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The 2nd Attack!! 6



 謎のおいしいキャンディは溶けにくいとはいえどんどん小さくなっていくし、いつまでも黙っていても仕方ない。とうとう私は白状する羽目になった。

 葉介に仕送りと称して色んなものを池に投げ込んだ時、ついでに手も突っ込んでみた事。その時、誰かが私の手を掴んだ事。その手の持ち主は、葉介では無いらしい事。

 手を振り払われて泣いた事は言わなかったけど、クラージュは多分察しただろう。

 私の話を聞くにつれ、クラージュは笑顔の雰囲気を変えていった。今のクラージュの笑顔は、笑い出したいんだけど相手に遠慮してて困っている、という時の幹也の顔によく似ている。

「………………笑いたきゃ好きなだけ笑えばいいじゃないすか」

 言わなきゃ良かった。私がやさぐれてあらぬ方向を見ていると、クラージュが咳払いする。

 うろんな目で見やると、クラージュの眼差しからはいたずらっぽい輝きは失せて、いつも通りの穏やかな笑顔に戻っていた。

「……いえ。花奈さんはその手の主を捜したいのですね」

「………まあ、できれば」

 まだ私の事をからかうつもりだろうか。私はいやーな顔をしたまま答える。すまし顔でクラージュは、こほんと軽く咳払いをした。

「ならば、僕に一つ策があります」

「マジでですか」

「はい。きっとお役に立てると思いますよ」

「すごいじゃないですか」

「でもお聞かせする前に、僕の言った通りにするとお約束くださいますか」

 …ええいまだるっこしい。私は軽くいらっとした。

「いいよ。早く言ってよ」

「ありがとう。耳を貸してください」

 クラージュは片手をそっと口に寄せて声をひそめた。私も首を傾けて、クラージュの口元へ耳を近づける。


「花奈さんが地球からこちらへ手を差し出した時と同じように、皆に握手して回って下さい。それで全て解決するはずです」

「…………………」

 なにそれマジで言ってんのか。

 期待してなかったはずなのに、ため息が漏れかかる。

「………………。いや、それじゃ分かんないと思うよ…ますよ」

 さすがに失礼なのでため息は押し殺したけど、言っちゃ悪いけど、この人バカじゃないのか。国中の女の子に片っ端から靴を履かして回るというアホ手段で人捜しした人に通じるものがあるぞこれ。クラージュの口から耳を離して、ますますうろんなものになった私の眼差しを、まっすぐ受け止めてクラージュは笑った。

「それが、分かると言ったらどうなさいますか?」


 

 クラージュが言うには、ここの訓練では、剣を両手で握らないのだという。

 右手に武器、左手には防具。それが基本装備。両手剣はあまり使わない。攻撃に特化して守りを度外視した両手剣を無理に使わせては、軍隊は怯えて働かないからだ。

 もちろん軍の中でも、趣味で両手剣を使う人もいる。でもそれは、剣道で二刀流をやりたがる人ぐらいしかいない…っていうのは大げさだけど、例えば良いところのぼっちゃんで、教養としての古い剣術を習っていた人とか、あるいはゲームっぽく表現すると、片手剣スキルを上げるのに飽きて両手剣のスキル上げに勤しんでいる物好きとか、そういう少数派だ。

 だからふつうの人は、左手に剣だこは出来ない。出来るのは盾をしっかりと握って衝撃を受け流す事による、肘と手首、更に中指の付け根の位置の痣とマメ。

 一方、葉介のやっているのは剣道で、左手の薬指と小指の付け根にマメがある。このマメは竹刀を両手で力強く握って振り下ろす動作で出来るものなので、盾を持って出来るものとは位置が全く違う。これは大きな手がかりだ。


 握り合わせた手の形からして、池の中で取った人の手も多分左手。手の感触は葉介にとても似ていたから、左手の薬指と小指にたこがある人を探せば良い。そうすれば三千人いる軍隊の中でもかなり絞れてくるはず! 多分マンモス校一つ分から、一クラス分くらいにはなるだろう。


 これはすごい。コナン君もびっくりのアイデアだ。しかも、あっぱらぱーの私は握手しながら『あれれー? 左手のところにマメが出来てるぞー! おじさん、すごーい! お名前おしえてー!』って言えば良いだけというお手軽さ!

 私は勢いよくベッドから立ち上がって、向かいのクラージュの手をぎゅっと握った。もちろん彼の左手には剣だこは無い。右手の方も、白魚のような優美な手だった。

「クラージュ! さん!」

「呼び捨てでいいんですよ」

「クラージュさん!!」

「はい」

「これはすごい! 尊敬した!! ました!」

「無理して敬語使わなくてもいいんですよ」

 幹也より頭良い人なんてこの世に存在しないって思ってたけど、いた。グラナアーデにいた。幹也が地球ナンバーワン、クラージュはグラナアーデナンバーワンだ。これはすごい。今歴史が動いている。

 クラージュは私に握った手をぶんぶん振り回されながらも、眉一つ動かさず更にアドバイスをしてくれる。

「今から捜すなら食堂でするのが良いでしょう。人目がありますから、突然握手を求められても断りにくいし、何より皆休憩中で暇なはずです」

「なるほど!!」

「もし不審がられたら僕の名前を出しなさい。そうですね、易の勉強を言いつけられたとでも言えば良い。よりきちんと手の平を確認出来ます」

「なるほどなるほど!!」

 一から十まで納得できる。ここの駐屯地の中でもかなり偉い方らしいのに人の神経をむやみに逆撫でするから、ダメな上司タイプと思いきやかなり頭がキレる方らしい。一体何だったんだ、あの私に対する空回りっぷりは。

「分かった。じゃあちょっと行ってきます!」

 私がこっくり頷くと、クラージュは何故か堪えきれなくなったように口元を軽く押さえて、俯いて肩を震わせた。

「……か、花奈さんは、素直でかわいらしい人ですね…」

「……………」

 よく分かんないけど、褒められたと思って私は愛想笑いを浮かべた。するとますますクラージュは笑う。



今歴史が動いている…NHK番組『その時歴史が動いた』のもじりです。

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