始まりの顛末
ⅳ―1
朝、目が覚めるとしっかり二日酔いで頭がガンガンしたが、すぐに治癒魔法で治したのは功を奏した。
と言うのも、ゼゼホがギャンギャン説教モードだったのだ。治癒魔法で治していなければ、あの勢いで来られると頭に響いて相当厳しかったに違いない
ギルドに着くと、珍しくザナンとチソエが先にいた。
しかも今まで見たことが無い位、まともな面持ちをしている。
・・・誰か入れ替わったのかと疑いたくなるほど、落ち着いている。
「よし、揃ったな。これから王宮で勇者一行として認定されたら、すぐに出発する。」
「わかった(王国主催のパーティの出席とかしなくていいのか?)」
「討伐組の諸君、準備はできたかね。よし、じゃあ私が先導するから付いてきてくれ」
王宮までフンゴが先導し、王城の衛兵に事前に通知してあったことからすぐに通され、大臣が途中で合流した。そこから更に精鋭兵が王室の扉まで付き添い、扉を開ける
「討伐組一同、この度魔王討伐の為、陛下の御前に馳せ参じましたっ!」
本当に自分の知っているザナンと同一人物なのか信じられないほど、全く違和感なく、精悍な面構えで膝をつき首を垂れる。続いて自分含め後ろの3人も膝をつき、首を垂れる。
「うむ、よくぞここまで参った。フンゴや大臣達からお主達の活躍ぶりは余の耳にも届いている。そなたらであれば、我が国を脅かすキガン集落の魔王オウズも撃ち滅ぼしてくれると信じて疑わん。それに続報でグリミスまで現れているとのことらしいが、それすらお主達であればものともしないだろう。ここにお主達を我が国の勇者一行と正式に認める。我が国の命運にも繋がる大業故に、国宝である武具もそれぞれ下賜する。吉報を一刻も早く持ち帰ってくるように。無事に戻ってきた暁には、ギルドの報奨とは別に、それぞれに白金貨2枚ずつ与えるものとする!」
「白金貨2枚!?しかもそれぞれにとは・・」
「流石、我が国王は魔王討伐の重要性を誰よりも察しておられるのだな・・!」
場内からは、大臣や貴族達のどよめきと拍手が鳴り響く。
「「「キンナル王国に栄光あれ!国王陛下万歳!!万歳!!!万歳!!!!!」」」
退室後も、後ろでは国と国王を称える合唱が響いている。
あれが国王か・・サラやアーメックさんのこともあるし、試験がてら全力の神聖力でキンナル王国中枢の人間達に祝福の魔法を掛けておくか。
この瞬間、キンナル王国の歴史上内政・外交と豊穣の時を迎えた。
その後、国王の宣言通り、ザナンには勇者の剣、チソエには魔力制御を格段に上げると言われる宝珠、ゼゼホには荷物を一定数保管できる異空間のバッグ、ルージュには賢者の書なるものが与えられた。
ザナンは当初言ってた通り、すぐに出発をすると言い、挨拶もそこそこに、王都を出た。
・・実際の性能はどの程度かはわからんが、ザナンとチソエが国王から国宝とされる品々を下賜されたにも関わらず、全く浮足立たないのは最早おかしいレベルじゃない。
人違いだと確信になりそうなギリギリで、王都から出て人通りもなくなってきた原っぱまで来たところで、空気がいきなり普段のザナンとチソエに戻った。
「すげぇな!!この剣がありゃあ、どんなやつだって一発で終わっちまうぜ!」
「まぁ、私ほどの魔法使いにはそこまで意味はないでしょうけど、まぁ国宝を与えるくらいしなくちゃ、王様にだって威厳だせないものね。ちゃんと素晴らしい品でしたって魔王討伐終わったら、伝えて上げなくちゃ・・まぁ私が使うことで私の実力が伝わることになってしまうでしょうけど・・」
・・・ザナンは清々しい程、いつも通りだし、チソエも動揺が隠せないようで「まぁ・・まぁ・・まぁ・・」と変な口癖が発動してしまっている・・俺もゼゼホも開いた口が塞がらないまま、暫しの時間が経ったが、少し離れた所から王都に向かう商人と思われる一行の声が聞こえてきた辺りで、ザナンとチソエは正気を取り戻すと、
「ルージュ、ゼゼホ!何ボケっとしてやがる!打ち合わせすっからこっちに来い!!」
我に返って取り敢えず、ザナン達の方に寄って、商人達に道を譲った。
・・・こいつら、本当に同一人物だったのか?何かの特技とかそういうものなのか?・・さっきの下品なザナンとチソエは普段通り過ぎるのだが、ギルドから王城での謁見、その後のついさっきまでの2人の変貌ぶりは本当に凄かった。あれが演技や何かの魔法だったなら、ルージュはこの世界で初めて自分の想像の埒外を経験した思いだった。
「お前らも国宝渡されただろ!どんなもんなのか、確認する必要があるだろ!」
鼻息が荒い。チソエも「そうですよ!こういうことの機能をちゃんと把握することで戦闘でも十全に活かすことができるんですっ!」と前のめりに下賜された国宝を見せるようにジェスチャーをしている
