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旅立ち(2)

              ⅲ―1


 サラとレミィには手早く挨拶を済ませ、翌日には出発することにした。

あの様子だと、俺と関わりのある所に、何かされても嫌だし、長居しない方がいいだろう。

もう少しのんびりしたかったんだけど・・まぁ、一応気の許せる人も何人か出来たのを収穫と考えよう。

世界はまだまだ広いんだし、めげてる時間はないな。


 翌日、トンビルさんに挨拶に出向くと、サラとレミィも見送りに来てくれていた

「まぁわかっちゃいたが、昨日の今日で出発とは忙しないのぉ」

「しょうがないよ。皆に俺のせいで迷惑掛かったら嫌だしね」

「はぁ・・こういう形で足手まといになるのは、ちょっと想定外だったねー。今回の貸しはちゃんと覚えておくよ!冷蔵庫とか便利グッズの販売とかが軌道に乗ったら、少し色付けてあげるから、期待してて!」

レミィはニマッ!と笑顔で俺の肩を叩いた・・ドワーフとの特性もあるせいか力も見かけ以上に強く、意外と痛い・・サラは涙を滲ませながら

「私、強くなるよ!守られなくても良い位には。」

「みんなありがとう。レミィのは、期待しておくよ!サラはさ、折角神聖力が強いんだから、冒険者みたいな強さ目指すよりは、今のべリス草みたいな他にはないものを作って、国に寧ろ自分を守らせるような方針で考えてみたらどうかな?まぁ、そうなったらなったで、そういうのを疎ましく思う連中もいるだろうから、結局サラ自身もそこそこ自衛能力は必要かもしれないけど・・」

「そっか・・そういうのも確かにアリだね!色々考えてみる!」

「・・で、まずはどこに向かうんじゃ?」

「東の町を通って、一旦国を出ようかなって思ってるよ。この地域のギルドはやっぱり王都を中心に成り立ってると思うけど、国を出ちゃえば、ギルドの管轄も変わるだろうから、しがらみが一旦リセットされるだろうと思うからさ」

「東ってぇと、プンス町か・・お前さん、本当によくギルドの事知ってるのぉ・・そういうのは、国を跨いで活動してきた冒険者が持つ視点のはずなんじゃが・・」

「故郷に世界の物語が大好きだった友達が居てね。ギルドの成り立ちについても、色々物語を通して教えてくれたんだ。あと父さんも昔は冒険者だったらしくて、色々村を出る前に話してくれたしね」

「そうは言っても、まぁ、普通はすんなりそんな当たり前のように、考えられんもんじゃが・・まぁ、間違っとらんから、安心して、行ってこい。プンス町のギルド長はナペール・カルギスじゃ。あいつは頭の固いやつだが、ルール通りに行動する奴じゃ。融通は利かないが、悪巧みをするタイプでもない。うちのリャンとはタイプが違うから、うまくやるんじゃな。また一段落付いたら、顔だせや」

「ありがとう。うん、じゃあ、みんなまたね!」



 プンス町にはのんびり歩いて2日位とのことだったが、出来るだけ早く国を出た方がいいだろうと考え、身体強化をして全速力で駆け抜けてしまおうとしていた矢先、目の前で騎士と思しき、やたら美形な男が、小鬼6匹に囲まれていた。更にその周りには騎士の部下達なのか兵士が乱戦状況になっている。

兵士達は目の前の小鬼との応戦で手一杯で殆どは、上司である騎士の窮地に気が付けていない。数名気が付いてそちらを気にしている様子の兵士もいるが、やはり、目の前の小鬼で手一杯な様子だった。

『・・確かに周囲に他の人の気配もないことを考えると、この位の出来事は普通なんだろうか・・でも、仮にこれが普通なら、この程度のことには対処できるのが普通なはず。ってことは、何かのイレギュラーってことなのか・・?関わらない方がいいかなぁ・・』

ボンヤリ関わったら、面倒毎に巻き込まれそうに感じたので、トンビルさんやサラ、レミィ達に迷惑を掛けない為にも当初の予定通り、最短でキンナル王国を出ようと、頭を切り替えようとした矢先

「君!!ここは危険だ!!逃げるんだ!!!」

・・騎士風のイケメンがこちらに気付いてしまった上に、なんと彼は本気でこちらの心配をしている。

どうやら、危機に陥っている自分を助けに駆け付けているように見えているらしい。

プンス町はその先にあるのだから、そちらに向かうのは当然だ。

ただ、わざわざその戦場ど真ん中を突っ切るつもりはサラサラなく、大きく迂回しようと考えていたのだが、迂回をしようとした途端に見つかってしまった。一般人程度には人影など確認できない距離だったはずなのにだ。

 ・・参ったなぁ・・面識なんか作らないで、知らんぷりしようと思ってたのに、見た目だけじゃなくて、中身までイケメンなお人好しかよ・・うーん・・見捨てて行ってもいいけど、寝覚め悪いなぁ・・しょうがない、さっさと片付けるか

 気持ちを刹那で切り替えると、小鬼達に頭の中でロックオンをする。

素材のことは・・まぁ今回はいいか。とりあえず殲滅っと。

「フレア」

呟いた途端、ロックオンしていた小鬼達が一斉に、鉄が溶けるように赤く白く高温で輝いた瞬間、ボンッと弾ける。弾けた肉片も残らず気化している。まるで目の前に何もなかったように。

その場に残っている者達の疲労と怪我だけが、そこで戦っていた名残だった


 よしっ、俺が何かしたようには見えなかった筈だし、さっさと駆け抜けよう




騎士アーメックは、キンナル王国の精鋭騎士の一人であり、家系的に、国の筆頭貴族の次男だ。

兄は宰相である父を支える補佐官をしている。自分は、政にも知識はあったが、次男ということもあって、兄弟仲の良い兄と父の後継を巡って争うようになるのも嫌だったので、騎士として志願した。アーメックは武の心得もあった上に、家の力もあって、アッという間に精鋭騎士となっていた。

ただ、アーメック自身は家の力を痛感していた。勿論確かに恵まれた体躯に、実際の戦闘での実績など、引き立てられるものは沢山あるのだが、家の力がなければ、こんなに早い昇進はしないだろうことも身に染みて感じていた。そういった背景もあり、アーメックは決して驕らず、自分のように正しく評価されない者も多くいるのを知っているがゆえに、自身の目の届く範囲では常に、正しくあれるように努力していた。

今回の行軍は普段の公務の中では、一際楽な内容だった。

本来、アーメックの地位にあるものがするような内容ではなかったが、一応理由があった。

というのも、べリス草の効力が極めて高いことから、王宮としても、ギルドを通してではなく、生産者と直接取引した方が良いという方針になったのだが、当然それをギルドに直接聞くわけにもいかない上に、王国側の誠意を示す上でも、適当な役職の物を派遣するわけにもいかなかった。

そういう経緯から、アーメックが命令を受け、べリス草の生産者を探していたのだ。一応情報からコロ町かプンス町に生産者はいるとあった為、コロ町から始めたのだが、見目麗しすぎるアーメックが注目を浴びてしまい、町の噂として「すさまじいイケメンが部下を複数連れてきている。どこかのお貴族様に違いない」などと想定外の自体になってしまった。このままではコロ町のギルド長であるリャンに見つかってしまうと、一旦出直す為に、プンス町からやり直す為に移動中だった。勿論、自身の容姿が理由で、コロ町ではまずい事態になってしまったので、それについても道中で対策を考えなければと思いながら、移動している最中に、突然小鬼の大群が現れた。

一瞬、誰かの差し金かとも考えたが、思い当たることしかなかった。家系の関係から、政敵は幾らでもいるし、初めてではなかった。こんな大規模なのは初めてだが、状況としては襲撃のし易さなどを考慮すれば条件が揃い過ぎている。

誰の差し金かは残念ながら見当もつかないが、取り敢えず対処しなければいけない。

・・が、今回の兵士の構成が、非常にまずかった。というのも、普段の訓練で芳しくない成績の兵士ばかりだったのだ。そして、今回の行軍の目的がべリス草の生産者への訪問で、更にその生産者が若い女性らしいという情報から、面子のいい人間を揃えていけば、交渉の役に多少はなるだろうと強引に面構えのいい者を中心に編成されていた。アーメックもこういう襲撃を考えてなかったわけではない。

 だが、可能性があると言っても、編成理由が、全く根も葉もないわけでもなかったので、断るわけにもいかない。ましてや、わが身可愛さに編成にケチを付けようものなら、父や兄に迷惑をかけてしまう可能性もある。そういう経緯で、この行軍に来てしまった為に、少し数が多いと言え、この程度の襲撃で隊は分裂し、個々に対応しなくてはいけなくなっている。信頼のおける幾人かも連れてきてはいるが、この小鬼達が優れているのか、分断されてしまった。

 自分自身もとうとう小鬼達に囲まれてしまった。本来この程度の小鬼など、戦場でこれまでも倒してきた筈なのだが、見た目は小鬼なのに、固さや力がまるで違う。明らかにおかしい異常種だった。

自身の信頼する部下達のように、ちゃんと戦力のある所には、自分と同じようにこの強化種を充てているようだ。まさかこんな暢気な行軍で死闘を演じることになるとは・・つくづく自分が甘かったことを痛感する・・ㇷと、視界に猛スピードでこちらを見ながら突っ込んでくる人影を視認する

『冒険者か・・!確かに小鬼であれば、彼らからしても、手助けできると思ってしまうだろうが、こいつらは見た目からはわからない異常種だ。巻き込ませるわけにはいかない!こいつらの狙いは私なのだから、彼を逃がすように声を掛けても、彼の方には向かうまい』

瞬時にそこまで、思考すると、アーメックは迷わず叫んだ

「君!!ここは危険だ!!逃げるんだ!!!」



 彼が何かしたのか、突然目の前にいた小鬼達は爆ぜて消えた。

しかも私の周囲だけでなく、他の兵士達と対峙していた小鬼達も全て消えていた

「アーメック様・・今のはアーメック様の魔法か何かで・・?」

信頼する部下達もアーメックにそんな能力があったことは知らないので、恐る恐る確認をしてきている

「いや、今までずっと苦楽を共にしてきたお前達なら知っているだろう。俺にあんな力はない。あったら、こんな苦戦を演じる必要なんてないだろう?」

「・・そうですか・・いや、アーメック様ならそういう隠し技の1つや2つあっても不思議じゃないかなぁって・・でも、アーメック様でなけりゃ、あれは何だったんですかね?」

「お前達が気付いていたかはわからんが、さっきの戦闘中に猛スピードでこちらに突進してきていた人影があった。恐らく冒険者で苦戦しているこちらを手助けしてくれようとしていたのだと思ったが、私やお前達を囲んでいたのは異常種だっただろ?だから、狙いが私なら、戦場に入らなければ巻き込ませることもないだろうと思って、叫んだんだが・・その瞬間あの爆発だ。彼が何かしたような動作は確認出来なかったが、彼が何かしてくれたとしか考えられん」

「それは・・いやアーメック様が言われるならそうなんでしょうね・・他の奴が同じこと言うなら笑い飛ばしますが・・にしても、どうします?」

「まずは予定通りプンス町に向かう。先程の冒険者に会えるかもしれんし、元々プンス町でも用事があるからな。べリス草の生産者の捜索については・・戦闘後とは言え、どうしても目立つな・・はぁ・・取り敢えずプンス町には巡回警備の任務中に小鬼達の襲撃を受けたという体で行く。それなら嘘ではないし、実際に死闘を演じるだけの消耗があるのだから、変に警戒されることもないだろう」

『・・嘘がつけない、馬鹿正直な私の性分からすれば、腹芸をする必要が無くなった今の隊の状況は、案外幸運なのかもな・・』














              ⅲ―2


 やれやれ、小鬼を爆散させた時、あのイケメン騎士の表情が驚きに変わって、こちらから視線が外れたから、その後は俺を視認はしてない筈だけど・・ただ、あの極限の状態で、常人には視認できない距離でこちらを察知した人だ。こちらの衣服とかもパッと見でも覚えているかもしれない。顔は隠してたから良いとして、服だけは着替えておくか


 さっきまでは冒険者として、動きやすい軽装にしてたけど、町民に紛れる為に、普段着に着替えた。コロ町を当初はこんなに早く出る予定は無かったので、自由気ままに過ごそうと考えていたことから、普段着を購入していたのが功を奏した。

 さて、このままこの町を出れば、キンナル王国を出られる。

さっきのイケメン騎士の件もあるし、長居は無用だな。城門という程ではないが、町の出入り口が関所を兼ねている為、兵士が門番をしている。とは言え、今は隣国のカバッツ王国と戦時中というわけではないので、兵士達も暇そうに談笑している

「・・うん?あー、そこのお前。こっちに向かってくるってことは、ここを通るってことだな。商人なら・・じゃないな。そんな軽装で荷物もないなら・・じゃあ目的はなんだ?」

「カバッツ王国の機兵ってのを見学しに行くんです。あれって、移動とかにも便利だそうじゃないですか!実際に見て、自分で作れたら面白そうだなって。」

ここは正直に本心を打ち明けた。レーゼからカバッツ王国の機兵については聞いていたので、いつか訪れる時には絶対に見に行こうと決めていた。今回向かうのが随分予定が早まったが、どの道訪問するつもりだったのだ。この機会に見学させてもらおうと思っていた

「・・まぁ、お前のそのキラッキラした顔見りゃあ、嘘じゃないんだろうってのはわかるが・・その割にはお前なんも知らねーんだな。」

「・・へ?」

「確かに、カバッツ王国の機兵の見学とか、訪問ってのは無い訳じゃねーよ。だけどな、そういう訪問はギルドを通して、国からの許可証を持ってここを通るんだ」

「えー・・国の許可証はわかるけど、ギルド通すんですか?」

「そうだよ、確かにギルドはどこかの国に属しているわけじゃない。が、世界中にギルド支部はあるからな。ギルドを通すことで、お国同士のやり取りもスムーズになるってわけだ。」

・・・いや、そんな国政に関わる大事な所をギルドに世界の国が一任してるってのか?その癖、ギルド所属の冒険者を戦争への徴兵はさせないとか、随分ギルドは優遇されてるんだな・・にしても、参ったなぁ・・こうなったら、こっそり抜けちゃうか?

