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ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す―  作者: つくもいつき
1年目春 過去からの刃編(完)

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幕間20:身辺日記⑤






【春シーズン第十二週六日目、夜──モブの革メモ】



次にやること(優先度順)


 1)アリス引っ越し手伝い+祝い


 2)ギルド支部長との個別面談+プラチナランク承認保留理由確認


 3)前衛職変更の具体化

   ・基礎剣術

   ・足さばき

   ・撤退手順

   ・カナメや教師に相談


 4)原作乖離疑惑深堀り


 5)男神教の簡易調査


 6)ヴァレリア姉とネリッサとの、応援魔導板帳の管理人増員計画の上方修正相談




その他:

 カイウス・オルフェンとの戦いから、はや一週間が過ぎた。



 俺はいま、窓辺に寄せた卓の前に座っている。

 カイウスと戦った日の夜同様、俺は同じ場所、同じ月明かりの下で革の魔導板帳に指を添える。

 ベッド(そば)の執務机に座る気には、なぜかならなかった。



 卓の上には、ふたり分のカップを置いてある。

 どちらにも、ぬるいアップルティーを(そそ)いであった。

 ティーカップのひとつを、俺は口元に引き寄せる。立ちのぼる香りを吸い込みながら、琥珀色の茶をひと口含んだ。



 俺は開いた革メモに指を沿わせる。赤い魔力光を灯し、文字をつづっては消す。

 こうして思考の整理を、俺は続ける。



 ……マリーの個人クエスト『過去からの刃』は、原作とは違った形で決着した。

 原作では、|一年目の秋シーズン以降に《・・・・・・・・・・・・》襲撃してきたカイウスから主人公がマリーの過去を聞く。そして事情を知ったうえでマリーに味方し、カイウスを返り討ちにする。

 それが本来の流れだった。



 けれど、カナメが女体化して以来、この世界は、俺の予想を外れる方向へ大きく動いている。

 闇の華。淫魔四天王。……原作にはいなかった存在たち。

 そして、早期の登場を果たし、死ななかったカイウス。



 レベル上げに苦心するかたわら、俺は常に、周囲に目を配り続けている。

 だがそれでも、原作とのズレがどこから生まれたのか、まだつかめていない。

 ──俺が過去にとった行動に問題があったのか?

 ──誰かからの介入があった?

 ──俺と同じ、転生者がいる?



 ……考えれば考えるほど、わからなくなってくる。

 もしも誰かの介入でこういう結果になったのだとしたら、そいつの目的は?

 淫魔を勝たせたい? ならなんでこんな回りくどいことをする?

 カナメを殺せない理由があった?

 ──人間の、仕業なのか? ひょっとして、男神自身が?



 俺は首を振る。

 ……わからないなりに、また動き回るしかない。

 歩く方角は、間違っていないはずだと、自分に言い聞かせる。



 ……もし、俺が過去にとった行動が起因しているというのなら。

 もし、事故で両足を失った妹を、母に切り捨てられないように手を尽くしたことが、原因だと言うのなら。

 ──俺は、その責任を取ろうと思う。



 俺は卓の上にカップを下ろした。

 正面に置かれた、もうひとつのティーカップ。その向こうの空席を、俺は見つめる。

 月明かりの下、俺はぽっかりと空いた椅子に、男たちの姿を幻視した。



 カイウス、エッタ、レン、シモン。

 彼らの、宿命に抗いながらも前を向いていた姿が、脳裏に過ぎる。

 自然と、俺の指先は、カップの持ち手を強く握っていた。



 ガラスの向こうに映る月を、俺はふと見上げる。

 満ちた月に、細めたまなこを向ける。

 いま抱いている確かな感情を、俺は革メモにゆっくりとつづった──。





──────────────────────




【春シーズン第十二週六日目、夜──カーラの秘密の乙女帳】



 ふわぁああああああああ!!!

 モブくんぁあああああああああああああ!!

 あぁああああ、かっこいぃいいいいいいい!!

 モブくんぁあああああああああああああああああああ!!!!!



 ハァハァハァハァ……。だ、ダメだ……!

 今日も、聖騎士のカイウスさんとモブくんのやり取りを思い出して、ひとりで興奮してしまった……!!

 誰かに見られていたら人生終了過ぎる……!!



 ルールルーさんからもらった、ふたりを写したこの絵、絶対家宝にすりゅう!!!!

 マリー、私に絵を渡すよう、ルールルーさんに進言してくれてありがとう!! これからも一緒にモブくんを推していこうな!!



 それにしても……!!



『さみしく、なりますな』



『……ええ。そうかも、しれませんね』



 うぐぅ!!



『……あなたに、女神の導きあらんことを』



『……ええ』



 おあぁあああああああああ!!!!!!

 もう神話!!!!!!

 なんだ、なにが私の胸をこんなに()き立てるんだ!!!???

 お、おかげでもう、衝動に駆られてモブくんの活躍を記した小説を十章まで書き上げてしまった……!!

 


 あの光景に感動したの、私だけじゃなかったよね!?

 セレスティーネ様もマリーも、ルールルーさんやアリスだって目を奪われていたの見てたもんね!

 カナメくんだけ、ちょっと目を見開いたまま固まっていて怖かったけども……。

 た、たぶん気のせいだよね?



 と、とにかく!

 後世にこの神話を伝えなければ、私はきっと多くの同志に恨まれるだろう……! 待ってろよ未来の同志諸君!

 マリーにも期待の目を向けられてたし、頑張らなきゃ!!

 よっし、明日は一日休養日だし夜通し推敲(すいこう)しよう……!!!



 ……そういえば。

 地下礼拝堂で向かい合ってた時は気づかなかったけど、私、セレスティーネ様とどこかでお会いしてたかな?