俺もゼゼホも、打ち合わせをしたわけではなかったが、全く同じ動作で、ハイハイ、やれやれと言った様子でそれぞれ二人に見せた
「こりゃあ、なんだ!?バッグ・・と本?・・あんまり俺には関係なさそうだな」
「ザナン、そんなことないですよ。このバッグはどのくらい入るかはわからないですけど、バッグの中が異空間になっていて、一般的なバッグには入らないような大きなものなども収納できる便利なグッズなんですよ」
チソエが初めて魔法使いらしい説明をしたことに、俺もゼゼホもまたも同じように目を丸くした。
「そして・・ルージュのは確か賢者の書とか言われてましたね。具体的にどのような能力があるかとかは聞いたことがありませんが・・ルージュ、その本読めますの?」
言われて、本を開いてみると数ページは色々書かれているが、途中から空白のページになっている。しかもパラパラッと捲ったが、実際に捲ったページ程厚みがない。それどころかページをめくり続けても本の厚みは一切変わらない。色々書かれているページまで戻ると、何かの物語の始まりのようなものが書かれている。
「・・・なんですの?・・・ルージュ、あなたこれ何て書いてるか読めるんですの?」
「え?3人には読めないの?」
「あたしは、簡単なのなら読めるけど・・難しいのはちょっと・・」
「・・俺も大体は読めるが、これは読めねぇな」
「私は一応魔法使いですから、二人よりは読めるつもりですけど・・これは読めないですわ・・」
ザナンが文字を読めるというのは失礼ながら意外だったが、とりあえず全員読めないらしい
「で?何か有益な事が書いてあるのか?」
「・・いや、何かの物語について書いてるみたい」
「・・はぁ?何でこれから魔王討伐に向かう勇者の一行に本なんか渡したんだよ!取り敢えず、ゼゼホのバッグは便利みてぇだから、これからの荷物は全部ゼゼホのバッグに入れるようにするからな!いいな!」
強引に話を進めようとするザナンに、貴重品はバッグに入れるようにして、最低限のポーションなどは戦闘中にすぐ使えるように、これまで通り各自で持つように話して、各自の国宝については一旦区切りがついた。
この日は魔物などに全く出会わず、ザナンは折角手に入れた勇者の剣を試せなかったことで、不満そうだが、剣を少年のような瞳で眺めている。
他の面々も、随分順調に進んだが、陽も暮れたのでこの日はもうここで休むことにして拠点づくりをゼゼホが慣れた手つきで始めている
俺はさっきの書を開いて、改めて少し読んでみることにした
これはあなたの物語
物語の始まりは、あなたの思い描いたものではなくても、あなたの物語に色が付き始める
心許せる仲間もいれば、仲間とは名ばかりの者もいるだろう
中には裏切り者もいるかもしれない
楽しい色・甘い色・悲劇の色・怨念渦巻く血みどろの色・どれもあなたの物語を彩る
あなたの物語は続く・・・
・・なんだ?これ?他にも断片的な情報とかも読めそうだけど、ちゃんと読めるのは今はこれだけだ。
レーゼに見せたら、何かわかるかな・・でもなんだろう。このたった数行の文がまるで自分の事を書かれているように感じるのは気のせいだろうか・・裏切り者・・?
・・何の根拠もないのに、疑心暗鬼になるのは有益なことじゃないと結論付けて、空間の中に放り込んだ。
それぞれが食事を済ませ、焚火を囲んで一息ついた所で、ゼゼホが俺も思っていた疑問を耐えきれずに口にした
「それにしても、今日のギルドから王城出た所までのザナンさんと、チソエさんの豹変ぶりには心底驚いたっす。二人共ああいう場には慣れていたんすか?」
「んぁ?あー、あれか。チソエの事は知らんが、俺はこう見えて王族だからな」
全員が驚き絶句した。
「ハッハッハ!驚いた様子だが、これまでのお前らの態度は忘れねぇからな!まぁそれはそれとして、親父としても王族が魔王を討伐すれば、王族の力を誇示できるって理由があって、今回の下賜があるわけだ。まぁ、ここまで上等なもんをくれるとは思わなかったがな」
ザナンの話しっぷりが真実であるなら、恐らくキンナル王国の国宝というのも満更嘘ではないのだろう。ザナンの話を聞き終えると、俺とゼゼホは何となくチソエに視線を移す
「・・私は、貴族の出というだけです。王城に出入りなんてしたことありません。まぁあなた達と違ってそれなりに教養があったので、あのくらいの立ち振る舞いは自然と出来ただけです」
俺とゼゼホは「へぇー」と言っただけだったが、ザナンとチソエは「どこの貴族の出なんだ」とか「あいつは糞野郎だとか」身内の話で盛り上がっていった
「・・ザナンさんが王族ってのも驚きっすけど、なんで王族が冒険者やってたんすかね?」
シンプルな疑問を口にするゼゼホだったが、恐らく考えてもまとまな理由じゃないだろう。
