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旧交の御使いと愚者の渇望⑶

         ⅲ―3


「おい、ファグス。ハテンサグル―プのトップが動くのはいいが、俺まで強引に連れてきた理由はなんだ?いい加減、話してくれたっていいだろ」

顔面蒼白だが、これが普段通りのようで、男の顔色には触れずに、ファグスが答える

「前に言った通りだよ。この「茶」というものが、ラング公国でも金のなる木になってくれると踏んだから、君にも同行を頼んだだけだよ」

「それは建前だろ?今までだってそんなものは幾らでもあったじゃないか」

「その内の幾つかには、今回と同じように君にも同行してもらったじゃないか」

「ああ、決まって護衛が必要になるものばかりだったな」

「それは、君の得意分野で、君が僕に近付いた理由でもあるんだから、その欲求に応えるのがパートナーってものだろう?」

「そうだな、だからそっちの話の俺に任せたい方の話をいい加減話せって言ってるんだ」

「君だってハテンサグループの代表取締役なんだから、向かう先がどういう所かわかるだろ」

「・・だから、そこを聞いてるんだ。まさかと思うが新しいブリューンズとやり合うなんて思ってないだろうな?流石にブリューンズに手を出すほど愚かじゃないぞ。お前が何か失敗すれば即刻切るぞ」

「ハハ、まさかそんなこと僕がするわけないじゃないか。僕は真っ当に新しい分野の開拓の為に、有意義な視察をしに行くだけさ」

「・・建前はいい。今回ブリューンズに手を出さないと言うなら、俺を同行させた理由はなんだ」

「全く・・まぁ流石にブリューンズの目の前に向かうとなれば、そのくらい警戒するのは当然ではあるか・・確かに、この「茶」という物も今回の目的なのは本当だ。そして、ケッセル。君が言うように他にも目的はある。君の読み通り、君を同行させたのはこっちが本命だ・・ただ・・まだ情報が確かじゃないんだ」

ファグスには珍しく歯切れが悪い。ケッセルと呼ばれた顔面蒼白の男は怪訝な顔をしている

「確かな情報じゃないのに、わざわざ俺を連れてきたというのか?お前らしくない・・」

「ああ、確かにこれまでの僕らしくは無い・・が、今回の情報が確かなら、ハテンサグループは更に規模を大きく広げられるのも間違いない」

「・・?俺が知ってる情報には無さそうな話だな・・勿体ぶらずにいい加減話したらどうだ」

「君はヴァッファゴって化け物を知ってるかい?」

「・・ヴァッファゴ?あの御伽話のヴァッファゴか?」

「フフッ、君ですらその程度の知識なんだな。ヴァッファゴは実在するのさ。それは確かだ。だけど、殆ど本物の話は聞かないのは何故だかわかるかい?」

ケッセルは頭を振り、続きを促す

「みんな殺されてしまうからさ。遭遇者がいたって戻って遭遇したという情報がなければ、ヴァッファゴの情報は広まらない」

「・・それで?その化け物が実在したとして、ハテンサグループの発展と今回俺が連れてこられた理由は?」

「まず、ヴァッファゴの遭遇事例が最近あったってことと・・このヴァッファゴには何かしらの組織が関与しているらしいって情報があったんだよ」

この話を聞いて、ケッセルの涼しい顔が初めて険しく曇った

「おや、どうしたんだい?ブリューンズの話をしてた時だって、そんな顔してなかったのに」

「ブリューンズに絡むなんて馬鹿げた話は、最初からあり得んと確信があったからだ。本当にその気があるんだったら、俺はこの場でお前を事故死にさせてたさ」

「で、本題の話は君には荷が重そうなのかい?」

「・・ヴァッファゴの情報をどこで手に入れたのかは、今更問わんが・・ヴァッファゴだけでも十分ヤバイ話だというのに、そこに組織が絡んでるなんて、明らかに闇組織だろ」

「何を今更。僕ら自身だってどちらかと言えばそういう所の取引も多いじゃないか」

「ヴァッファゴはケィロゥーにしか使役出来なかったとされる伝説の怪物だ。それを制御下に置くことの出来る組織が万が一実在するなら・・今までの相手とは比較にならん。俺達がデカくなるどころか、逆に喰われてしまいかねん」

「おいおい、我がハテンサグループの代表取締役はいつからそんな及び腰になったんだい?」

「そもそも、俺は本物のヴァッファゴを知らんから、確かな事は言えんが・・恐らく、俺では歯が立たん。少なくともお前を守りながらなど、無理だ。せいぜい俺が命からがら逃げられるかどうかだろう」

「・・出遭ったことも無いのに、随分と弱腰じゃないか」

「・・あの方が、仰っていた。「あれは中々面倒な奴だった」と」

「・・・へぇ、それは初耳だ。彼がそんな評価を下すなんて、確かに聞いたことないね」

「それで話は全てか?それなら、今話した通り、この件は降ろさせてもらうぞ」

「ハハハ、それは無理に決まってる」

「何を言って・・」

「フフフ・・ケッセル、君は過去にゴゾフスに関わっていたそうだね?」

突然、自身の経歴に話題を切り替えたことにケッセルは嫌な予感がした。自身の経歴を綺麗に伝えたわけではないが、このファグスという男が、そのくらいの秘密を探り当てること自体は今更驚きもしない。ただ、この時にその話題を持ち出してきたことが、問題だ

「・・何が言いたい?今この話題で関係のある話か?」

「大いにあるね。知ってるかい?最近現れたブリューンズの末子殿にはエルフとドワーフの合成体のご友人がいたそうだ」

ケッセルは話が読めないのか怪訝な顔をしている

「・・混血、ではなく、合成体?・・珍しいご友人をお持ちの様だが、少なくとも私が関わっていた頃にそんな生命体を扱ったことはないぞ」

「まぁまぁ、話はまだ終わってない。この合成体は魔法で合成したもので、身体上は問題なかったそうだが、誕生当初は意識が無く、十年眠ったままだったらしい。そして、十年後の「風が運ぶ祝福の大音響の年の十番目の月」に突然目覚めたそうだ」

ファグスの口調は軽やかで、話し終えるとケッセルに嫌らしい視線を送った

「・・?それがどうしたというのだ」

要領を得ないケッセルは続きを促す

「・・う~ん・・これはちょっと意外な反応が返って来たな。まぁ2回目の失敗だったわけだし、数ある失敗の一つと思ってれば記憶にも残ってないものかね」

ファグスはやれやれと首を振りながら、サラサラの髪をかき上げると、どう話すかと考えてる所で、ケッセルはㇷとある事を思い出した

『・・待てよ、「風が運ぶ祝福の大音響の年の十番目の月」とゴゾフスの2回目の失敗・・それはあの時の召喚儀式のことか?・・確かに時期も2回目の失敗というのも辻褄が合う・・が、「風が運ぶ祝福の大音響の年の十番目の月」に目覚めたというのは、どういうことだ??』

「おや、少し思い出して来たかい?そう、召喚儀式の失敗だよ」

「・・ゴゾフスの中でも最高機密に分類する情報をそこまで正確に集められるとは、つくづく恐ろしい男だ。が、それがどうしたというのだ。それとその合成体となんの関係があると・・」

ファグスは目を丸くして、初めて少し驚いたような顔をする

「・・え?ここまで話して話が繋がらないのかい?・・ケッセル・・君にそんな一面があったなんて驚きだが・・そういうのは女性がするから可愛いのであって、君みたいな蒼白な男がしたって何も可愛くないぞ?」

「・・何を言ってるのか全く分からん」

「・・はぁ、このままシラを切られてもしょうがないから、答えを言おうか・・まぁ言わないでこのまま君が帰ってくれても、それはそれで僕はいいんだが・・まぁこれまでお互いに有益な関係を築いてきたわけだし、友人として話してあげよう」

本当にどうでも良さそうにファグスは話している。

話の展開的に自分を脅している流れなのはわかっているが、脅してでも護衛をしろという必死さがファグスには無い。しかも帰ってもいいとまで言っている・・何を考えてるのか、付き合いは人間としては長い方のはずだが・・未だにわからない男だ

「君たちの召喚儀式は失敗した。が、正確には不完全だったというのが真実なのさ。つまり、君達が召喚儀式で喚び出した魂はゴゾフスの魔法陣ではなく、合成体の身体に定着したってことさ」

「!!馬鹿な!そんなことがあるわけがない!その合成体のことだって今初めて聞いたのだぞ!?それを知らない当時の儀式でどうしてそこに召喚したものが定着するというのだ!魔法の原理でありえん!」

「あー、成程。魔法に長けているからこそ、さっきの僕の話が繋がらなかったわけか。確かに君の信じる定説通りなら、どうしたって話が繋がらないか・・いや、さっきのは僕が悪かった。君を馬鹿にしたわけじゃないんだ」

全く話が噛み合わず、ファグスは見当はずれの謝罪をしている

ケッセルからすれば、そんなことはどうでもよく、ファグスが口にした真実の方が重大だった

ファグスはケッセルのように魔法に明るい訳ではない、が、こいつが口にする情報はいつも正確なのだ

それこそが、ケッセルがファグスの情報をデマだと断言出来ず、続きを聞かざるを得ない心情にさせていた

「そんなことはどうでもいい!それより、今言った話がどういうことか説明しろ!」

「嫌だなぁ、ケッセル。君が一番よくわかっているだろう?僕は魔法に明るい訳じゃないんだ。君に納得させるような講義が僕に出来ると思っているのかい?」

「だが、貴様はその情報を手に入れたわけだろう!?どこで、誰から、どうやって聞き出したんだ!」

「はぁ・・学者や研究者みたいな人種ってのはどうして専門の分野についてになると、熱量高まるのかね。そんなことはどうでもいいんだよ。ケッセル、君が今一番に理解しなければいけないことは、ゴゾフスの召喚儀式で喚び出された魂が、合成体に定着し、その合成体がブリューンズの末子と友人関係にあったということだよ」

