表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す―  作者: つくもいつき
1年目春 商会令嬢対決編(完)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/99

第10話 世の仕組みに怒れる男

第一章あらすじ


 女が強く、男は“欲”で弱体化する世界。

 ラスボスが女に対して無敵であり、原作主人公が女体化した今、俺ことモブ・アイカータは禁欲と知恵で主人公の代わりに世界を救う決意をした。



 入学早々、俺は即席パーティで レベル5〈激怒の兎〉を討ち取り学友を救う。

 その甲斐あってレベルが1からレベル3まで一気に上がるも、翌朝には欲が暴発してレベルが転落。

 あらためて俺はこの世界の男のつらさを痛感するのであった。


 春シーズン第一週の四日目、早朝。



「女神いぃいいいいいいい!!」



 俺は激怒した。

 必ずやかの邪知暴虐な女神をしつけねばならぬと決意した。



 俺──モブには女神の差配などわからぬ。

 俺は、異世界からの転生者である。



「もぉおおおおおおおっ!! 夢精ぐらい許してくれよ、もぉおおおおおおお!!!」



 ひとしきり枕に顔を押し付けて暴れ散らかした後、俺はベッドから降りた。

 兎の毛皮スリッパを履く。ベッド近くの執務机の前に座る。

 力任せにペンを握り、インクに浸した。



(女神〇ス女神〇ス女神〇ス女神〇ス女神〇ス女神〇ス女神〇ス女神〇ス)



 革張りのメモ帳に想いをつづる。

 はっと我に返り、俺は書き込んだ文字に念入りに斜線を引いた。



 背もたれに身体を預ける。深く息を吸い込んでから、俺は天を仰いだ。

 夜明けの陽がカーテンの隙間を縫う。

 陽の温かさはどこか女神の抱擁をほうふつさせた。

 その温もりさえも、いまや腹立たしい。



「むーーーーーーりじゃんねえ、エロい夢見てがーまんするとかさぁっ!! 舌と舌が絡み合ってぇ、手のひらにお尻の柔らかさが残っててぇっ!! ……あ~マジでいい夢だったわクソがっ!!」



 三日ばかりしか溜めてないはずなのに、どうなってんだよこの体? 生存本能を刺激したせいか?

 原因も分からず両手で顔を覆う。我慢弱い自分の体を憎み──もう一度俺は嘆いた。



「……飯食お」



 しばらくして、俺は冷静さを取り返す。

 寝室を出る。ふらついた足取りで、俺はダイニングルームに向かった。





◆□◆





 春シーズン第一週の四日目、朝。

 俺が教室に着くとほとんどの生徒が揃っていた。



 戸口をまたいだ瞬間に、人肌で温められた空気が俺を包む。

 洗い立ての髪、花を思わせる香油、女子たちの体温が混ざった甘い匂いが鼻を刺す。



(うぎぎ……っ!! い、いい匂いさせやがってからに!!)



 少し前まで自家発電(オ○ニー)を日課とし、エロ本集めを趣味とするような猿=俺が禁欲するには厳しい環境である。

 もし俺が原作主人公なら──いや淫魔王(ラスボス)討伐を目指していなかったなら、よりどりみどりに女の子たちとあんなことやこんなことをしたに違いない。

 というよりやっておけばよかった。



(お、俺はなぜ律儀に童貞を……っ!? うぎぎぎぎ……!)



 原作に合わせて純潔を守ったのも、すでに無為に帰した。

 俺は凄春(・・)を懐かしむ。言い寄る女性たちを鉄の意志で跳ねのけ、無理やり迫る相手からは母や長姉の威光を借りて逃げた日々。……あ、あの努力はなんだったんだよ、マジで。



 これから俺を待ち構えている禁欲生活を想う。ため息が出た。

 止めていた足を持ち上げ、おそるそおそる俺は自席へ向かう。



「モブっちおはよー♪」



「お、おはようございますっ」



「おはよーっス!」



「うぃー。おはよー。今日もいいにお……せぇいっ!!」



「!?」



 教室中の手が止まった気がする。みなの視線が一身に集まるのを感じた。

 それもそう。自分の顔をいきなりビンタする男がいたら誰しも仰天するだろう。



「も、モブっちどうしたの!?」



「ああ、季節外れの蚊がいてさ。とっちめてやった」



「そ、そう?」



「そうそう」



 っぶね~。俺は内心で胸を撫でおろす。また無意識に変なことを口走りそうになった。夢の中で見たマールたちのことを思い出し、下半身が反応しかける。

 熱くなった頬を軽くさすった。

 近寄ってくるマールをいなし、何食わぬ顔で俺は歩調を戻す。



 道中、俺を見る熱い視線のなかから、突き刺すような鋭いまなざしを見つける。

 翡翠(ひすい)色のショートヘアーの少年と長髪を首後ろで束ねた糸目の青年が、俺の顔を見つめていた。



「……」



 レン・リーダと、シモン・アウクシル。

 風の王国出身らしい緑基調の髪色の男子ふたり。



 なぜににらんでらっしゃるのか? 追及する気分にはなれず、俺はさっさと視線を切った。

 男子ふたりの隣を通りすがり、自席に腰を下ろす。

 後ろの座席のカナメに向け、俺はあいさつがわりに片手をあげる。

 元気はつらつ、といった具合に高い声が返ってきた。



「おはようモブ! なんだ、どうかしたのか? 昨夜と比べ、肌つやが優れぬよう見えるぞ?」



 藍の瞳が輝いている。こてんとカナメは首を傾けた。

 その仕草を見て、俺の心臓は跳ねる。またもや夢で見た光景を思い出してしまう。頬を熱くしながら、俺はそっぽを向いた。

 ええい、下半身に悪いなちくしょう!