「その様子だと、許可証はないんだろ?だったら、まずはギルドに行った行った。許可証持ってきたらちゃんと通してやるからよ」

兵士は雑な対応ではあるものの、懇切丁寧に教えてくれた。

兵士の対応に、好感を持ちつつ、どうしたものか考えながら歩いていると、何やら視線を感じる。

悪意のある物じゃないが、こちらを明確に力強い眼差しを向けて歩み寄ってくる人間がいた。

遠目に見ていても、何かキラキラとエフェクトが掛かっているような、本人自体は寡黙なタイプだが美形過ぎてキラキラを幻視する

「君!!やはり、プンス町に来ていたか!」







              ⅲ―3


 遡ること30分前。

アーメックは迅速に、怪我した兵士を、隊員達と手分けしながら、プンス町に運んでいた。

そして、指示系統は予め信頼していた隊員に任せて、自身は先程の冒険者を探すことを最優先とした。

とはいうものの、ギルドに一言経緯を伝えておかなければ、部隊の手当てなどに遅れがでるのはわかっていた為、ギルド長に先に挨拶に向かった


         カランカラン


ギルドの扉を開けると、冒険者よりも市民が多く、色々手続きをしていた


アーメックは迷わず受付に向かうと、突然足を出してきた髭だらけで長髪の荒んだ顔立ちの男がニヤニヤこちらを見ている

「綺麗な兄ちゃん、悪いけどよぉ、俺が先に用があったんだわ。横入りはいけねぇよなぁ・・」

「悪いが、火急の要件の為、優先させてもらう。君、悪いがカルキスギルド長を呼んでもらえないかな?」

「てめぇ!俺を無視すんじゃねぇ!!」

「・・君は・・君はザッギョスか・・やれやれ、こちらは火急の要件だというのに、君を見過ごすのは職務怠慢になってしまうし・・」

「あーん?俺の事を知ってて、まだそんな態度取ってていいのかぁ?」

「勿論、いかんな。こんな踏ん切りのつかない様子を見せていては、皆さんを不安にさせてしまうね」

どうにも話が噛み合ってない様子にザッギョスはキレようとした・・が、その後の彼の言葉と彼が取り出した記章を見た途端、ザッギョスの顔は一瞬にして蒼白となり、半ば条件反射のように、入口に向かって走り出した・・筈だった

「私はキンナル王国精鋭騎士団・第三隊・隊長アール・クナーシャ・アーメックである!ギルドの手配書の賞金首ではあるが、キンナル王国国内の犯罪者を裁く権限が私にはある!他に緊急の要件があるので、君には略式で無力化させてもらう」

アーメックが口上を述べてる間に、察したザッギョスは動き出していたが、口上を述べ終わった直後、ザッギョスは突然その場に白目を向いて前のめりに倒れた。勢いよく倒れた為、顔面が床に擦れ、その場には血が滲んでいる。


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 部下に通信魔法で指示を出し、慣れた手つきで適当なロープで縛っておく

「悪いが、散々伝えていた通り、火急の要件がある為、怪我をしているのは承知だが、放置させて頂く。さて、君、カルキスギルド長には通してもらえるかな?」



慌てた様子の足音がこちらに向かってやってきた。想像通り、ドアを消魂しく叩いてきた。

内容はわかっている。当然だ、あれだけ大きな声で口上を読み上げていたのだから、十分聞こえている。

全く、お貴族様は偉いことだ。俺に降りてこいというのか・・全く・・

「ギルド長!・・あ、し、失礼します。精鋭騎士団のアーメック隊長殿が火急の要件とのことで、来訪されました。それと、今朝ギルド長に報告しておりました、ザッギョスについてですが、アーメック隊長殿の来訪に居合わせたことから、その場で逮捕されました。」

受付嬢は扉を開けた瞬間にカルキスギルド長の顔を見て、我に返った。カルキスギルド長は騒々しいのが嫌いで、何事も規律を第一に考える人物だった。

最近までギルド間の会議でカルキスはギルドを空けていた。そして、戻ってくると、職員たちから、ザプールと名乗る荒くれ者の冒険者が入り浸るようになっていて、対処に困っているという議題があった。それが先程のザッギョスだった。規律を重んじるカルキスが黙認などするはずもなく、特徴を聞いて手配書を見たら、すぐにわかったが、職員がそれに気が付かないことに、内心そちらの方が怒りを覚えていた。ザッギョスは確かにこの周辺の者ではなく、神聖国の罪人だが、ギルド職員であれば、把握しておくのは当然なのだ。

 内心、ギルド職員達の評価を減点しながら、対策はすぐにしていた。プンス町の冒険者は腕の立つ人物がいなかったのと、速やかに処理をしたかったので、自身と伝手のある冒険者に今朝方依頼を出したばかりだった

それが、今、唐突に解決した。

 だが、解決はしたが、精鋭騎士団の隊長が何の連絡もなく突然火急の要件と言ってやってきたのだ、面倒毎に決まっている

 カルキスは深く溜息をつきながら、一言吐き出した

「通せ」









              ⅲ―4


カルキスギルド長と話を付け、ザッギョスの処理も部下に任せると、アーメックは直ぐに先程の冒険者を探していた。あの小鬼達を退治したという動作などは一切確認できなかったが、アーメックは彼が恩人だと信じて疑っていなかった。

まずは助けてもらったものとして、誠意ある感謝を述べなければいけない。彼は見かけだけでなく、中身まで非の打ちどころがない男だった。

そして、自身の立場として、彼のような優秀な人材を発見したにも関わらず、彼との面識を持たないのはあまりにもお粗末だ。何としても、最低でも面識くらいは持っておかなくては、国の中枢にいる者として職務怠慢である。

その一念で目を凝らして探した。というのは、アーメックは数多の戦闘の末、相手の魔力を見分けることができるようになっていた。そして、あの時の彼には魔力が「視えなかった」。どんな人間にもある筈の魔力が綺麗に見えなかったのだ。代わりに言葉ではなく、直感的に察したことがあった。あれは自分には視えない、自分の感知できない上位の何かを纏っていると・・その為、目を凝らせば、見つけるのは容易だとアーメックは確信していた。

少し探して、見当たらないことを考え、あの時自分達の前に姿を現さずに去ったということは、国外に出ようとしているのでは・・!

閃いた瞬間、それは確信に変わり、アーメックは即座に関所に迷いなく進む。

マズイマズイマズイ!今回のべリス草の生産者についての任務よりも、彼の事の方が重大だと、アーメックの直感が警鐘をならしている。

やっと関所らしき場所が見えた途端、アーメックはまるで誰もいない静かな湖畔に一人で黄昏ているような静けさを感じた。

そしてその中心に追い求めていた人物が、顎を触りながら首を傾げて難しい顔をしている人物がいた

「君!!やはり、プンス町に来ていたか!」

少年・・いやもう青年という年頃だろうか。見た目は自分より若いのは間違いないが、内から感じられる者は見た目通りには感じられなかった

念願の人物を自身の目で改めて見て、それまでの直感は確信に変わる。彼との出会いはかけがえのないものであると

「良かった!まだこの町を出ていなくて!・・あ、申し遅れてしまった。私はキンナル王国精鋭騎士団・第三隊・隊長を任されているアーメックと言う者だ。先程は助けて頂いて、心から感謝する。あの場から、すぐに去ってしまったことを考えれば、追わない方があなたには良かったのかもしれないが、助けて頂いておきながら礼も言えないのでは、面目ないのでね。失礼を承知で、追いかけてきた。良ければ貴殿の名を伺っても良いだろうか」

あっちゃぁ・・服着替えたんだけどなぁ・・何でわかったんだろ・・しかも結構国の中枢の人みたいだし・・関わりたくなかったなぁ

「私はルージュと申します。まさか見つかってしまうとは・・あの時は私の顔までは視認出来てなかったと思いますが、着替えまで済ましていたのにどうして気付かれたのですか?」

「戦場で戦ううちに、いつの間にか、人によって魔力が違っていることに気が付くようになって、見分けられるようになったんだ。ルージュくんは全く魔力が視えなかったんだが、これまでそんな人間はいなかったから逆にそれが目印になったんだ(私には視えない上位の何かを纏っているのも確信をもつ理由だが)」

「そうなんですかぁー、これは発見ですね。自分じゃ気付けませんでした」

「それで・・察するに、カバッツ王国に行きたかったのかい?」

「えぇ・・そうなんですが・・」

「であれば、私が手続きをしてあげよう!我が隊の恩人に少しでも恩返しさせてくれ!」

「あ、いやぁ・・」

うーん・・精鋭騎士団の隊長とか言ってたし、すぐに手配してもらえるのかな?それなら、ありがたいけど・・

「すぐ通れるんでしょうか?」

「あぁ、私が責任を持って直接動くことを約束する!それで、なんでカバッツ王国に?」

「機兵を見学したいんです。友達に物語が好きな人がいて、カバッツ王国の機兵について教えてくれたので、見てみたいとずっと思ってたんですよ」

「なるほど。あんなに急いでいたのも一刻も早く見学したいからなのかい?」

「・・結構、正面から来るんですね」

「いやぁ、君ほどの逸材を放っておくなんて職務怠慢だからね!」

「取り敢えず、今回はそこは目を瞑っておいてほしいです」

「ハハッ、君も正面からくるじゃないか!」

「私自身、腹芸が得意じゃないですし、アーメックさんも本音の方が付き合いやすい方のように感じたので」

「そうか、ルージュくんの言う通り、腹芸は私も苦手だ。先程君が助けてくれた部隊の駐屯地がそこだ。今から王都に通信魔法で私が許可証を発行するように伝えよう。それを持って一緒にギルドに来てくれ。その場でカルキスギルド長に押印してもらえば、すぐにカバッツ王国に向かえるよ」


部隊はある程度損亡しているものの、部隊の指揮系統はハッキリしており、アーメックさんが居なくてもテキパキ指示を隊員が出している。指示を出しいる隊員は皆、アーメックにすぐに気が付き簡易的な敬礼をしているが、指示を受けて走り回っている隊員達は逆にアーメックに殆どが気が付いていない・・そしてその下っ端隊員達は何故か殆どがやたらイケメンばかり揃っている・・どういう部隊なんだ?

少なくとも下っ端はアーメックとの連帯感はほぼなさそうだ・・ダメだな、すぐ根掘り葉掘り答えを探そうとしてしまう。ここは深入りしちゃ絶対にダメな気がする。

アーメックは奥に入って行って先程話していた許可証の件を通信魔法で手配に向かった。何でも、広範囲に通信魔法をする為に、宝珠を常に持ち運んでいるらしい。

ルートゥ村の頃、レーゼやレナリヤとは通信魔法でよく会話したし、レーゼは元々通信魔法に強い関心と適正が併せ持っていたこともあって、今でも普通に会話する。そんな環境だったから、自分の周りが特殊だったということに、今更気が付いた。


「あ、すみません」

先程指示だしをしていた隊員が、迷った様子で駆け寄ってきた。

「アーメック様とご一緒におられたという事は、あなたが先程我々の窮地を救ってくれた方でしょうか!?」

・・「はい」というのも嫌だなぁ

「・・アーメックさんはそう決めつけられて、連れて来られてしまいました・・」

「であれば、そういうことですね!アーメック様からは既に感謝は伝えられたと思いますが、一隊員として、助けて頂いた事に感謝申し上げます!」

さっきの指示を出していた数名のアーメックさんと連携が取れていそうな隊員は、ブサイクというわけじゃないが、下っ端隊員達のような美形ではなかった。何人か整った顔立ちの部類もいたが、どちらかというと歴戦の戦士のような精悍な面構えが多かった。

何というか、類は友を呼ぶじゃないが、アーメックさんの滲み出るいい人感は、アーメックさんに近い人程伝染してるんだなぁとボンヤリ思っていた・・少し呆気に取られて短い静寂の後、頭を下げていた兵士が勢いよく戻って、こちらを真っ直ぐ見ると

「私は、アーメック隊長率いる今回の隊にて副長を務めております、ミュズリー・ハンスと申します」

「あ、私はルージュと申します」

「にしても、あの時は何をされたんですか!?一瞬で小鬼達が熱した鉄のように赤く、白く輝いたと思ったら肉片一つ残さず消えてしまった・・あんな魔法見たことないですよ!」

「アハハハ・・それにしても、小鬼程度であれば、小隊とは言え、この規模の部隊なら、あそこまで劣勢にはなりづらいんじゃと思いましたが・・」

「仰る通り、あの位の小鬼、普段では問題にならないんですが、今回は事情が違ったんです。任務の特異さもあるからなんですが、普段からアーメック様と行動している兵士が、極少数に抑えられ、部隊の殆どを容姿の整った人間を重視して編成されたんです。アーメック様も容姿が整っておいでなので、容姿が整っていることと兵士としての能力に関連性がないことは承知していますが、どういうわけか、今回編成されたそれらの兵士は一般兵に毛が生えた程度の実力しかなかったんです。あと、アーメック様も指摘されてましたが、小鬼達の中に明らかに強化された個体が居て、それらが、アーメック様と連携が取れる我々を分断するという戦い方をしてきたんです。そんな小鬼が出没するなら、事前に情報があってもおかしくない内容でした。とは言え、本来国の精鋭騎士団である我々があのような失態を見せてしまうだけでなく、窮地を助けて頂くなど、軍人として恥ずべきことでした」

ハンスは唇を噛み締め、悔しそうな表情を浮かべている

・・固っい人だなぁ・・まぁアーメックさんと同じく生粋の馬鹿正直でいい人なんだろうなぁ

「というか、そんなに話しちゃっていいんですか?」

「勿論です!アーメック様でも、今の流れなら話されているでしょうしね!」

「そうですか・・随分とお互いの事を知っている感じなんですね。にしても、事情あるのかなぁとは思ってましたが、容姿の良い人間で部隊を編成しないといけない任務なんて、随分変わった任務ですね」

「えぇ、幼馴染なんです。主従関係があるので、おこがましいですけど・・それで、今王都では神聖力で強化が施されたべリス草というのが大層評判でして、そこの窓口がギルドが一括管理してるんですが、その生産者は我が国の人間だというんです。であれば、ギルドを通す必要などなく、我々が直接交渉しようということになったんですが、追加で入った情報によると、その生産者はうら若き乙女と言うではありませんか。そこで、王都でも老若男女問わず人気の高いアーメック様が交渉役として抜擢され、更に、若い女性であれば、武骨な軍人が集団で来たら怯えさせてしまうかもしれないので、容姿の整った美男子をという流れで今の形になったんです。小隊の規模が小さいのは、その生産者がコロ町かプンス町にいるという情報までは何とか入手できたんですが、ギルド側には面白くない話なので、聞くわけにも、こちらの目的を知られるわけにもいきませんので、目立たないようにこの規模なのです。本来精鋭騎士団の第三隊はこの何十倍の規模感なのですよ・・」

・・主従関係でありながら、幼少期から信頼をし合っているなんて、もっとエピソード聞いてみたいとか、そんなにペラペラ話していいのか、寧ろ話し過ぎでは!?以前に、聞き逃せない言葉があった。「神聖力で強化されたべリス草の生産者」・・サラのことじゃん。国と交渉できる位にってこの間話して別れたばっかりなのに・・これはいい兆候かもしれない。

「ハンス、話し過ぎだ。ルージュさんが聞いてもない事を全部説明するなんて、軍事機密違反だぞ。まぁそれはそれとして、お前がここに来たって事は、指示していたザッギョスの身柄は拘束は終わったんだな?」

「ハッ!ザッギョス自体は既に意識が無かったので、そのまま場所を変えて拘束しております。明朝王都より小部隊の派遣がされるので、それまで拘束しておくようにとのことであります!」

「わかった、下がれ」

ハンスは精悍な面持ちに戻り、敬礼をして下がっていった。

「ルージュくん、お待たせした。国の許可証の手配は済んだ。これがその許可証だ。今からこれを持って一緒にギルドに向かおう。そこでカルキスから押印をもらえば、君はカバッツ王国に向かえる。」

「え!?許可証もうあるんですか?これって常備しておく物なんですか?」

「うん?あー、これは通信魔法によるものだよ。ほらこれだ」

指で指し示した先には、羊皮紙が置いてあり、インクペンが糸で吊るされている。

「これが通信魔法で文書と同じく書き上げるんだ。ギルドや駐屯地には大体あるが、町民や村民には縁遠いものかもしれないね」

へー!FAXみたいなものか!