「そんなことは!・・うん?何故、過去形なのだ?」

「そこだよ、今その合成体は自身を創った機関から逃走する為、彼らの元を去ったらしい」

「・・それで?何故私に何の関係があるのだ?」

「今の話、その末子殿には貴重な情報に思えないかい?」

「・・ふん、聞かれて困る事でもない。質問されれば全て話したって構わない」

「フフフ・・それなら、それでいいんだ。僕から君に伝えておくべきことはこれで全てだ。あとは予定通り僕に付き合ってくれてもいいし、帰ってもらっても構わないよ」

用は済んだと言わんばかりに、ファグスはそれっきり自分に興味を失くしたようで、持参してきていたサラサーティの茶葉を取り出してお湯を注いでいる

『・・今の話の展開的に、私を脅す流れだったが、帰っても良いという・・戻れば私の知らない所で売られる可能性もあるか・・話が見えんが、私にとって都合の悪い展開になることだけは間違いなさそうだ・・この場で消しておいた方がいいか・・?』

「それはやめた方がいいよ?」

「!?」

聞き覚えのない女の声が頭に響く。まるで実際に声を掛けられたように思ったが、ファグスはまるで聞こえていないようで、何も反応していない。

こちらに全く興味が無いのか、お茶の香りを楽しんでいる

相手が見えないので通信魔法も飛ばせない

「おい、ファグス。お前、俺の知らない女を連れて来てるのか?」

「うん?君からその言葉が出るという事は・・物騒だなぁ、僕に殺意を向けるなんて、長年お互い良い関係を築いてきたじゃないか」

この反応でケッセルは理解した。今回自分を同行させたのは護衛させる為ではない。

何かの目的の交渉手段として連れてこられたのだ

帰っても良いというのは、護衛という意味では既に別に手配済み

それこそ、ファグスなりの善意から、どうするかの判断は任せるということだったわけだ

帰ってしまえば先程察した通り、弁解の余地なく都合よく売られるのだろう

ついていけば、売られるとしても、何かしら抵抗できる可能性があるということだ

「・・私には最初から選択肢など無かったという事か・・」

「いや、僕は本当にどっちでもいいよ。あくまで善意で・・」

最初から売るつもりの奴が、よくも「善意」などと言えるものだ

「よくもまぁ抜け抜けと・・取り敢えず、付いていく。いいな」

「どっちでもいいさ、好きにすると良い」

ファグスは気持ち良さそうに伸びをしながら、窓に目をやる

外は曇天で遠くでは稲光が、雲を駆け巡っている

ファグスの爽やかな微笑みとあまりに似つかわしくない画だが、自分の心情にはピッタリに思うケッセルだった



ケッセルは今後の行程については既に共有済みだったので、そのまま出て行った

「本当にどっちでも良かったのかい?最終ラインは私が受け持つにしても、あいつだって曲がりなりにも魔人だ。帰っちまってたら、私の仕事が増えるじゃないか」

姿は見せずに、女がファグスに問いかける

「その分の支払いはちゃんとしてるんだから、そこは君が楽できるかどうかだろう?僕自身は本当にどっちでも良かったんだよ」

「じゃあ、最初から話しておけば良かったんじゃないの?」

「そこは本当に僕の善意だよ。彼を売るにしても、これまで良い関係を築いてきたのは本当だ。だから、ケッセルには自身で対応できる機会を与えてあげたかったのさ」

「売る気満々の癖に、それって善意って言うのか?」

「・・そうだな・・確かに善意とは少し違うか・・」

「・・そこ、真面目に考え込む所か?」

「いや、本来なら今まで通り何も知らせず、突然切った時の表情を楽しんできたんだけど・・時には違った趣向をしてみたかったんだなって、今気が付いたんだ。成程、僕自身気付かずに新しい果実の楽しみ方を求めていたわけだ」

陶酔したような表情で浸っているファグスを見ながら、女は内心ドン引いていた

『こいつ、裏切りが日常ってサラッと断言した上に、今まで本気であの行動を善意だと誤認してたってヤバすぎだろ・・あんまり深く関わらんようにしないとだな・・私も大概だけど、コイツ程じゃない・・たぶん』

「それはそうと、さっきケッセルに話してた情報って、ケッセル自身も最高機密って言ってたけど、そんなのどうやってお前仕入れてるんだ?」

「それは君の仕事には関係ないことだ・・。うん?・・これは・・待てよ・・。・・!?待て、待て待て待て!!」

突然ファグスは今まで見せたことのない狼狽ぶりで立ち上がると、顎に手を当て、落ち着きなく右往左往している

『突然どうしたんだ?』

女もあまりに突然の豹変ぶりに様子を窺っていると、ファグスは姿を隠してる女の瞳を迷いなくジッと見つめてきた

『!?あいつ、私の居場所がわかるのか!?いや、居場所がわかるどころか目が合ってる!確実に目が合ってる・・あいつ自身も戦闘力があったのか・・!?だけど私を雇ってるわけだし、私を睨みつける意味なんて・・何かあったか・・?』

全く身に覚えのない女は、何も無いのに後ろめたいものがあるような錯覚をし、何かマズったことがなかったか頭をフル回転させていた

「・・君は憧れてる人とかはいるかい?」

「・・は?そんなのいないね!」

女は迷いなく、即回答する。本心だったが、ファグスとの契約がそれなりに長かったことから、そう答えてしまったが、最近憧れた人の事は、この緊迫した状況ではすっかり頭から抜けていた。これが女にとっては幸運だった

「・・・嘘ではないか・・だが、それなら何故・・まぁ、今の情報だけでは判断できないのは仕方ないか。かなり激しめの戦闘が起こるから、心構えと準備をしておけ。必要なら道具の補充や武器の手入れをしに少し出掛けても構わない。ここを出るのは予定通り3日後だ。それまでは私の護衛はしてくれなくても結構だ。しっかり準備しろ」

これまでのファグスのナヨナヨした優男のような瞳ではなく、ギラついた視線が女に送られる

「・・そりゃ、どの程度を想定すればいいんだ?」

「ヴァッファゴ以上だと思え」

「!?おい、冗談じゃないよ!ヴァッファゴなんて無理に決まってるだろ!?いや、ヴァッファゴ1体くらいならどうにかなるかもだが・・それ以上なんてどうすりゃいいんだよ!?」

「だから、今すぐ準備に取り掛かれと言っている。お前が出来る最大限の努力をしろ。金のことなら俺がいくらでも出してやる。取り敢えずこの金を好きに使っていい」

投げ捨てられた小袋には見たことのないコインが十枚入っていた

「?なんだこれ?換金すればいいのか?」

「それは白金貨だ」

「!?!?こ、これ・・!これが白金貨!?ほ、本物なんて始めて見た・・!・・・しかも十枚って・・こんなの国の予算じゃねーか!」

「それだけあれば、金で必要な物は揃うはずだ。幾らでも使っていいから、全力で準備しろ。今すぐだ。私も準備が必要なのでね」











         ⅳ―1


「なぁ、パミラ。そんなに急がなくたって、ハテンサグループの事なら、お前元々情報沢山持ってんだから、依頼分の情報量としては十分だろ。わざわざ、そんな本気で調べ直さなくたって・・」

「っさいわね!無駄口叩くだけなら、謎の女の方をあんたは調べなさいな!その方が効率的だわさ!」

「いやぁ・・謎の女は俺らを助けてくれたわけだし、調査で危険がありそうなのは、ハテンサグループの調査の方だろ・・」

「あたしがヘマするとでも?」

「そんなこと思っちゃないが・・お前が躍起になる理由は一緒にやってきたんだから、わかっちゃいるが・・最新の情報を提供してハテンサグル―プに痛手でも与えてやるつもりなのか?」

ハテンサグル―プとはこれまで、一悶着どころか、何度となくやり合ってきていたので、そういう考えになるのも自然ではあった

「・・それも勿論あったけど・・さっき私達に通信魔法してきたのデケスさんだったでしょ。しかも拒否権は無しとまで言って用件だけ伝えたら即切り」

「あー、なんか急いでそうだったよな」

「バッカねぇ!デケスさんが直接依頼を押し付けてくるなんて前代未聞よ!それだけ重要で、あれだけ慌ててる様子なら重要度が滅茶苦茶高いってことよ!謎の女の調査は正直おまけよ。どうせ、それだけの実力者なら冒険者としてスカウトしたいってとこでしょうよ。あれだけの実力があれば、ギルドには利益しかない人材だもの」

「そういうもんかぁ・・で、どこに向かってるんだ?」

「今回の依頼主の所よ。さっきアンタも聞いてたでしょうが!」

「悪い、パミラにも来てたみたいだからあんまりちゃんと聞いてなかった・・」


ゴッ!