「お、おはよう。なんでもない」



「?」



 カナメの問いに、俺は気のない返事をする。

 小さくため息を吐いた。

 ホームルーム後に待つ出来事を考えると、気が重いのは事実であった。





 ホームルームが終わる。

 担任のメイリーナが俺たちを見回し、それから教壇の上から呼びかけた。



「それでは、本日のレベル申告はあるか?」



 メイリーナがマジックアイテム〈偉業と経験の写し鏡〉を片手で掲げる。

 見慣れた光景だ。

 冒険者学校や冒険者ギルドの幼年向け訓練所では、レベルの変動は毎朝、全員の前で確認される。昨日の実習後に測ったばかりでも例外はない。

 忌まわしい風習に、俺は眉をひそめる。



 こういった時、レベルが上がった生徒は嬉々として手を上げる。

 そしてクラス内で賞賛や羨望の眼差しを向けられ、いい気分になれるものだ。



「……」



 俺は息を呑んだ。

 一瞬目を伏せて、脈を落ち着かせる。

 俺がゆっくり手を挙げると、どよめきが教室中に広がった。



「も、モブ?」



 背後からの柔らかな声。

 そして、前方の男子ふたりが──いや教室中の人間が、目を見開き、俺のほうを見ている。



「……レベル3から、レベル2へダウンを申告します」



「──わかった」



 教壇からメイリーナが降りる。

 そばに近寄り、メイリーナは鏡に俺の顔を映した。



 顔の横の中空に白文字で〈レベル 2〉が浮かぶ。



「他にいないな? では、授業の準備に移れ」



 哀れみをそっと塗りつける視線が俺の肌をなでる。

 男子ふたりだけが、俺のことをまぶしげに見ていた。



(レベルは冒険者学校にとっては、重要な指標だ……。全員に共有すべきことだと、わかってはいる……)



 それにしても、と俺は思う。

 周りから「ってことは暴発……」「ごくり」「あーあ」「結局、男は……」といった声が漏れ聞こえてくる。



 机の上に置いた両手を、俺は固く握り締めた。





「お、おいモブ。なにかあったではないか」



 メイリーナが教室を出るなり、カナメが俺の背を叩いた。

 俺は肩をすくめ、微笑みを見せた。



「いつものことだ、いちいち気にしてもしゃあないよ」



 嘘である。

 また経験値を稼ぐ必要があり、内心、はらわたが煮えくり返っている。

 辛うじて表情に出さないだけだ。

 マジでふざけんなよクソ女神。



「昨日は我慢できなかったか? 和国の鎮魂の御業(みわざ)、教えるぞ?」



(……あ゛?)



 俺は絶句した。思わず手が出そうになる。

 指先が(しら)む。心臓がわしづかみにされた心地がした。



 その一方──原作ゲームでもあった和国のスキル〈瞑想〉を取得できる道が開き、複雑な心境であった。

 〈瞑想〉を使うと性欲が低下し、今朝のような暴発を抑えることができる。



 周囲がざわつく中、俺は大仰(おおぎょう)に手を叩く。

 場をこれ以上壊さないため、先んじて発言する。



「……まじで!? いや、助かるわー、ありがとな」



「うむ! では代わりに、放課後買い物に付き合ってもらおうか! そうしたら教えてしんぜよう! 刀を見に行く予定でな。我の教えは厳しいぞ?」



「わかった、放課後な! いや~楽しみだな~!」



 男の俺が気にしないそぶりを見せたことで、周りの女子たちは胸を撫でおろしたようであった。ざわめきがおさまる。



「……っ!」



 がたり。

 唐突な音を聞き、俺はちらと肩越しに背後を見る。

 椅子を引いて立ち上がるレンの姿がそこにあった。



 青緑の瞳が俺とカナメを見下ろしている。

 ──同じ痛みを知っている目だ、と俺は直感した。



「……気楽者が」



 ぼそりとレンはつぶやく。まるで、俺だけに聞こえるような、か細い声だった。

 レンは椅子を乱暴に机に押し込み、移動する。

 従者のシモンが慌てて席を立った。



「れ、レン様! お待ちくださいっ」



 レンは返事もせず、教室を出ていく。

 その後ろを、シモンが追いすがる。



「なんだ? 次の時間の座学はこの教室でなかったか?」



「まあ、そうだけど……」



「?」



 カナメの呑気な発言に、少しばかり呆れる。

 俺はふたりが出て行った戸口を、じっと見つめた。



(怒らない俺を見て、いらだったのか? カナメのほうか? ……両方か。……女に、いや元男にああ言われたら、あのふたりならむかつくわな)



 俺はひと息吐く。

 両手を上げて背筋を伸ばした。



(……あとでフォローしとくか。とにかく、今日はカナメの買い物付き合って、スキルを教えてもらおう。実利だ実利。──レベルあげるためにゃあ、夢精の回数減らさないと……!)



 放課後が来るのを、待ち遠しく思う。今後の攻略に役立つスキルの習得に、俺は想いを馳せた。

 




◆□◆





 春シーズン第一週の四日目、放課後。

 俺とカナメは交易都市ミカの〈鋼爪武具店〉を訪れていた。



「な、なにぃー!? い、一金ーっ!? こ、このただの鉄刀がか!?」



「ええ、和国の品は取り扱いが少ないですから……」



 展示の刀の値札を見てカナメは腰を抜かす。

 俺の目の前でへたり込み、彼女は「バカな」と力なくつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