「お気に召したなら、見てても良いが、ギルドはどうする?」

「あ、行きます、行きます。」

サラのことも良い方向に行きそうで、自分もやっとカバッツ王国に向かえそうで、気が付けば足取りも軽くなっていた





ギルドに着いて話は悪い方に予感が的中していた。思ったよりも、ギルドの動きが早かった

それまでの不機嫌そうな様子から、落ち着いた様子でカルキスはゆっくりと問いかけた

「さあ、どうするね?」

「カルキス議長!」

「アーメック殿、我々は貴国の軍人や大臣ではない。これはギルド内の事案で、一冒険者とギルドとの交渉案件だ。それに、この件については、我々よりも貴殿らキンナル王国にとっても美味しい話の筈だろう?精鋭騎士団の隊長であられるあなたがそんなこともわからないわけがないでしょう。」

「しかし・・しかし!」





時は30分程遡る


「アーメックさんと、ハンスさんは幼馴染なんですね。」

ギルドへの道中、何の気なしに適当な話題として当たり障りないものを選んだつもりだったが、アーメックは足を止め、少し驚いた様子でこちらを振り返った。

「・・ハンスが、あいつ本人がそう言ったのかい?」

「??えぇ、気恥ずかしそうに、さっき話してましたよ?」

「・・そうか、そうか・・今でもそう思ってくれていたんだな・・」

心底驚いた様子のアーメックさんは、涙を滲ませている

「・・アーメックさんにとっては良かったことのように、見受けられますが、そんなに意外なことだったんですか?」

「あぁ、あいつとは主従の関係ではあるんだが、お互い幼いころからの付き合いだから、昔は主従なんて関係なかったんだ。ハンスが我が家に来るキッカケは父の気まぐれだった。父が偶々通りかかった先で、商品の購入をする時に、同行させていた使用人が別件で出かけていたことから、荷物持ちが居なかったんだ。その時に居合わせたのがハンスだったらしい。父は付いてくるか、来ないかの選択をさせたが、その場で決断しなければならなかった。ハンスはすぐに決断して、我が家にやってきた。ハンスは住み込みの使用人だったから、いつも私と行動を共にしていた。時々ハンスが手紙を出していたのは知っていたが、誰に書いているかは言ってこなかった。いつか話してくれると思ってたから、気にはなったが、敢えて聞かなかった。そんなある日、一緒に城下の商店を回った時に、ハンスが初めて頼み事をしてきたんだ。商店街の一番端にある教会に行かせてくれってね。行ったら、女の子が居たんだ。名前はミルって言って、ハンスがうちに来るまで苦楽を共にしてた仲間って言って紹介してくれたんだ。妹とかそういう血縁者かと思ってたけど、ハンスは孤児だったから、親類は知らないらしい。ミルにも僕の家にハンスと同じように来ない誘ってみたけど、自分が言ったらハンスの仕事が無くなっちゃうかもって、ハンスには聞こえないように話して断られたんだ。勿論、そんなこと僕はさせないって一生懸命話したんだけど、妙に大人びたミルは「大人ってそういうものよ」って言ってそれ以上は幾ら言ってもダメだったな。でもそれなら、これからはハンスと沢山来ようって話して結構よく遊んだんだ。丁度その位に新しい使用人として、父が面倒を昔見ていた、その時は既に没落してた貴族の息子がやってきたんだ。気位の高い奴でね、ルルブという奴だったんだが、一応同年代だし、父からもハンスに上手くやるようにと言われていたから、ルルブも入れて過ごしたんだ。

ある時、僕の家系を良く思わない連中の差し金で僕を誘拐しようと襲撃してきた時に、誤ってミルが連れていかれたんだ。その時はもう19だったから、ハンスと野党討伐に出陣させてもらえるように、父に懇願したんだけど、本命の僕が出ていって捕まったら本末転倒だとどうしても取り合ってもらえなくてね。部屋に軟禁されてしまったんだ。何度か部屋から出ようとしたんだけど、悉く失敗して、この時ばかりは父上に「攫われるよりはマシだ。大人しくするように、私が許すから痛めつけろ」って命令があったみたいで、僕は結局最後まで助けに行けなかった。ハンスは何のしがらみもないから、行くなら勝手に行けって父から許されて討伐隊に入って行ったんだけど・・別動隊で動いていたルルブが、ハンスの目の前でミルを殺してしまったらしいんだ。ハンスはルルブをその場で殺害したらしいが、部隊の目的は野党の殲滅だったから、二人の事は人伝いに聞いただけで、その後は行方知れずになったんだ。それから少しして、ハンスは兵士として僕の部隊に配属されてきたんだ。本当にお互い驚いたよ。それからもう数年一緒に行動してるが、ハンスは昔の様には接してくれなくてね。勿論上官と部下の関係であるのはそうなんだが・・まぁちょっと話が長くなってしまったが、もう昔の様には戻れないのかと半ば諦めかけていたんだ。それもしょうがないってね、そもそもミルの事を思えば、恨まれてても不思議じゃないと私は思ってるし・・」

「・・まぁ、良かった。ハンスさんがああやって話してたのは、アーメックさんには良かったってことですね!」

上手い言葉が見つからず、当たり障りのない言葉を返してしまったが、アーメックさんの顔は晴れやかに変わった。

「ああ!その通りだ!ルージュくんには、窮地を助けてもらっただけでなく、諦めかけていたハンスの心内も知る機会までもらえて、本当に感謝の念に絶えないよ・・あ、ギルドが見えたね」



中に入ると、何かあった後なのか、散らかった室内を職員が片付けている。

「アーメック様!?部隊への補給などは滞りなく、今行っている真っ最中ですが・・」

「ついさっき要件を終えたばかりなのに、度々申し訳ない。さっきほどじゃないんだが、カルキスギルド長にもう一度お時間頂きたいんだ。なに、このカバッツ王国の許可証へサインが欲しいだけなんだ。」

「は、はぁ・・かしこまりました。それではあちらの応接室にてお待ちください」


「何?アーメックがまた来ただと?許可証のサインだけ?・・!」

この名前・・!この間聞いたルージュとはこいつのことじゃないか。今日は随分と重なるな。私はこういう役回りは好きじゃないんだが・・こういうのはパシェットの奴の方がお似合いだろうに・・

 カルキスは内心舌打ちしながら、これは自分が出ないといけないと腹を括る。嫌だろうが、仕事は仕事。自分より上の立場の人間からの指示は規律を重んじるカルキスには放り投げることなどできるはずがない。

とは言え、やりたくないのは本心なので、重い溜息が、気づかない内に出ていた


コンコンコン


「失礼する。アーメック卿、お待たせして申し訳ない」

社交辞令でも丁寧に、カルキスは頭を下げる。

「いえいえ、今回は先程に比べて、随分早く来て頂けて光栄だ。先程は火急の要件と伝えていた筈だが、随分時間が掛かっていたのでね。さっきの方が火急の要件ではあったが、私個人の重みとしては先程より今回の方が大事な件だったので、こんなに早く動いてくださるのは、冗談抜きにありがたいと思っていますよ」

・・アーメックさん、嫌みたっぷりだなぁ・・というか、馬鹿正直なだけなんだろうか?

「先程は遅くなってしまって申し訳ない。それで、早速要件だが・・あなたがルージュさんでよろしいかな?」

アーメックさんとのやり取りは挨拶程度に、こちらに視線を移した途端、カルキスギルド長の目は観察するように私をジッと眺めている

なんだ?なんか嫌な感じがするな

「・・ハイ、その通りですが・・」

「そうですか。まず、ご用件についての結論を先に述べましょう。その許可証へのサインは出来ません」

「!?カルキスギルド長!?」

「アーメック卿、ちゃんと事情があるんですよ。それは恐らくルージュさんの方が察しがついているんじゃないですか?」

・・「断る」ではなく、「出来ません」とカルキスギルド長は言った。トンビルさんの別れ際の話によると、カルキスギルド長はルール通りに行動する人間ってことは、それはカルキスギルド長個人がどうこうではなく、ギルドとして断ると指示がでているってことか

「・・情報通り、賢いようだ。その様子だと察していらっしゃるようですね。確かに、国外に出ようと考えたのは名案でしたよ。国を跨いで冒険者をした経験があるわけでもないのに、組織の動き方がわかっているようだ。リャンが珍しく不機嫌な様子を隠さなかったのも頷ける。

 ただ、素通りしないで頂いて、良かったとも思います。あなたが立ち寄ってくれなければ、お友達が苦労されたでしょうから。」

「・・・どういうことです?」

「本題ですよ。私たちはあの後、あなたを引き止める為に、いくつか有用な情報を得たんですよ。」

「脅す道具でも探してきたんですか?」

「とんでもない。寧ろ、私たちはあなたに、寄り添うことで、本来のギルドとしての職務に目を瞑るということです。」

「まどろっこしいのは好きじゃないんだ。要点をまとめて話してほしいですね」

「わかりました。・・ただ、この話はアーメック卿に聞いて頂くわけには・・」

「軍としての強権を発動しても良いんですよ。それに先程のザッギョスの件では私に借りもあるのでは?」

「ハハハッ、これは怖い。それに確かにアーメック卿には先程の件、借りがあるのは事実ですね」

この狸、アーメック卿を追い出すフリして、わざと強権を使うこともできると言わせて、アーメック卿が同席する理由の言い訳を引き出したな・・

「では、他言無用という事で、話を進めましょう。二点あります。

一、現在、ルージュさんのご友人のサザーランさんからは、大変効能の高いべリス草を納品頂いておりますが、ルージュさんが先の件を撤回して下さらない限り、納品をお断りさせて頂きます」

「それは脅しでしょう。さっき違うって言ってなかった?」

「この位の事はどこの商店でもやってますよ。セット売りという感じですね。ルージュさんが頷いてくれるなら、そちらも購入するようなもんです。どちらか片方というのは無しということです」

・・べリス草の件については随分落ち着いているな・・文句は言ってるものの・・想定の範囲内ということか?

「二、レミィさんの件で、彼女がエルフとドワーフの合成体であるという情報です。これは本来ギルド全体に今回のルージュさんの件が無くても、その情報の真偽の確認の為、報告と情報収集が必要になる案件です。これを、先程お話ししたように、本来は職務通りに動くのであれば、ルージュさんにお話しする必要などないわけですが、敢えて、先にここでお話ししているのです。この意味わかりますよね?」

「エルフとドワーフの合成体!?それは・・!」

「ほら、軍人はこんな反応をするんですよ。ギルドも同じようなもんです。私だって情報を聞いた時には再確認したくらいです」

「・・アーメックさん、エルフとドワーフの合成体っていうのはそんなにマズいんですか?」

「その・・君のご友人がどうとかではなくてだな、混血なら別に不思議なことじゃないんだ。だが、合成体ということは、禁忌の魔法を扱っている者が背後にいる可能性がでてくることが問題なんだ」

そういえばレミィも追われてきたって言ってたっけ・・

「それで、話の腰を追って悪いんだが、ルージュくんがギルドとの間にある問題というのは何なんだ?」

「彼はコロ町で討伐組に加入し、勇者一行として出発してくれる手筈だったんですよ。それをいきなり・・」

「僕は一言も行くなんて言ってない!良いパーティーを紹介してくれるって言われたから、社交辞令で答えただけだ!」

「なるほど・・私もリャンからの話しか聞いてませんので、些か双方には見解の相違があるようですね。」

これまでもカルキスギルド長は、仕事モードという感じだったものの、隠し事が得意な部類じゃないようで不機嫌そうな雰囲気がずっと出ていた。それが更に不機嫌そうになった

『要するに、リャンが自分のエリアで手を焼いている討伐組を追い出す為に、この小僧を利用しようとしたわけか・・完全にこちらが悪人側じゃないか!クソッ・・そうは言っても、組織人としては小僧には悪いが、頷かせるしかない・・』



時は戻って



それまでの不機嫌そうな様子から、落ち着いた様子でカルキスはゆっくりと問いかけた

「さあ、どうするね?」

「カルキス議長!」

「アーメック殿、我々は貴国の軍人や大臣ではない。これはギルド内の事案で、一冒険者とギルドとの交渉案件だ。それに、この件については、我々よりも貴殿らキンナル王国にとっても美味しい話の筈だろう?精鋭騎士団の隊長であられるあなたがそんなこともわからないわけがないでしょう。」

「しかし・・しかし!」

「僕が引き受けたら、サラの方はわかるけど、レミィの方はどうなるんですか?情報的に僕に先に話したってだけで、どちらにしろ共有するわけですよね?」

「そこは、返答次第で彼女への扱いもある程度優遇されるということです。それに今は軍の中枢へ口利きができるアーメック卿も同席してくれてるわけですしね」

こ、この狸めぇ!!私を同席させたのはこれを見越しての事か!!

「わざわざ、ルージュくんの許可証をアーメック卿自ら手回しまでして、準備しようと奔走されたわけだ。お互いに見知らぬ仲ではないのでしょう?であれば、アーメック卿も、もう一肌位、脱いでくれるんじゃないでしょうかね?」

アーメックはワナワナ震えている。自身の権限が届くかギリギリな範疇なのだろう。だが、アーメックにここで頷いてくれるかどうかは、今後に大きく関わるので、返事を待つ。

「・・・・ふぅ・・。わかった。ルージュくんには返しきれない恩があるからな。但し、カルキス!今回の事はようく覚えておくからな。」

「ありがとうございます、アーメック卿。具体的にはどのくらい匿ってもらえそうでしょうか」

「即答はできないが、まず、私はこの件については聞かなかったこととする。その為、ギルドの発表があるまでは国は動かないということだ。勿論、ギルドの手の内の者が、軍にいるなどとなったら、私の方では対処できんが。」

「・・・・」

黙秘。カルキスは何も告げない。

「それで、どうでしょうか。アーメック卿もここまで手伝ってくださるようですが」

「カルキス、僕に脅迫紛いをしているんだ。僕はもうギルドの人間を信用しない。あなたをギルド長と敬称を付けることもしない。そして、僕に答えを問う前に、僕の質問に答えていないぞ。ギルドはレミィについてどう対処するんだ。一番肝心な事に答えずに、結果だけ得ようだなんて虫が良すぎるんじゃないか?」

・・・こいつ・・本当に駆け出しの冒険者なのか?冒険者に成り立ての浮足立ったガキなら、この面子にこの空気感なら、呑まれるのが普通だろう。冷静に頭が働くだけじゃなく、こちらの目をしっかり見据えていて動じている様子が全くない・・。リャンの奴、人材の発見までは良かったが、こいつは対処を間違ったんじゃないか・・?

「怖いですなぁ、まるで殺されそうだ」

「君を殺して終わるなら、さっさとそうするんだけどね。魔王討伐に比べれば随分楽だろうし。ただ、組織が相手じゃ君の代わりなんていくらでもいる。」

僕の「君の代わりなんていくらでもいる」という発言をした瞬間、カルキスのこれまでの静かな雰囲気から、激情の色に変わった。

「・・・私の代わりがいくらでもいるだと?小僧、口には気を付けろ。私程、規律を重んじている者はいない。私がいるから、このキンナル王国のギルドは規律が保っているのだ。」

アーメックが鼻で嗤う。

「フン、保たれた規律の果てが脅迫とはね」

カルキスが初めて独自の色を見せたが、アーメックの皮肉には乗らなかった。いや、乗らなかったのではなく、乗れなかったのだろう。彼自身が規律の順守を常に心掛けていたが故に、今回のこの場の状況はカルキスとしては不服なのだ。そして、自分程規律の遵守をしている者がいない筈なのに、代わりは幾らでも利くと言われたのも、自身の存在意義を駆け出し程度の冒険者にいわれたことで、プライドに傷がついたんだろう。しかし憤っても、アーメックの皮肉はカルキス自身が自覚していたことだっただけに反論ができなかったのだ。この考えの正しさを証明するように、激情の色を一瞬垣間見せたカルキスは、静かな雰囲気に戻っていた。

「・・それで?僕を頷かせる為に、答えはもう決まってるんだろう?」

「そうだな。私も、お前とこの雰囲気でやるのは疲れた。確信があるわけじゃないが、お前、ある程度私の心情も把握してるだろ。」

「・・へぇー。そういうのはわかるんだ。リャンは全然だったけど。」

「この手の読み合いだったら、このエリアに限らず、私はそれなりだと自負している。私の一挙手一投足を全く動じることなく、(つぶさ)に視ていた。そしてお前自身の表情からは何も読み取れん。疑問に思ってるそぶりも、あれこれ考えている様子もない。わかっていて、相手の様子を窺っている様だ。」

「・・大した観察眼だが、いつまで白を切る気だ。答えは?」

「レミィ、というよりは、エルフとドワーフの合成体ということが問題で、この情報自体は、遅かれ早かれ上に挙げなけりゃいけない情報だ。ただ、それを遅らせることはできる。このキンナル王国の取り纏めをしているギルド長は王都のフンゴ・バルゾだ。この間の緊急会議では、猶予は1年で伝えろとのことだった。お前の指摘した通り、答えは決まっていて、俺はここでお前を頷かせる役に当たっちまったってだけだ。俺に今回お前に提示した2件について、譲歩できる権限は一切ない。ここでお前がゴネてカバッツ王国に行っちまったら、その通り報告するだけだ。正直、今回のこの役回りだけは、お前さんがどこのギルド長の地域に行くかで、この役回りをするギルド長は変わった。この点に於いては、この役回りは俺である必要性はなかったのさ。それがよりにもよって一番こういう役回りが嫌いな俺のとこに来たってだけだ。」