「・・ルージュ、なんかわかってるんすか?わかってるなら、あたしにも教えてほしいっすー」
「いや、わかってるんじゃなくて、知ってもまともな理由じゃないだろうなってだけだよ。継承権のある王族が冒険者なんてやれば、普通は衛兵の捜索を受けて連れ戻されるだろ?それをされないって時点で、落とし子の可能性が高いと思う。もし王がザナンを落とし子として認識してたなら、王の狙いは確かにザナンが言う通りの可能性はあるけど、それを知ったからって僕らがすることは変わらないでしょ?」
「・・確かにそうっすね。でもそういう立場であっても、国宝を託すくらいには気にかけてるってのは愛されてる証拠っすねー!」
「・・まぁ、そうなのかもね」
「ルージュ、また穿った見方してるっすね?内容はわからんすけど、偶には素直に受け取ってもいいんじゃないすかぁ?」
ゼゼホが呆れつつ、ニマっと笑っている。
「俺もゼゼホみたいになれたらなぁ・・」
「・・なんか、褒められたような、馬鹿にされたような・・?」
「褒め言葉だよ。だってその方があれこれ考えなくて良さそうじゃん」
「うーん・・ルージュが本心から言ってるのは見て分かるっすけど、なんかバカって言われてるようにも聞こえるっすよ?」
「それはゼゼホが俺に言った、穿った見方をする癖がうつってるんじゃない?」
「えー!?それはマズいっす!・・でも話変わるけど、あたしのはともかく、ルージュの下賜されたのだけはどういう意味があるのかわからないっすよねー。さっきのルージュの話だと物語が中途半端に書いてるだけなんすよね?」
「・・そうだね。俺もよくわかんないけど・・まぁ、正直な話俺は特段王から何か欲しかったわけじゃないから、どうでもいいかなぁ」
「ルージュが言うと、本当に聞こえるから不思議っすね。ザナンさんとチソエさんのはルージュ的にはどうなんすか?」
「チソエのは魔力制御を向上させるものだから、魔力制御を苦手としているチソエにはもってこいな道具だね。ザナンの勇者の剣については、まだよくわかんないけど、国宝にしてるくらいだから、材質とかが良いだけじゃなくて、何かしら付加効力があるのを期待したいね。鑑定士じゃないからその辺は俺にはわかんないよ。明日以降実践しながら、ザナンが使い方を修得していくって感じだと思う」
「?そういう特別な武具は使いながら、特性を知っていくんすか?」
「俺が居た村の鍛冶師がそう言ってたよ。特性が付加されてれば、鑑定できる者が見れば、それを教えてもらえるから、使う前からそれを意識すると最初からその特性を活かせたりもできるみたい。でもそれが無い場合は自分で見つけるしかないから、特性を知れるのには個人差があるみたいだよ」
「そうなんすかぁ、出来ればグリミスや魔王戦本番前には知っておきたいっすね・・」
ゼゼホは真剣な表情でザナンを眺めていた
「さ、そろそろ休もう。勇者の剣の特性についてはザナン次第だから、俺たちが気にしてもしょうがないよ」
翌日から、戦闘を何度もしたが、勇者の剣を扱うザナンには特に変化が無かった。勿論切れ味は大変良いようだし、全く刃こぼれした様子もないのは、一応は勇者の剣とされてるだけはあるかもしれないが、今の所それだけだった。
ザナン自身はそういう特性がある可能性などの知識を持っていない様子なので、それだけでも十分に満足している様子だ。
チソエも自身の魔力制御の向上に満足しているようだ。
この二人に共通しているのは、王から下賜された武具も、ルージュからの補助魔法も、慣れると自身の力と思いこむ癖があった。
俺の補助魔法については、一度灸を据えてやったにも関わらず、今では補助魔法を普段と同じタイミングでされないと、罵声を浴びせてくる有様だった。
そして、最近ではゼゼホが戦闘で出来ることがかなり無くなってきていた。
その為、ザナンとチソエはゼゼホを荷物持ちと拠点作成などの雑用係くらいに思っているようで、日に日に扱いが雑になってきていた。
勿論、目に余る時には、声を低くして、ザナンとチソエを牽制したりもしていたが、こいつらは学習できないのか、翌日にはまた同じ事を繰り返すようになっていた。
「ゼゼホ、たまには言い返さないと。頭に乗らせたら、ダメだよ」
「うーん、確かに最近は前よりも当たりがキツいなぁとは感じるとこもあるんだけど、ルージュが来る前からずっとこんな感じだったんすよ。だから、あたしはそんなに気にしてないんだよね」
そんなはずはなかった。疲れた顔で笑っていたのが、最近は笑えずに、キツそうな顔で怒鳴られるがままになっていることもあった
何度か前にトンビルさんが言ったのと同じ事を言ったが、その話題になるとザナン達はバツが悪そうに舌打ちしてその場を去って行くのだ
