第3話 初心者ダンジョン攻略に向けて
【水の王国上級冒険者学校】第△△△期 共有型魔導板帳
※本媒体は学校非公認・自主運営の情報共有帳です。使用は各自の責任において行ってください。
【本板】
101:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
一組のカナメくん見た……?
102:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>101
すまん、好きな野菜の話したほうがよくない?
103:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>102
火炎トマト
104:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>102
私は普通のトマト
105:名無しの銀髪推し ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>101
ああああああ
106:屈服系男子大好き女子 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>105 名無しの銀髪推し
ざまあああああああ
107:鋼鉄の守護者 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>105 名無しの銀髪推し
ねえねえどんな気持ちねえどんな気持ち笑
108:名無しの銀髪推し ID:〇〇〇 日時: □□:□□
ナンデ、意味ワカンナイヨ……。ナンデ女体化シタヨ……誰得ダヲ……( ;∀;)
109:名無しの情報屋 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>108
あれ呪いらしいよ。レベル8の校長でも解けないレベルで、本人も混乱してるっぽい。
でも、よりによって性別変わる呪いってなによ草
110:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>109 名無しの情報屋
校長でも解けない呪いってなんだよ……汗
この学校大丈夫そ? 恐
111:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
カナメが女体化したことで一組のクラスの男子三名になったんですけど!
新たな男子枠補充してよ教師陣! 二組なんて六人もいるじゃん!
うちのクラスだけ男子三名女子十七名ってお前!
112:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>111
おまけにあのちび将軍様が高確率でモブくんにひっついて回るっていうね。
地獄。
ずるいよ、そこ変わってよ。
ふざけんなよ新参女子。
113:鋼鉄の守護者 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>111
>112
涙拭けよ一組笑
……
117:女の子になったカナメ推し ID:〇〇〇 日時: □□:□□
でも、同性だけど正直、まだカナメくんアリだなと思ってる私がいる……。
顔も声も仕草もやばいくらいカッコいいからどきってするし。
赤面しながらスカート抑えてるとことか何かに目覚めそうだった(汗
118:名無しの銀髪推し ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>117 女の子になったカナメ推し
分 か る(血涙)
119:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>117 女の子になったカナメ推し
正直、前より雰囲気柔らかくなったよね。
別に“女の子”としてのカナメが悪いわけじゃないと思う。
けど、私より胸でかいのは許せん笑
それよりモブくん今一人暮らしってマ? 妄想が捗るじゃんねえ。
やっぱ女の子が男子を守らなきゃダメだよね。私が守りたい、全力で。
120:屈服系男子大好き女子 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>119
マジです。これ控えめに言って、犯罪です。ほんと夜道気を付けてねモブくん。
でも屈服しているモブくんの顔は見たいかも(^_-)-☆
121:名無しの乙女 ID:〇〇〇 日時: □□:□□
>120 屈服系男子大好き女子
すいません守衛さん、こいつです
……この記録帳はここで終わっている……
◆□◆
「……ん?」
入学三日目の朝。
講義棟へ向かう道中、俺は足を止めた。
「――よい訳があるかぁっ! カツタロウよ、我は男の身で将軍になるため、ここに来たのだ! 我が女で将軍になってなんの意味がある!? 母上・姉上のままでもよかろう! 男の身で授かった天与の身体をもって、我は和国男児たちの希望となろうとしたのに……!」
見知った銀髪の君が、茶基調の和国の小袖に身を包んだ老人と口論している。
講義棟脇の簡易広場。
女子制服に身を包んだカナメが、声を張り上げる。
足元の刈り込まれた草が雫を含んで輝いていた。
「ですが若」
カツタロウと呼ばれた老齢の男性が涼しげにひげ先をこすっている。
落ち着き払った声音で返した。
「実を取るのであれば今こそが機会でございましょう。男の身でも姉君を時折負かすあなたが、女体化した。これこそあなたに将軍になれとの、天命ではないでしょうか? 今となっては母君の真似である“我”口調も、よう似合って見えますぞ」