「痛っっつつ・・!」

今までパミラに殴られてもこんなに痛みを感じたことは無かったので、驚いていると、良く見るとパミラの拳にはナックルがはめられていた

「そりゃないだろー!」

「あんたの頭殴ったら私の手の方が痛いんだもの。対策を練るのは当然よ。それにあたし任せでちゃんと聞いてなかったアンタが全面的に悪い!」

二人でギャーギャー騒ぎながら歩いてる内に、パミラは飯屋で足を止めた

「?なんだ?腹減ったのか?じゃあ依頼主に会う前に腹ごなしでもしてから・・」

「っとうに、アンタは・・!ここよ!ここで依頼主と会うことになってんのよ!」

「・・・そ、そうか。まぁ飯食いながらでもいいんじゃねぇか?」

パミラは呆れ、ビチルはご機嫌を取ろうと色々試みては失敗を繰り返しながら、店員に案内された先に褐色肌で眼鏡をかけた理知的な女性がいた。

『ダークエルフか・・』

冒険者のビチルには別に珍しくもないが、ハテンサグループとダークエルフに関りがあるというのは聞いたことが無かった。そもそもダークエルフに限らず、エルフという種族は閉鎖的なものが多く、偶に冒険者や伝説に語られるような者は種族という点では珍しいのだ。寧ろそういう閉鎖的な文化に絶えられず、外の世界に飛び出すような部類が冒険者などになっているという感じだった。

そういう経緯から、個人がハテンサグループをエンドユーザーとして利用することはあっても、エルフという種族の中で取引をするような大口になるような相手ではないので、勢いに乗っているハテンサグループでもエルフには乗り気ではないというのが、一般的な見立てだった。

そういう経緯から、何故フレネミー・ファグスの身辺調査をダークエルフが依頼してきているのかというのが純粋な疑問だった

「お待たせしてしまったかしら?私達が今回の依頼を受けた「金の盃」よ。一応、オリハルコンよ」

パミラは相手には見えないようにビチルを軽く小突いた後、簡単に名乗った

一応、デケスにオリハルコン級だということは伝えるようにと釘を刺されていたので、本来なら一々言わないが一応伝えておく

「いえ、時間通りです。今回の依頼、オリハルコンのお二方にお願いするようなことではなかったかもしれませんが、ギルドの采配に感謝いたします」

『・・へぇ、オリハルコンがわざわざ身辺調査なんか普段はしないことをわかってるんだ・・』

「それで、詳細は依頼人に確認しろって言われて、俺らはすぐ来たんだが・・姉ちゃん・・あ、名前聞いてなかったな。なんて呼べばいいんだ?・・あ、俺は「金の盃」のビチルだ。よろしくな。こっちはパミラだ」

「自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はゼビィ。プンス町のサラサーティの従業員と、一応冒険者登録もしてます」

「サラサーティ?・・あぁ・・聞いたことあるわね。なんでも貴族とかに今大流行だとかなんとか・・」

「はい、おかげさまで。で、早速本題なんですが・・」

ゼビィが話しかけた所で、店員がビチルの前に肉料理を置いて、パミラの前にはパンとスープが提供された

「え?俺らまだなんも頼んでないけど・・」

とビチルが目を白黒していると、ゼビィがサラッと種明かしをする

「お二方が入ってこられた時に、店員に私を訪ねて来る方がいらっしゃったら先に伝えてもらえるように頼んでおいたんです。お食事もまだかと思ったので、見た目でどういうものをお好みか勝手に判断させて頂いて先に注文しておきました。お好みでなければ残して頂いても構いません。代わりに頼んだものも、こちらのお支払いは私がさせて頂きますので、ご安心ください」

ビチルは「うわぁ、出来る女って感じだなぁ!」と感激した様子だ

「それはどうも。それで?その本題とやらは?」

パミラはビチルを無視して、続きを促す

「はい、先程述べた通り、私はサラサーティの従業員です。それで、休暇を頂いたのですが、この旅路でどういう訳か、ハテンサグル―プのフレネミー・ファグスという人物に不自然に何度も遭遇したのです。しかも私の行く先々に何度もです。付きまとわれていたのかとも思いましたが、全てにいるわけではなく、居ないこともあるんです。しかも、私が向かった先に既にいる事もありました。そして、最後に会った時に、お互いの行先を同時に言ったのですが・・私はその時嘘ではありませんが、わざと別の行先を伝えました。私の最終的な場所はサラサーティだったのですが、彼がサラサーティと言ったのです」

「・・そりゃ・・偶然じゃねーのか?」

「・・つまり、ゼビィさんはそう思わなかったってことよね?成程、それで今回の依頼を出したって事か」

ビチルの残念な返しを華麗に無視して、パミラは要約する

「その通りです。魔術的なものとも思えませんでしたし、未だにどうやって行く先々で出会うように立ち回れたのか、想像つかないのですが、最後の行先がサラサーティというのは聞き捨てなりません・・が、現状、彼に何かされたわけでも、こちらに被害があったわけでもありません。なので、身辺調査をして頂きたいのです。彼の能力、彼の思考傾向、サラサーティに訪れる目的です。一応私に話した建前としては、大流行している茶というものを現地で確認してみたいという調査目的のように話していましたが・・根拠はありませんが、何か他にも理由があるような気がするんです・・そういう意味ではただ調べるだけではないので、オリハルコンのお二人が引き受けて頂けて良かったと思っています」

「・・そうね、確かに私にとってもこの依頼は幸運かもしれない・・失礼だけどゼビィさん、あなたダークエルフでいいのかしら?」

『お、おい!そんなズケズケと聞いちゃっていいのかよ!?』

ビチルは内心、慌てた。というのも、ダークエルフは・・というより、エルフは結構好戦的なのだ。エルフは閉鎖的で大人しいみたいなイメージを持つ者も多いが、彼らは顔色を変えずに、カチンときたら問答無用で攻撃を仕掛けてくるような連中なのだ。ダークエルフの方が人間の活動域に出てる数が多いので、ダークエルフの方が好戦的みたいな印象が根付いているが、根っこは同じエルフ。そんな物騒な連中にわざわざ虎の尾を踏むような真似をするのは危険なのだ・・というか、いきなり攻撃されても対処はできるだろうが、店が吹っ飛んだりしたら弁償金で自分達はスッカラカンになってしまう

「・・別に失礼でもありません。今回の件について必要な事なら何を聞いて頂いても構いません」

思いの外、ゼビィの反応は協力的だった

ビチルは想定外だったものの、それならと疑問に思ってたことを、何も考えずにそのまま口にする

「それなら、なんでダークエルフのゼビィさんがサラサーティなんかで従業員なんてしてるんだ?俺の知ってるエルフ達の外に出る多くの理由は、外の世界を知りたいってことが殆どだって聞いたぜ。しかも殆どは他の種族を下に見てるっていう話だったが・・なんでわざわざ人間種が経営してるとこの従業員なんかしてんだ??」

パミラはビチルの質問が今回の調査とは関係ない方への内容であることに頭を抱えながら、すぐにゼビィに自分の質問を口にする

「ゼビィさん、この馬鹿の話は聞き流してくれていいわ。それより、私が聞きたかったのは、ダークエルフはエルフの中でも武闘派ってイメージが強いけど、そうは言っても、魔法や魔術にだってそこらの冒険者よりも精通している者が多い筈。ゼビィさんはそっち方面は全く苦手なタイプなのかしら?だから、ファグスが何か魔法的な事を見抜けなかった可能性があるってことなの?」

ビチルは横で「いや、依頼主の事を知っておくことも大事じゃね?」とブツブツ口を尖らせていたが、パミラは普段通り、華麗に無視した

「どちらの質問にもちゃんと答えます。私自身、別に後ろめたいこともないですし、何かしら役立つこともあるかもしれませんしね。それで、まずビチルさんへの答えですが、私が里を出た理由は別に外に関心があったからじゃなかったんですよ。私は里の長を護衛する役割だったのですが、ある時里を出て、他の里の長との会談に向かった先で運が悪いことに、ドラゴンに出会ってしまったのです。ドラゴンは現れた瞬間、3人を踏み潰し、5人を尾で薙ぎ払い、2人を喰らいました。一瞬の出来事でした。私は運良くその中にいませんでしたが、即長に転移の札を投げ、長と付き添いの者を飛ばしました。残りにはすぐにばらけて各々撤退するように叫びました。叫んでる僅かな時間も災厄の暴風は私達を蹂躙しました。結局あの時の面々がどれだけ生きられたのかは今ではわかりません。ただ、私は仲間が逃げる時間を稼ぐことを決め、奴の瞳を真っ直ぐに見てしまいました。それが失敗でした。奴はただのドラゴンではなく、魔眼持ちだったのです。その魔眼がどういうものかの全容はわかりませんが、私に現れたのは魔法関連の封印でした。全て封印されたわけではなく、大幅に制限をかけられたような感じなので、魔力などは今でもある程度は感じられますが、以前の様にはいきません。そんな中、奴は仲間を20人くらい喰らって満足したのか、そのまま飛び去って行きました。私は最後まで奴の視界にすら入ってなかったと思います。そして飛び去る瞬間、飛び立つのに周囲が邪魔だったのでしょう。尻尾をもう一振りした際、私は尾には当たらずに済んだものの、その風圧に絶えられずゴム鞠の様に吹き飛び、地面と岩の上を跳ねて転がりました。それだけで私は瀕死になりました。そこに通りかかったのが、今のサラサーティの女主人サザーラン・カルーシャ様の祖父であるトレン・カルーシャ様でした。

カルーシャ家は大きな商団でもなく、一介の行商人に過ぎませんでした。ですが、トレン様はその時仕入れたばかりのありったけのポーションと薬草を使って私を救って下さいました。里の者にはあの場にいた者で戻らない者は死んだものと思われるのが普通なので、私はこれからはこの方に仕えようと、決めたのです。それから・・色々あったんですが、トレン様が亡くなられる前に、特に願われたのが今のサザーラン様を守ってほしいとのことでした。そして、守ってほしいと言われましたが、仕える必要は無いとも。もう家族として暮らしてくれと・・私には勿体ない言葉です。少し長くなってしまいましたが、ビチルさんへの答えは以上です。これらの理由から、私はお嬢様に害なす者は決して許しません。不穏な者が近づくなら、そもそも近付けさせないようにしたいのです」