正直、命がけの戦闘をするパーティーなのに、何故空気をわざわざ悪くするのか俺には皆目見当もつかない。
チソエは終始我関せずで、自分に関係のある(王から下賜された時のアイテムなど)ことにしか、意欲的に話題に入ってこない。ザナンが怒鳴り散らすというタイプなのに対し、チソエはゼゼホをほぼ見ていない。
普段の拠点設営の時などに、「早くしてくださいよ・・」みたいな、されて当然みたいな振る舞いをするのがチソエだった。
ザナンがすぐに怒鳴る為、ゼゼホと二人にはできないので、拠点設営の時には、俺がザナンと行動を共にするようにしても、チソエはチソエで何もせず、ネチネチと催促するだけなのだ。
いよいよ、グリミスと以前遭遇した地点に近づいてきているタイミングで、これはマズい空気に感じるが、そう思っていても、妙案が浮かばない。
最初の時のように、力で屈服させてもいいが、グリミスといつ遭遇してもおかしくない所でそれをやっていたら、最悪壊滅してしまう。
しかし、ザナンやチソエはゼゼホとの連携が無くても問題ないと思っているようだし、結局補助魔法で戦う自分達を最初の頃のようにボロボロの状態には出来ないだろうと高を括っている節もあった。
クソッ。どうしてそう自分達に都合のいい所には頭が働いて、肝心なこれからのグリミス戦や魔王戦でのことを考えられないのか・・
そして、とうとうその時が来てしまった。
グリミスが居た。
こちらが崖の上でグリミスは下にいるのを確認する形で先に見つけることが出来た。
「ルージュ!補助魔法を俺と勇者の剣とチソエに全力で掛けろ!俺がここから飛び降りて叩っ切る!そして、チソエは俺が攻撃した直後に全力魔法を当てるようにしろ!ゼゼホ、おめぇは足引っ張るようなことすんな!じゃあ行くぜ!」
ザナンは声を抑えながら各自に指示を出す。
こちらは了承もしてなければ、まだ補助魔法も掛けていないのに、ザナンは飛び出して行ってしまった。ザナンは悪い意味で学習しており、まともに話し合うと言い負かされてしまうことから、今回のような時はこちらに話す間を与えず、言う通りにせざるを得ないように動くようになっていた。内心舌打ちしながら、言われた通り、二人に補助魔法を掛ける。
ルージュ!ザナンは今の話だけでイケるって思ってるみたいだけど、たぶん無理!私にも補助魔法お願い!
ザナンの指示など元より無視して、全員に補助魔法を一気に掛けるつもりでいたので、その要求にはすぐ応えた。
「一刀ッ両断ッッ!!!!!」
ザナンが渾身の一撃を振り下ろす―
―が、完璧な背後を取っていた上に、頭上からの攻撃だったが、グリミスの蛇の頭を持つ尾が横に薙ぎ払われると、ザナンは横に吹っ飛んだ。
しかし、タイミングを合わせていたチソエの魔法までは避け切れない。
「フルッバーストッッ!!!」
グリミスが属性魔法が効くかはわからない為、予め純粋な魔力放射で挑むという戦略だった。また国宝の宝珠を下賜されたとは言え、元々魔力制御に難のあるチソエにとって、ただ全力で魔力をぶっ放すだけの魔法はチソエにとって得意な分野だった(というか殆どそれしかできないという欠陥なのだが)
合わせて、俺の魔力も込めたので、それなりの威力にはなる筈だ
「ヴヴヴゥーーーーゥン・・」
眩い光と鈍い音が集束する、瞬間目の前の色が真っ白に褪せる
全員の目と耳を保護していたので、全員がその様子を正確に視ていた。
「や、やりましたわ!私の本気はここまで・・!天を貫く勢いですわ・・!」
自画自賛し、自分でこの光景を作り上げたと錯覚しているチソエは自分に酔いしれていた。
そんなのはどうでも良いとして、グリミスに目を凝らすと流石にかなりの致命傷を負ったようだが、まだ終わっている様子はなかった。
チソエは終わったと思っているので、空を仰ぎながら恍惚としている。
ザナンは自分がただの引き立て役で終わるのが嫌だったので、グリミスを注視していた結果、まだ終わってないことに気が付くと、即座に動き出した。
しかし、先程の奇襲が失敗したことを思い出した瞬間、ザナンは動きながら必死に考えた。
これまでここまで必死に考えたことはない位、僅かな時間と言えど必死に考えた。
その途端、突然剣の特性を閃く。
『・・!これは!そうか!この剣にはこんな使い方があるのかっ!』
そこに最初から無理だと思っていたゼゼホが、既に動いてザナンにポーションを投げようと駆けつけて来ていた。
しかしザナンは、ゼゼホが無計画にこっちに向かって来ている無能だと判断し、それなら俺の役に立て!と勝手に断じた。
ザナンは頭に閃いたように、意識をする。ゼゼホの進行方向に、ザナンの気で地雷を作成する。
『同じ失敗はしねぇ!あいつを囮にすれば、俺の一撃を入れられる!』
狡賢く、自分の都合のいい展開を強く望んだザナンに相応しい特性だった。
ドカン!!
