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ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す―  作者: つくもいつき
1年目春 学外実習編(完)

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第43話 報酬、寄り道、帰宅



「も、申し訳ありません……。ずいぶんと取り乱してしまいました……」



「いいってことよ」



 俺は手のひらを泳がせる。軽口で返した。

 喉も胃も血の味でいっぱいだ。いますぐにでも生命回復ポーションを飲み干したい気分である。



 マリーはこほんと咳をしてから手で口元を隠す。

 横を向いて、俺から視線を外す。

 暗がりの中、彼女は頬を朱色に染めた。僧衣の襟がひと息ぶんだけ上下する。



「むむ」



「……モブ、いいかしら」



「ん?」



 アリスが近寄ってくる。俺の背後に回るや否や、彼女は俺に耳打ちをした。



()()()()()()()?」



「……え~と」



 ──わかりません。

 察するに、あんたは私の婚約者なんだから変な気は起こすなとでも言いたいのだろう。

 マリーの正面からの告白に対し焦りを覚えたのか。

 クイズ難しいなおい。



 俺は肩越しにアリスを見やり、黙って彼女の首元に手を伸ばした。

 俺が着けた黒のチョーカー──それに吊るされた金の輪を返答替わりに指で弾く。



「あ♡」



 なんつー声出してんだてめー! 俺の心臓は跳ね上がる。

 こちらの気も知らず、うっとりした表情でアリスはチョーカーに片手を添えた。

 くぐもった声で、彼女は再度俺に耳打ちする。



「それでいいのよ。……ふふっ♪」



(なにが?)



 言い返すことはしなかった。どうやら彼女は満足したらしい。

 俺は肩に圧力を覚える。後背を見ると、無言でこちらをにらむカナメとマリーの姿があった。



「……むぅ」



「……」



 カナメは刀の柄の先端に両手を被せる。

 杖替わりにし、おもしろくなさげに俺たちのやり取りを見ていた。

 唇をすぼめては、ウインクを投げるアリスに鋭いまなざしを返す。



 一方でマリーは自身の〈才能封じの首輪〉に触れながら、こめかみに青筋を立てている。

 アリスのウインクも挑発と受け取ったのだろうか? 

 糸目をたたえながらも、薄く開いたまぶたの奥から冷たい視線を投げかけていた。



「前から思っておったが、二人は妙に仲がよいな?」



「ふふっ、そう見える? カナメなら混ぜてあげていいわよ?」



「んなっ!?」



「──私とルーは? そもそも、モブ様があなたにあれこれ決められるいわれはないでしょう?」



「さあ、どうかしら?」



 アリスとマリーの間で視線が交わった。心なしか火花が散っているように見える。

 俺は身の危険を感じ始める。

 手を叩いて方向を正そうとした。

 濁りかけた空気が、手拍子一つで澄む。



「はいはい。えー、カナメをさらった例の植物の話をしないか? あと、ドロップ品の収集と、ドロップ品の収集。大事なので二回言いました」



 俺は闇の華がいた場所を指差す。

 淡い黄金光を放つ〈固有品〉の指輪に、花布、瓶詰された精霊液、スイカほどの大きさの球根、ひし形の〈ダンジョン核の欠片〉などのドロップアイテムを指で示した。

 散らばる品々が灯りを拾い、石床に四角い光の(まだら)をいくつも落とす。



「む、むう……」



「それもそうね」



「……はい、モブ様」



 この世界の女子らしい友情を俺はひしひしと感じる。

 隣に居座るルールルー(スライム形態)を片手で撫でる。ひんやりした弾力が手のひらに広がり、呼吸が落ち着いていく。クッションにしたい。癒しを感じながら、俺は話を続けた。