話を聞いていたビチルは目に涙を浮かばせ、感極まっている様子だ

「次に、パミラさんの質問には先程の私のお嬢様に仕える過程で説明したのが理由です。仰るように今の私は魔法的なものがかなり制限されている為、昔の様には気が付けません。ただ、私の当時の状態であってもわかるかは正直わかりません。というのも、ファグスが私の前に何度となく現れることが出来たことを説明できる魔法が私には浮かばないのです。どちらかというと、精霊が元々持っていたり、高位の魔法使いが位階を上げ、修練の果てに獲得されるというような未来予知などに類する能力に近いのでは・・と考えています。ただ、現状の私ですと、その手の能力系になると対応が後手になります。なので、それらの対策を今後必要になるかを知る為にも、奴にその能力があるか、無かったとしてもどういう対策が必要なのか知りたいので、奴の能力を知りたいのです」

ゼビィは淡々と、しかし決して妥協しないという強い意思のこもった視線でパミラを見る

「・・成程ね。よくわかったわ。まず、私が既にもっている情報を先にここで伝えておくわ。」

パミラは出し惜しみなく、知ってることを本当に一気に伝えた。

ビチル自身はゼビィのカルーシャ家に仕える経緯を聞いて感動していたものの、パミラが全て情報を提供したのには正直驚いた。

パミラはそういう感情では動かないイメージだった。勿論、ずっとパミラとやってきたビチルはパミラが本当は滅茶苦茶情に脆く、優しいのは知っているが、ある程度の時間を共にしたグエンのような奴くらいまで親しくなってからだった。まぁ、極稀に助けることもあったが、パミラは基本スパルタなので、自分でどうにかしろみたいなスタンスが多いのだ

「情報提供に感謝を。」

ゼビィは深々と頭を下げた。カルーシャ家への固い忠誠があることは理解していたものの、それはあくまでカルーシャ家だけに向けられたものと思い込んでいたビチルは、カルーシャ家でもない自分達に頭を下げるなど思いもしなかったことから、これまた心底驚いた

「・・あなたには今回に限らず、何かあったら全力で協力するわ。ギルドを通してくれなくてもいいわ」

パミラのこの言葉にはゼビィも「?」という様子だったが、ビチルは更に驚いた

あのパミラがこんなに全霊で協力するなんて一体どうしたのかと驚きを隠せない

「・・ゼビィさん。ゼビィさんはパンタローネ・カルーチェスをご存知ですか?」

唐突にパミラは問いかけた

「・・?」

「!!」

ゼビィは変わらず思い当たる節がないのかキョトンとし、ビチルは仰天していた

周囲でこの3人の様子を見ていたら、ビチルはこの会話中ずっと表情が常に変わっているので、面白くて仕方ないだろう

「・・やはり、覚えていらっしゃらないんですね。パンタローネ・カルーチェスは私の師であり、命の恩人です。そして、私を救ってくれてからは親の代わりを務めてくれた方でもありました。その師がエソゾの里のダークエルフに救われたと別れた時に話していました。名を聞いたが答えてもらえなかったが、銀髪の中に黒髪がまるで部分的に染めたのかと思う程、綺麗に分かれた髪と、深緑の瞳で瞳孔は深紅で落ち着きと強さの籠った一度見たら忘れられない方だったと。私も何度か連れられてエソゾを訪れたことがありましたが、恩人は見つけられなかったのです。まさか・・入れ違いだったとは・・師がこのことを知れば喜びます。師の恩人であるなら、私にとっても大恩ある方です」

パミラはビチルが見たことのない程、真摯に丁寧に深々と頭を下げた。

パミラのこんな姿は今まで出会って来て始めて見た

「・・確かに私はエソゾの里の者ですが・・申し訳ないんですが、人違いではないでしょうか?」

「では、エソゾの里に今の特徴に会う方がゼビィさん以外にいらっしゃるのでしょうか?」

「・・いえ、確かにその特徴は私以外にいませんね。ですが・・」

「先程お話しした通り、師と私は何度かエソゾの里に訪れ情報を仕入れようとしましたが、閉鎖的なエルフの里では容易に教えてもらえませんでした・・が、幸運な事に若いエルフに出会うことが出来、その者からドラゴンの事故が起きた時に行方不明になってしまった同胞に多種族にも分け隔てなく優しく、必要があれば自身の持ち物を使って人助けまでする変わり者がいたと話してくれました。それがまさにその特徴の者だったと。普段からそんな感じだったと伺ってますので、覚えていないのではと思ってます」

「・・そうですか。不思議な縁ですね。私にとっては当然のことをしたまでなんだと思いますが、それが巡り巡ってお弟子さんとこうしてお会いする機会を得られというのは。」

「はい、師にもゼビィさんのことは伝えておきますので、いつか師が訪れた際には、労ってもらえたらと思います」

パミラは改めて深々と頭を下げた


その後、新しい情報が入り次第、その都度宝珠を介して報告するということで一旦その場を後にした。

この宝珠も特別性でかなり値が張るものだが、パミラは迷うことなくそれを渡した

別れた後のパミラはそれまでのパミラ以上に熱が入った様子だった

「な、なぁ・・あのゼビィさんって方ってもしかしてかなりすごい人なのか?あのカルーチェスさんを助けたとか信じらんねぇよ・・」

「たしかに、助けられた時は今の師匠ほど力量はなかったかもしれないけど、それにしたって、あの師匠を助けるって凄まじい方よ。・・あとさっきゼビィさんがサラッと話してたけど、襲ってきたドラゴンって恐らくカロロープよ」

「はぁ!??カロロープって伝説のドラゴンじゃねぇか!?」

「えぇ、しかも魔眼って言ったじゃない。それを今のゼビィさん程度で耐えられたのも彼女が一際優秀だった証拠よ。カロロープと目が合った者はその覇気で殆どは即死するか、身体が麻痺して動かなくなるそうよ。それに加えて魔眼の効果はそれとは別に来るらしいわ。恐らくゼビィさん以外のエルフ達でカロロープと目が合ったのは既に絶命してたか、竦んで動けなかったと思う」

「で、でもよ。カロロープの巨体だったら、俺ら人間種なんかじゃ腹の足しにもならねぇんじゃねーのか?」

「そうね、だから間食みたいなものだったんじゃない?偶々運悪く飛んでたカロロープの目に止まっただけなんだと思う。あとは里長と同行してたって話だったから、エソゾの里でも選りすぐりの者達で組まれた編成だったんだと思う・・つまり、魔力も豊富でカロロープからしたら丁度いいおやつだったのかもね」

「え、選りすぐりのエルフがおやつって・・」

「ゼビィさんの証言が答えじゃない。その位カロロープは強大なドラゴンってことよ」

「・・そう聞くと、昔の伝説で勇者がカロロープを追い返したとか、撃退したってのは事実に基づいてはいないってことなのか・・」

「十中八九そうでしょうね。まぁ人類最強と言われるディズィンについては、私も断言はできないけど・・少なくとも冒険者のヒヒイロカネ以上じゃなきゃ、きっと何も出来ないでしょうね・・ま、何はともあれ、この依頼は私個人のこともあったけど、ゼビィさんの依頼ってことなら、それ以上に本気でやるわよ。」

ビチルもパミラの師匠であるカルーチェスには、修行という名目で散々こき使われていて、頭が上がらない人物だった

パミラが言うように、この依頼で手を抜くようなことがあったら、恐らくカルーチェスに殺されかねない

「・・はぁ・・楽な依頼そうだなって思ってたのになぁ・・」

ビチルはがっくり肩を落としてボヤくしかなかった



「おい」

透き通る肌にエメラルドグリーンの美人が豪奢な棺から起き上がる

誰ともなく、呼びかけた声に近寄る影が一つ

「お目覚め、ということは・・」

ヴァッファゴへの小細工をしていた美人と瓜二つの女性が無表情で反応する

「あの時のデータは残っているな?」

「は、ヴァッファゴのデ」

「そんなものはどうでもいい」

自分の求めてる方の答えについて答えろと、その美人は言葉を遮ることで答えを促す

「結論から申しますと、あの場で「我々」を吹き飛ばした者については、データを取れませんでした」

「チィッ、やはりあの状態では観測できなかったか・・しかし・・あの「私」はお気に入りのおもちゃだったから仕方ないにしろ、「お前達」はヴァッファゴを御す事くらいは造作もない身体だったはずだな」

「仰る通りでございます」

「それがあの体たらく。予想水準を述べよ」

「ヒヒイロカネ級以上でございます。あの身体を抑え込むにはアダマンタイトがチームとしての総合力を以て、なんとか出来るかどうかでございます。それを私ともう1体いる状態であれば、ギリギリでしょう。」

「・・そうか・・その程度の強度の身体ではあったのだな」

側使いの者達の装備など一々気にしていないこの美人は、その報告を受けてニヤリと嗤う

「ちなみに世界に散らばる「私達」からの情報を照合するに、あの場に我々の情報にあるヒヒイロカネ級以上の冒険者、英雄、勇者、逸脱者などはいなかったと思われます。我々にとって未知の者である確率が97%」

「残り3%は?」

「我々の観測上、存在を確認しているものの確定出来てない上位存在の場合、神界の住人による新たな降臨などでございます」

「・・そうだな。何にせよ、この観測はとんだ拾い物だ。ヴァッファゴの後処理を兼ねて計測をしようとした「だけ」の何てことないものが、新しい発見と出会うとは・・!フフフ・・・」

喜びを抑え込めない様子で、口元を抑えていると、どこからか美人がワインを差し出されたものを、落ち着く為にクイッと(あお)