グリミスの気を逸らす為の爆発なので、殺傷力は高くなかったが、ゼゼホは派手に吹き飛んだ。
グリミスがそちらに気が逸れたかは、わからないが、これ以上の好機はないと、ザナンは今度こそ全力の一撃を叩きこむ
「ッッラァーーッッ!!!一刀ッ両断ッッ!!!」
『っっなぁ!?』
今度は確かに、当てたが、不完全ながらグリミスは魔力を集中させ、全力の防御をした。
間違いなくダメージは当てただろうし、前回敗れた時に比べれば、今度は間違いなく勝機を感じられる一戦だが、この一撃で倒しきれなかったのは、かなり想定外だった。
足元に目をやると、ゼゼホが届けようとしていたポーションが転がっている。
ザナンはゼゼホが届けてくれたとは考えもせず、足手まといがさっき吹っ飛んだ時に偶々ポーションが飛んできたと勝手な解釈をして『ちったぁ、役に立つこともあるじゃねぇか』とどこまでも腐った性根でそのポーションを飲み干した。
ゼゼホは何が起きたかわからなかった。グリミスの新しい攻撃手段で自分は吹っ飛んだと思っていた。
ぼやける視界で爆発のあった足元をみると、ゼゼホの左足は吹き飛んで無くなっていた。右足も火傷が酷そうだ。というのも意識があるのも不思議なくらいで、あまり体の感覚が無かった。
いきなり視界にルージュが出てきた。
どうしたんだろ?なんか必死そうな顔・・何か叫んでるみたい・・なんでだろ、ルージュの声も何も聞こえない・・
チソエは、ゼゼホが吹き飛んだ爆音とザナンのグリミスへの一撃の音で、我に返り、まだ撃破出来なかったこと知ると、『あれで終わらないなんて中々じゃないですの、それならもう一発お見舞いしてやるだけですわっ』と先程の威力が自分だけで出せたと勘違いしていたことから、もう一発お見舞いして粉微塵にしてやろうとトドメの全力魔法を繰り出そうと構えたが、その途端突如空が暗転する。
ザナンはポーションで回復すると、次の一発で間違いなく止めを刺せると確信し剣を構えると、先の方でチソエが魔法を発動しようと構えているのを確認した。『よしっ、俺の一撃でもイケるだろうが、チソエの魔法もあれば間違いなく、次でイケる!』そう確信した瞬間だった。
チソエの後ろから巨大な人型が、駆け下りチソエを飛び越えて、グリミスの頭上から巨大な鎚で叩き潰した。
ザナンは自分の獲物を横取りされたことに憤ると、その大型の人型に飛び掛かる。
ザナンの一太刀を難無く振り払うと、大型の人型は周囲を見渡した。
「てめぇ!!人の最後の止めを横取りするたぁ、どういう了見だ!あぁっ!?」
「・・俺はこの国の勇者オウズだ。自分の国の災厄を討つべく、ずっと戦い追いかけていたのだ。横取りというならお前らの方だろう。あの規模の爆発が起こるとしたら、グリミスの戦闘しかないと思い駆け付けたが・・あれはお前じゃないな。・・であれば・・あの魔導士・・か?」
オウズはチソエを見上げるが、どうにもパッとしない印象を受けていた。チソエはと言うと、突然の暗転から標的だったはずのグリミスが叩き潰される様子を見て、放心状態の様子だ。
「この国の勇者だぁ?ここはキガン集落だろうが!しかも勇者だと?・・そうか、てめぇ魔王だな?それなら探す手間が省けたぜ!」
『しかもこいつさっきの話が本当なら、グリミスとずっと戦ってたってことじゃねぇか。確かに満身創痍な感じだな・・こりゃあツイてるぜ!流石、勇者で王子である俺様には運が向いてるってもんだ!』
『・・こいつらがさっきの爆発を起こしたとは思えん・・?ただの被害者のような風景に見えていたが、あの人間もこいつらのパーティーか?倒れた仲間を抱きしめているが・・こいつは・・!こいつは魔力が無いんじゃない!?こいつだ!さっきの爆破の原因はこいつに違いない!』
本能が警告を発し、オウズはザナンのことなど、まるでいなかったように意識から外すと、全力を持って突進した
「!てめぇ!!勇者を無視して、そんな使えねぇ野郎に飛びつくたぁ、いい度胸してんじゃねーか!!」
ザナンもオウズを追いかける形で飛び出す。