 なぜだか、懐かしい気配と、妙な既視感を覚えてしまっている。

 一度も会ったことなかったと思うけども……不思議だ……。




──────────────────────




【春シーズン第十二週六日目、深夜──カナメの竹紙日記】



 月、丸し。

 水音、遠し。

 筆先、荒れ、墨、かすれる。



――――――――――――



 春末試験、終わりたり。



 我が班は〈試しの山〉なる地にて、大蛇と相対。

 撃退は成した。

 されど、勝ちとは記せぬ。



 班の者らはよく動いた。

 臆した者、ひとりもなし。

 我の声を聞き、退くべき時に退き、己が身を守らんとした。



 場を乱したるは、我なり。



 足、前へ出過ぎたり。

 間合い、詰め過ぎたり。

 刃筋に、怒りとも焦りともつかぬ火が、乗りたり。



 結果、我がひとりで大蛇を留める形となった。

 聞こえはよし。

 されど、事実異なり。

 我が、仲間を置き去りにし、剣を闇雲に振るうばかり──。



 あの眼帯女ならば、とうに見抜こう。

 あれは粗野なれど、目は曇らぬ。

 我が軸の揺らぎなど、とっくに見透かしていよう。



 まこと、恥ずかしきことなり。



――――――――――――



 何ゆえ、()が剣は迷うのか。

 何ゆえ、()が胸はさわいでいるのか。

 ……マリーを救いし夜より、これまで筆を遠ざけたり。

 されど卓の前に座し、筆を再び()りしいま。

 字にすることで、我は、ようやく自覚す。



 ──我は、どうしようもなく、(ねた)んでいる。

 カイウス・オルフェンと、モブの間柄(あいだがら)を……。



 筆先が跳ねる。

 心、激しく絞めつけられるのを、我は悟る。



 はじめは、かの聖騎士への敵意と考えたり。

 あの男はマリーを追い詰め、モブを斬り、我らの道を阻んだ。

 憎む理由など、いくらでもある。



 だが、違う。

 戦い終えたいま、我はカイウスを憎んではなし。

 ただ、モブとあの御仁が、我の届かぬところで通じ合った事実に、()が胸は焼かれている……。



 我は思い上がっていた。

 モブと肩を並べて兎を討った時、我らは背中を預け合える一番の友と思った。



『相手は猛毒状態。現在体力半分。目標は、毒で削り切り。時間稼ぎ、頼めるか?』



『──無論。我を誰だと?』



 ……同じ男であり、共に高みを目指す我こそが、モブの一番の理解者であると、我は信じていた。



 されど、違った。

 あの御仁は、我の届き得ぬ場所に、すでに立っていた。

 あの御仁は、他の男児ら同様、常に(くらい)が落とされる不条理と向き合ってきた。積み上げた石を蹴らるる思いを、長い間、あの御仁は耐えて来たのだ。モブと同じように……。



『さみしく、なりますな』



『……ええ。そうかも、しれませんね』



 ──嗚呼。



『……あなたに、女神の導きあらんことを』



『……ええ』



 書き記すことで、より激しい(ほむら)が、我を包み上げる。

 心、砕けんばかりに、筆を執る手、震える。



 嗚呼。

 あの光景の、なんと美しかったことか。

 ふたりは刃を交え、命を削り合った。にもかかわらず、果てには互いを認め合っていた。なんという、崇高な間柄だろうか。

 我が決して、立ち入ることのできぬ深みに、あのふたりはいた。



 立ち入れぬのは、我がいま、女であるからでは、ない。

 たとえいますぐに男に戻ったとしても、我はあのふたりと同じ場所に、立ち入れぬだろう……。

 あのふたりと、同じ傷を……。

 同じ男であるのに、我だけは、持っていない──。



「男の身で将軍になる」「和国男児の規範となる」



 和国を出る前に、同じ郎党の男児や民たちの前で語りし夢。

 いまとなっては、とんだ思い上がりであったことを知る。

 同じ傷を持たぬものが、どうして、彼らの規範となることができるのだろうか?

 我が男の身で将軍になったところで、彼らは我を同じ男として見ぬだろう……。



 なんと、なんと、浅はかな考えだったか。もはや我が男に戻る意味、など……。

 ──いや……。



『我は必ずや、淫魔王とやらを討ち果たそう』



 かつてモブに告げし言葉を、我は再び記す。

 そうだ。我は必ずや男に戻り、戦わねばならぬ。

 この世に生きる同胞(はらから)のため。

 モブの、友の、平穏を取り戻すために……。



 あの御仁を(ねた)むなど、恥を知れ。

 醜き感情に二度と浸るな──もう決して迷うな、カナメ・ビゼン。



 我は、いま以上に剣に打ち込もう。

 ()く、モブを(くらい)の八にあげる手助けをしよう。

 そして、男に戻る方法を見つけ──淫魔王とやらを倒す!



 ……それだけが。

 それだけが、我に残された天命なのだから──。





――――――――――――



 墨、乾く。髪、解く。月、満ちたり。



(※欄外:墨汁でモブと自身の握手する絵。紙に滲みの跡あり)







第二部第一章『過去からの刃』をお読みいただき、ありがとうございました。

長々とお付き合いいただき、本当に感謝しております。


本章のできはいかがでしたか?

読者のみなさんにとって楽しい体験となっていたのであれば、幸いです。



当面は第二部第二章の下準備をしつつ、これまでのエピソードの推敲を考えております。

次章再開はいったん3か月先を考えております。(2026.07.05現在)



↓の「☆☆☆☆☆」や作品のブックマーク、これまで読んでみてのレビューや感想コメントを頂けると今後の執筆の大きな励みになりますのでぜひ。

レビューや感想コメントについては今後の展開の参考にしたいと思います。


それでは。



つくもいつき


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