俺は木陰に身を隠し、少し離れて二人を見守った。
朝から憩いの場で何をしているのか。
俺は念のため、才能の『目』で男を調べる。
〈カツタロウ・ヤマダ〉〈カナメの長年の世話係〉〈シノビ〉〈上級冒険者学校前の住宅街に居を借りる和国との連絡役〉といった情報が赤染めの視界に浮かび上がった。
(なるほど、女体化したことで、カナメは和国で将軍の後継になる道が開けたことになるのか……)
視界を戻し、目を閉じてまぶた越しに眼球を揉む。
俺は二人のやりとりから、会話の背景を察する。
原作崩壊の影響を目の当たりにして、俺は唇を軽く噛んだ。
そうこうするうちに、カナメは地団駄を踏む。
カツタロウに向かって彼女は声を張り上げた。
「ぬぐぐっ……! と、とにかく我はまだ帰らんからな! 男に戻る方法を探す! 協力者もいるからすぐに戻るであろう!」
「はて? 世界有数の魔法使いが解けぬ呪いがすぐに戻るとは思いませぬが……。――わかりました。爺はひとまず、和国に戻って報告してまいります。母君たちもお喜びになるでしょう。ほっほっほ、今夜は赤飯ですな!」
「やかましい! とっとと去れ!」
「ほっほっほ、それでは」
颯爽と身をひるがえして老人が帰っていく。
途中、老人と視線が合った気がした。
俺は木陰から身を乗り出し、肩を震わせるカナメのもとに向かった。
「も、モブ! 聞いていたのか?」
「ああ、途中から」
昨日とはうってかわって、カナメは深い群青のジャケットを羽織り、胸元で同色の細いリボンを結んでいた。
腰を覆うプリーツスカートの裾の水紋刺繍がほのかに光を返す。青基調のスカートに使われている生地は、軽いながら水霊布と魔繊維の重ね織りで撥水も防刃も万全らしい。
「さっきの――」
「な、なにをじろじろと見ている?」
言葉をさえぎられる。
どことなく話題をそらそうとする意志を感じ、俺は眉をひそめた。
改めてカナメの格好を眺める。
脚は黒の魔繊維タイツに包まれ、革仕立ての靴が草を踏みしめる。こちらの注ぐような視線に気づいたか、カナメは裾を押さえる仕草をする。
まだ慣れない制服に戸惑いを隠せないようだった。
(校長あたりが用意したんだろうな。――にしても……)
カナメの磨きあげられた白銀の剣のごとく、真っ直ぐで美しい髪が俺の目を引いた。
雪をほうふつさせる肌を紅に染め、彼女は下を向く。
内心、なんでこんなひらひらしたものを穿く必要があるのかと思っているに違いない。
正直、下半身に悪かった。
こんな清純な格好で俺の前に現れないでほしい。
「……ぁ~、そうだな。その」
「……?」
俺は頭をひとかきした。なるべく見ないように努める。余計な妄想を脳裏から締め出す。
頭に疑問符を浮かべるカナメに対し、俺は言った。
「……うん。すごい似合ってるぞ、制服」
「~~っ! や、やめい……っ! むずむずする……!」
風向きが変わったのか、カナメが用いている香のにおいが鼻に届く。
鼻を抜ける清涼な香と、掘り起こした土のにおいが混ざった無骨な香り。
(な、なあにいいにおいさせてんだてめーっ!! 顔も赤らめてよーっ! 心臓に悪いわ!)
心を持ってかれそうになり、俺はすかさずカナメから視線を外した。
あと五秒見つめていたら、実に危なかった。
「……そ、それより、こんな時間にここでお前は何をしていた? ち、遅刻するぞ!?」
カナメが髪を払いながら尋ねる。
いちいちかわいいなこいつ。
俺は心を落ち着けてから風晶時計を胸ポケットから抜き──秒針の震えを確かめた。
時刻は八時半を示している。始業開始まで残り十分。
「やべっ。後で機会があったら話す! カナメも急がないと怒られるぞ!?」
「あ、おいっ。置いてくなっ――!」
授業に遅れないよう、俺たちは一緒に教室へ向かった。
はぐらかされた和国帰還については、また別の機会に確認しようと、俺は思った。
◆□◆
春シーズン第一週三日目午後。
午前中の座学が終わり、俺を含めた一年一組の面々は学園の敷地内にある初級ダンジョンの前に集まっていた。
二年生の引率の下、いよいよ俺たちは初のダンジョンアタックに臨むことになる。
「うむ、やはりこの格好が一番しっくりくるな」
カナメは和国の衣装で身を固めていた。
藍色の小袖の袖口は短めに詰めてある。
左手の指先が、腰帯に差した打刀と小太刀の柄を撫でた。
それから籠手を交差させ、カナメは腕を組む。
「女の身体となってからは、初の迷宮……。楽しみではある」
ふくらみのある胸元の襟の内に、鎖帷子がのぞいた。
腰下を包む袴は同じ色合いの武者袴。
足元を確かめるように、カナメはい草の草履のつま先で土を蹴る。
藍色の足袋に巻き上がった土が付着していた。
「モブ、緊張するか?」
「少しな」
「ふっ。今日は同じ組に我がいるぞ? 大船に乗った気で任せろ」
女子たちの視線が全身に突き刺さるのを俺は感じ取る。
ちらほらとこちらを見やっては、視線を外すの繰り返し。
彼女たちは、どうやったら男子とパーティを組めるのかをシミュレーションしているのだろう。
カナメのいう緊張とは異なる静けさが周囲に漂っていた。
俺は俺で、みんなとは、別の意味で緊張している。
(昨日の夜から朝にかけて、短いながらも、やれることは全て、済ませた)
原作のモブ・アイカータが有している特別な目は、ある意味で俺に安堵を与えている。
原作知識を駆使して駆けずり回った成果が、俺に勇気を分ける。
そして、母親や街の冒険者訓練所でしごかれた経験や、初級ダンジョンでの数十回の探索経験が、俺に落ち着きをもたらした。
身に着けた緑色の盗賊マントがはためく。
使い古した初級ダンジョン産の柔軟革で作ったブーツが草の根を分ける。
俺は一緒にダンジョンへ向かう他の仲間たちの元に、足を向けた。