オウズはグリミスに放った全力と同じかそれ以上の力を込めて、叩きつける
その後ろからザナンもオウズ目掛けて切りかかったが、オウズの裏拳で吹き飛ぶ
「ぶぇっ!!」
満身創痍のオウズの一撃だったが、そのオウズの一撃でザナンはほぼ瀕死になった。
ルージュの補助魔法が切れていたのだ。
オウズの一番の標的だったルージュは叩きつけた地面にはいなかった。
ルージュはいつの間に移動したのか、崖上のチソエの横でゼゼホを静かに横たえさせていた。
『・・あいつは他の二人と雰囲気が違う・・仲間じゃなかったのか?』
「・・そこの御仁、あなたはここの二人と同じパーティーの者ではないのか?もしそうであれば、突然の襲撃、失礼した!敵であれば、恐らく貴殿こそ一番に恐れなければならないと直感が訴えた故である!」
・・やはり、彼がオウズ。つまり俺たちの敵で今回の魔王討伐の対象か。どうして、悪い方にばかり予感は当たるんだ・・こいつの方がよっぽど人間らしいじゃないか・・
「いや、あなたの言う通り、私はあなたの敵だ。しかし、そこの奴らと仲間かと問われれば、僕の方では疑問でね・・こいつは仲間を死んでも構わないと味方を巻き添えに、自分の都合のいいようになるように、攻撃をした・・」
「・・・困ったな。お互い敵同士ならやるしかないが、貴殿と戦って勝てる姿が浮かばない。」
「る、ルージュ?ゼゼホどうしたのよ?」
「我々の勇者様が、自分の欲望の為にゼゼホの足を吹き飛ばしたのさ。回復魔法ですぐに治そうとしたけど、あいつらしいあの地雷は回復阻害の呪い付与までされていたんだ。どこまでもあいつにとって都合のいい展開になるように創られた勇者魔法だ。まさか勇者の剣が、持ち手の願いの実現を補助する魔法を創作するものとはね・・」
「・・え?つまり、ゼゼホはどうなったのよ?」
「失血死だよ。太ももには大きな血管があるんだ。ここをこんなにふっとばされたならどうにもならない。回復魔法が効けば助けられたけど、俺は神聖魔法はまだそこまで出来ないから、呪いを解くことができなかったんだ。こいつの魔法はザナンの心情を強く受けた魔法だから、ゼゼホを良く思ってなかったことで、ゼゼホへの呪いも簡単じゃなかったんだ。」
「・・え?死んだ?勇者の魔法なのに呪い??」
チソエは理解が追い付かないようで、茫然としている
さて、今のチソエなら後で、オウズの覇気にやられたとでも言えば、辻褄を合わせられるだろう。
ここからの話はチソエに聞いてもらうわけにはいかない
「待たせたね、オウズ。」
「・・やはり戦わなくてはいかんか・・」
「逃げても良かったんだよ?」
「お前から逃げられるとは思えん」
「・・・どうして、敵側があんたみたいなまともな奴なんだろうなぁ・・俺にも事情があるから、アンタには恨みはないけど、ここで死んでもらわなきゃならない」
「そうだろうな。だが私も、お前に勝てないのはわかっていても、我が国の勇者として、全力で挑ませてもらう!!」
オウズは清々しい顔になると、宣言通り、全力の突進を行うと、そこから激しい戦闘が始まった。
気が付くと、辺りには自分が意識を失う前にあった激しい戦闘跡のみが残っていた。
「俺は・・そうだ!あの魔王の野郎!」
意気込んでみたものの体中が痛んでまるで動けない。
嵐が過ぎ去ったかのように、森は時々聴こえてくる鳥の鳴き声と、心地よい風が木々を揺らす音くらいしかなかった。
が、意識が戻って少し時間が経つと、それまで体が忘れていた痛みが徐々に激しくなってきて、周囲の心地よい音など気にしていられなくなってきた
「・・・くそっ!ゼゼホ!!・・ちくしょう、こんな時くらいしか役に立たねぇ癖に、肝心な時に仕事しないで何やってやがんだ・・!にしても、あの魔王の野郎、何て怪力してやがんだ・・一体何本の骨が折れたんだ・・」
「ル、ルージュ・・あの・・その、ゼゼホの事はきっと仕方なかったのよ・・」
自分の後ろからチソエの声が聞こえてくる。俺の事を放って何話してんだ!