「だから、あんたはさっき、僕の言葉にキレたんだろ?人間突かれたくない本音の部分を言い当てられると誰でもそうなるもんさ。で、1年というのはいつからだ?勇者一行としてスタートしてからか?それとも、僕が頷いたその瞬間からか?」

「・・流石に勇者一行としてスタートしてからだろう」

「カルキス、規律に(うるさ)いアンタが、そんな曖昧な対応をするのか?口約束なんて幾らでも反故に出来るだろう。契約書があったって反故にされることも世の中にはあるくらいだ」

私は前世での雇用契約書での嘘を思い出していた。書面に記載があったのに給与面について嘘があったのだ。役員から、私が嘘を吹聴している疑われ、雇用契約書を出してみろと言われ、予め用意していたコピーを見せると役員は絶句して、平謝りをして逃げ帰り、その後も契約についての訂正はされなかった。私のトラウマの一つだ。

「・・初めて、お前に感情が見えたな・・まぁ確かにお前の言う通り、そこは私らしくなかったな。今すぐ確認・・いや、どうせなら、この場でフンゴに繋ぐか。お前さん達に今更こんなことを言っても、信じてはもらえんだろうが、この役回りをしたくなかったのは本当だ。組織人として、しなければならなかったから、致し方なく、したがな。どの道、効率を考えても、お前さんとフンゴが直接話す方が、手っ取り早いだろう。俺も報告する必要がなくなるから楽だしな・・その前に、アーメック卿、フンゴと繋がったら、アンタは一切口を開くな。さっき自分でも言っていた通り、あんたはこの話を聞いていない。あんたがこの場にいるのを知ってるのは、この場の2人だけだ。職員達には悪いが、あとで儂が催眠魔法を施す。フンゴの耳に入ったら、俺じゃ対処が出来んくなる。」

「・・このギルドの今日いた職員全員に催眠魔法だって?本当に可能なのか?」

「アーメック卿、これでも一応ギルドを預かる身であり、一応小さいながらも長を務めているのだ。あまり舐めないで頂きたい。それぞれに得意分野があるように、私はこの分野が得意なだけだ。」

「・・失礼した。そのようにしよう。私はフンゴギルド長と繋がったら一切話さない」

「それでは、宝珠を持ってくるが、二人も付いてきてくれるか?」

「?ここでするんじゃないのか?」

「その通りだが、先に約束を果たそう。その方が、ルージュくんにも印象が良いだろうからね。宝珠を取りに行くが扉を出たら、職員達に先程話した催眠魔法をすぐにかける。情報によるとルージュくんは魔法に明るいのだろう?確認したければしてくれてかまわない。記憶は・・そうだな、ここに来たのはルージュくんだけとしよう。門番に言われた通り、ノコノコ来た所で私とこの応接間で話す流れとなったということにしておく」

「わかった。じゃあ付いていくよ」


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「・・・!!」

「・・・!!」


「さぁ、今話した通りの記憶に改変した。確認してくれても構わんよ?」

アーメックは驚嘆していた。ギルド長と言う以上、それなりに何かしらの優秀な人材だろうことは認識していた。しかし、今目の前で発動した大魔術を行使できる程の人材が、こんな田舎のギルド長をしていたというのは想定外だった。これは宮中魔導士でもできるものは限られるであろうとアーメックは結論付けた。

「いや、カルキスさんの魔法発動までの流れを視てたから確認する必要はないよ。まさか、大地の記憶に干渉して根元から改変するなんてね。あれはもう根元から改変されてるから、戻すには時を遡ることくらいしか方法がない。」

「・・!」

カルキスは驚いていた。情報通り魔法に明るいなら、時間は掛かるが、一人一人の記憶を覗いてみるという方法が手間は掛かるが確実な方法だった。催眠魔法を疑われた場合、捜査には大体それが行われる。これができるだけでも十分に優秀なのだ。だが、魔法の行使の流れを視るだけで、実行されたことを断言できるのは、自分より遥か格上でなければできない。自分の詠唱を聞いて適当な事を言っているわけでもなかった。カルキスがメモリーズオフの行使を終えて振り返った時、ルージュは私を満遍なく「視て」いた。私の魔力の流れを余すことなく視ていた。そして対処法についても、補足することなど一つもなかった。

別に自慢する気でしたわけではなかった。普段通り、必要な業務をするのと同じ心構えでいた。

だが、ルージュの的確な指摘と能力に、自分にはまるで及ばない高みを実感した。

『・・そうか、リャンの奴も同じようなことを感じたんだな。あの若さであいつはそこそこな奴だとは思ったが、年齢をそれなりに重ねた私ですら、打ちのめされたんだ。若い上に頭もいい奴だったからな。・・仕方ないことだが、こいつは強引にどうにかするより、仲良くうまく付き合っていった方がいいタイプだ。俺たちじゃ役不足だよ、リャン・・』

「・・そうか、それでは宝珠を取りに行くから付いてくるといい。」

「いや、僕は遠慮しておくよ。カルキスさん、今のであなたが言ったのを信じられる。アーメック卿は気になるようなら付いて行ってもいいですよ。僕はここで待ってます」

「・・いや、私も待っていよう。それに折角催眠魔法を使ったのに、職員達の視界に入ってしまっては意味がないからね」

「そうか、ではすぐ戻る」


カルキスが出ていくと、アーメックさんは直ぐにこちらに向き直ってきた。

「ルージュくん、サラ殿の件・・」

アーメックさんが話し終える前に、(さえぎ)った

「アーメックさん、その点はギルドを終えたら話しましょう。ここで話したら、ギルドの者に聞かれる可能性があります。カルキスについては、人物像がある程度見えましたし、好んで今回のような手口をするタイプではないと思います。が、彼がそういうタイプだったとしても、彼の周囲が同じかは別の話です。事実、コロ町のリャンギルド長は性根の腐った奴でしたからね。」

「わかった。すまない、早計だった。それにしてもさっきのカルキスの魔法は驚いたな。ルージュくんは、全部理解できたのかい?」

「恐らく。ただ、記憶に関与するような魔法を普段使わないですし、彼の魔力は淀みなく、熟練したものに感じました。正直、思った以上の魔法使いで、驚いたというのが、本音です」

「そうだな・・王都のフンゴ・バルゾギルド長もそういう卓越した何かを持っておられるのかはわからんが、少なくとも、私の中でカルキスという人物は覚えておく必要があると感じたね」


扉からノックがすると、カルキスが先程と同じ足取りで、戻ってきた。

「待たせたな。すぐに始めよう」

カルキスは宝珠を机に置くと、手をかざし通信魔法を発動しフンゴギルド長に繋いだ。

「フンゴギルド長、先日の件、ルージュ殿の交渉の件でご連絡させて頂いています。」

「む、この声はカルキスか。ということはプンス町に向かっていたという事か。」

「はい。それで、会議の通り、話を進め、あと一押しで勇者一行の件を受諾するという所までは話を進めました。」

「あと一押し?受諾させたのではないのか?そいつに断れる内容ではないと思うが」

「いえ、こちらの条件についての最終確認ということです。私も先日フンゴギルド長から伝えられた以上の回答は持ち合わせていなかったので、今フンゴギルド長に繋ぎました。」

「何を確認するというのだ?」

「それについては、本人から確認させた方が、私が話を歪曲して伝えられていると思われない為にも、良いかと思いましたので、ルージュ殿にも既に回線を繋いでおります」

「何!?」

「彼はリャンの報告以上に、察しが良いですし、この方が、彼に受諾させる上でも、ギルド側にとって好都合だと彼と直接話し、感じましたので。」

『カルキスは普段、こんな勝手をするような奴ではなかった筈だが・・』


「もう話してもいいですか?カルキスさん。」

「あぁ、案内役はここまでだ。」

「そうですか・・では、改めて、フンゴさん、通信魔法なので、お顔は拝せないが、初めまして。僕がルージュです。」

「・・子供だな。目上の者との接し方を知らんようだな」

「そういうのは、省きましょう。今回のギルドのやり口で私はあなた方には敵意を持っています。あなたを敬うような謂れは無いはずです。で、条件にあったレミィの件についてですが・・カルキスさんからは1年の猶予と聞いたが、その1年というのはいつからだ?勇者一行としてスタートしてからか?それとも、僕が頷いたその瞬間からか?」

「そんなことの確認か?カルキス、その位の回答はお前が対応できるだろう」

「わかってないね、カルキスさんは規律を重んじるタイプだ。今回のこのギルドの対応の決定権は、キンナル王国のギルドをまとめているフンゴさんにある。それを憶測で回答しても、カルキスさんは責任を負えない。元々、決定権がカルキスさんにはないんだからね。だから言及されていなかった点については、あなたが答えるしかないわけだ。それに、これは「あなたが」答えるから意味がある。約束を反故にされた時に、責任を取ってもらわないと困るからね。」

「つくづく不遜な奴だな。エルフとドワーフの合成体の件については、我々ギルド側の方が譲歩しているのだぞ。カルキスからも言われた筈だが、本来の職務通りであれば、お前に断る必要などなく、寧ろすぐにでも情報を上に挙げなければならない事項なのだからな。」

「そう言いながら、俺に勇者一行の件に受諾させるために、脅しに使ってるだけだろ。このくだらない問答はもう必要ない。答えろ、いつから1年だ?」

「・・勇者一行として出発してから、1年とする」

「よし、言質は取った。」

「何を言って・・・!!こ、これは!!」

「約束の反故なんて、絶対にさせないからな。あー、そうこちらから条件を加えておかなきゃな。あんたがどういう人物かはギルドの方針を今回のように持っていった時点で、糞野郎だろうとは思うが、仮に善人でもこの場のやり取りだけじゃわからないから、改めて言っておくが、今のは俺が勝手にしたことだ。カルキスさんに事前に話していたことじゃない。責任の追及をするなら、自分が判断を誤ったことを悔やむんだな。約束の反故やカルキスさんへの責任追及は契約違反とする。これでお前らの言う通り、討伐組への参加を受諾し、勇者一行として魔王討伐の依頼に取り掛かる。王都でお会いできるのを楽しみにしているぞ、フンゴ・バルゾ。」

「・・では、フンゴギルド長。以上にて、勇者一行の件は完了しましたので、通信を切らせて頂きます」


通信魔法でつながっていた糸が切れ、こちらに皆の意識が戻る


カルキスとアーメックさんはこちらをジッと見ている。

「「何をしたのかね?

       んだ?」」

「契約の魔法をしただけだよ。契約を破った時には、ペナルティが発動するだけさ。破らなければ何もない。誠実に対応すればいいだけさ」

『簡単に言うが、私の発動した通信魔法で繋いでいたわけで、彼が直接繋がっていたわけじゃないにも関わらず、その高度な魔法を私を介して掛けたというのか・・!』

「カルキス殿の先程の催眠魔法も目を見張ったが、今日は逸材の魔法使いのバーゲンセールの様だな」

「・・お褒めに与かったのは光栄だが、私とルージュ殿では役者が違う・・私など足元にも及ばん」

「・・確かに、ルージュ殿は比べようもないが、カルキス殿のことも私は正しく今回認識した。おだてたわけじゃない。」

「僕の事はいいですから、取り敢えず、この一件は終わりでいいですよね。カルキスさん」

「あぁ、フンゴギルド長と直接話して終えたのだから、私から改めて伝えることはもうない。手間を掛けさせたな。私が言う言葉じゃないだろうが、魔王討伐の件、よろしく頼む。」

「・・あなたとは、もっと違う形で出会いたかったな。次会う時は、もっと楽しい雰囲気で話したいね」

「ああ、私もそう願う」



アーメックさんとギルドを出た後、宿をまだ取っていなかったので、このままコロ町の討伐組にさっさと合流をしようとすると、色々あったのだからと引き止められ、駐屯地で一泊くらいしていけと強引に連れてこられた。

「今日はすまなかった!」

アーメックさんは駐屯地の自室まで来ると、二人になった途端、大仰に頭を下げてきた。

「私がギルドに連れて行ったばかりに・・こんなことになってしまって・・!」

「・・いや、確かにそうではありますが、あの条件を準備していた時点で、私を捕まえられなかったら、どちらにしろ、レミィは不味かった。サラの件はアーメックさん達が元々動いてくれていたので何とかなったかもしれませんが」

「ああ、その件もあの場で話さずにいてくれて、助かった。」

「アーメックさんに頼んだ方が安心できますからね。カルキスさん自身は恐らく、悪い人じゃないでしょうが、ギルド、少なくともフンゴギルド長が牛耳ってる地域の体制は私に対して好意的じゃないですから。サラはコロ町にいるので、保護して頂けますか?勿論私が明日出発して、サラにもレミィにも直接話してきます」

「ああ、サラさんのことは責任を持って保護させてもらう。これについては、元々の公務でもあるしね。だが、レミィ君の件はどうするんだ?私は勿論フンゴギルド長が情報公開するまでは、知らんぷりをするが・・彼女の保護は流石に理由もなくというのは難しいんだが・・」

「恐らく、リャンの指示でレミィには既に監視が付いていると思います。討伐組はまだ遠征から戻ってなかった筈なので、僕が直接行って、討伐組が戻る前に、信頼できる所に、預けようと思います。ただ、申し訳ないんですが、情報公開された場合、アーメックさんは当然レミィを連行する為に動かなければならないと思うので、どこに連れていくかは話せません。サラの事は頼んでおきながら、都合が良くて悪いんですが、勘弁してください」

「いや、それでいい。さっきも言ったが、サラさんのことは元々それが任務だったのだから。寧ろ情報を協力してくれたことで、いや、私が勝手に連れ回してしまった為だが・・まぁ礼を言うのはこちらだということだ。」

「・・あ、そうだ。サラはサザーラン・カルーシャというのが本名です。サラは名前が長いから親しい人にはサラと呼んでほしいと言ってくれたことから、その愛称で呼んでいます。カルキスさんがサザーランではなく、サラと言ったのは、報告で聞いていたから、そう言っただけだと思います。アーメックさんが、初対面でサラって呼んだら、面喰らうと思うので気を付けてくださいね」

笑って伝えると、アーメックさんも慌てた様子で

「そ、それは、大事な情報だ(汗)。知らずに対面していたら、失礼をする所だった。何から何まで感謝する。それと今日、君とカルキス殿に会いに行ったことは、ハンスにしか話していない。帰ってから軍事機密として話さないように伝えてあるので、安心してほしい」

「えぇ、でもサラがコロ町にいるというのは、隊員達にはどう説明するんですか?」

「それは明日出発前に商店に行って、適当にサラさんに行きつくように、誘導して、そこで初めて知ったような顔をして部隊を動かすさ。答えは出ているし、あれだけ有名なんだから、同じ業界の人間に知られてない筈がないからな。」

「成程。それでは僕は明日、コロ町に戻ります。アーメックさんも道中、お気を付けて」

「ああ、また会えるのを楽しみにしている」



アーメックさんには、置き手紙で挨拶は済ませ、魔法で身体強化を全力で掛ければ数時間でコロ町には戻れるだろう。

一応、5時間で戻ってこれたが、元となる体自体が、そこまで鍛えられておらず、悲鳴をあげている。一応感覚を魔法で閉ざして、気にしないようにしているが、魔王討伐をこれからすることを考えると、前衛ではないとは言え、もう少し鍛えた方がいいかもしれない。探索をする程度の体力と狩りや、この間初めて出会ったカエルの魔物「ポズン」のような突発的な戦闘を数回する程度は問題ないが、魔王戦で体が保つのかは正直不安だ。パーティーから外れた場合に単独で敵と戦わないといけない場合もあるかもしれないし・・。

まずはサラの所に向かうと、ラッキーなことにレミィもいた。

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二人はお互いに顔を見合わせ、自分だけの勘違いでないことを確認した様子だ。

レミィにはリャンの指示によりギルドから監視がついていることが考えられたので、二人の前には出ずに通信魔法で二人に経緯を簡単に伝えることにした。

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レミィは家路に着くと、ジベルにサラとのことを話しながら、通信魔法で事情を説明した。ジベルには先に通信魔法の方を聞くように伝えられたことで、混乱せずに話を聞き進めることができた。そこで監視が付いていることやルージュから聞いたことを聞かされて、準備を始めた。

