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The 2nd Attack!! 10



「幹也ー!! みーきやーー!!」

 ミカンを受け取った私のテンションの上がりっぷりときたらもう、尋常ではなかった。

 私がミカンを投げ返すと、またミカンが落ちてくる。私はそれを受け止めて、また勢いよく投げ返す。

 しかし、ただキャッチボールするだけじゃ、らちがあかない。そのうち幹也は何か考えたらしく、ミカンに工夫して投げ下ろすことを始めた。


 まず最初に幹也は、剥いたミカンを三等分にしたのを投げ下ろしてくる。

 私はすぐさまピンときた。なんてったって生まれた時からずっと一緒の三つ子だからね。私はそのうち二つをとって、残り三分の一を投げ返す。

 そして次に幹也は、ミカンを山ほど投げ下ろしてきた。具体的に言うと、二十四個だ。多分貰った分全部、池にぶちまけたんだろう。さすがに降り注ぐミカン全部は避けきれなかったジュノが眉間に深い皺を刻んでいたけど、私は構わずミカンを拾い集め、次から次へとぶん投げて、十七個を幹也に返した。手元には七個残した計算になる。


 ミュゼは私のするのを見ながら、葉介の脇をつついて言った。

「……花奈は何がやりたいんだ?」

「さあ? さっきの三つに割ったミカンは、俺と花奈が一緒にいるよって意味のはずだけど」

「………」

 最初のしか分からないんじゃ、本格的にだめだな。こりゃ。私はさっさと葉介に見切りをつけて、次の幹也からの合図を待つ。 

次のミカンは、剥いたのが二個、それから剥いてないのが五個だった。計七つ。幹也も急いでたらしく、筋はほとんどとってない。幹也が私の返事の意図に気付いてくれたか不安だったけど、IQだいたい200の天才は格が違った。幹也はちゃんと分かってくれていたらしい。私はこっそり安心のため息をついた。

 しかしこれの意味を読み取るのは、ちょっとだけ難しい。私は考えてから、さっきの中から剥いてないミカンを一個足し、剥いてないのを六つ、剥いたのを一つ投げ返した。

「これは?」

「さあ?」

 葉介も首を傾げるしかない。

 さあ、どうなる。私は幹也の返事を固唾を呑んで待った。



 私と葉介、同じ三つ子でも、幹也の言いたい事が分かるか分からないか、その明暗を分けたのはたった一点の違いにある。

 すなわち、このグラナアーデという世界が、友達の住む居心地の良い場所か、それとも大事な家族を奪った敵地であるか。


 幹也は、この池の底にある世界が『敵地』であるという前提で私にコンタクトをとってきている。となると当然、聞きたい事もかなりしぼられてくるわけだ。

 葉介と私は無事でいるのか。飢えていないか。こっちに味方はいるか。命の危険は迫っていないか。酷い目にあわされていないか。

 幹也はいつもおっとりしてるように見えて、実はかなりの心配性だ。人の十倍は私達妹、弟をいつくしんでいる。今の幹也は時空の穴の向こう側で、うっかりすると心臓マヒを起こしそうなほど、私達の事を心配しているはずだ。

 この世界が既に第二の故郷みたいになっちゃってる葉介じゃ、そういう危機感ってものも頭から無くなってる。

そんな状況じゃ、そりゃあ幹也の言いたい事が分かるわけがない。


 ほんとは、ジュノから一枚紙をもらって、手紙を書いてあげた方が安心するんだろう。こっちの世界の人には日本語が読めないから、好き勝手な事も書ける。でもそれじゃあ、葉介にバレる。葉介はグラナアーデに残る気満々なんだから、『今すぐ助けに来て』なんて書けない。葉介にバレないように、幹也に私の気持ちを伝えなくちゃいけない。でなきゃ、葉介が私の時みたいに、幹也の事も説得しにかかってしまう。


 私の気持ちは、ミカンの投げ合いをしてるうちに幹也もなんとなく察したんだろう。だから私達二人だけに通じるミカンの暗号を、即興ででっちあげてくれたのだ。


 すなわち。


 三等分のミカンは、私達三つ子。葉介の言った通りの意味だ。私と、葉介と、幹也。私達二人とも、無事。今ここに、幹也だけがいない。だから幹也のぶんの、三分の一だけを投げ返す。


 大量に投げ込まれたミカンは、その場にいる人たちだ。その場に何人、人がいるか。私は十七個投げ返して、手元に七個残した。つまり、私と葉介を含めて五人……ジュノとクラージュ、ナルドとミュゼとベルの五人がいる事を表している。


 そして剥いたミカンは、味方の数だ。ちょっと難しかったけど、これは多分、『その人のためにミカンを剥いてあげても良いなと思う人は、その場に何人いますか。』って事だ。つまり、この場にいる七人のうち、味方だと思って良い人数を指す。