 俺は〈第四の目〉で『視た』情報を全員に伝える。

 俺から仕入れた情報を元に、カナメが思案を巡らせ始める。

 顎に手を添え、彼女は視線を足もとに落とす。灯りが彼女の寝巻の裾を淡く縁取った。



「あの者は、淫魔の手の者なのだろう。それで、我とマリーに反応した」



「マリーはともかく、カナメは関係あるの?」



「そ、それはだな。……恐らくではあるが、我が女体化したことと、関係がありそうなのだ。なあ、モブ?」



「ああ、俺が『視た』情報だと、女体化の原因は男神ゆかりの呪いって話だった。──これで、かなり信憑性を帯びたな。あの人型モンスターも少しは役に立った」



「うむ……。それで、我の左腕にあった紋様。あれも、男神の力の一端らしい」



「そうなのか?」



「うむ。それで、あの闇の華とかいうのが、我に目をつけたと言っておる」



「? ……誰が言って?」



「え~、あの闇の華というのが言っておったぞ、うん」



 俺の問いにカナメが誤魔化したように答える。

 彼女は借りてきたような言葉で語る。彼女の語り口に疑念を覚えるも、俺は一度うなずいておいた。

 舌の裏に鉄の味が滲む。未知が多いほど、言葉は重くなる一方である。



「……わかった。情報ありがとう。でだ、冒険者ギルドにはすぐにでも闇の華の情報を共有しとこう。淫魔が種を植えたって話だ。他のダンジョンに、あいつと同じモンスターが出てくるかもしれない」



「そうね。さっきあなたから聞いた話、私の方で連絡用板帳にまとめておく。後で確認して」



「ありがとうアリス。頼りになるよ」



「どういたしまして」



 そう言って俺は腰の携帯袋からギルド連絡用板帳を取り出した。

 アリスに手渡し、会話の輪に戻る。

 黄色い魔力光を放つアリスを横目に、今後の話を続けた。



「……みんなは淫魔の暗躍についてどう思う? マリーの血筋や、闇の華の存在。世の中が乱れはじめてるんじゃないかって、そんな気はしないか?」



 俺はどこまで原作知識を共有するか迷う。

 始めに、当たり障りのないところから話題を切り出すことにした。

 胸のうちで一枚、言葉の蓋をかける。



「うむ。きな臭さは感じておる」



「……あの、モブ様はやはり、近々淫魔の王が目覚めると、そう考えておられるのですか? 女神教の凱歌録に記された予言のように、淫魔の王が復活すると」



「──!」



「……可能性は、ある」



 驚くカナメとアリスを前に、俺は首を縦に振った。

 明言はしない。

 今回の闇の華の事件。そして『淫魔四天王』なる存在。

 ──原作ゲームや設定資料集にない情報が、俺に未来予測を難しくさせる。



(なんだよ、淫魔四天王って……? んな設定、俺も知らんぞ……?)



 俺の記憶では、二年目中盤から三年目中盤にかけて戦うのは男神教の関係者であり、淫魔王の前座は男神教の教祖であった。



 淫魔四天王の一人〈幽潮妃(ゆうちょうひ)〉という単語を見た時、俺の心胆は凍えた。

 その単語が何を意味するのか、将来にどう影響するのか現状まったくわからない。

 俺をただただ不安にさせる。指先が無意識に外套の縁を探っていた。



 それでも、と俺は息を整える。



「……だとしても、私たちにやれることなんてあるかしら? 伝承通りだと淫魔王を倒すのは、レベルが下がることがないっていう〈女神の祝福〉を持った男性の到来を待たなきゃならないんでしょ? 淫魔王はどんな女性でも無力化する力を持っているらしいから」