既に、逃亡してこの地に滞在していたので、定住はできないだろうと、考えていたので、元々覚悟はしていたこともあって、話はすぐに飲み込めた。


普段寝る頃合いを確認し、家の明かりが消えたタイミングで、俺は姿を現した。

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ジベルさんは申し訳なさそうに俯いている。ジベルさんは通信魔法ができないので、話せないのだ。

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レミィがジベルの意思を代弁してくれた。

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空間を開くと、

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と聞いてくる。まぁ当然の疑問か。

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レミィとジベルが目を開けると、静かな湖の近くに立っていた。

「お待たせ、ここはルートゥ村の森にある湖だよ。ここは村人以外の者は入ることが出来ない結界が張られている場所なんだ。だから、ここから出ない限り、二人は見つからない筈だよ」

「い、いいの!?村でも大事な場所なんじゃ・・!」

「大事ってよりは、村人にとっては何でもない湖なんだ。村人以外が入れないのも理由はみんな知らない。勿論、何かしら理由はあるんだろうけどさ。」

「・・この湖に入れるってことは、ルージュはここの出身ってことだよね。私たちがここにいたら迷惑なんじゃ・・」

「迷惑じゃないよ。ただ、村人の中には、状況を察することができないのもいたりするから、特段伝えないで行こうと思う。二人にはルートゥ村の皆には気が付かれないようにする認識阻害の魔法を掛けておくよ。あと無いとは思うけど、何かあった時の為に、この石にも装着しておけば認識阻害できる魔法を掛けてあるから、ネックレスにでもして肌身離さずにいてくれ。それと認識阻害の対策はしたけど、保険として、ルートゥ村の皆に事情を説明する必要が起きてしまった時の為に、この宝珠を二人にそれぞれ渡しておくから、そういう場面が万が一あったら、魔力を注いでくれ。僕の伝言を封じてあって、説明には十分だと思うから。食べ物は湖の魚や、キノコや山菜を食べてくれていいから。狩りが出来るなら動物を狩ってもいいし。」

「・・何から何まで悪いわね・・でも、空間魔法がこんな便利なら、もっと荷物持ってこれそうだったね」

「監視が、家の中を捜索してくれる時間があった方がいいと思ったんだ」

「なに、レミィ。矢の雨の中逃げる可能性だってあったんだ。感謝してもしきれんぞ」

「わかってるって!ルージュ、本当にありがとう!・・すぐ行くの?」

「あぁ、コロ町に着いた時はコロ町の人達には見つからないようにしてたから、大丈夫だとは思うけど、レミィ達が居なくなったタイミングで僕がいないことから感ずかれても困るからね。ギルドの僕の最後の目撃はプンス町の筈だから、それを考えればすぐ戻ればコロ町に丁度いい頃合いで到着したように映る筈だからね」

「そっか・・、お互い、こっちでも(転生しても)、思い通りにいかないけど、楽しもうね!ルージュ、一旦私たちの事はもう心配しなくていいよ!ルージュは出来る範囲の事をしてくれた!ここからは、私自身がまた頑張る番だ!いいね!じゃあ、また!!」

ルージュが手を振って去っていく。

「レミィ、良かったのか?」

「・・何が?」

「儂に隠す必要はないだろう。今別れ際に、忘却の魔法をルージュに掛けただろう。」

「父さんは、魔法詳しくないのに、どうしてそういうのはわかっちゃうかなぁ・・ルージュは魔法使いとして、破格だから、正直私が掛けた忘却の魔法がどのくらい、効いてくれるかはわかんない。断片的に覚えてるかもしれない。けど、魔王討伐をする位の大仕事をしている内は、そこにはきっと気が付かないでいれると思うんだ。」

「そうだな。魔王討伐なんて大仕事中に気がかりがあったら、力を発揮できないかもしれんしな・・サラちゃんにもしてきたのか?」

「完全に忘却させたってわけじゃなくて、友達がいたって簡単な改竄をしただけ。サラはいい子だから、私達を悪いようにはしないだろうし、ルージュみたく、命に係わる依頼をこなすわけじゃないけど、覚えてない方が、私について知らない振りが自然にできるじゃない」

「だが、精鋭騎士団の隊長も今回の件を知ってるんだろう?」

「うーん、そこはうまくやってくれると思うのよ!なるようになるわ!さ、折角ルージュが、ここを用意してくれたんだし、少しの間ここを拠点にして過ごしましょ!」

「・・わかった」

ジベルは溜息をつきながら、空を見上げる

『・・本当はお前も、こんな追われるだけの人生なんて忘れて、普通の女の子として生きられればいいんじゃがなぁ・・』





              ⅲ―5


・・なんだ?なんだか知らないが、記憶がボヤけて・・急いでコロ町に戻らないといけなくて今は戻ってる最中なのはわかるんだが・・さっきまでルートゥ村に戻ったのは何の為だったか・・まるで目を覚ましたら、知らない所のはずなのに、それが当然で、まるでそんなのが無かったのが当たり前のような、過去の記憶の方から、意図的に「距離をとられて」いるような・・思い出せそうなのに思い出せない、後ろ髪を引かれるような物忘れは経験があるけど、こんなにクリアな感覚で思い出せないのは、逆に何か恐ろしさを感じる・・だけど過去の記憶自体から、距離をとられているのが間違いがないかのように、気になっているはずなのに、その「忘れた」という記憶自体が、意識から遠ざかっていく・・待って!待ってくれ!!何か大事な事の気がする!



・・朝日が眩しい。どうやら飛ばし過ぎたようで、ちょっと一息のつもりが、眠ってしまっていたらしい。

コロ町の近場の大樹の枝で寝たが我ながらよく落ちずにこんなにぐっすり寝ついたものだ。

さて、ギルドの確認記録としてはプンス町が最後の筈なので、プンス町方面からコロ町に入って、ギルドに向かおう。サラについては、こちらからこれ以上接近しない方が、いいだろう。

アーメックさんの手腕に期待するとしよう・・サラ・・?もう一人・・?何かあった気がするけど、まぁ気がかりは自分の性分的にできる限りの事はしているはずだ。

気持ちを切り替えて、魔王討伐に集中しよう。ただ、自分だけで挑むなら、気も楽なんだけど、討伐組ってパーティーの評判が良くないのがなぁ・・なんかブラックな会社ってわかってるのに、向かわなきゃいけない感じに似てる気がする・・気ぃ進まないなぁ・・



この半年、リャンに勇者としての申請させる為に、討伐組の功績を積み上げる事と、キガン集落の魔王オウズの前哨戦として、キガン集落の手配モンスターであるフィールグントとグリミスの討伐に出たものの、成果は芳しくなかった。そしてその期間中に新メンバーを用意しておくと、リャンは言っていたが、紹介予定者はなんと、最近冒険者になったばかりのガキだという。ザナンは苛立っていた。

「リャン!あのレベルのグリミスを魔王討伐の前哨戦と銘打つのはどういうこった!?あんなの魔王以上の脅威だろうが!俺らじゃなけりゃ、あそこまで弱らせることなんて出来ない所か、生きて戻ることすら無理だろ!元々依頼にあったフィールグントだって面倒くせえ奴だったのによ!しかも、戻って来てみりゃあ、新しい面子はひよっこの駆け出し冒険者を紹介する予定ってのはどういう了見だ!」

「ザナンさん、魔王以上と言うなら、遅かれ早かれ、それだけの脅威として国を越えて全ギルドにも周知されるようになります。そうなった時、討伐組の評価は改めて見直されることになります。今回の取り逃がしも決して討伐組の名に泥を塗るものにはならないでしょう。

それと、新メンバーについては、ご指摘はごもっともと思いますが、魔法使いの経験から、彼が逸材であることは、私が責任を持ちます。何でしたら、今回とり逃したグリミスに再挑戦してみてもいいと思いますよ。彼が居れば討伐も成功するかもしれません。魔王討伐に加えて、グリミスの討伐まで出来たのなら、討伐組の名声は間違いなく輝くことでしょう」

「・・ギルドが一個人をそこまで強く推薦するのか?」

「ザナンさんは元々優秀な戦士職です。これまで魔法のサポートを受けずに、ここまで成果を出してこられたのですから、サポートが居れば当然それ以上の結果を出せるでしょう。そのサポートが優秀なら尚更。

「・・気に食わねぇな。仮にそいつを入れてグリミスを討伐できても、まるでそいつが入ったからみてぇな言い方じゃねぇか」

「いえいえ、サポートが居ても、元がザナンさん達のように優れていなければ、大して変わりません。ゼロに何を掛けてもゼロなのと一緒です。それに、ザナンさんが仰るように私はギルドの人間ですので、地域の問題解決が仕事なわけです。問題解決の為に、討伐組が最有力候補で、それを補える人材があるなら、いくらでも推しますとも。・・・おや、噂をすれば・・」

リャンはニンマリと口角を上げると、ギルドの開いた扉を見据えた。

ザナンは「あぁん?」と振り返って視線の先を見る。他のメンバーの二人もつられて視線を追いかける

「本当に子どもね」

「っはぁーっ!・・リャン本当に本気だったのか?ゼゼホだってやっと少し使える程度になっただけなんだぞ!俺らは駆け出しのお守り役じゃねーんだ!チソエ!お前もなんか言えよ!」

「仕事をこなしてくれるなら、それでいいわ。」

「ハハハ、ゼゼホさんだって、紹介した通り優秀だったでしょう?私はそういう所はちゃんと正当に評価しているはずです。ちゃんと「使えるようになった」と今仰っていたじゃありませんか」

「馬鹿野郎!これから魔王討伐に行くのにすぐに戦力になる奴じゃなけりゃ、連れていけねーだろうが!」

「ですから、そういう所は正当に評価していると話したじゃありませんか。彼が付いて行って運悪く死んでしまうことがあったなら、それでもいいです」

「・・・それ本人を前に言う言葉ですか?」

「いやいや、すまない。ルージュくんを全力で推薦していると受け取ってほしい。それで、準備は出来たのかな?」

「えぇ。約束は守ってくれるんですよね?」

「勿論、プンス町での件は共有されています。」

「・・どういうこった?」

「討伐組の魔王討伐の為に、及ばずながら私の方でも最善を尽くしたというだけです」

「まぁいい。そこまでリャンが推すなら、連れていってやるが、遠足じゃねーんだ。自分の身は自分で守れ」

「ザナン、自分の身だけ守ってもダメでしょ。あなたの仕事は私たちのサポートなんだから、仕事はちゃんとこなしてくれないと」

「ルージュくん、以前から話していた彼らが「討伐組」だ。リーダーで戦士職のザナン殿、魔法アタッカーのチソエさん、探索担当のゼゼホくんだ」

「よろしくっす!」

ゼゼホと呼ばれた身軽そうな女性だけが、こちらに軽く挨拶してくれた。こちらも軽く挨拶はしたが、ザナンは聞き流すと

「二日後には王都にすぐに向かうから、昼にはここを出る。付いてくる気があるなら、飯屋のハンダに昼までに来い。俺らが昼飯を食い終わるまでに来なけりゃ置いていく。リャン、それでいいな?」

とリャンに視線を送る。チソエはルージュの挨拶は最後まで聞かずに既にギルドを出て行ってしまった。

「えぇ、大丈夫ですとも」

リャンは笑顔で頷くと、ザナンもさっさとギルドを出て行った。

リャンの顔を見ていたくなかったので、同じくさっさとギルドを出ると、ゼゼホが小走りに追いかけてきた。

「ルージュさん、ザナンさんもチソエさんも中々癖がある人達ですが、自分を見てしっかりどうやって立ち回ればいいか学ぶようにするといいっすよ!」

無い胸をエッヘンと張ってゼゼホは得意気にしている。

まだ何も始まってないんだが、自分より年下が入ったことがどうも嬉しいらしい。この討伐組の中で、唯一癖がなさそうな人だ。

「ゼゼホさんは、討伐組に入りたくて入ったんですか?」

「うん?私はねー、冒険者登録した後の講義の後に、リャンさんに呼ばれて、紹介されたのが討伐組だったんだぁ。右も左もわからなかったから、言われるがまま入ったって感じ」

「・・そうなんですか・・」

「ルージュくんは、随分リャンさんから気に入られてたみたいだけど、どんな実績であんなに気にいられたの?」

「さあ?僕にとっては普通の事しかしてませんから、わからないです。・・ただ、向こうがこちらをどう思ってるかは知りませんが、リャンのことを私は全く良く思ってませんけどね」

『・・あれ?もしかして、二人はあんまりいい関係じゃない?』

理由はわからなくても、空気感だけは察したゼゼホは話題を変えることにした。

「まぁ、二人の間柄はわかんないけど、魔王討伐には一緒に行くんすよね?であれば、これからは生死を共にする仲間っすから、どういう経緯であれ、これからよろしくっす!」

・・確か前にサラが討伐組の中で一番話しやすいけど、連れ回されてるって感じと評されていたのが、恐らくこのゼゼホなんだろう。何というか、聞いた通りの印象だなぁ・・他の二人より連携取りやすそうだし、少し聞いてみるか

「ゼゼホさんは通信魔法は出来る?」

ゼゼホは面喰った顔をしている。

「へ?・・ルージュくん、私の事なんて聞いてるんすか?・・私は魔法職じゃないから、魔法なんてからっきしですよ?」

「じゃあ、ピンチの時とか声が出せない状況や相手がこちらの声を聞きとれない状況の時にはどうしてるんですか?」

「そんな経験ないっすよ!」

「・・さっきギルドに入った時にグリミスを倒しきれなくて戻ってきたって話が聞こえましたが、その時はそういうのなかったんですか?」

「うぇ・・?あー・・」

「僕も物語でしかしりませんが、グリミスって色んな物語に出てくる、悪魔と呼ばれるモデルになった魔物ですよね?どんなに弱い個体でも、確実に討伐対象に認定されるっていう。倒しきれなかったというのは、討伐組の攻撃を受けてグリミスが逃亡したってことなんですか?」

「あー・・うーん・・この話はザナンさん達には勿論、絶っっっ対に口外しないでくださいね!」

ゼゼホはこの話題を終えるには、グリミスの件の顛末を答えないと話が終われないことを悟り、少しづつ話し始めた。

「・・ルージュくんが何でグリミスの事を知ってるのか、正直驚きっすけど・・あたしは何も知らないでいつものモンスター討伐だと思って行ったんすが・・あれは本気でヤバかったっす。まぁ、あたしは二人のように強くないから、そういう危機感が働く水準が低いのかもしれないっすけど、出会った瞬間に逃げないと死ぬって思ったっす。ただ、二人は強いからなのか、臆することなく・・と言っても普段は初対面の相手には様子見たりするんすが、全力の攻撃を二人共してましたが・・とにかく攻撃しちゃったんす。でもお二人の攻撃はまるで聞いた様子が無くて、腕の一振りでザナンさんが私の右を吹っ飛んで、次の蛇の頭が付いた尻尾で、ザナンさんの横にいたチソエさんが私の左を吹っ飛びました。もう死ぬんだなぁって思ったら、体動かなくて・・そしたら滅茶苦茶でかい人?モンスターなんすかね?とにかくめっちゃでかい人型がグリミスに襲い掛かったんすよ。その瞬間「今しか、逃げれる機会はない」って強く思って、お二人を背負ってその場を離れたんす・・十分離れたところで、お二人にポーションを使って、そこからは3人で走って戻ってきたんす。最近強化された効力の優れたポーションで本当に良かったっす・・二人共瀕死で、これまでのじゃ絶対死んでたっす・・」

・・グリミスの件は、遭遇して生きて戻れたのが奇跡だ(最後に話してたのは恐らくサラ特製のポーションだろうが、そこまですごい効力というのは驚きだ)。そして、キガン集落の魔王が確か鬼族と巨人族のハーフというのは聞いたことがある・・割って入ったのはその魔王本人だったかもしれない。グリミスは出現が確認されたら、どの種族でも討伐対象にされる脅威として知られている。であれば、キガン集落の魔王(つまりキガン集落の住人からしたら勇者)が、直々に討伐にでていたとしても不思議じゃない。種としてキガン集落にいる鬼族や巨人族は人間種より強い個体が当然多いだろうが、それでもグリミス相手に渡り合えるとなると、魔王である可能性は捨てきれない。まぁ、鬼族も巨人族も、どちらも実際に戦闘したことはないので、どれだけの強さなのかは、わからないんだが・・それにグリミスが脅威としても、発生したばかりの弱い個体だった場合の評価がどの程度なのかは、わからない。わからないことだらけだが、明らかに勝てない戦いだった(戦いと呼べるのかも怪しい)ことだけは確かなようだ。

