触らされたナルドの胴は、コルセットで締めあげられているせいかものすごく固い。
私の手のひら越しに下っ腹を押さえながらナルドは、普段通りの笑顔でこう言い放つ。
「今の私には子宮がありません。そして、近いうちにペニスと精巣が発達するでしょう。私は男に変異するのです」
「…………………」
な、なんだってーーー!!!!
な、なんだってー … 1990年から週刊少年マガジンに不定期連載されていた『MMR』というマンガ作品内で多用された台詞です。漫画『PAPUWA』『ハヤテの如く』、アニメ版『GTO』などでもパロディされています。