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うちにホットケーキミックスあるんだよね

作者: 藤原ライラ
掲載日:2025/12/12

なろうラジオ大賞7参加作品です。

「パンケーキをどうぞ」


 はじめて招かれたお家で、咲ちゃんのママはそう言ってお菓子を出してくれた。友達の家に行くのは随分と久しぶりだった。


 小花柄の高そうなお皿にまんまるのパンケーキなるものが鎮座していた。


 お伴のように添えられているのはホイップクリームと宝石みたいなフルーツ。バターと外国のラベルの付いたメープルシロップの甘い香りが、ふわりと広がった。


 なるほど、これはパンケーキだなと思った。


 うちの家で出されるのは、ホットケーキ。

 咲ちゃんの家でなら、パンケーキ。


 直感的にそう思ったのだ。



 〇



 お金持ちで頭もよくてオマケにアイドル顔負けの美少女の咲ちゃんは、二学期の途中でうちの中学校に転校してきた。


 私立の端くれではあるけれどそこまで賢くもなければ有名でもない。いわゆる中堅の女子校。


 あまりにも中途半端で不釣り合いで、一時はみんな値踏みをするような目で咲ちゃんを見ていた。けれど今はすっかり馴染んでいる。


「あのね、茶道部に入ったんだ。杏ちゃんもどうかな?」


 部活は強制ということはない。咲ちゃんは帰宅部を貫くわたしよりも先に部活に入った。それでも水曜日は一緒に帰ってくれる。


 通学路に二人分の影が伸びる。


 なんてことは無い。三十三人のクラスに咲ちゃんが転校してきて、体育の時間に今までずっと一人で余っていたわたしと組んだことがきっかけだ。


「わたしはいいよ」

 もっと()の方のグループからの誘いもあるだろうに。


「咲ちゃんはパンケーキで、わたしはホットケーキだから」


 似ているようでも違う。だから多分あんまり一緒にいない方がいいと思う。


 咲ちゃんはこう訊いてきた。


「転校してきた日のこと覚えてる?」


 よく覚えている。先生に連れられて教室に入ってきた咲ちゃん。

 一つに束ねられたポニーテールが揺れて、綺麗だった。


「杏ちゃんだけだった。わたしに色々聞かなかったの。教室の後ろで本読んでるのがね、かっこいいなって思ったんだ」


 人はそれをコミュ障と言う。

 思わなかった訳じゃない。ただ聞く勇気がなかっただけ。


「パンケーキとホットケーキはね、元々同じものなんだって。ただちょっと名前が違うだけ」


 影法師のわたし達の手が、重なった。


「だからね、これからもっと仲良くなれると思うよ」


 わたしはたっぷりと悩んだフリをして答える。


「うちにホットケーキミックスあるんだよね」


 友達を家に呼ぶのはいつぶりだろう。思い出せなかった。でも悪くない。


「今度一緒に作ろうか」


お読みいただきありがとうございました。

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パンケーキ:フライパンなどの平鍋で丸く平らな形に焼くケーキの総称。

ホットケーキは "甘くてふっくらとしているもの"、パンケーキは "食事に合うような甘みの少ないもの" という見解もありますが、明確な定義や区別はなく、呼び名が異なるだけと考えられています。


また次のお話でお会いできれば嬉しいです。

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