「・・確かに、その状態だと、通信魔法もしてる余裕はなかっただろうね。ただ、もし、相手がこちらの声を出せなくしてたり、何かしらの危険をゼゼホさんだけが気付いて、緊急で二人に注意喚起しなければならなかった時には通信魔法はあった方がいいよ?グリミスでそれだけの体験をしたなら、今話したようなことも容易に想像できるんじゃない?しかもこれから魔王討伐するんだよね?そういう状況もありそうじゃない?」

「・・そうは言うっすけど、最初にも言ったっすけど、あたし、魔法はからっきしで・・っ!?!?」

魔法でゼゼホの声を封じると、ゼゼホは目を見開く

「こんな状況が起きても、出来ないと思ったから練習もしなかったって理由で、死んじゃってもいいの?僕程度の魔法使いでもできることが、魔王や魔王の周辺にいる連中に出来ないって本気で思ってる?」

ゼゼホは涙目になって、顔が恐怖に染まっていく。

「・・はぁ・・別に脅したかったわけじゃないんですよ。ただ過酷な戦いになるだろうから、協調性があってゼゼホさんなら連携取れるかなって思ったので、通信魔法の有用性を感じてほしかったんです。誰でも苦手意識があるのは普通だと思うので、それはしょうがないと思うんですが、出来ることが1つ増えれば生存の可能性が若干でも上がると思うんです」

話しながら魔法を解くと、息を吐きながら、ゼゼホはそっとこちらを伺いながら質問を投げかける。

「・・あ、あたし達死ぬ可能性そんなに高いの・・?」

・・・グリミス程の災厄と呼べるようなのに遭遇した経験があるのに、今更?と思ったが、寧ろこの位楽観的でいられたから、これまでザナン達の無茶な戦い方に連いて来れたのかもしれない。

「今回のグリミスみたいな災厄のようなのに遭遇したのは初めてで、今回が偶々運が悪かっただけって思ってたなら、それは間違いだね。さっきの話聞いて思ったんだけど、絶体絶命の時に、割って入ったでかい人型ってこれから魔王討伐にいく正にその標的が、そのでかい人型って可能性は十分にあると思うよ。グリミスはどこで発生しても、絶対に討伐対象にされるから、キガン集落でも同じだと思うんだ。物語では軍を編成して討伐に出向いて全滅した逸話もある位脅威として昔から認定されてる魔物だから、キガン集落の英雄、つまり僕らからすると魔王が直々に討伐に出向くのは十分に考えられると思うんだ」

「魔王が英雄???」

「うん・・?・・あぁ、そっか。ごめんごめん。」

勇者と魔王の定義について、ギルド以外の人間種は殆どが、魔王とは悪の帝王であるという認識しかもっていないのだ。元々の天之川 焚慈の頃の知識と、レーゼとの幼少期からの語らいで、どうもその辺りは失念してしまう。

「ゼゼホさん、僕の言葉は異質に感じるかもしれないけど、これは世界に拠点を広げてるギルドの人間や、国を跨いで活動する力ある有名な冒険者達には周知の事実なんだ。国の最も力ある者を勇者と呼び、敵対する相手の勢力の勇者を魔王と呼ぶ。そして複数の国や種族を相手に単独で敵対する勢力の勇者を魔神と称するんだ。だから僕らが、魔王と呼ぶ人物はその地域の住人達からすれば、僕らが勇者を英雄視するように、彼らにとっては勇者なんだよ。今さっき出会った僕の言葉が信じられないなら、ギルドのトンビルさん辺りに聞いてみるといい。」

「トンビルさん?リャンさんじゃなくて?」

「リャンが良いならリャンでもいいよ。この話について、嘘をつく理由がリャンにはないだろうしね。ただ、トンビルさんは今はギルドの素材の引き取りとかその程度の仕事をするだけの人に見えてるかもしれないけど、現役の頃は結構活躍してたみたいだから、そういう世界観の話はリャンよりも豊富だと思っただけだよ」

・・リャンに聞くと、ゼゼホさんに余計な事を吹き込む可能性もあるように思ったのもあるが。

「じゃあ、明日トンビルさんに聞いてみていいかな?」

「それで、ゼゼホさんが納得できるなら、聞いてみなよ。こういうのは知らなくても生きていけるかもしれないけど、今回の魔王討伐に取り組むとか、冒険者として、高みを目指すとかって言うなら、知っておいた方がいい話だよ。」

「ルージュくんはどうしてザナンさん達ですら、知らないようなそんな話を知ってるの?」

「ザナン達はそんなことも知らないのか・・僕が知ってるのは、昔物語が大好きな友達がいて、色々教えてもらったんだよ。そして、父さんも僕の生まれる前は冒険者だったみたいで色々話を聞かせてもらったんだ。そして、こういう話を知っている人は高位の冒険者や有名なパーティーばかりだった。・・少し話が逸れたけど、僕からしたら知ってて当たり前の話なんだ。」

「そ、そうなんだ・・とにかく、話が私には大きすぎてちょっと整理できないから、今日は休んで、明日トンビルさんに聞いてみるね!じゃあ、また!」

『本当は私が色々教えてあげる!って思ってたのにぃ・・・でも嘘ついてるような目じゃなかった・・ルージュくんが言うように、もしかして今まで命を落とさなかったのは運が良かっただけだったのかな・・グリミスの時は生存本能が全力で警告を出してた・・そうだよね、さっきのリャンさんの話だと魔王討伐に向かう前にグリミスにもう一度挑んだらみたいな話ぶりだったし、もしかしたらまたグリミスと対峙する可能性もあるんだよね・・それに勇者と魔王・魔神についての認識の仕方が私の周りと全然違った・・しかもそれがギルドの人達や高位の冒険者達では当たり前の知識って・・うぅ・・わかんないよぉ・・それに、さっき声を出せないようにルージュくんが魔法をわざと掛けて、体験させてくれた時も怖かった・・なんであたし今までこんな大事な事考えてこなかったんだろ・・』

ゼゼホはまとまらない頭のまま、家路に着いた。


トンビルさんなら、うまく話してくれるだろうな。通信魔法をゼゼホに教えることはできるだろうか。

まぁあの感じならゼゼホには時間をかければ教えられるかもしれないし、教えられなくても、連携は取っていけそうだ。

問題はやっぱり残りの二人。ザナンとチソエだ。あの二人は取り付く島が今の所ない。

戦闘を一緒にしていく中で、信頼関係が出来ていけばいいんだが・・。サラの評価が今回は外れてくれることを願うばかりだ。



朝、ギルドに着くと、討伐組が昨晩戻ってきたと職員が話しているのを聞いたトンビルは、誰も死亡してない様子に胸を撫で下ろしていた。

今回のルージュの件でもリャンに余計な事をさせてしまったとトンビルは頭を抱えたが、その前のゼゼホもトンビルが、登録仕立ての冒険者にしては相当優秀だったので、喜んでいたところをリャンが討伐組にねじ込んでしまったのだ。当時は今程悪い噂はなかったが、それでも身の丈以上の依頼、というより手配書に挑むことでギルド内では扱いに困っていたパーティーだった。依頼と違って手配書のモンスターなどは証明となる素材や討伐後の現地調査で確認が取れれば完了となることから、ギルドの承認無しに挑戦が出来てしまうのだ。ギルド長として、冒険者が無謀な挑戦を諫めるのも仕事だが、冒険者の死亡者が多いと、当然ギルドとしての評価を落とすことになるので、諫めても聞かない討伐組には止めるよりも、優秀な人材を投入して生存力を上げる方向に変更したのだ。

とは言っても、コロ町は割と穏やかな地域なので、腕っぷしが良かったり、冒険者としての勘の良い人材はどうしても少なかった。そんな中でゼゼホは探索方面での資質が高く、アタッカーしか居ない討伐組には入れておきたい役割の人材だったのだ。討伐組が戻って来る度にトンビルはゼゼホの生存確認をしていた。自分が一冒険者として優秀な人材に出会えたことに喜んだのは、元冒険者としてはしょうがないが、その為に、若い芽を摘むことになってしまったりしたら、自分の責任も大きいとトンビルは思っていた。

そして、戻って来る度にトンビルはゼゼホに教えられることは都度色々教えていた。生存の可能性を上げる為の技術や知識、その他にも旅が快適になるようにするための雑学や、動物の解体の実演など、討伐組に入れるキッカケに多少なりともあったことからくる罪滅ぼしの気持ちもあって始めたことだったが、元々の資質がゼゼホにあるものの、要領の良いゼゼホは教えたことの吸収力が大変良かったので、トンビルとしても教え甲斐があったのだ。

そんなゼゼホに何を今回は教えようかと、トンビルは考えていた。職員達の話によると、明日の昼には王都に向けて出発すると昨晩ザナンがルージュに言ってたとのことなので、時間もあまりない。どうしたものかと考えていると、ゼゼホが走ってやってきた。

「トンビルさーん!!」

「おぉ、ゼゼホ!今回も無事に帰ってこれてよかったなぁ!」

「アハッ、トンビルさんお父さんみたい!」

「カッカッカ!そりゃ嬉しいことを言ってくれるわい!・・今回も色々教えてやりたいと思っておったんじゃが、聞いた話によると明日の昼にはすぐに行っちまうんじゃろ?」

「あー、うん。あの二人がさっさと魔王討伐に行くんだって言ってるからね・・。それで、今回は私からトンビルさんに色々教えてほしいと思って今日は来たの!」

ゼゼホから改まって来たのは初めてだったので、トンビルもどうしたのかと思っていたが、話を聞いてすぐになるほどと思った。ルージュから聞かされたことが真実なのか(これはゼゼホの顔色からするに、もう殆ど疑っておらず、トンビルにはただの最終確認というだけの目をしていた)、そしてルージュの力量や言われた通信魔法の有効性についてなど、確かに彼女がこれから魔王討伐という危険な依頼に出るにあたり、解消した方がいい問題、認識を変える必要性など、出発前にしておかなければならないことばかりだった。

『ルージュ自身が出来ることと、その後の儂が務めるフォローの部分ってことじゃな。リャンの所に聞きにいかずに儂の所に、この話を聞きに来たって言うのも、ルージュの意図によるもんじゃろうな。あやつは儂がゼゼホに申し訳ない思いを持っているのは知らんじゃろうが、これは儂がちゃんと教えてやらにゃならんこっちゃな。』

「ゼゼホ、ルージュの話を正面から否定せず、ルージュの話に正当性がある可能性によく辿り着いたな。普通はそんな発想にはならん。その可能性を感じて、儂に確認に来れたというだけで、お前さんが冒険者として成長したという証じゃ。」

「じゃ、じゃあやっぱり、ルージュの話は・・」

「その通り、本当じゃ・・何じゃ、驚かんのじゃな」

「・・昨日はじめて言われた時は混乱したし、暫く整理出来なかったけど・・ルージュくんの目は嘘をついてなかったし、ギルドに確認してみたって良いって真面目な顔してたんだもん。バレる嘘つく意味なんてないじゃないっすか・・」

「そうか、それと危機感が足りてなかったっちゅうのは、多少はある。ただ今回のグリミスはもう出発しちまったから、声かけてやれなかったが、無謀じゃった。これまでの手配書の奴らとは比べ物にならなかった筈じゃ。そういう意味でも、ルージュがいう生存確率を上げるために、出来る手段を増やすのはいいことだ。通信魔法についても地味に思うかもしれんが、覚えてれば手札が一枚増えるからの。そして、ルージュは教え方がうまい。恐らくすぐにゼゼホも初歩はできるじゃろう。緊急時に使う事の想定をしてるなら、精度や広範囲のようなことまでをルージュは求めてないだろうしな。」

「・・そうなんだ・・怖いなぁ・・」

「今までそれを今程感じてこなかったのは、お前さんが優秀で、ある程度の脅威には対処出来ていたからだな。そしてグリミスは今回のように狙って行かない限り、普通は出会わん部類じゃ。偶々出遭っちまったなんてのは正に事故でしかない。が、熟練の冒険者や勇者と呼ばれる部類の人間達はそのくらいの危険を常に想定しながらいるもんなんじゃよ。今のその怖さを大事にせい。その怖さがあれば、今まで以上に用心して物事に取り組める。それと・・魔王や魔神については、今までの価値観が崩れることかもしれんが、相手側からすれば、こちらの勇者は魔王と呼ばれるというのは、その場で戦うことになった時に知るよりも、出発前に動揺しても整理できる時間があったのは良かったと思えばええ。」

「うん・・でもこのことザナンさんや、チソエさんは知ってるのかな‥知らないなら先に私みたく教えて上げた方がいいのかな・・」

「いや、恐らく知らんだろうが、知っても知らなくてもあの二人は変わらんじゃろう。単純なタイプじゃからな。知らんくても、「何を寝言ほざいてやがる」と言うだろうし、先に知っても「他所の事なんかどうでもいい!俺らにとっちゃあ、魔王でしかないだろうが!」という反応するのが目に見えてるわ。チソエも同じじゃろ。戦闘中に知っても反応せんじゃろうし、先に知っても「興味ないですね、討伐対象には変わらないんでしょう?」とか言いそうじゃ。ゼゼホみたいに優しい心を持ってる人間は先に知っていた方が良かったと思うがね」

「うぅ・・確かにあの二人はそれ言いそうだなぁ・・うん、じゃあ、時間ないしルージュのとこ行って通信魔法教えてもらってくる!」

ゼゼホはトンビルに礼を言うと、手を振りながら走って行った。

「・・にしても、ルージュの奴は戻ってきても顔みせんのか!・・まぁ、サラちゃん達の事を思えば、ギルドには来たくないか・・リャンの奴にも頑張ってほしいと思うが、どうもあいつのやり方とは儂は合わないのかもしれんなぁ・・」



昨日、ギルドには顔を出したし、サラに会うのはもう問題ないと思い、訪ねてみると中から走ってサラが出てきた。

「ルージュ!何かあった!?」

「いや、取り敢えず昨日ギルドに顔は出したから、今訪ねても不審に思われることはないと思ってね」

「そっか・・私の方はまだアーメックさんっていう人は訪ねて来てないわ。」

「あー、多分明日か明後日くらいだろうと思うよ。僕と違って、小隊とは言え、人数居るから時間はある程度掛かっちゃうと思う。俺は明日の昼には王都に向かうってことらしいから、取り敢えず今は挨拶をしに来ただけだから」

「立ち話もなんだし、良かったら・・」

言いかけた所で後ろから、ルージュを大声で呼ぶ声が聞こえてきた。

「??」

「・・あぁ、気持ちは固まったのかな。サラ、慌ただしくて悪いんだけど、ちょっとやらなきゃいけないこと出来たから、おじさんにはよろしく伝えておいて」

言い終えた所で、ゼゼホが丁度良く到着した

「ルージュくん!お邪魔なのは見てわかってるっすけど、昨日言ってた話、あたしを特訓してほしいっす!」

「そうだと思ったよ。サラ、彼女のことは知ってると思うけど、討伐組のゼゼホさんだよ」

「サザーランさんっすよね!ギルドでは時々顔合わせてるから、知ってたっすよ。寧ろ、サザーランさんとルージュくんが親し気な方が、意外でしたっす。あ、あとルージュくん、あたしのことはさん付けはしなくていいっす。こそばゆいんで!」

ゼゼホはカラカラ笑いながら話している。特訓のお願いの所は目が真剣だったが、普段通りの人懐っこく気さくな印象を見るに、もう怯えた所は乗り越えたんだろう。サラも頷きながら、「わかった、じゃあまた」と送り出してくれた。


