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The 2nd Attack!! 2

 あの後、時間にうるさいクラージュに休憩時間の終わりを告げられ、ゲーム大会は終了した。

 ベルとミュゼは何かの訓練、葉介とナルドはクラージュとどこかに行ってしまった。多分また、ルビーを出す為にストレス負荷を受けに行ったんだろう。あの、思い出すのも苦しくなるような剣術訓練とか、あるいはジュノに睨まれながら戦術会議とか。

 私もついて行くと言ったけど、クラージュも葉介も、ナルドにすら私に付いて来ないように説得されたので、泣く泣く諦めた。


 で、私はというと。クラージュに計算尺とかいうよく分かんない物を押しつけられ、ほとんど半泣きになりながら一人で問題を解かされる羽目になっている。

 計算尺はFF12にも出てきた武器…ではなくて、そのまま計算に使える物差しみたいなもの。構造としてはこうだ。

 上下に分割された透明の物差しに目盛りがみっしり振ってあり、それぞれの物差しは左右にスライドさせられるようになっている。その上下の物差しをスライドさせて、更に物差しに噛ませてあるカーソルを自分の計算したい数値にそれぞれ合わせると、計算結果がばんと出てくるのだ。

 この計算結果を公式に当てはめて色々うにゃうにゃするのだけど、どの公式を使ってどう計算してどこに当てはめればいいのかもよく分かっていない私にはもう、脳味噌が筋肉痛になるほどの苦行だ。


 ちなみにこの計算尺は、普通に線も引けると思いきや、カーソルが邪魔で引けない。殴り武器としてももちろん使えない。正直、ローラースケートになる分そろばんの方がまだ上等だと思うのだけど、持ち主のクラージュが怖くて言えていない。

 葉介が嫌な思いしてるんだから、私も少しくらい頑張らなくちゃいけないとは思うけど、これは、なんていうか、多分今まで経験した中でも一番しんどい勉強だ。なにしろ、分かりやすく解説してくれる幹也と葉介が傍にいないんだから。もしかすると、自分の力だけで勉強するのは今回が初めてかもしれない。



 今私がいるのは、居候させてもらっているナルドのテントだ。葉介のテントの傍にある。

 葉介やナルドだけじゃなくてジュノやクラージュ、ベルとミュゼのテントも、全部駐屯地の中心部に固めてある。夜中も人の気配が絶えないのが難点だけれども、一応、斥候や夜襲に備えた安全地帯である事は間違いない。偉い人の居住スペースってところだ。

 葉介の身の安全の事を考えれば当然の事だけど、紅玉鉱脈の事に関してはごく一部の高官しか知らない、超極秘事項らしく、葉介はジュノの遠い親戚として扱われているらしい。便宜的に与えられた階級は少佐。准佐であるクラージュの更に上である。ざまあみろ。


 ……というのはともかく。葉介だけなら、美少女のナルドが常にうやうやしくかしずいているおかげで、まだ何となく偉いところの御曹司として周りの一般兵達も納得していたらしい。

 が、『そまつな格好をした(掃除用のジャージだけど)年端のいかない女の子が、見張りの目もかいくぐって会議の席に乗り込み、あまつさえ葉介の姉を名乗った』という噂が広がって、葉介やナルド、私をうさんくさいと感じる人がちらほら出たらしい。

 まあ葉介は、私が来るまでの半年間で八面六臂の大活躍をしていたらしいおかげで、さほどの風評被害はなかったんだけど、私の方は、葉介の実家が秘蔵していた(という設定の)魔具――ゲーム機とか中華鍋とか制汗スプレーとかそういうのだけど――を、我が物顔で惜しげもなく使うとか、クラージュと仲が悪いとかいう様々な理由のせいで、あまり良い眼で見られていないらしい。


 お腹が減ってきたので私はシャーペンと参考書と、書いてるとペン先が何度も引っかかって破れそうになる帳面を閉じて思いっきり伸びをした。

 そしてタッパーに入れて冷ましておいたご飯の残りを、昨日地球から届いた中華鍋に入れてテントを出る。お昼ご飯を作るためだ。真っ昼間の駐屯地は、兵のほとんどが訓練や哨戒に出ていて閑散としていた。

 ちなみ、駐屯地、駐屯地って皆が呼んでいるから私も駐屯地って呼ぶけど、実際はほとんどもう、簡素な砦だ。石造りでかなり頑丈な囲いもあるし、畑もあるし、井戸もある。テント暮らしをやめて塔を建てれば完全に砦だ。昼と夜で気温変化が激しいから、それを防ぐためにもテントをやめて石で家を造っちゃえば良いのに、なんでそれをしないんだろう。謎だ。