「ケレル様、オール様への報告準備も既に整えております」

「よし、オール様がいらっしゃるのは3日後だったな。これはお喜び頂けるに違いない」

ケレルと呼ばれた美人は更に上機嫌になる

あの方に喜んで頂けるのは本当に久しぶりだと、胸が高鳴り、ケレルは3日後を心待ちにするのだった



「準備はできたかい?」

ファグスが誰もいない部屋の隅に視線を送る

「・・黙ってちゃわからないじゃないか」

ファグスはやれやれといった様子で、視線の先に近付くとそこに人がいるかのように肩に手を置くような素振りをして絶妙なタイミングで手の軌道を変える

それは常人には出来ない達人の動きではなく、まるで「予め知っていたかのように」、避けるようにゆったりと軌道を変えた

「!!?」

「危ないじゃないか、雇い主に攻撃なんかしたらいけないよ」

『こいつ・・!信じられないが、こいつはアタシの攻撃する軌道を知っていやがった・・!どういう理屈だ・・!』

「・・その質問に意味はあるのか?」

「コミュニケーションは大事じゃないか」

「・・お前、本当に何者なんだよ」

『・・今までそれなりに契約して長かったが、手の内を見せてきたってことは、アタシもいよいよお払い箱にされる可能性を考えておいた方がいいかもしれないね・・』

「あー、安心するといい。君を切る予定は無いから。勿論僕にとって不都合になるようなら、切っちゃうけど、これまで通り働いてくれるなら、その予定は無いから安心してくれ。何というか・・あんまり君には興味がわかないんだよね」

女は「こんな奴に好かれたくないから願ったり叶ったりだ」と思う

「僕はさ、君みたいにいつも最悪を想定してるのは好みじゃないんだ。想定してるだけなら、まだ味があるけど、死に際まで本当に想定通りで「失敗した」みたいなつまんない顔してるだけのは心底つまらない」

ファグスはまるで自分の死に際を見たことがあるような話口調で話しきった

そしてつくづく変態の糞野郎だった

「まぁそれはそれとして、金は使いきったのかい?」

「なんだ、返してくれってのか?」

「いや、準備に使いきったのなら、それでいい」

「何に使ったのか、聞かないのか?」

「聞いてほしいのかい?僕がそれを知った所で、使えるものじゃないんだろ?」

「言わなくても、わかってるってことか・・」

・・じゃあ白金貨を使い切ってないこともわかってるんじゃ・・だとしたら、何で返せって言ってこないんだ・・

女は白金貨の残った小袋をファグスに投げつける

「おや、返してくれるんですか」

「・・金貨ならまだしも、白金貨なんて持ってる方がおかしいんだ。持ってるだけで、持ち主が特定される場合もありそうだ。アタシが持つのには使い辛い」

「・・君は本当に、意外に賢いよねぇ」

ファグスは懐に小袋をしまうと、席に戻る

そろそろケッセルも合流する頃合いだ


程なくしてケッセルが入って来た

「この間の女は紹介してはくれないのか?」

ケッセルは女の居場所がわからないようで、キョロキョロしている

「・・どうせ、紹介してくれても、同行する時はどこにいるかわからないんだから、紹介してくれたっていいんじゃないか?」

「僕はどっちでもいいんだが、彼女は嫌みたいだからね。彼女の仕事は僕の護衛であって君との関係を築くことじゃない。安心してくれていい。ケッセル、彼女は君の死神じゃない」

「・・魔人である俺が確認できないなんてな・・我が主がいる時点で、自分が最も上の存在なんかじゃないのはわかっていたが・・実際に格上に出遭うとやりきれんな・・」

ケッセルは肩を落としているが、女は違和感を覚えていた

『なんだ?自分が売られるとわかっていながら、何も準備してきてないのか・・?』

そう、ケッセルは肩を落としてはいるものの、何故か開き直っているような清々しさがあるのだ・・が、当のファグスは気に留めてないようで、「じゃあ、出発しようか。今回は僕にとってもどうなるかわからない、博打の部分があるからね」とニヤっと嗤う

美男子なのに、この男の本性を少しでもわかると全くそう見えないのが不思議だ。



ビチルとパミラは人の気配のしない廃墟に来ていた

ビチルは後ろでブツブツ言っている

「なあ、パミラ!俺ら今初めて転移魔法でここに来たってのに、お前なんでそんな普通なんだよ!」

「何でって、私は別に初めてじゃないもの」

「はあ!?お、お前本当は転移魔法出来たのか!?」

「違うわよ。さっきゼビィさんに話してたの聞いてなかったの?私は師匠に連れられてエソゾの里に何度か行ってるって話してたじゃない」

「・・あー、師匠の転移魔法で行ってたのか・・」

「そりゃそうよ。あの師匠がのんびり歩きながら向かうと思う?」

「まぁ・・そう言われるとそうだな・・でもよ、ギルドで転移魔法陣使わせてくれるなんて意外だったよな」

意外というより、ビチルはギルドに転移魔法陣が使えるように既に組まれて使えるように備えてあることを今回初めて知った

「緊急事態に高ランク冒険者を送るとかって考えると、準備してあるのは不思議じゃないけどよ、俺らも使わせてもらえるなんてなぁ」

「それだけ重要ってことでしょ」

「みたいだなぁ・・」

ビチルは正直初めての転送魔法の体験で舞い上がる心がある一方で、内心パンタローネに会うのが恐かった

昔の思い出がトラウマで何か悪い事をしたわけじゃないが、びくびくしていた

「ったく、アンタは今でもそのびくびくするの治んないわけ?」

「そんなわかりやすいか・・?」

「そりゃあ、そんな表情硬くして声震わせてたら誰だってわかるじゃない・・あと今まで言わなかったけど、アンタ師匠の所に来る時、若干内股になってんのよ」

「へ!?」

ビチルは今まで知らなかった自分を知らされて、恥ずかしいやら、情けないやらで真っ赤になった


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どこからともなく、女の笑い声が響き渡る

忘れもしないこのまるでジドー会長を女にしたような、まるで魔女とは思えない戦士のような覇気を感じる声

「「師匠!」」

二人がハモる

「いやぁ、腹が(よじ)れるかと思ったわい。久々に訪ねてきたかと思えば儂を殺しに来たのかぇ?」

「お久しぶりです!師匠!」

「お、おひさしぶりです・・」

ビチルは消えそうな声で挨拶をしている

「お前さん達は、性別間違ったんじゃないかねぇ?なんなら、ビチル、アンタ儂が性転換させてやろうか?」

いつの間にやら二人の目の前に少女がいた

少女はニヤニヤした顔で「どうだい?うーん??」と言ってるが、瞳には悪戯半分、本気半分といった感じだ

「け、結構です!!」

「なーんじゃ、つまらんのぉ」

頬を膨らませている。

見た目は少女で、身長は145cmくらいとかなり小柄だ

実はパミラよりも身長が低い

「師匠!そんなバカのことより、今日は師匠にビッグニュースを持ってきたんですよ!!」

パンタローネは「えー?ホントかねぇ・・」と疑心暗鬼な様子だ

「そ、そうっすよ!俺なんかよりも絶対に師匠が喰い付く報せっすよ!」

ビチルは自分から興味を移させる為にも必死にパミラの話に乗っかる

「うーん・・パミラは嘘なんてつかんのはわかっておるが・・儂は今すこーし、忙しいんじゃよ・・どのくらい忙しいかっつうと、国が3つ滅ぶって言われても手は貸してやれんってくらいじゃな」

「あ、そりゃ大変っすね。おい、パミラ。お師匠様は忙しくて手が離せないらしいから、また今度にしようぜ」

ビチルは来た目的より、師匠から離れたい一心で帰ろうと促すがパミラがそれに乗ってくれるわけがない

「うん?なんじゃ、ホントに大した用じゃなかったのかぇ?まぁギルドでアタシに会ってどうしたら良いか助言を確認して来いって言われるくらいなら対応しちゃるってデケスに伝えてあったからのぉ。まぁ、お前さん達は弟子でもあるから、アドバイスくらいなら・・」

「違うんです!この馬鹿はいつもの馬鹿なんで、本気にしないでください!師匠の恩人、エソゾの里のエルフがわかったんです!しかも今回の依頼人がその方、ゼビィ様なんです!」

瞬間、明らかにビチル達の周囲の空間の雰囲気が変わる

まるで空間に(ひび)が入るように、ビキッ・・ビキッっと音が鳴ったと思うと実際にパンタローネの身体に罅が入っているのが目に映る

そしてそれが一部割れた瞬間、目の前にいたパンタローネのオーラが凄みを増した

「・・ぐっ・・!」

ビチルもパミラもパンタローネの覇気に臆するのを必死に耐える

殺気ではないが、パンタローネの素が全開で出てしまっていることから、耐えるのがキツイ

そのくらいパンタローネの心を揺らす出来事だった

「パミラ・・それは真か?」

パンタローネの瞳がまるで皮が剥がれるように黒い瞳の中から金色に輝く瞳が現れかけている。比喩ではなく黒い瞳の中から覗き掛けている金色は実際に光を発しており、まるで太陽のように眩しく直視が難しくなりかけてきた

「ほ、本当です!あの時聞いた情報と一致した方で、エソゾの里の出身であることも確認しました!そして何より、師匠が話されていた通りの人柄の方でした!師匠を助けた時の事も覚えてない様子で、私が食い下がってやっと「私にとっては当然の事をしたまでなんだと思いますが・・」と話されてました!・・それ、と、し、師匠・・そろそろキツイので、どうかお気持ちを・・静・・めて・・」

パンタローネはハッとすると、目を瞑って顔を横にブンブンっと振るって深呼吸して、静かに目を開ける

開けた瞳は元の黒い瞳で、本人も少し落ち着いたようだ

「左様か・・で?どういう依頼なんじゃ?」

「きょ、協力してくれるんすか!?さっき3つの国が滅んでも手が離せないとかって・・」

「あーん?3つの国が滅ぶことより、儂の念願の恩人にご恩返しすることの方が大事に決まっとろうが!所詮、他所の国じゃ。儂に関わる者の事の方が大事に決まっとる!しかもそれが儂自身の恩人の事となれば、これ以上に優先すべきことなどない!」