「ルージュくん、出発前の楽しいひと時を邪魔しちゃって申し訳ないっす」

「僕の事もルージュでいいよ。それに元々、今後の為にも、ゼゼホには通信魔法を初歩でもいいから覚えてほしいと思ってたから、やる気になってくれて嬉しいよ」

「わかったっす!じゃあ、あたしもルージュってこれから呼ぶっすね!・・サザーランさんのことはいいんすか?自分で言うのも難ですが、邪魔しちゃったっすよね?」

「友達に挨拶しておきたかっただけだから、大丈夫だよ。挨拶は済ませたし」

「・・あれ?恋人ぉ的なのとかじゃないんすか?」

「まぁ、この年代だと男女が二人で話してたらそう思うのはわからんじゃないけど、純粋な友達だよ。」

「・・ルージュってなんだかおっさんくさいっすね」

「・・まぁ、おっさんかどうかは置いておいて、気が許せる長く付き合える友達って恋人つくるより貴重なことだと思うよ・・」

「・・からかっただけっすが・・本気でおっさんっぽいすね。ルージュの年齢的に長く付き合えるって言ったってたかが知れてるっすよ・・憧れの人がおっさんとかなんすか?」

「・・ゼゼホ・・結構ズカズカ失礼な事言ってるって気づいてる??」

おっさんを連呼され、イジリから段々悪口っぽく聞こえてきたので、流石にピキピキしてきたが、ゼゼホもルージュの声のトーンが一段下がったので、察してゴメンっす!と、てへぺろで誤魔化した。

『・・この世界・・っていうか、アニメとか以外で素でてへぺろする奴始めて見た・・こういうの許されるのキャラによるんだろうなぁ・・』などと、毒気を抜かれて違う事をボンヤリ考えながら、取り敢えず通信魔法の特訓は厳しめにしてやろうと内心悪い笑みをしながら、特訓を開始した。



日が暮れるまで、あれから特訓し、ゼゼホは疲れ切っていたものの、初歩どころか、普段の会話程度なら問題なくできるまでになっていた。声が届く範囲程度の距離なら、ハッキリと聞き取れる。

「思った以上に出来るようになったじゃん」

「・・ホントかなぁ、気のせいかルージュに気合が入りすぎてたんじゃない?」

口角をピクつかせながら、ゼゼホはグッタリしている。

「俺が気合入ってようが、入ってなかろうが、出来るかどうかはゼゼホ次第だから、教えたように出来るようになったのは、ゼゼホの努力と元々の資質の問題だよ。自分の頑張りを誇っていいと思うよ」

「・・うん、ありがとう。でも、通信魔法は出来るようになったけど、選択肢が1つ増えただけなんだよね。もっと色んな事出来るようにならなきゃ・・!」

昨日までのただの楽観や怯えてるだけの表情ではなく、そこにはこれまでには無かった生き残る為、出来ることを増やそうとする真剣さがあった。

冒険者としての心構えが間違いなく成長した様子に見受けられた。

「・・そうだね、まぁ道中にも連携取っていく必要はあるし、お互いに研鑽し合っていこう。」

「ッス!」

ゼゼホはニカッと笑った。夕焼けを背に、一つ出来ることを増やす為にやりきった彼女の笑顔は、それは実に綺麗な画のようだった。











              ⅲ―6


あの後、ゼゼホと別れた後に、今後の自身の食糧の為に、インパルを5頭程狩り、解体を済ませ、自分の空間に保存もしたので、暫くは野宿しても困らない。準備は万端だ。

 あとはゼゼホは問題ないとして、他の二人にパーティーとしての各自の役割と、パーティーのルールを確認しておく必要があるかな。報酬分配もどうしてるのかとか。飯屋のハンダで出発前に確認しておこう。


遅くなってイチャモン付けられるのも嫌だったので、割と早めに飯屋に入ってちょっと遅めの朝食を食べていた。


カランカラン


「うん?新入り、早いじゃねーか!良い心掛けだな!」

「・・あら、心掛けはいいじゃない」

二人揃って入ってきたわけじゃないが、続けてチソエも入ってきた。

二人が来ると、店員はいつも注文が決まっているのか、まるで執事かのように、席に着いて間もなく出来立ての炒飯と肉の丸焼きをテーブル置き、チソエにはふっくら出来立てのバターロールのようなパンを置いていった。

「新入り!・・ルージュっつったか?戦闘中にさん付けとかされんのは聞き取りづれぇから、基本全員呼び捨てにしろ。いいな?」

こちらとしてもその方が楽なので、これはありがたい申し出だ。

「わかりました」

チソエともここは共通認識なのか、チソエは会話に参加することなく、パンを少しづつ食べている。

「戦闘のことは、戦闘しながら学べ。」

「・・・」

見て学べ主義かぁ・・もうこの時点で嫌だよ・・。

すると、店の扉が勢いよく、ガラン!と開いた。

「寝坊しちゃいやした!!遅れてすんません!!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


昨日習得したばかりの、通信魔法をごく自然にサラッと使いこなしているゼゼホに正直面喰ってしまった

「ったく、お前はいつまでそんなん何だか・・!」

「いやぁ、すんませんっすー」

ゼゼホも席に着くと、ザナンが今後の予定を語り始めた。

まず王都に向かい、リャンの推薦状を持って王都のギルド長フンゴを通して、国王に謁見する。その場で勇者一行として認定を受け次第、グリミスの討伐、そしてキガン集落の魔王オウズ討伐が討伐組の予定となる。

ゼゼホは神妙な面持ちで聞いていたが、ザナンが話し終えると、静かに口を開いた。

「・・ザナンさん、魔王討伐はあたしが入った時から聞かされてた話っすから、いいっすけど、グリミスはやめませんか?少なくとも、魔王討伐と並行してするような楽な相手じゃないっすよ」

口は悪いものの、それまでそこそこ上機嫌だったザナンの雰囲気が変わる。一瞬鳩が豆鉄砲を食ったようなしていたが、徐々に不機嫌な雰囲気に変わっていく。

「・・・ゼゼホ。お前いつからそんな経験豊かになったんだ?」

「経験はザナンさんやチソエさんには全く及びませんが、この間のグリミス戦・・!」

ゼゼホがグリミス戦について話し始めるや否や、ザナンはゼゼホの口を手で掴んで、顔を近づけると低い声で脅す。

「それ以上話すな。頭の悪ぃお前でもわかるよな?」

「で、でも命とどっちが・・」

「そんなもん、冒険者として、ましてやこれから魔王討伐に向かうやつが気にすることじゃねぇだろうが!!」

「あれは、私たちが不意を突かれてしまったから、後れを取っただけでしょ?」

「それに、リャンが言ってたじゃねーか。アタッカーとしての俺らの素質は問題なかったが、サポートがいなかったのが問題だったってな。それで今回それを入れて挑むんだ。十分に勝算があるじゃねーか!」

「で、でも!ルージュは確かに優秀かもしれないけど、まだ実際に一緒に戦闘したわけじゃないし、そこ見てからでも・・!」


ガシッ


「・・ルージュゥ・・新人が、俺の拳止るたぁどういうつもりだ?」

ザナンが本気でゼゼホの顔面を殴ろうとしたところを、軽く拳を掴み止める。

「理由はどうでもいいけど、拳で黙らせようとするのは、カッコ悪いと思っただけだよ。勇者になるんだろ?情けない勇者として語り継がれたいのか?」

「!!」

ザナンは激情に任せて、今度はこちらに本気パンチを仕掛けてきたが、当然それも止める。

「!!!・・なっ・・(こいつ魔法使いじゃねぇのか!?しかも補助魔法の後衛だって話だったじゃねぇか!?)」

チソエも魔法を準備しているのが、体を覆っている魔力から視て取れたが、取り敢えず無視して言葉を続ける。

「拳で解決しようとするのは、自分に正論がないことの証明をしているようなものだ。チームの方針は理解したし、ゼゼホの思う所もわからなくはない。グリミスの件は僕はその場にいなかったからわかんないけど、実際に戦闘を一緒にまだしてないのは事実だから、それは道中実践を踏まえながら、考えていけばいいんじゃない?・・・どうゼゼホ?」

「え・・?あ、あぁ、うん。そうだね」

突然話を振られて、ゼゼホはボンヤリ答えていた。

「ザナンもそれでいいよね?で、僕の方からも新人だから確認しておきたいんだけど・・」

報酬分配やパーティーのルールについての確認をした。

報酬分配については、曖昧なものしかなかった。

ザナンとチソエがアタッカーなので、一番装備などに金が掛かるという名目の元、これまでは二人が各4割、残り2割をゼゼホにしていたという。

ルールについては、食事は各自で用意するのが基本だったらしい。危険地帯での休息は見張り役を一人用意して残りは休息に専念するという流れで、ここは普通だった。

ゼゼホについては、駆け出し冒険者の面倒を見てやってるんだから、報酬を分けてやるだけ感謝しろという言い分の様だ。

「当然、お前だって駆け出しだからな。ゼゼホと分け前を折半するんだな。」

・・こいつ、殺したら魔王討伐やめていいだろうか?・・いや、サラのこともあるし、○○〇のこともある。〇〇〇を危険に晒すわけにはいかない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


そういう事じゃないんだよなぁ・・

イライラが募っていたが、ㇷとザナンの背後で入口から真っ直ぐにやってきて、通り過ぎずに立ち止まっている足に気が付いた。足から見上げるとそこにはトンビルが居た。


「ほほぉ・・ゼゼホ、お前今までそんな扱い受け取ったんか」

「「!!!」」

ザナンとチソエは、その声に心底驚いた様子だ

「じじい!いきなり出てくるんじゃねー!!・・それに、パーティー内の分け前のことなんて、ギルドが口を挟むようなこっちゃねぇだろうが!!」

「そ、そうですよ!私達のパーティーの内情に口を挟むことではないでしょう!?」

「ルージュについては、まだ評価できないのはわかるが、ゼゼホについては、少なからず戦闘や過ごしてきたじゃろうが。今ゼゼホに抜けられた場合、同じように快適に過ごせると思っとるのか?ゼゼホが入ってからと入る前を思い返してみぃ。それでも評価が変わらないなら、まぁしょうがないわな。その場合は、儂はギルド職員として、ゼゼホにより相応しいパーティーを紹介しちゃるわ。」

「なっ!?ギルド職員がパーティーから引き抜くってのか!?そんなの・・!」

「黙らんかっ!ゼゼホは儂が見出した冒険者じゃった。しかもお前らのパーティーに入ってからも戻って来る度に儂が色々必要な技術や知識も教え込んできたんじゃ!ゼゼホが優秀なのは儂が一番知っておる!それをこんなぞんざいな扱いをされていたとはな・・!はらわたが煮えくり返りそうじゃ・・!エェ?ザナン?ゼゼホはそんなに無能なのかのぉ?」

「・・ぐぅ、勝手にすりゃあいいだろうが!だがなぁ、リャンは俺たちを勇者一行として、推薦するともう動いてんだ!この魔王討伐が終わるまでは、ゼゼホもそいつも来ざるを得ないわけだ!!俺たちだって、こいつらを名指しで迎えたわけじゃねぇんだ。お互い、契約としての付き合いってことだ。魔王討伐後の身の振りなんて勝手にすりゃあいいさっ」

「・・ゼゼホ、ルージュ。戻ってきたら、儂が責任持ってお前たちの待遇の改善をしちゃる。悪いが堪えてくれんかの」

「ったく、お前ら、もう王都に向かうぞ。仕事する気があるんならサッサと来いっ!」

ザナンとチソエはサッサと出て行ってしまった。

「・・トンビルさん、あたしは本当に気にしてないから・・」

「馬鹿たれ!何で言わなかったんじゃ・・いや、今まで儂が疑問に思わなかったのが悪かったな・・本当にすまなかった・・ルージュも本当に悪いと思っちょる・・すまないが、ゼゼホを頼めるか」

トンビルの目からは大粒の涙がボロボロ零れていた。本当に知らなかったようで、先程までのトンビルの剣幕は凄まじかった。娘がいじめられていたことを初めて知った親のような雰囲気だった。

「・・最大限努力するよ。ただ、標的が標的だから、確約はできない。僕も出遭ったことがあるわけじゃないしね」

「ハハハ、そりゃそうじゃ。野生のグリミスや野生の魔王なんか居てたまるか」

「よし、じゃあゼゼホ行こう。あいつら本当に置いていくだろうし、それを口実に後で何か言われるのも癪だしね」

「うん、トンビルさん、あたしは本当に大丈夫だから!じゃあ、行ってきますっ!」

ゼゼホは精一杯の笑顔をトンビルに向けて、出て行った。






              ⅲ―7


ゼゼホとは、普段から通信魔法で会話するのが日常になっていた。

連携も問題ない。

問題なのは、当然ザナンとチソエだ。

仕事と割り切って声を掛ける。

「ザナン、役割を把握する為に、ザナン達の普段の戦闘の様子を何回か僕が参加せずに見せてほしい。」

「・・はぁ?参加しないでどうすんだ!」

「ザナンは戦闘職だから、身体強化とかを魔法としては使うと思うけど、強い魔力で掛ければいいってもんじゃないんだ。身体強化に対象の身体能力が付いてこないくらい強い魔力で付与してしまうと、骨が砕けて攻撃するどころか自傷してしまうんだ。だから、補助魔法は仲間の身体能力を正確に把握してないと、補助するどころか、パーティーを崩壊させてしまうんだ」

「・・チソエはそんな面倒くせぃこと言ったことねぇぞ」

「チソエさんは魔法アタッカーなんだろ?だったら全力でぶっ放せばいいだけなんだから、こんな説明する必要ないだろ。それにチソエさんだって、同じ魔法使いなら今の話は分かる筈だよね?間違ったこと言ってる?」

「知らないわよ。あんたが言うように私は魔法アタッカーで補助魔法役じゃないのよ。補助魔法はあなたの分野なんだから説明を私に求めるのは、仕事の放棄じゃなくて?」

「だとよ」

チソエはプイっと「知―らない」という様子で、話を打ち切ると、ザナンはニヤニヤし始めた。

「・・ザナン、今のチソエさんの話聞いてなかった?彼女は「補助魔法は俺の分野」だって言ったんだよ。つまり俺の分野だから俺に話せっていうことは、俺の言うことを聞けってことじゃない?」

「・・は?」

「だってそうでしょ?専門分野ってことは認めたわけでしょ?じゃあ俺の話を聞かないなら誰の言うことを聞くって言うのさ?」

「っせぇな!ゴチャゴチャ!テメェは戦闘始まる前に補助魔法すりゃあいいんだよ!」

「・・つまり、勝手に補助魔法かけていいってこと?ザナンもチソエも。」

チソエは相変わらず知らんぷりを決め込み、ザナンは変わらずオラついている。

「さっきからそう言ってんだろうが!ったく、補助魔法使いっての言葉が理解できねぇのかぁ?」

() ()()()() ()()

・・それ、こっちのセリフだよ。言葉通じない・・昔レナリヤにしたのを、もう少し荒くやるか(ストレス発散も兼ねて)


ベキッボキボキボキッゴキッゴッゴッ

「っっっぐがぁああああぁあぁぁあおぉぉ!!!!」


「あぁぁっぁぁああぁぁぁぁ!!!」


ザナンには身体強化で死なない程度で掛け、体中の骨を全身複雑骨折を、その場で起こし、チソエには魔力回復を強めに掛けた。チソエは魔力が身体内部で暴走し体中の至る所から出血を起こし、視界はチカつき、意識が途切れそうなのに、途切れないギリギリを保ち、痛みから逃れられない地獄のような体験をしている


「これを戦闘が始まる時にかけてもいいのかい?いやぁ、二人はとっても優れた冒険者だから、この程度の強化で身体が壊れるなんてことはないとは思うんだけど・・何だか痛そうだねぇ・・」