 幹也は、当然葉介も家に帰りたがってるものだと思っているから、七つのミカンのうち、二つを剥いてよこした。幹也がミカンを剥いてあげても良いと思っている人…つまり味方は、私と葉介の二人。

 しかし状況はそうじゃない。葉介は完全にゲルダガンドの人たちに肩入れしてしまっている。もはや、葉介自身も、家族全員揃って地球に帰るための敵だと言って良い。だから私は、剥いたミカンを一つにして、幹也に投げ返した。


「……あー、大丈夫かなー」

 これで分かってくれてると良いんだけど。後は幹也の灰色の脳細胞に賭けるしかない。私は祈るような気持ちで、ジュノの椅子のすぐ傍に膝を突き、彼の頭上を見上げ続けた。

 私を今にも蹴っ倒さんばかりの目で睨みつけているジュノはこの際、無視だ。ミカンを集める時に踏んづけてそのままになっている、ジュノの長衣の裾も無視だ。

「……………」 

 ……私は無視のつもりだったんだけど、そういうわけにはいかなかった。ジュノは冷酷にも長衣をばっさり翻し、上に乗っかってる私の事を完全無視で……というか、私が乗ってるからばさばさやったんだろうけど、私を乱暴にどかす。

「…ふぎっ」

 私は情けない悲鳴と一緒に呆気なく転がって、どかされた。テントの隅まで転がっていきそうになった私のおでこに、ぺちょっ、と冷たいものが着地する。

 幹也の返事だ。さっき私が投げ返した、ミカンの残り三分の一だ。私はテントの端で丸くなったまま、その三分の一をじっと見つめる。

「……………」


 とっても、とっても、とってもとっても惜しかったけど、それをまた思い切り振りかぶって、幹也に送り返す。みきやだいすき、と小さく口の中で呟きながら。

 さすがに、最後のミカンの意味はちゃんと分かったんだろう。葉介は私のことを助け起こしてくれながら怪訝そうに言った。

「あれ、幹也がこっちに来るか? って意味だろ?」

「多分ね」

 たぶんって言うか、そうとしか考えられないけどね。

「良かったのかよ? …いや、俺は別に良いけど。幹也にはあっちでしてもらわなきゃいけない事、色々あるし。でも、ちらっと顔見とくくらいは……」

 まさしく。幹也にはあっちでしてもらわなきゃいけない事が色々ある。お母さんに事情を説明するとか、私と葉介がちょっと年を取って家に帰った時のための根回しとか、後はついでに掃除の後始末とか。幹也は最後の手段として取っておかなくちゃ。

 でも葉介は私のやせがまんを敏感に感じ取った。葉介は私の唇を親指と人差し指で上下に挟んでつまんだ。知らないうちにとがっていたらしい。子供っぽいくせだから、いい加減やめなきゃいけないんだけど。

「むぎー」

 葉介の手を振り払って私は唇を自分でおさえた。葉介は心配そうに私の顔を覗き込む。

「お前、なんか心細そうにしてるし」

「そりゃ……幹也が来てくれれば心強いけど。仮にこっちに来て貰っても、それがいつのこっちになるかとか、そもそも帰った後の地球がいつになってるか、分かんないし。どうなるにしろ、地球側での幹也のフォローは絶対いるから」


 三つ子全員が一度にいなくなったら、お父さんなんか失神しちゃうかもしれない。ワイドショーには、『IQ200の天才高校生、妹弟らと失踪!』 なんてばばばーんと出ちゃったりして、お隣のおばさんが重要な証言者として『やあねえ私ったらあの時幹ちゃんにおミカン渡したのよぉー』なんてコメントしてるのが朝からお昼までテレビに出ずっぱり、高校では臨時集会をやったり、警察は百人体制で捜索に当たったり、巨大掲示板で人肉検索されちゃったり。

 そんな事になったら、終わりだ。日本に私達の居場所は無くなる。私達は絶対に、日本に帰らなくちゃいけないのに。

 そこらへんの事情はさすがの葉介も察してるんだろう。家族全員でゲルダガンドに移住しちゃえば良いのに、的無神経な発言は慎んだ。


 多分、時空のパイプがまたどこかで歪んだんだろう。幹也からミカンが投げ込まれる事はもう無かった。さっきまでの大騒ぎの間も、私を長衣の上から退かす時も席を立たずにいたジュノは、眉間にものすごい皺を寄せながら私を睨んだ。

「……花奈。軍服を支給したはずだ。速やかに着替えろ。見苦しい」


 それが、お開きのしるしだった。私達は三々五々にジュノの執務室…テントだけど、テントを後にした。



 三つ子の力関係は三すくみ状態をなしています

 花奈は葉介に弱く、幹也に強い

 葉介は幹也に弱く、花奈に強い

 幹也は花奈に弱く、葉介に強い


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