 ついでなのでこの際、私達が今住んでいる駐屯地がどういう構造をしているのか説明しよう。

 駐屯地は、


 ┗(^o^ )┓

   ┏┗  


 このオワタのAAと同じような構造をしている。いや、冗談でなく。より正確に表すなら、


   ┏

 ┗(^o^ )┓

   ┛┗


 と、ちょんまげがついて、がにまたのオワタになる。この事に気付いたとき、私はニヤニヤが止まらなくてミュゼにビビられた程だ。葉介に報告したら『なんで五芒星って言えないの?』って呆れられたけど、見えちゃったものはもうどうしようもない。第一五芒星と呼ぶには、ちょっと横に潰れすぎているし物見櫓の角の部分が表現できないじゃないか。

 ちゃんと言葉で説明するとしたら、こうだ。駐屯地を取り囲むように石の壁が立っている。そして、その石の壁から突き出す形で五つの物見櫓がある。

 物見櫓は直角に折れ曲がっていて、ちょうど角のところに人が立つようになっている。梯子はついていない。セキュリティチェックみたいなものがあって、登録された人だけがワープ用の魔法陣をで櫓を上り下り出来るようになっているらしい。実際上った事はないからここらへんは曖昧だ。まあいい。

 その物見櫓と、石の壁にに囲まれた部分が駐屯地だ。駐屯地は三重の円構造をしている。

 一番外側の円のエリアは第一エリアと呼ばれていて、訓練用に使われるエリアだ。皆が走り込みをやったり馬に乗ってはしゃいだり、あるいはベルが葉介をボッコボコにしたりする場所だ。畑もここ。家畜はもう一つ内側のエリアで飼っている。

 その一つ内側の円が、第二エリア。一般兵が住んでいるエリア。ここに厩舎とか調理場とかがある。武具庫もここだ。厩舎はオワタの右目の部分、武具庫はオワタの左目の部分。

 更に、さほど重要でない会議ならここで済ませてしまうらしい。実はジュノ…つまり最高責任者だけど、彼が普段のデスクワークをしているのもここのエリアだ。ラスボスは一番奥のエリアで引きこもってろ! と私は思うけど、ここの方が一般兵との距離が近くて、風通しが良いんだそうだ。命令もよく届くし、一般兵の緊張感も保たれるとかなんとか。私が最初、突撃してしまったテントもここにある。


 そして一番内側の小さな円が、第三エリアで、要人達の居住エリア。オワタで言うと口の部分で、ジュノやクラージュは元より、葉介とナルド、私もここに住んでいる。

 本来ならミュゼやベルは、階級的に言って一般兵の居住エリアにいなきゃいけないんだけど、葉介の護衛任務があるとかなんとかで、このエリアにテントを張っている。ちなみにミュゼの話によると自爆スイッチもここに備えてあるんだとか。ロマンだ。多分嘘だろうけど。

 一つ一つの円は、実際その場に立ってみても壁やなんかで明確に区切られているわけじゃないんだけど、いざ万が一かちこみをかけられた場合には、円ごとに結界が発動してそれぞれ区切られるよう、要所要所に魔具が埋め込まれているらしい。見えない防火シャッターってところだろうか。

 もし、発動した時にその結界の境目のところに立っていたらどうなるんだろう……想像するとちょっと怖い。


 ちなみに、私がクラージュを振り切って物見櫓のところまで歩いていった時の話だけど、あの時私は、駐屯地をほとんど真横に突っ切っていたらしい。昼間は皆訓練に行くから、外側のエリアが一番賑わう。

 だからつまり、あの時の私は人の少ない方へ少ない方へ進む事で、駐屯地の外れを目指したつもりだったけど、実際は一番外側のエリアから中央を突っ切って、また更に外側へ、とすごい遠回りをしていたらしい。


 あの時クラージュは私を追おうとはしなかったけど、多分反対側に歩き出していたらあのいかがわしい計算尺でストップ魔法をかけてでも止めてただろう。駐屯地の外に出たら危ないもの。止められてたらかっこつかなかったから、結果オーライってとこだろうか。



 ちなみに調理場は一般エリアにある。調理場は多分駐屯地の中で一番良い造りをしている。何せ、石造りだ。多分料理の中に砂埃が入らないようにだろう。駐屯地の中で石造りの建物は、この調理場の他、防壁しかない。

 調理場では、横幅は葉介二人分、縦幅はベル二人分……これは言い過ぎか。とにかく縦にも横にもでっかいおっちゃんが、業火を吹き上げるかまどの前で、ぐらぐら煮立つ二メートル幅くらいの大鍋を、ぐるんぐるん引っかき回している。夜中に見たらトラウマになる事間違いなしのものすごい光景だ。

 そのそばでは新兵らしき人たちが十人くらい集まって、何かを切ったり練ったり、金属のお皿を積み上げたりしている。その騒がしさと言ったら、調練中の一個小隊にも相当するだろう。

「すみませーん!!」

 騒音に負けないように声を張り上げると、鍋の前の巨人は私をじろっと見下ろした。こうして視線を合わせてみると、おっさんの目つきの悪さがよく分かる。リアルで眼が三角形をしている人、初めて見た。しかも白目が大きい。こわい。