「る、ルージュ!流石にマズいって!」

ゼゼホは目の前で突然始まった地獄絵図に目を見開き、止めに入る

「いやぁそうは言ってもさぁ、補助魔法は勝手にしろって言われたしねぇ・・・はぁ、まぁゼゼホがそこまで言うなら、少し話を聞いてみようか」


ザナンを途中まで回復し、話せる程度まで直す


「て、てめぇ・・!一体どういうつもりだ・・」

ザナンは痛みに顔を歪めながら、こちらを見上げてまだ吠える。

「・・うーん?まだ強化が足りなかったのかなぁ??いやいや悪かったね、てっきり身体が保たなかったのかと思ったよ」

「!?ち、違う!!そうじゃねー!!・・お、お前が言う通りだった!!確かに専門分野の職として、パーティーに入ったわけだし、ここはお前の意見を聞く所だった!!」

こちらの言葉が言い終わる直前で慌てた様子で、ザナンは捲し立てた。


「・・ふーん・・じゃあ次はもう一人はどうかなぁ?チソエさーん、魔法アタッカーなら魔力の消費は激しいでしょうし、ふんだんに魔力回復を掛けてみたんですけど、どうですかぁ?今なら大魔法でもガンガン使い続けられるんじゃないですかー??」

チソエはまるで聞こえてないようで、絶叫が続いている

「・・もしかしたら、魔力が多すぎたんでしょうかねぇ?少し少なくしてみましょうか。身体も損傷しているように見えるし、話が聞けるくらいには直しておきましょうかぁ」

わざとらしく、演技がかった台詞回しで言葉を続け、宣言通り少しだけ直す。


「っっ、はぁっっ、はぁ、はぁ、はぁ・・」


「チソエさん、魔力は足りてました??チソエさんさえ良ければ、戦闘始まる瞬間に今の補助魔法を掛けるので、攻撃魔法バンバン撃てますよ」

ニッコリ笑顔で優しく語り掛ける

「ヒィ・・!」

「・・おやぁ?返事が聞こえないなぁ。・・そっかぁチソエさんは寡黙だもんね。これは僕が先回りして率先してサポートしてあげなくちゃ、ダメですよね。いやぁ失敗失敗・・」

「・・!?ちち、違う、わ!違うの!!わ、私もどのくらい強化してほしいかとかちゃんと擦り合わせが必要だったわねっ!!ザ、ザナン!戦闘が起きたら何度かルージュには観戦してもらって、どういう連携ができるかちゃんと話し合うべきだと思うわ!!」

「そ、そうだな!!強化ってもんがこんなに擦り合わせが重要なもんだとは知らなかった!何せ、今まで俺達には補助魔法役はいなかったからな!」

・・こいつら、ここまでされて謝罪の言葉だけは頑なに出さないな・・ある意味大したもんだ。

もがき苦しんでいた二人を、冷めた目で暫し見下していたら、ゼゼホが袖を引いてきた

「ルージュ、二人も補助魔法について少しは理解できたみたいだし、取り敢えず、進もう?いつまでもここでこうしてたら、魔王討伐がいつまでもできないもん」

「・・はぁ・・じゃあ、取り敢えず戦闘を数回観戦させてもらって、その後、それぞれの適正な強化を試すっていうのでいいかな?」


二人はまるで打ち合わせを事前にしてたかのように、激しく首を縦に振っていた。

その後一応もとに直してはおいたが、驚いたことに、二人は全く凝りてないようで、戦闘の観戦をしていると事故を装ってチソエが魔法を当てようとしてきたことも、度々あった。二人の連携は見事で、ザナンとチソエで敵を挟み、ザナンが背でチソエを隠して攻撃魔法を放ってくるのだ。

その度に避けたり、魔法をずらしたり、シールドで防いだり、魔法を握りつぶしても見せた。

握りつぶした所で、チソエの顔には絶望の色が浮かんだ。

その顔を見たザナンは、チソエ程ではないにしろ(実際に自分の攻撃が防がれたわけではないので)、諦めの色が濃くなった。


「さて、普段観戦なんてされないから、緊張しちゃったようで、時々、4戦中4回全てで僕に攻撃魔法が飛んできたわけだけど・・」

「そ、そす、そ、そうなのよ!!普段見られたりなんてしないし!ザナンの後ろに人がいるなんて、考えてなくって!!」

「俺も普段俺に飛んでくるのは戦闘中ならあることだろ!?そういう場合は当然避けるんだが、今回は俺の後ろにたまったま!ルージュがいたのが抜けちまってたんだ!そ、それに、お前くらいならどうにかなると思っちまってたのもあったから、お前の位置取りが抜けちまって・・」


パンッ!


両手を合わせて、二人が黙ったのを確認する


「えぇ、それはわかってますとも。で、結構しっかり観戦させてもらったので、擦り合わせをしたいんですよ」

「・・そ、そうか?いや、まだ何戦か見た方がいいんじゃないか?」

ザナンはこの間のが随分トラウマになったようで、かなり怯えた様子だ。チソエもザナンの後ろで首を激しく縦に振っている

「いや、これ以上見ても意味ないでしょう。それにもうそろそろ王都に着きます。私達は契約だけの繋がりとは言っても一応、今は「討伐組」というパーティーです。パーティーのリーダー、勇者役はザナンだろう?ギクシャクした空気はそろそろ戻した方がいいと思うわけですよ。というわけで、専門分野ということで、ちゃんと仕事をします。ザナン、チソエ。次の戦闘で強化するけど、この辺の魔物は大したものがいないから、悪いけど、一人づつ戦ってもらう。」

「一人で魔物と戦うのか?」

「強化するから大丈夫。というかどの程度の強化で倒せるかも確認しておきたい。グリミスがどんなもんかわからないけど、瞬殺された二人はともかく、二人がやられるまで、グリミスの動きを見ていたゼゼホの感想を元に、方針を考えていこうと思う。」

二人が主力である以上、二人の火力がグリミスに通用するようにならないと、意味がない。

「な!ゼゼホにそんなのわかるわけが・・!」

「二人がやられた後、ゼゼホが二人を抱えて逃げられたのは、大型の人型がグリミスに襲い掛かったからだ。その大型の人型の攻撃は、少なからずゼゼホから注意を逸らすだけの警戒水準だったってことだ。それを見ていない二人には、どの程度の攻撃がその水準なのかはわからない筈だ。」

「・・!そ、そりゃあそうだが・・」

「今話してるのは、二人をいじめたくて言ってる話じゃない。「討伐組」として、グリミス・魔王の撃破をする為の真面目な話し合いだ。それを踏まえて、二人に意見があるなら、ちゃんと聞こう」

「「・・・・」」

二人も流石に理解できたようで、文句は出てこなかった


その後、二人の強化を試して最適な強化点をある程度掴むことができた

正直、ザナンのレベルでこの程度しか強化できないのかと、結構残念に思った。流石に戦士が本職なだけあって自分よりは強化できる量が高かったが・・フィールグントはグリミス遭遇前に一応撃破出来たって聞いていたから、もう少し期待していた。フィールグントもピンキリなんだなぁ・・。

チソエは魔力運用が使う魔法に対して、下手で効率が悪かった。魔力回復で折角潤沢な魔力量からの高火力を出せるようにしてあげたのに、全く制御出来ていなかった。その為、これまでの魔法の使い方通りにしてもらって、彼女が魔法を放つ瞬間に、こちらで放たれる魔法に魔力を上乗せするようにして、火力を強引に引き上げた。・・ぶっちゃけ自分で魔法撃ってるのと殆ど変わらない。自分の放っている魔法を彼女の魔法のように見せてるだけだ。彼女自身は自分が放った魔法が、いきなり強力になったように思っているだろうが・・。


「こ、こんなに強化ってのはスゲェもんだったのか・・!」

「わ、私の魔法ってこんなに強くできるものだったのね・・!!」

二人は有頂天になっている。まぁ本当に強化ってものをこれまで経験してなかったようなので、そんなものかと思いながら、王都まで歩を進めた。

王都まではわざわざ戦闘をしたりしながら向かったので、2週間掛かった。普段なら1週間程度が目安の様だったが、パーティとしてちゃんと機能させる為には、必要な時間だった。

ゼゼホは普段から通信魔法で会話して、連携や強化もすぐに出来ていたので、問題は無かった。




王都に着くとそのまま、ギルドに入り、ザナンはフンゴギルド長にリャンからの推薦状を手渡した。

「うむ、討伐組の面々だな。よく来てくれた。こちらの手続きは既に済ませてある。陛下との謁見は明日になるので、旅の疲れを癒すと良い。(こいつが、ルージュか・・。あの通信でこの私に契約魔法を掛けた・・こいつは今回の魔王討伐で生還したとしたら、付き合い方を考えた方がいいな・・はぁ・・リャンの尻拭いで随分と貧乏くじを引かされたな・・)」


ここからは自由行動にしようとザナンが提案し、解散したが、自然とゼゼホと飯屋に入り、ザナンとチソエは二人で人込みに消えていった。


「じゃあ、ルージュ取り敢えずお疲れー!」

「お疲れー」

恐らくエールというものなんだろう。身体的と言うよりは精神的にドッと疲れていたので、身体に染みわたる感じがたまらない。

「っくぅー!!うっまいなぁ・・染みるわぁ・・」

「・・・あたしから、乾杯しといてなんだけど、ルージュ、すっごくおっさんくさいよ、大分慣れた気がしてたけど、その整った顔立ちで中身がおっさんっていうのは・・何ていうか凄いギャップ・・」

ジト目でゼゼホが若干引き気味でボヤいている

「僕は一度だって、カッコつけたり、この見た目を意識したことはないよ」

「いやぁ、意識した方がいいっしょー。」

「意識した僕だったら、どう思う?」

「・・ダメだ。今のルージュで印象固まっちゃってるから、全く想像できない・・」

「それなら、少し僕の印象を変えてもらわなきゃだめだね」

パチンとウィンクをして、ゼゼホの顎をクイッとする

「!!!」

不意を突かれたゼゼホは瞬間湯沸かし器のように顔が真っ赤になったと思ったら、その後急激に鳥肌が立って見た目でわかる位、ゾワゾワゾワっとした様子で青褪めて、ドン引きしている

「ご、ゴメン!ルージュはおじさんのままでいいわっ!!いや、おじさんのままでいて!・・・っていうか、ルージュもしかしてかなり酔ってる?顔色は全然変わってないけど、そういばお腹に何も入れないで、いきなり飲んじゃってたね・・」

「だーいじょうぶっ!酔ってないよ!」

「・・・はぁ、王都に着いたばっかりだから、魔王討伐はこれからが本番だけど、ここまでで大分形にはなってきたよね。」

「・・・・」

「私もそうだけど、ルージュの補助魔法があるだけで、こんなに討伐組全体が強化されるんだなぁって正直驚いちゃったよ」

「・・グリミスには通用しそう?」

「あれ!?酔い冷めた!?」

「真面目な話だったから覚ましたよ。」

「そ、それも魔法なの!?」

「そだね、酔ってる時のはあんまり覚えてないけど、まともな話っぽいなって思って魔法で今覚ました感じ」

「そ、そうなんだ・・(さっきの恥ずかしいのは覚えてなさそう)グリミスについては、今の力なら通用はすると思う。だけど、あの時は二人共、腕の一振りと尻尾の一振りで終わってたから、向こうは全然本気じゃなかったと思うから、倒しきれるかって言うのは正直確証が持てない・・。」

「そっかぁ」

「あれ以上の強化は、二人の身体が持たないんだよね?これ以上火力を高めるには方法はないのかな・・私は攪乱やみんなの回復とかそういう役回りだし・・」

「無いことはない・・けど、それは優れた武具を得るとかそういう感じになるかな」

「そっかぁ・・」

「明日以降王との謁見の際に、良い武具を貰えたりすれば、ありがたいことなんだけどねぇ・・」

「え?そんなことあるの?」

「物語では勇者に優れた武具を与えてくれたり、道中伝説の武具を手に入れたりとかってそういうのはよくあるってだけ。現実にそういうのを下賜(かし)されたりってのはあるのかどうなのか、勇者パーティーに入るのは初めてだから正直わかんないんだよね」

「うーん・・それは・・何ていうか運任せだねぇ・・あ、そうだ!!ルージュ、ここのお代は私が持つからね!」

「え?突然どうしたのさ?」

「だって王都に来るまでずっとあったかい寝床にご飯もずっと用意してくれてたじゃん!!」

「いやぁ仲間なんだから、別にそんなの・・」

「流石にされてばっかりじゃ、私の気が収まらないの!それに仲間っていうなら一応ザナンとチソエだってやってあげても良かったじゃない」

「・・・あいつらを仲間なんて思ったことは一度もないね」


ゼゼホには通信魔法で声を掛けて、色々寝食を提供していた。

自分とゼゼホの人形を用意して、ザナンとチソエには自分達がそこにいるように見せかけ、魔法で警戒結界を張っていたので、魔物や動物の対策もちゃんとしてはいたが、ゼゼホからすると快適過ぎて今までの冒険との違いに驚きまくっていた。とは言っても、これに慣れてしまうと、警戒の勘が鈍ると言って、見張り役の時間は忠実に守っていた。


「あの二人とはずっとこんな感じなのかなぁ・・あたしはルージュが来てくれる前まで、ここが初めてだったからキツいけどこれが普通なのかなって思ってたんだぁ・・キツかったけど、二人はぶっちゃけ私が方々に謝って回ったり、フォローしてあげないと、周囲との関係性が築けない人達だって思うと、あたしが「討伐組」には必要なんだなぁって思うと、ここがあたしの居場所かなーって・・って、何さ、その目」

うわぁ・・初めての職場がブラック企業でそれに順応しちゃった人に見えてしまってたら、どうもそれが表情に思いっ切り出てしまっていたようだ

「・・出発する時、トンビルさんがあんなに親身になって泣きながら言ってくれた言葉聞いて・・自分の居場所かなって思ったりもしてたけど、やっぱりキツかったのは実際思ってたから・・自分の為にあんなに泣いてくれたのが嬉しかったんだぁ・・・でも、そうは言っても、「討伐組」で頑張ろうってやってきたのもあったから、せっかくここまで頑張って来たのに、あれだけで決裂しちゃうのは・・何だか嫌だなって・・」

・・・正直、自分の気持ちだけで言うなら、俺はトンビルさんと同じ意見だ。だけど、魔王討伐が終わった後に、パーティーを変わることになったとしても、ゼゼホは恐らく、そういう仲違いしたままでの別れは嫌なんだろう。

「・・あいつらとのことは、これからどうなるかは、正直俺にはわからないし、俺が入る前までの「討伐組」のことも俺は知らないから、何とも言えないけど・・失敗っていう経験は次に活かせるものだと思うよ。新しいパーティーに入った時に、今度はそうならないように気を付けられるじゃん」

「・・・ルージュ、そういう時は一緒にパーティー作ろうぜとかって言ってくれた方が、カッコいいんだぞっ」

小声で俺の額を中指で小突いてくる。

酔いが回っているのか、ゼゼホの瞳がやたら艶っぽく見える

そんな色っぽいタイプじゃないんだが・・何故だかこの瞬間だけ自分がやたら幼く感じた

「・・そうだね・・ゼゼホとなら、パーティー組むのも悪くない。」

ゼゼホは艶っぽかった表情から一転してニカッと笑顔になる。

「言質っ、取りましたぁ!」

酔っぱらってるのもあるだろうけど、ゼゼホは本当に楽しそうだ。さっきみたいな艶っぽい雰囲気があったのには驚いたが、普段からどんなことでも精一杯楽しむことをモットーにしている所こそ、彼女の魅力なんだろうなとボンヤリ眺める

「おい、おっさんルージュになってるぞ!何他人事みたいに眺めてんのさ!君とのパーティーなんだぞ!」

「ハイハイ、それは魔王討伐終わってからの話な」

「ダイジョウブ、ダイジョウブ!!終わりが嫌な感じだったらって気が重たかったけど、ルージュとのパーティーの始まりって思えば楽しみに変わったから、サクサクッと終わらせちゃおっ!」

・・・確かにゼゼホとパーティー組んで、世界を見て回るのは面白いかもなぁ・・少なくともゼゼホと一緒にいて退屈な事はなさそうだとボンヤリ眺めていると視界がぼやけてきた・・

「え!?ルージュ酔い覚ましたって言ってなかった!?・・ゲッ口からよだれ?酒?こぼれてるけど・・だー、最後までカッコつけてよねー!!」


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