重傷を負っている上に、パーティーの要である自分が放置されていることに苛立ちを募らせたザナンは声の方向に首だけでも動かして聞こえるように怒鳴る。
「おい!チソエ!ルージュもそこに居んなら、さっさと俺を回復しろっ!さっきの魔王を逃すわけにゃ、いかねぇんだ!」
「・・あー、目が覚めたのか。」
普段からムカつくルージュの声だが、何故だか今の声は・・まるで冷水でも浴びせられたかのように、背筋に冷たいものが走るのを錯覚した。
『な・・なんだ?』
頭に激痛が走る。髪をガッシリ掴まれるとそのまま持ち上げられる。
「ギャアアアアア!!」
ザナンは涙が零れるのを止められなかった、全身にそれ以上の痛みがあるはずなのだが、そちらの痛みの方が今は痛くてたまらなかった。
ルージュはザナンの悲鳴を無視して、引きずっていく。
視界の先に憔悴した様子のチソエが立ちつくし、その横には木に背中を預けているゼゼホが眠っている。
体力が元々尽きかけていたザナンは最初こそ絶叫だったがすぐに声はかすれて、吐く息だけで悲鳴をあげていた。
そのザナンの頭をゼゼホが視界に入るように、持ち上げる。
そして、意識を失わないように、ちゃんと回答ができるように、ザナンを少しだけ回復する。
「一体何がどうなってやがんだ・・」
ルージュが口を開こうとすると、珍しいことにチソエが口を開いた
「ザナン・・あなた、ゼゼホに勇者魔法を使ったって本当なの・・?」
「はぁ??何言って・・」
言いかけて、ザナンは意識が途切れる前のことを思い出す。
「別にあいつを攻撃したわけじゃねー、あの無能がまた足引っ張る為だけにこっちに来てたから、俺があいつを役立たせてやったんだ。あいつの役割通りちゃんと俺の囮になるように使ってやったんだ!これまでの打ち合わせ通りだろうが!」
「お前のあんな魔法のことは誰も知らなかったんだぞ!それを打ち合わせ通りだと?お前の糞な魔法のせいでゼゼホはこんなことになったんだぞ!!よく見ろっ!!この姿を見てもそんなことが言えるのか!?」
グイッっと頭をゼゼホの負傷部分が視界に入るように、ザナンの頭を突き付ける
「お、お前が普段通り回復すりゃあいいじゃねぇか!!」
「お前が回復阻害の呪いも、あの糞魔法に組み込んだせいで、回復できなかったんだよ!!!」
「・・は?し、知らねえよ!!俺だってあの瞬間にあの魔法が使えるようになったんだ!俺のせいじゃねえだろうが!そ、そんなことより、さっきの魔王はどこ行ったんだ!あれは満身創痍だったから、今ならあいつを仕留められるんだ!こんなとこで道草食ってる暇ねーことくらい、わかんだろうが!!」
俺が怒鳴ろうとした瞬間、チソエがザナンを平手打ちした。
パン
別にダメージを伴うようなものじゃない・・が、ザナンもそれ以上話すことは出来ず、ルージュも不思議と口から出そうになっていた怒りが一瞬止まった
「ザナン、魔王の事が気に掛かって、この事をちゃんと話せないって事なら、安心して頂戴。魔王オウズは私達が寝てる間にルージュが退治したわ。今のルージュ見てればわかるでしょう。死体が残らないくらいに焼き尽くしてしまったらしいわ。あと流石にパーティーメンバーの死因があなたの魔法で、それがあなたが意図したのが原因なら、流石に笑えないわ。私はルージュと違ってゼゼホにそこまで思い入れがあるわけじゃないし、各々の仕事をこなせばいいって点では、あなたと同じ考えだけど、流石にあなたの攻撃を当てる為に、攻撃されるなんて、予め知らされてでもいないと対処できないわよ。しかも、それをあなたが覚えたての加減もできない魔法なんて当てられたら、ゼゼホじゃなくたって対処できないわ」
「・・お、俺が、俺の・・勇者の一撃が無けりゃ、グリミスなんて倒せっこねぇだろうが!」
「・・グリミスを叩き潰した魔王をルージュが焼き尽くしたけど?」
『な、なんでだ?何でチソエが俺を糾弾するんだ?こいつは俺の仲間だろ・・!もしやルージュの奴、チソエに・・!』
「ルージュ!!てめぇ!チソエに何かしやがったのか!?」
「「???」」
「・・え?ザナン・・あなた、もしかして、私がルージュに洗脳でもされたと思ってるの?」
「そうに決まってる!お前は俺の仲間だろうが!」
「・・わ、笑えないわ・・私は正常よ。確かにルージュの力は正直未知数だから、出来ても不思議じゃないけど、私にこんなことさせるより、あなたを消した方が早いじゃない。」
「そ、それは・・じゃあ、正常なら何で・・?」
流石に呆れて言葉がでてこないチソエを横に、このやり取りが心底無駄な時間に思えたので、この話は取り敢えず打ち切り、ゼゼホの遺体を俺の空間に丁寧に入れた。
二人は驚いて目を見開いている
「え!?え!?ど、どういうこと!?」
「どうって、ゼゼホの遺体を綺麗に持ち帰るのに、俺の空間に保管しただけだ」
「そ、そんなこと出来たの!?」
「もういいだろう。ザナンのことは俺の想定以上に間抜けだったって、今のやり取りをみてようくわかったから、お前とはもう金輪際話さない。王城に戻って魔王討伐完了の報告をして、契約は終了だ・・ほら、歩ける程度には回復してやったからさっさと歩け」
「・・けっ。こっちこそ、お前のことはようく覚えておくからな。」
「・・勝手にしろ。俺は先に戻って報告だけして、ゼゼホを丁重に埋葬する。」