 怖いおっさんはためつすがめつ私のことを上から下まで見下ろした後、ふうとため息をついた。

「おいおいお嬢ちゃん、ひでえ格好だな」

 言われて、私も自分の格好を見下ろした。

 上は葉介の首が伸びちゃったTシャツ、下は中学の時のあずきジャージ。三年着たやつだから、これもくたびれている。それに、くくったままの髪、スニーカー。確かに、よれよれだ。


 でもこれは不可抗力だと言いたい。私自身の服は掃除用のジャージ、その下に着てたキャミソール、ブラジャーとパンツ、それぞれ一枚きりしかない。さすがにこんなほこりっぽいところで三日も同じ服は着続けられないので、ブラジャーは夜の間に手洗いして、パンツはナルドのを貰って、上の服は葉介のTシャツを奪って、と我ながら涙ぐましい努力で着る物を調達しているのだ。

 出来れば下に履くものも借りたいところだったけど、ナルドのスカートはコルセットを締めて履く事を前提にしているらしくてウエストが全然入らないし、葉介のジーンズはお尻の部分がぱつんぱつん、お腹の部分はぶかぶかで、こっちも使えたもんじゃなかった。しょうがないから、下だけはジャージを履き回している。で、下着と一緒に夜中にこっそり洗っている。

 その他、葉介のトランクスの履いてないやつを洗濯してる時と部屋着用にもらったけど、前に穴が空いてるパンツじゃ全然くつろげない。


「洗濯してますから、見た目ほどは汚くないです」

「何でも良いが俺の鍋には近づかないでくれよ」

「…………」

 なんか悲しい事言われたけど、まあ気持ちは分からないでもない。とにかく中華鍋が重たいので、私はさっさと用件を話し出した。

「あの、お昼ご飯作りたいんですけど」

「ああん?」

 おっちゃんの語尾が上がった。ぎろっ、と三白眼が睨めつける。

「見て分かんねえのか! まだ調理中だ、出直してこい!」

「あの、チャーハン作るだけなんです。このご飯は朝の残りなんで、具をちょっと……」

「葉介に残り物食わせる気か!?」

「…………」

 話のわかんないおっちゃんだな。色めき立つおっちゃんを見上げて、私は言った。多分眉間に皺が寄ってただろう。

「葉介の好物なの。ほっといてよ」

「葉介の好物は塩肉とアボカドのサンドイッチだ」

 …………うまそうだな、それ。

 おっちゃんが自信満々に言うから一瞬気が逸れたけど、ここは引っ込めない。同じ釜の飯を食った歴なら、おっちゃんより私の方の方がよっぽど長いんだから。

「確かに葉介の好物は炭水化物だけど、ほんとはパンよりお米派。おにぎり作れって言われた事あったでしょ」

「……………」

「で、作れなかったんでしょ。炊飯器の使い方とお米の水加減が分かんなくて。葉介、お米研いだことすら無いから当たり前だけど」

 多分、握るどころか素手で触るのも無理なくらいの、どろどろのおかゆが炊けちゃったはずだ。手を真っ赤にしながらそれでも何とか握ろうとするナルドと、それを必死で止めるおっちゃんと葉介の姿が目に浮かぶようだ。

「………………」

「………………」

 しばし沈黙のみで見つめ合う時間が流れた末、おっちゃんは大鍋の方に視線を戻し、ぶっきらぼうに言った。

「……適当に持ってけ」

「ありがとうございまーす」

 勝った。私はひそかにほくそ笑みながら、調理場をきょろきょろ見渡した。さすがに新兵さん達が下ごしらえした中から持っていくのは気が引けるからと、私は床に置いてある銀のボウルに手を伸ばした。謎のお肉の切れっ端と、謎の野菜のみじんぎりが入っている。チャーハンの良いところは、得体の知れない具を入れてもしっかり受け止めておいしいものに仕上がるところだ。

 中華鍋に油を引いて、いざ謎のお肉を炒め始めると、大鍋の方から野太い悲鳴が上がった。雑巾を引き裂くようなって言えば詩的な表現になるだろうか。おっちゃんは大鍋の前から駆け寄ってきて、私のお鍋を無理やり火から下ろさせた。

「嬢ちゃん、そりゃ騎獣の餌だ……」

「騎獣と言うと」

「ドラゴンが食うもんだ」

 ドラゴン。ぜひとも見せてほしいものだ。思考を別の所に飛ばしてる私の肩に手を置いて、おっちゃんは小さな子供に言い聞かせるような口調で言った。

「あのな嬢ちゃん、俺達もあんたが憎くて辛く当たるわけじゃないんだぜ。…でもな、葉介にドラゴンの餌を食わせようとすんのはな、さすがにな…」

「………」

 ドラゴンの食べ物とはいえ、ちゃんとした肉っぽくておいしそうだ。でも、やめとけって言われる肉なら、やめておこう。お腹を壊されたらいやだ。それに辛く当たられたとは思わないけど、私は出来るだけしおらしく見えるように、小首を傾げて言った。ここが交渉のしどころだ。

「じゃあ、普通のお肉と、出来たら卵も欲しいんですけど」



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