黒炎教の攻勢
突然、山肌の一部が爆ぜる。いくつもの岩塊が山肌から飛び散り、晴奈たちに向かって飛んできた。
「わあっ!?」
「怯むな、弾けッ!」
そこにいた何人かは一瞬たじろいだが、年長者や手練の者たちは臆することなく、「燃える刀」で飛んでくる岩を受け止め、弾き返す。
「黒炎だ! 攻めてきたぞーッ!」
大声で叫ぶ声があちこちから聞こえてくる。それを長い耳で聞いていた雪乃が、ぽつりとつぶやく。
「今回は多そうね。かなり大規模に人を送ってるみたい」
「え?」
「じゃなきゃ、こんなに四方八方から来るぞ来るぞって聞こえて来ないわ」
「な、なるほど」
ほどなく嵐月堂にも、黒装束姿の教団員たちが山肌を滑るようにして侵入してきた。
いや、何人かは「本当に」滑っている。駆け下りるような感じではなく、わずかに空中に浮き上がり、するすると空を走っているのだ。
「あれは!?」
それが異様な光景に映り、晴奈はうろたえる。だが一方、雪乃はまだ平然と構えていた。
「落ち着いて。あれは魔術よ。確か、名前は……」「『エアリアル』っつって、風系の魔術ね。術自体は風術初心者でも大抵覚えてる程度のヤツだけど、体全体を浮かせてあんだけびゅんびゅん飛べんのは、相当レベル高いわよ」
二人の後ろから、聞き覚えのある声がかけられる。振り向くと、そこには以前に晴奈と戦った相手、小鈴がいた。
「小鈴殿、来られていたのですか?」
「ちょこっと寄るって程度の予定だったんだけどね」
そう答えつつ、小鈴は鈴の付いた魔杖を構える。
「温泉街で呑気に一杯やってたトコに、『何卒お力を貸していただきたく候』なーんてご丁寧に頼み込まれちゃったのよね。ま、ココが無くなったら温泉とお酒楽しめるスポット減っちゃうし、そんなら微力ながら手ぇ貸そうかってコトでね。よろしくどーぞ、雪乃。ソレから晴奈」
「かたじけない、小鈴殿!」
深々と頭を下げた晴奈に、小鈴は手をぺらぺらと振って返す。
「そーゆーのいーから。会うヤツ会うヤツにガッチガチの堅苦しい挨拶されて、そこそこ辟易してるトコだし。ソレにアンタたちとあたしの仲じゃん? だから堅い感じのはナシでよろしく。……ってワケであいさつも済んだし――迎え撃つわよ!」
小鈴は魔杖をしゃらんと鳴らし、魔術を放った。
「『ホールドピラー』! 阻めッ!」
地面を駆け下りていた教団員たちが、岩肌から飛び出した石柱に突き飛ばされ、あるいはガッチリと四肢をつかまれる。
「おわっ!?」
「ぐあ……っ!」
「いでてて、離せ、離せッ!」
小鈴の術で第一陣の半分近くが行動不能になり、残った者たちも剣士たちが燃える剣閃を宙に飛ばして撃墜する。一瞬の内に、相手の第一陣はあっさり蹴散らされてしまった。
(これが……)
一瞬のうちに起こったこの応酬を眺めていた晴奈は、ぶるっと武者震いする。
(これが戦い、か。……これが戦いか!)
瞬間、晴奈の頭の中に熱く、そして激しく燃えるものが噴き出し始めていた。と、息つくひまもなく、第二陣が同じように崖から駆け下りてくる。
「前の半数は壁を破れ! 後ろの半数は同志を助け出せ! 飛べる者は壁の裏側からだ!」
しかし先程とは違い、全員が侵入しようとはせず、横方向に展開する。
「どーする? 仲間助けてるヤツも弾いとく?」
尋ねた小鈴に、雪乃は首を横に振って返した。
「助けたら撤退するしかないでしょうし、放っておいていいわ。攻めてくる相手だけ撃退してちょうだい。魔力ももったいないし」
「そーね。長い一日になるでしょーし、温存考えとかないと」
そう答えつつ、小鈴はひょい、と魔杖を垣に向けた。
「ダメ押ししとこーかしら。追加で『ロックガーダー』、と」
垣の内側にもりもりと土が貼り付き、岩に変わる。
「アレなら垣を破んのに相当時間かかるでしょ。ココ突破できないってなったら、相手も別んトコ向かうだろーし」
「そうね。別にこっちから打って出るような戦いでもないもの。ここ何十年も2日以上かけて陥としに来たことはないって話だし、いつも通りなら日没までに突破できなかったら、相手もあきらめて撤退するはずよ。後は空から来る相手だけだけど……」
雪乃と小鈴が冷静に対処している一方、他の剣士たちはその、空中から襲ってくる教団員たちを相手していた。
「『火閃』!」
「おりゃああ!」
「ここは破らせんぞッ!」
そして晴奈も雪乃たちから離れ、最前線で刀を振るっていた。
「りゃああッ!」
15歳と言う若さながら、他の手練たちと遜色ない立ち回りで教団員たちを相手にし、次々と斬り伏せていく。
「うぐっ……」
「ば、バカな……」
「こんな……小娘……に……」
次第に場の空気が、彼女を中心に渦巻き始めた。
「あ、あれ……黄か?」
「まるで鬼神ではないか……!」
「まだ2年かそこらのひよっこ……の腕前じゃないぞ、あれ」
教団員たちと切り結んでいた剣士たちもその「異変」に気付き、戦いの最中にもかかわらず、動きが止まってしまう。一方、相手の教団員たちも少なからず恐れをなし始めたらしく、攻め手が引き始めた。
「こんな凄腕がいるとは聞いてないぞ……」
「なんて殺気だ……!」
「ひえっ……」
晴奈一人に敵も味方も恐れをなしてしまい、嵐月堂の戦況は一気に、焔流の圧勝に傾いてしまった。