んな、滅茶苦茶な・・とビチルは思ったが、パンタローネはもう完全にゼビィさんの件で頭がいっぱいの様子だ。ビチルは知っている。師匠がこうなると、もう取り掛かってたことも全部投げ出して、そっちに全集中してしまうことを

パミラはザックリと概要を伝える

「ってことで、パミラの奴が師匠に早く伝えたいって事で来たんすよ。パミラが連絡用に宝珠を渡してあるんですぐゼビィさんと話せるっすよ」

ビチルはいつもの調子で、パミラが頼んでも無いことを言う

「アホか!?ビチル、お前云年越しの再開に手土産も無く会いに行けるか!寧ろ宝珠で話して終わりなんてあり得ん!とびっきりの手土産も当然用意するが・・あの方の人柄的に物欲はなさそうじゃが・・そうは言っても誠意ってもんが儂にだってある!」

「じゃあ、物が用意できたらって事で俺らは待ってればいいんすか?」

「かーっ、パミラ、ビチルは未だにこんな感じなのか?なんというか・・ガキの頃となーんも変わっとらんじゃないか」

「・・師匠、私はビチルの教育係じゃないですよ」

「ど、どう言う事だよ!?俺今そんなに変な事言ったか!?」

「パミラ、お主はわかっててここに来たんじゃろ?」

「当然です。私が師匠だったら、恩人がわかったというのに、恩返しの機会を教えてくれなかったら末代まで呪いますよ」

「ひゃっひゃっひゃ。流石我が愛弟子。よくわかっとる!」

ビチルはチンプンカンプンで頭には?が溢れている

「まーだ、わからんのかぃ。今回の依頼は全面的に儂も一緒にやるって言ってんだ・・・おっと、ビチルお前さんに拒否権は無いからね。なーに、久しぶりにお前さん達に稽古つけてやる。そうさね、今回儂にこの件を教えてくれた報酬として、無料でしっかり稽古してやる。儂の元を旅立った弟子共に改めて稽古つけてやるなんざ、白金貨百枚積まれたら考えてやろうかってくらいな珍事なんだ。パミラに感謝するんだよ、ビチル」

パンタローネはにやぁっと邪悪に笑う

ビチルは心の底から怖気が走る

「し、師匠が手伝ってくれるってなら、パミラはともかく俺はもう1件の方の依頼をするかな!」

声が裏返りながら、ビチルは必死に逃げようと努める

「うーん??声は裏返ってるが、嘘じゃあないようだね・・なんだい?そのもう1件ってのは?」

パミラが概要を伝える

「ほーん・・そんなのが現れたのかい・・ヒッヒッヒ、面白いねぇ。そんなレベルのがいきなり現れるなんざ、儂だって中々ない。だ・が、ビチル。それは後回しでいい。それにパミラの話を聞く限り、儂もギルドが重要視してるのはゼビィさんの方じゃと思っておる。それにのぉ、ゼビィさんに挨拶したのは金の盃としてじゃろ。ビチル。お前さんも一応儂が預かってた身。そのお前さんが儂の恩人に失礼をさせるわけには、師として見過ごせぬのよ。わかったな、ビチル?」

パンタローネは完全にビチルの逃げ道を塞いでしまった

ビチルはがっくりと項垂(うなだ)れるしかなかった












         ⅳ―2


ゼビィはパミラが出し惜しみなく現状持ってる情報を教えてくれたことで、サラサーティに向かって急いでいた。彼女が提供してくれた情報は、こちらの期待以上のものだったので、その場で依頼完了として謝礼も心ばかりではあるが、ギルドからの報酬とは別に払おうとしたが、彼女は断固として受け取ってくれないどころか、依頼もまだ完了してないと更に調べると言って聞いてくれなかった

100%善意なのは見て分かったので、断ることも出来なかった

ただファグスの情報を聞けば聞く程、サラに会わせるのは避けたかった

予知系の能力を持ってる可能性の裏付けは取れなかったものの、これまでのハテンサグル―プの異様な速さでの企業拡大と危険察知能力の事実をパミラが教えてくれたことで、十中八九それはあるものとして動いた方がいい事がわかったので、それだけでも大収穫だった

予知が可能な者を相手にするなら、最初から差があることになるので、これ以上後手になるのは何か事が起こってしまう場合、スタートラインにすら立てない可能性がある

 ゼビィは可能性を感じていた時点で、ある程度既に心構えはしていたが、予知能力については既に「経験済み」だった

『ファグス・・お嬢様に害を為す気があるなら、覚悟するがいい。貴方の予知がどれ程のものかはわかりませんが、予知は万能ではない。予知の対策が出来る者と、果たして貴方はこれまで対峙したことがあるかな・・?』



ファグスは気持ち良さそうに鼻歌を歌いながら、入り組んだ路地を迷いなく進む

『・・この間の取り乱した様子が微塵も無いな・・アタシの準備で問題なくなったってことなのか?・・恐らくファグスは予知系の能力を持ってる筈・・だけど、こいつの資金を使い込んで準備したって言ったって、ヴァッファゴ以上の戦闘なんて正直自信ない・・そういえば、ファグスも準備するとか言ってたな・・ってことはそっちの方で対策が完璧って事なのか・・?』

「おい、ファグス。私達が向かっているのはサラサーティじゃなかったのか?何故、馬車に向かわずにこんな路地に入るんだ」

ファグスは答えずに、変わらない足取りで進み続ける

するとピタッと止まると、ファグスは自身の神聖力を巧みに操作し、手を(かざ)すと何もない空間が歪み始めた

『・・神聖力に元々恵まれているのはわかってはいたが、神聖力で空間を歪ませるなんてことができるというのか・・!?』

ケッセルは自身の知識には無い現象を目の当たりにして驚愕するしかなかった

「フフ・・もう少し・・」

ファグスは口角を上げると更に神聖力を増す

すると、そこに元々あったかのように魔法陣が現れた

「さ、行くよ。この魔法陣は現れてしまえば、自動で転送してくれるから、ここに入ればいいだけ」

「おい、だからどこに向かって・・」

ケッセルの言葉を待たずに、ファグスは魔法陣に足を乗せるとアッと言う間に消えてしまった

「まさか、本当に転送魔法陣なのか・・転送魔法陣がこんな雑にあるだけでもおかしい上に、それを特別な処置をしなければ現れないように隠しておけるのも・・何より、それを何故あいつが解けるんだ‥?・・ええぃ、ままよ」

ケッセルは思い切って飛び込むと、目の前にヴァッファゴがいた

見たことは無いが、伝説通りの外見をしている

ファグスに騙されたかと思いつつ、即攻撃を仕掛けられた為、まずは全力で応酬する

ヴァッファゴの攻撃をいなしつつ、ヴァッファゴを観察すると、自分に攻撃しているが、どうにも自分以外の所にも角を振り上げたり、腕を振り回しており、その都度硬質な音が響く

『・・ファグスの護衛の女か・・』

「おい、女、共闘した方がお互いに安全じゃないか!?」

答えは返ってこない。やはり協力する気は無いらしい

ケッセルは内心舌打ちしながら、少し見渡すと、ファグスがヴァッファゴの後ろにいる

こちらは戦闘中だというのに、こちらに関心が無い様子で明後日の方向を向いている

『運が良いというのは、総じて神聖力が高い者とは言うが、ヴァッファゴに関心を持たれないなんてことまで可能なのか・・!?』


ゴキッ


「ぐぁっ!?・・」

ファグスを意識した一瞬の隙にヴァッファゴの一撃がケッセルのあばらを砕く

しかもヴァッファゴはその一撃で横に吹っ飛びかけているケッセルにもう片方の腕で叩き潰すかの如く剛腕を縦に叩き落とす

ケッセルは瞬時に転移すると、ヴァッファゴの剛腕はその場にいたら間違いなくミンチなっていたレベルで地面に大穴が開く

が、ヴァッファゴの脅威はこの破壊力だけではない

転移したケッセルに迷うことなく、突進して角を振り上げる

ブモォォオオオオ!!!!

体が委縮するような、雄叫びで角を突き上げると、ケッセルの胸を下から(えぐ)

霞めただけではあるが、霞めた部分は肉が削げ、血が滴り落ちる

更なる追撃が本来ならある所だが、ファグスの護衛の女にも攻撃を仕掛けていることから、距離を一瞬取ることに成功した

ケッセルも準備はしてきたものの、想像以上の怪物ぶりに驚くしかない

元々出し惜しみなどするつもりは無かったが、いきなり戦闘が始まったことで、危うく本気を出す前にやられる所だった

ケッセルは体内の封印を解く

その瞬間、ヴァッファゴの狂った眼はケッセルを追った

やはり本能で察するらしい

「・・ふぅ、危なく魔人化する前にやられるところだった・・流石あの方が中々面倒な奴と評するだけの事はある。だが・・」

ヴァッファゴの背後から禍々しい真っ赤な棘の塊が貫いた

剣なのか棒なのか判別のつかない武器だ

金棒というのが一番近いが、棘の一つ一つが鋭利で刺すだけではなく、鋭利で触れれば切れるのがわかる


ケッセルの背にはまるで悪魔のような羽が生え、身体は人間からはかけ離れたものになっていた

『へぇ・・あれが、魔人化したケッセルか・・ヴァッファゴを貫いたアレは武器ってより、拷問器具に近く見えるけど・・ヴァッファゴを一撃で仕留めてるんだから武器としても優秀ってことか・・』