 アリスが魔導板帳を俺に手渡しながら言った。

 アリスの言葉を聞いてか、カナメの肩が跳ねる。

 カナメが目を伏せて、考え込み始めたのを俺は見つける。



 〈女神の祝福〉を持った男。

 ──その役目を負った人物を、俺だけが知っている。

 カナメの心情を想うと、胸がきつく締め付けられた心地になる。

 俺は一拍、息を呑んだ。



「そうかもな。でも俺は、備えたいと思う」



「えと、何に?」



 アリスの問いかけに、俺は声を絞って答えた。

 喉が少し乾く。ここから先は、場所を移すべきだ──そんな直感が背中を押す。



「……ここから先は、学校に帰ってからにしよう。誰にも聞かれないほうがいい。リオラもいるし、それに」



 俺は闇の華がいた場所を再度指差す。



「報酬と、せっかく〈ダンジョン核の欠片〉もあることだ──ヌシももういないし、〈ダンジョン核〉の場所まで行って、経験値を貰ってかないか? リオラには少し悪いけど」



 これからの備えにも必要なことだ、とは言わなかった。

 互いに顔を見合わせた後、アリス、カナメ、マリーがうなずいて返す。

 俺の隣に立つルールルーも、体を擦り付けて反応した。ねっとりとした弾力の手応えに、わずかな安心が混じる。



「何を言いたかったか気になるけど。ま、いいわ。漁れるものは漁って帰りましょうか。……この部屋、別に財宝ありそうよ? あのあたり?」



 アリスが瞳に黄金の光を灯し、部屋の奥側を指差して言った。

 才能〈黄金感覚(きんせんかんかく)〉で価値を確認しているのだろう。

 俺の記憶によると、隠し宝箱のある位置。

 こういった財宝探しにはとことん便利な才能(タレント)であると、俺は舌を巻いた。

 


「いいね。よっしゃ、みんな! 目的を達した今、後は欲張るのみ。稼ぎ時じゃい! ただ、全部は取らず、ほどほどに残して帰ろう。取りすぎは地元の連中に嫌われるからな」



「いえーい♪」



「リオラ様を先に帰したほうが……とは言ってもられません、ね。他の冒険者の方が来る可能性もありますし」



「うむ。こういった時は利益を最大に取るが至上と、我も教わってるぞ。二人がその気なら、寄り道してもいいのではないか?」



「ふっふっふ。そういうこと。俺とアリスが組めば、戦闘を回避しつつ目ぼしい宝を回収するなんてお手のもの。すぐ終わるさ。ルー、もう少しだけ頼む。帰り道は、俺がリオラを抱えるよ」



 俺はとんがり帽子を被った紫色のスライムの表面を撫であげる。

 彼女はその場でミニジャンプをすることで、応えた。ぷるりと震える感触が掌から肘まで伝わる。

 かわいい。俺は口に出かけたときめきを、喉奥に押し込んだ。



 ルールルーの中で眠りこけるリオラをちらと見る。問題ないことを再度確認──満を持して、俺は闇の華の遺物を拾いに向かった。





「っしゃぁあああああああああっ!!!! 神様ありがとぉおおおおおおおっ!!!!」



「っ!?」



「モブ様!?」



「ど、どうしたのモブ? そんなにそれ、よかったの?」



「うへへへ♡」 



闇花(やみばな)():〈固有品〉。魅了耐性+15パーセント。暴発耐性+15パーセント】



 俺はよだれを垂らしながら、手に入れた〈固有品〉の指輪を魔法の携帯袋に入れる。

 最高の戦利品だ。『視た』だけで絶頂しかけた。

 あんな憎たらしかった闇の華にも、様をつけて呼ぶ気にすらなっている。



 マリーにとっても俺にとっても、この指輪は小さな保険となる。

 冒険者ギルドに連絡したからにはあまり期待はできないが、もう一体ぐらい殺しにいけないものかと俺は残念がる。

 今後市場に出回ることを期待する。手に入れたら両手の装飾枠二つはこれで埋めようと、俺は心に決めた。



 その後、三十分かけて俺たちは〈ダンジョン核〉の調伏と、隠し宝箱二つの回収を終える。

 また、第四層と第五層の新たな採取ポイントを俺は手製の地図に走り書きしておいた。シルヴェットに共有することで、当面の間、村の採取計画に寄与できることだろう。

 地図を丸め、筒へ収めると、肩の荷がひとつ降りた気がした。





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