「・・なっ!俺たちだけで戻れってのか!?」
「道中の魔物くらいどうにかできるだろう?安心しろ。戻ってきたらわかるようにちゃんとお前たちの気配は魔力探知で逐一把握してやる。じゃあな」
「くそがぁーーー!!!」
俺はゼゼホの身内の話は全く知らなかったので、大事に思ってくれていたトンビルさんにまず報告に行った。
思った通り、トンビルさんの憤りと悲嘆は凄まじく、三日三晩泣き続け、怒り狂った。
やっと少し落ち着いてきたので、声を掛ける
「トンビルさん、ゼゼホのご家族とか俺は知らないんだけど・・」
「ゼゼホに家族はおらんと本人が、初めの頃に話しておったよ。ギルドじゃからな。そんなのも珍しくなかったし、細々聞くようなことでもないからな」
「・・じゃあ、どこに埋葬してあげたらいい?」
「・・こんなこと言うのもなんじゃが、お前さんのその空間で保管してもらえんか?それなら、ゼゼホが綺麗なままでいられるんじゃろ?」
「それは・・そうだけど・・死者はちゃんと埋葬してあげたほうがいいんじゃ・・」
「そりゃそうじゃが、そんなに綺麗に保管できるなら、その方がいいと儂はおもうんじゃがな・・それにこんなこと言ったらあれじゃが、お前さんならその内ゼゼホを生き返らせることもできそうじゃないか」
「・・・・」
たしかに将来的には出来るかもしれない・・けど、死者の蘇生なんて出来てもするべきなんだろうか・・
トンビルさんに報告した後、王都のギルドで経緯を説明、報告した
「・・・そうか。・・ザナンが言っていた王家の血筋というのは本当だ。だから、王にとってはザナンが生きていようがいまいが、ザナンがグリミスと魔王を討伐したという事実が重要だ。そして、王家にとって不都合になる話はもみ消される。私は別にお前と敵対したいわけじゃない。正直な話、私に契約魔法を行使してきた時点で、お前とは友好的にすべきだったと後悔していたくらいだ」
フンゴは言い訳を必死に述べているが、どういうわけか、こいつの一言一言が癇に障って仕方ない。
「あんたの一挙手一投足は、俺と仲違いをしたいようにしか感じられないけどね」
「・・ゼゼホくんの名誉の戦死は、勿論悔やんでも悔やみきれないが・・」
「名誉の戦死だと!?ゼゼホは仲間と思っていた奴に攻撃されて死んだんだぞ!これのどこが・・!!」
その後、王都に戻ってきたザナン達と王宮にて報告した際には、ザナンが主な戦功を挙げたものとして表彰された。
そしてチソエは口裏合わせに大金を掴まされ、口外すれば暗殺されると脅しを掛けられた。
ルージュに至っては、ザナン達が戻るまで方々に事実を伝えて回ったが、グリミスと魔王の覇気に錯乱し、虚偽の報告をしたとされ、ルージュの報告内容は全てもみ消され、療養施設の無償解放だけを報酬とされた。
ゼゼホの戦死は、ザナンの窮地を救うための尊き犠牲として美談にされた。
「以上が、討伐組の今回の冒険譚であります!」
事前に捏造されたザナンの冒険譚を衛兵が読み上げる。
報告を聞き終えた王がニヤっと小さく嗤う。ザナンとよく似た顔だ。
「素晴らしい!勇者でありながら、報告によればザナン、お主は儂との血縁があった息子だったというではないか!お前が出発してから、知ったものの、我が子でありながら、このような国の大事を無事にこなしたこと王として!そして父として!嬉しく思う!!仲間の戦死や錯乱してしまったものもいるようだが、そのような苛烈な戦いをよくぞ制した!お前達勇者一行がこの地を出発した日から、我がキンナル王国はこれまでにない豊穣の祝福を得たと評される程に栄華を極めておる。お主達が神の祝福を受けた勇者と言う何よりの証であろう!今後とも我が国の為に、尽力してれることを願うぞ!」
王宮が熱気を帯びる中、チソエはずっと生きた心地がせず、ルージュの方を気にしている
・・・これが・・これが、俺たちが必死に頑張ってきた結果なのか・・こんな結末の為に、ゼゼホは死んだのか・・この国に掛けた祝福も呪いに変えるか・・ルージュは王宮を出る際に、全ての祝福を解除し、呪いに変えた。
「その瞬間王国は神の加護を失った」と現場にいたルージュの対象とならなかった(式典の警護など全く今回の件に関わりのなかった者達)者達が、後にルージュの名声が高まるにつれ、語っていくことになる。
アーメックさんを少し見回し探してみたが、どうもアーメックさんはここにはいないらしい。彼との関係を知られると、レミィの件で何かあった時にマズいので、大っぴらに探せなかったのは残念だったが、彼が今回の件で関わってないのだけは良かった。
天之川 焚慈だった頃のトラウマが浮かぶ。
結果を出しても評価されないどころか、事実を捻じ曲げられ、最初の約束さえ反故にされる。
あの時と同じだ・・心は深く沈む・・。
自分の心情とは裏腹に、空は夕陽が朱く、どこまでも綺麗で、ゼゼホのニマっと笑った笑顔を彷彿とさせる。
「おい!病人はこっちだ!・・なんだ?こいつ泣いてやがる。勇者様の仲間とは思えねぇやつだな・・ったく。」
ザナンに似たガラの悪い兵士が、俺を療養施設に連れて行こうと寄ってくる。
ゼゼホ、君との冒険、俺も楽しみにしてたんだけどなぁ・・
物語はまだまだ続きますが、最初の冒険はここまでとなります
次章から新たな旅となります




