表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

第四話(3)

 志穂が、これだけは教えて、と言った。

 りこが、大澤勇吾に、好意があるのかどうか。

 私は自分の気持ちを言うのと同じくらい、どきどきしていたのを、必死に隠した。

 みんなが、りこの言葉を待った。

 枕に顔を伏せたり、ふとまた顔を上げたりしたりこは、起き上がって布団の上に座ると、半泣きの表情で言った。

「わ、わたし。人の気持ち、こんなふうに向けられたことなかったし」

 うんうん、と皆が聞き入っている。

「向けられた気持ちが、好きって気持ちだって、わかったら……すごく、申し訳なくて」

「それはつまり……」 「結論を()かさないの」

 外野は互いにけん制しあって静寂を保った。

「好きって気持ちは、すごく真剣で、大変だよね。でも、私はそうじゃないから。向けられた気持ちと、同じじゃないから。どうやって答えたらいいか、わかんなくて……」

 うう、と、りこの目に涙がたまってきた。

「りこ!」 「かわいい~!」 「まじめ!」 「おもーい」

 みんな、好き勝手な感想を口にしながら、りこに抱きついていった。

 そんなみんなに、りこがきょとんとしている。

「りこがピュアってのはよくわかったけど、もっと軽く考えていいんだよ」

「そうねー、そこがりこのいいとこだって思うんだけどね」

「自分の気持ちも、相手の気持ちも、両方大事だよ?」

 口々にいわれて、りこに笑顔が戻った。久しぶりに見る、りこの素の笑顔な気がした。

「みんな、いろんな考え方しててさ、それでいいんだよ、たぶんね」

 ちょっとだけ、私も偉そうなことを言っておいた。

 布団の上の女子会もほどほどに、そろそろ就寝を切り出そうと思った矢先……。

「ね、ねねね。それでさ。好きっていう気持ちを、そんな風に実感をもって定義できるりこは、それだけ好きな人が、いるってことじゃない?」

 チームのお笑い担当が、大鉈を振るった。

 またこの子は空気を読まない、っていうみんなの視線が集まっている。いい話で終わろうとしていたのに。いや、いっそこのままこの機会に、りこの気持ちを、自分自身で認識させたほうが良いのだろうか。

「え、え? えっと……えーっと???」

 勇吾が、自分にとってそうじゃない理由。勇吾の気持ちを、真剣にくみ取れた理由。

 頭の中でそれらが文字となってぶつかり合っているようだった。

「りこがフリーズしてるわ」 「もう寝る?」 「もうちょっと待ってみない?」

「りこが、勇吾の好きっていう気持ちがわかるのは~」

「りこが、誰かを好きってことでー」

 りこの両耳でチームメイトたちがささやくと、りこの口から気持ちがこぼれ落ちた。

「好きって……なんだろ」

 あ、と私は思った。

「あ、今だれか思い浮かべたでしょ」 私が思ったのと同じことを志穂が口にした。

 俯いたりこの瞳が見ているのは、合宿所の薄っぺらい布団ではなくて、誰かの姿のような気がしたのだが、志穂も気づいたようだ。

「ねえ、りこの好きな人って、いつだったかチャリで二人乗りしてた人じゃないの?」

 てっきりそう思ってたんだけど、という声もあった。なんだ、事情を知らない子もいるんだ。

「あれはお兄さんでしょ?」

「なあんだ、違うのか」

「兄貴とか、ないない、ありえない」

「ほんと、うちの兄貴サイアクだし」

「だれかほかにいたっけー? りこの周りって」

 みんながりこの相手を勝手に推測し始めた。

 みんなが気づいていない、りこの顔が、赤くなっていくのを、私だけが見ていた。

 りこは、もぞもぞ布団に隠れてしまったのだった。




 今日は、とんでもない一日、いやとんでもない一日の締めくくりだった。

 消灯時間を迎えた後、私は大部屋を抜け出して、合宿所のロビーにいた。全館空調が効いているのか、ロビーも大部屋とおなじく涼しかった。

 ペットボトルのお茶を飲みながら、スマホに文字を入力していく。

 “お兄さん、連絡遅くなってすみません。りこは、元気にやってますよ”

 “乙女は、悩み多き年頃なんです”

(送信、と)

 しばらくそうしていると、大部屋のふすまがそっと開くのがわかった。

 志穂が暗がりから姿を見せる。

「トイレ?」

 長い髪を振って、志穂はとなりに座ってきた。

「祐子、まだ大澤勇吾のこと好きなの?」

 それを志穂が知っているとは意外だった。志穂は確かに小学校から一緒だけど。

「違うよ。ずっと昔に諦めたもん。どっちかっていうと私はりこが心配なだけ。推してるし?ただ、りこの近くにいると、勇吾が寄ってくるから、ちょっと変なカンチガイしないようにしなきゃなーって、気をつけてる」

「そ。あんたがしんどいんじゃないかって。事情を知ってるから、ちょっと思っただけ」

 志穂はそれだけ言って部屋に戻っていった。

 さあ、明日も早いし、私も寝よう。




 ◆◇◆◇◆




 合宿といっても終業式前だから、最初の二日間は授業がある。夏休みに入ると、当然授業がなくなるが、代わりに早朝練も始まる。トータル七日間。

 特派員からの連絡が再開した。なので、俺はスケジュールを細かく聞いておいた。

 試合も見に行ってやりたい。りこにとって、中学最後の試合なのだ。俺にはそういうのなかったしな。

 とみちゃんからのスケジュールによると、今日明日は得意、不得意を選択して選手それぞれが強化練習。明後日からは基礎練習の後、試合形式。その次の日からは近在の中学と練習試合。強化のためにうちの高校のバレー部とも練習試合をするらしい。もう、県予選前にできる手はすべて打つみたいな合宿なんだな。そして、合宿が終わると一度帰宅して、一日自宅で体を休めたら、いよいよ県予選が始まるという日程だ。

 練習試合は、終業式以降の日付だから、こっちも見に行こうかな、と思っていたけど、いけなくなった。問題が起きたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