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The 2nd Attack!! 8



 ミュゼの金髪めがけて私は背筋をぴんと伸びあがった。人垣にかこわれて、ミュゼの首から下は見えない。

「おっ、ミュゼじゃん。ミュゼがいるんなら、ベルもそこにいるんでしょ?」

「うん」

 その、囲われているミュゼの首の下のすぐそばあたり、下の方からベルの声はしたけど、姿は見えない。ミュゼとは逆に、周りより一回りちっちゃいからだ。凸凹コンビもここに極まれりって感じがする。

「こっちきなよ。私今ね、手相見てるの。二人の事も占ってあげる」

 私は二人を手招きして、向かいの席に座らせた。先に手を差し出してきたのはミュゼだ。私はその手をとって目を凝らす。

「手相? もう俺ら葉介にも見てもらった事あるぜ」

「いいじゃんいいじゃん。手相って変わるんだよ。これが頭脳線で、生命線で、感情線。うっはーミュゼって頭脳線うすーいみじかーいよれよれー」

「何だと!? よく分かんねーけど悪口だって事は伝わったぞコラ!」

「嘘だよ。普通だよ。わりと長い方なんじゃない? 才能豊かそうな良い手相だよ」

「おお…ピンとは来ないけど嬉しいな…」

「ま、結婚は出来そうにないけどね」

「褒めといて落とすな! バカみてーじゃねえか俺が!!」

 残念ながら赤ペンがないので、具体的にどの線がどう、って教えてあげられないのが残念だけど、小指の脇のところは細かい線がもやもやしていて、これ! というものがない。これは、まだ結婚系統の運命が定まってないって意味らしい。

 占いは自信を持って こうなの! って言っちゃえば、相手も そうかな? という気分になってくるもんだ。私は自信たっぷりに決めつけた。

「ミュゼってぶっちゃけ好きな人いないでしょ」

「………だから?」

「結婚する気も無いでしょ」

「…………」

「ていうか一生独身が良いなあ~って感じでしょ」

「ごはっ」

「なぜならミュゼはぶっちゃけ幼女が」

「それはちが……!!」

 適当に言った事がばんばん図星をついたらしく、ミュゼは何度か呻いて動かなくなった。………やばいな、面白いな。

「おい花奈……この事俺の実家には言わないでな………」

 絞り出すようにミュゼは言ったけど

「だいじょぶだいじょぶ。私ミュゼにもミュゼの実家にも興味無いから。でもロリコンはまずいよ」

「だからひでー事言うのよせよ!!」

 私の正面の席からいつまで経ってもHPゲージが真っ赤になってるミュゼがどかないので、私の方から隣の席にずれた。ミュゼの隣に座っているベルの手相を見るためだ。

「ベル、左手ちょうだい」

「あげる」

 ベルは素直に私に左手を預けてくれた。私はベルの手の平を確かめる。いつも剣を握って葉介を叩きのめしているとは思えないほど綺麗な手だ。傷も無いし、爪も割れていない。ささくれすら無いほどだ。

 しかし、代わりにって言ったら変だけど、びっくりするほど生命線が短い。いや、生命線だけでなく頭脳線も感情線も普通の人の半分くらいの長さしかない。でも仮にも軍人を相手にしてあなたは生命線が短いから早死にしますよなんて口が裂けても言えないので、私は他のところを褒めた。

「ええと……そうだ、なんとか言う漫画家はね、達人はペンだこなんか無くてふわっふわの手の平をしてるもんだって言ってたよ。ベルは達人だね。何のだか知らないけど」

「おれはつよいから」

 ベルは控えめな口調で静かに言った。言ってる内容は不遜だけど、ベルはベルなりに謙遜してるんだって事は何となく分かる。だって、他の人の訓練も横目でちらっと見たけど、少なくともベルほどの剣の使い手はいない。おれはさいきょー、って言わずにつよいって言ってるんだから、これはやっぱり謙遜だろう。

 いちおう、ベルの頭脳線のおそるべき短さについてはきちんとコメントし、使わないと脳細胞は劣化する事について講釈を述べた。まあ、ほとんど幹也の受け売りだけど。


 しみじみとした風情で頭脳線の先を爪で引っ掻いて伸ばそうとしているベルがまた、私の正面の席からどこうとしないので、私は再度隣の席に移動しようと腰を浮かせる。するとミュゼが突っ伏したままの格好から私をちらっと見上げて聞いた。

「で、お前何やってんの?」

「は? 何って、だから手相を……」

「突然、また、何のために?」

「………!!!」

 私は傍目にも愕然とした表情を浮かべたんだろう。周りがまた、ざわざわっとした。


 ………目的を見失う所だった! 手相を見るのがちょっと楽しすぎて、惑わされていた。危ない危ない。私の集中力の無さは、こういう時にも発揮されるから始末に困る。役に立つこともあり、邪魔になる事もあり。

 私は照れ笑いを浮かべて、また座り直した。

「ごめん、ミュゼ。左手もっかい見せて」

 タコのチェックを忘れていたのだ。

「花奈、おれのは?」

「ベルのは別に良い」

 ベルの手は印象的だから、確かめ直すまでもない。タコなんか絶対無い。私はぐったりしたミュゼの左手を奪い取るようにしてもう一回チェックした。……よし、無いな。

「はい、もう良いよ」

「花奈……おれのは?」 

「……………」

 ベルがさみしそうに言うので、私は仕方なく、ベルの左手もチェックする。……はい、ありませんでしたー。

「何? どうかしたのかよ?」

 ミュゼの時にしたよりはもう少し丁寧にベルの左手を放り出して、次の人の手をチェックしようとする私を、ミュゼがさりげなく視線で止める。

「なんか、こまってるの?」

 ベルもゆったりした動きで首を傾げ、真摯な様子で私を見つめる。

 ………ベルとミュゼはもう、容疑者から外せるし、口も固そうだ。何よりまあ、知らない仲じゃあない。

「うん、まあ話せば長くなるんだけど……」

 私は仕方なく、ベルとミュゼの耳を片方ずつ引っ張って、ひそひそと事情を話し始めた。



 しかし、かくかくしかじかと全て聞き終わると、驚異の頭脳線の短さを誇るベルは心から気の毒そうな顔をしてこう言い放ったのだった。


「花奈ってさ、だまされやすいよね。おれはそれがしんぱい」



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