「女、まだ俺から隠れる気か?」

ケッセルは何もない所を睨みつける

この間のファグスと同じく、目が合う

「ふーん、その形態になると私の事がわかるってこと」

「そういうことだ。にしても・・お前・・レレル・トットーではないか・・しかし・・お前は黄金級の魔法使いではなかったか・・?まるで暗殺者並みの隠蔽能力・・魔法でするにしても黄金級でそこまで出来るわけが・・貴様・・能力を偽っていたのか・・?」

「・・企業秘密よ。アタシの能力をアンタに全部伝える必要はないでしょ」

「そうか・・それよりファグス。ヴァッファゴがいるという事は、ここはお前が言っていたもう一つの目的地という事でいいのか?」

「そうだね、でも君も人が悪い。ヴァッファゴにはせいぜい逃げるので精一杯なんて言ってたくせに、倒しちゃったじゃないか」

「出てくるとわかってれば、相応の準備をしただけだ。準備なしには言った通りになった筈だ」

「ふーん、ま、そろそろだと思うから・・」

ケッセルは「何が・・」と口を開き掛けたところで、ファグスの視線の先に容姿端麗ではあるものの無表情な人物がこちらを見降ろしていた

「・・ヴァッファゴの絶命を確認」




「スカロフ、今ラング公国郊外のポイント301の転送陣が起動しました。301の転送陣利用予定はありますか?」

無機質な声で、女魔導士が声を掛ける

「いいえ、301の利用予定は・・今月はありません」

スカロフと呼ばれた者は、同じく無機質な声で返答する

二人は殆ど同じで非常に整った容姿をしている

「回答が遅いですね、スカロフ。これだけではまだ確定にはなりませんが、秘書用途の線は薄そうです」

回答はすぐに返されたが、女魔導士は回答が遅いと言い切った

スカロフは落ち込む素振りも無く、「ハイ」と無表情のまま返答する

女魔導士はスカロフの回答を待たずに、その場でイレギュラーの発生を報せる

その瞬間この地にいる同じ顔をした役割を持つ者達は手順通りに、即行動に移った

「・・スカロフ、現在イレギュラー301-5-7-3に該当しますが、アナタの役割はまだ割り当てられていません。その為、エリア17に戻るように。エリア17には伝達済みの為、戻ってからの指示はそちらで受けるように」

女魔導士は話し終えると、これまた返答を待たずに、そのまま走り去ってしまった

が、スカロフもそれが当然というように、指示された通り、動き出した

『・・スカロフの行動に移る遅さ(普通の人間と客観的には変わらない)は、暴力の捌け口の担当者に与えられている特性です。これもエリア17に報告が必要と判断・・』

女魔導士は動きながら、自身の所感を伝達する

そしてポイント301の担当の為、最寄りに配置されていた女魔導士は転送先のポイントにすぐ辿り着く

「・・ヴァッファゴの絶命を確認」

「ファグス、あれはお前の知り合いか?」

「フフ・・あれはただの下っ端さ・・しかし・・情報では知っていたが・・「魔導士タイプ」もいるのか・・どれだけの役割があるのか・・ワクワクするね」

「施設関係者ではないと判断。排除行動に移ります」

瞬間、目の前が閃光が走る


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「チィッ、おい、ファグス!これがお前が言ってたヴァッファゴ以上ってやつか!?」

レレルはファグスを見るが、ファグスは気に入った商品でも見るように見惚れてるだけで、反応しない

『あの野郎・・!ほんっとうに・・!今ので金貨100枚以上する身代わりの護符が2枚も無くなったぞ!』

「もしや・・あれはホムンクルスか!?しかし、たかがホムンクルスがこれほどの出力を出せるなど・・!」

ケッセルは目を見開く。自分が昔在籍していた所でも作成し、使ってもいたが、こんな自分に匹敵するだけの個体など技術的に無理だと頭では否定しているが、今起きた現実がそれを嘲笑うかのように無表情のホムンクルスは見下ろしている

『魔人化している状態でシールドが間に合わなかった』

「No.9233、ケレル殿に伝えよ。あなたの望むものを持ってきたと」

ファグスが突然小声で囁くと、ホムンクルスは攻撃を止めるとそちらに視線を移す

「・・自身のコードを正確に把握する人物と判断。照合・・「我々」にこの人物との面識情報・・無し。この人物をフレネミー・ファグスと確認。ケレル様との会合予定・・無し・・会合予定はございません。ご用件は?」

「今話した通りだよ」

「意図不明」

「ケレル殿が心酔されている方に3日後報告する予定の人物に関りのある者だよ」

「情報を確認・・」

女魔導士は元々無表情だった為、見分けづらいが瞳に生気が無くなったと同時にまるで操り人形のようではあるが、先程までの機械的な話し方ではなく、流暢に話し始める

「ファグス殿、初めまして、でよろしいか?私はあなたの訪問の予定は入っていなかったと思うが・・貴殿は私の事をよくご存知な様子だ。一体どういうことかね。元々、ここに無断で入ってくる時点で君達を無事に外に戻すわけにはいかないわけだが・・君は我々の事を知りすぎているようだ」

「それはそうだよ。「アルガ」。君達はこの組織の中での一部でしかない。そんな末端組織の事くらい知ってなかったらハテンサグループのトップは務まらないのさ」

ファグスは命の危機にあるというのに、全く動じる様子も無く、更に話を進める

「・・君はどこの所属だい?」

「それは言えないね。そういう事もあるだろう?それとも僕を消すかい?」

「・・私に所属を伝えられないのに、わざわざ私の求めるものを持ってきたと?君に何の得がある」

「僕はね、色んな所と繋がりを作っておきたいのさ。そうすれば、自分の望む場面に出会える機会が増えるからね!」

ファグスは心からの本音をぶちまける

「・・逆にそれが本音だとしたら、何故今まで私に繋がりを持とうとしなかったんだね?」

「それは決まってるじゃないか!君があの方に喜んでもらえる報告を出来る段階にやっとなったからだろう?」

「・・・・」

レレルもケッセルも何がなんだかわからない

ただ一つ言える事は、ファグスの目は爛々としており、興奮しきっている

これが演技なんだとしたら、一流の演者に慣れるに違いない

女魔導士の瞳に生気が戻る

「ケレル様より、入室の許可を確認。案内させて頂きます」



ハンスはアーメックに緊急通信を送った後、部下を引き連れて馬を走らせていた

この間ルージュ達と話していたA.A.の目撃情報があったとのことだった

神出鬼没と昔の記録にはあったので、アーメックを待たずに急いでいた

ただ、そうは言ってもA.A.は大変やかましいと記録に残っており、見つけるのは容易と思われた

「副長、目撃情報ではこの辺りらしいですが・・」

しかし、この辺りと言っても、ここはジャヤ森林の中で本当にこんな所にいるとは思えなかったが、ギャーすか騒いでいて、プンス町の老人がやかましい!と注意すると「俺達はこれから秘密組織に潜入して世界の秘密を暴いてきちゃうんだぜ!ジイちゃん、ボケないように俺達のビッグネームをしっかり覚えといてくれ!俺様っ、アードと!」

「アーネスだよっ!」

「「二人合わせて、A.A.!!」」

「・・・・なんじゃそら??」

「あれあれ!?ねー、ねー、アード!もしかして、私達の方が秘密組織より秘密のエージェント!って感じしない!?」

「おいおい・・実は俺達の方が秘密でいっぱいだったってことかぃ!?ハニー!!」

などと訳の分からないノリで変質者目撃の報告だった

が、昔の記録とこの変質者の報告内容はそっくりなのだ

勿論、ハンスも今回の件で過去の記録を調べてなければ、ただの変質者として、部下に任せていただろう

「・・流石に夜にジャヤ森林をこれ以上捜索するのは難しいか・・しかし、報告だと記録通りかなり騒々しい奴らだったらしいから・・近くにいるならすぐにわかりそうなもんなんだけどな・・仕方ない、一応報告だと徒歩だったらしいから、一晩くらいじゃそんなに遠くまでいけないだろう。一旦戻るぞ」


戻ると、アーメックがすぐに駆け寄って来た

「どうだった!?」

「すみません、目撃地点まで向かったのですが、見つけられず・・ジャヤ森林の中なので、捜索するにも既に日も落ちていたので・・」

「そうか・・確かにジャヤ森林ではこの間フィールグントとやり合ったばかりだからな・・流石にフィールグント程の魔物はそうそういないだろうが・・夜の捜索は止めた方が良いな。一応共有しておくと、当時のA.A.の絵と容姿は変わってないそうだ」

「・・当時って20年以上前のですよね?・・俄かに信じられませんね・・」

「まぁある意味見つけやすいという意味では、ありがたい事だがな。」

「それにしても、A.A.はどこに向かってるんですかね。ジャヤ森林に秘密組織の拠点があるってことですかね。そんな情報聞いたことないですけど・・」

「その事なんだが、憶測の域を出ないが、ジャヤ森林を抜けた先には、カバッツ王国のロッピー村があるのはわかるな?」

「・・あの噂ですか・・ですが、ロッピー村はフラーナック王国に滅ぼされたんですよね?」

「ああ。だが、名目上は年中戦をしているカバッツ王国への牽制として見せしめに壊滅したという事だが、あそこはお前も知っている通り、きな臭い噂が絶えない所だった」

先日カルキスが話していたのもその噂の一つだった

「・・ですが、あそこまで噂が立っていると、怪しんでくれと言ってるようなものじゃないんですかね」

「そこは流石に私もカバッツ王国の意図まではわからんが、どちらにしろ、あそこを秘密組織の拠点という噂は昔からあったからな」

「・・にしても、ロッピー村跡地となると、国に所属している我々では動くのが難しいですね・・」

「その通りだ。だからカルキスに話を通しておいた」






















         ⅳ―3


「し、師匠・・本当にここ行くんすか?」

ビチルは心底嫌そうにしている

「なんじゃ、ビチル。こんなとこでまだ怖いとか言うのかぇ?」

パンタローネはケラケラ笑っているが、ビチルの表情は変わらない

「だって、ここ俺ら冒険者の中でも碌な噂聞かない場所ですよ・・」

「フフン、そんなことはどうでもいいんじゃ!儂の占いでここで間違いないと出たんじゃからの!にしても、カルキスの奴があんなにゲッソリして儂に泣きついてくるなんて、昔じゃ考えられんことじゃ。あの仏頂面しておったカルキスをもう少し揶揄(からか)いたかったが、儂らもなるべく早めに解決して、ゼビィ殿に朗報を届けたかったからの」

そう、パミラと俺に直接通信魔法が届いたのだ

デケスからこの依頼は「金の盃」にやらせるようにと指示があったとのことだった

その場にいたパンタローネが自作のアーティファクトである水盤に魔力を流し、この依頼がゼビィの依頼に直結すると出たことで、断る選択肢が無くなってしまった・・まぁデケスに指示されたとあっては、元から断る選択肢はなかったかもしれないが・・

「ですけど、今回の依頼ってここで、A.A.を探すって内容っすよね?なんでそんな実在するかも怪しい奴の捜索が、ファグスに繋がるんすかね?」

「それを見る為に、ここに来たんじゃ!」

パンタローネはニカッと笑う

「・・師匠・・いつもこんな感じで依頼やってるんすか?」

「よいか、ビチル。占いは道を指し示すものじゃ。そこに答えがあるわけじゃない。答えに繋がる道に明かりを示すだけじゃ!だがな、儂の占いは百発百中じゃ!道がわかっておるのに、そこに向かわんのは単に遠回りをするだけじゃろ」

「百発百中って・・それなら占いじゃなくて、予知って言うんじゃ」

「フフフ・・・予知は確かに更に精度の高いものじゃが、予知能力を持ってる相手に予知で対抗するとどうなるかわかるか?お互いにその予知を覆す為に、イタチごっこをすることになるんじゃ」

「??」

「儂は何も予知が出来ないとは一言も言っておらん。出来るからこそ、対策ができるわけじゃ」

「し、師匠・・頭痛くなってきたんすけど・・」

「要するに、占いという漠然とした動き方をすることで、奴の予知の精度を下げることが出来るっちゅうことじゃ。奴の予知の中で儂らの動きは奴の思い通りになっとると思うとるじゃろうが、そうはならんのよ」

「師匠、私は占いや予知などの方面はまだ手付かずなので、わからないんですが・・」

ビチルはもうわかんねぇとなってる横で、パミラが続きを促してしまったのを見て、「ばっ、おい、パミラ・・!」と口を押える

が、パンタローネは気持ち良さそうに答える

「ビチル、ここに来る前に話してやったように、稽古つけてやると言ったじゃろ」

「だ・・だけど、急いでるんすよね!?」

「なーに、まだ時間はある。パミラ、予知にはね、世界の運命線に意識を繋ぐことが必要なのさ。それをするには生まれ持った才能、特性というべきかね。それを持ってるのが一番手っ取り早い。が、そんな奴は片手で数えるくらいしかいない。が、魔法の高みに昇りつめる者はそこに届く者も現れるのさ。私は後者でね。後者でも誰でも出来るわけじゃない。勿論そこまで昇れる者に限られるから、そういった意味じゃあ、これも才能さね」

「・・師匠、今自分で才能あるって言ってんのか?」

「カッカッカ!儂に才能が無けりゃ、世の中の殆どは塵同然じゃないかい!」

パンタローネは少しも恥じる様子も無く、堂々とそれが事実と胸を張る

ビチルは「うわぁ・・」と若干引いてはいるが、昔から知っているパンタローネでもあった

「で、さっきの答えを言うとじゃ、予知合戦をするということは、運命線に繋いで、そこの事象を書き換え続けるわけじゃ。が、占いは運命線を書き換えるのではなく、運命線を視ることじゃ。じゃから、奴が自分に都合のいいように書き換えた運命線を、「変える」のではなく、それに合わせて先回りをするんじゃよ」

「・・・でもファグスが予知じゃなくて、運命線を視るタイプだったら意味ないんじゃないすか?」

「ビチルにしては冴えておるのぉ!じゃが、安心せぃ。既にファグスとは予知合戦をしたんじゃよ」

「え!?そしたら、向こうにもわかるんじゃ・・!」

「さっき、予知が出来る者には2種類いると教えたね?運命線に意識を繋ぐということは、先天的に特性として持っているわけじゃなけりゃ、膨大な魔力、もしくは精霊力や神聖力が必要になる。元々特性持ってる奴はそれが儂らよりハードルが相当低い。じゃから、予知合戦は先天的な特性持ちには分が悪い。」

「そ、それなら、マズいんじゃ・・!」

ビチルはパンタローネの期待通りの反応をずっとしているが、パミラは横で静かに聞いている

パミラもビチルのこの素の反応で、パンタローネが気持ち良く話しているのを理解している為、ビチルを叩いたりはしない

「特性持ちはの、なまじ、簡単に運命線に意識を繋げられてしまうが故に、ただ眺める占いということに意識が向かないんじゃよ。自分の都合の悪い未来になったら、その都度変えればいいと思っておるからの。儂は何度か予知合戦を経験しておるから、ファグスについては問題ない。あやつは予知合戦をこれまでしたことが無い」

「そんなこともわかるんすか・・?」

「予知合戦を仕掛けることで、奴が運命線に関与できるか、未来を変える行動をするかがわかる。その後、奴の筋書きを修正せず、運命線を視て奴が対策を講じるかを確認することで、凡そ奴がどちらで、対策ができるかどうかがわかるんじゃ」

「・・成程。それで、今回は師匠が話した結論になるんですね」

パミラは納得した様子だ

「パミラ、儂の見立てじゃ、お前さんも出来るようになるさ。それとね、話を戻すが、ファグスの予知能力についてはここまで話した通りじゃが・・あ奴には、少し不可解な部分がある。多くの事は予知能力で合点がいくんじゃが・・」

「何か他に能力があるのですか?」

パンタローネはいつもの愉快そうな顔から真剣な顔で頷いた



アーネスとアードは無邪気な様子で潜入作戦を決行中だ

本人達は至って真面目だが、周囲から見ると動作が大袈裟でどうぞ見つけてくださいと言わんばかりだ

潜入作戦という名目上、一応普段はやかましい二人だが、口を開かず人がいないかを確認したりしている

が、単純に運が良いというべきか、二人の周辺には誰もいない

先程ファグス達が派手に侵入し、ケレルに入室許可を得たことで、そちらに注意が向いている為だ

「ねーねー!アード!私達、ここで何するんだっけ??」

「おー、ハニー!ここは秘密結社の重要拠点!ってことはぁ・・!」

「ってことはぁ・・!?」

「ワクワクの冒険が待ってるのさぁ!!」

「そっかぁ!!ワクワクと言えば!今日のご飯もワクワクだね!」

「・・ああ!?そういや、今日はまだ何も食べてない!」

「わわわ!?そういえば、何も食べてないね!」

「よし!腹が空いては戦は出来ぬ!!」

「戦!?私達これから戦するの!?」

「そりゃ、秘密組織に潜入するからには、あっちこっちで戦がおっぱじまっちまう!」

「じゃあご飯食べなきゃ!!」

「その通りだ、ハニー!」

「でもアード、ここご飯屋さん無さそうだよ?」

「おっと、じゃあ一旦腹を満たしてから再潜入だ!えー、テステス、こちらアード。戦に備えて一旦撤退を進言する、ドウゾ!」

「テステス!こちらアーネス!戦略的撤退を許可するっ」

二人は楽しそうに元来た道を戻って行った



連れて来られたファグス達は、ファグスだけがリラックスしていた

レレルもケッセルも、いつでも戦闘が出来るように臨戦態勢だ

レレルはどちらかというと、逃げ道を常に意識しているが、ケッセルは諦めが色濃くなってきていた

道案内をしてきた先程のホムンクルスと同格の者がうじゃうじゃいるからだ

自分に匹敵するレベルと言ったが、もしかしたら超えるかもしれなかった

つまりヴァッファゴ以上の者が下手したら何百といるのだ

そして、時折ファグスがこちらを流し見ている視線をケッセルは知っていた

過去にファグスに付き合わされて、人を貶めた時に見せるファグスの悦に浸った視線だ

それが自分に向けられている

自分が逃げることが不可能だと諦めの心境になっていく様を、ファグスは非常に気持ち良さそうに観察しているのだ

「では、聞こうか。ファグス殿、私がほしいものを持ってきたと話していたが?」

「えぇ、彼、魔人ケッセルです」

元々売られるとわかって付いてきているので、ここで驚きはしない

「ほう?魔人ケッセルが私の欲しいものとはどういうことかな」

「あなたが報告する女に関わる者ですよ。正確にはその女の主従に関わる者が探し求めている情報に繋がるというのが正しいですね」

「!?あの場の者のことを知っているのか!?女なのか!?」

「今のは私からのお近づきの印と思って下さい」

ファグスはニヤッと嗤う

「ですが、今回はケッセルを譲るまでです。あの女を知りたいのでしょう?手引きする為にも、私が動かないといけませんので」

いつの間にか、いや、最初からファグスはずっと上の立場で話している

「・・手引きすると言ったな・・できるのか?」

「流石に、3日後には間に合いませんけどね」

「・・いいだろう。魔人ケッセル以外の2人は帰って構わない・・が、魔人ケッセルは何の情報を持っているのだ?」

「あなた方が過去に行ったエルフとドワーフの合成体に関わる事ですよ。まぁその合成体は脱走してしまったようですが」

ケレルは眉間にしわを寄せる

ケレルはアルガの名前が出た時点で、最早ファグスへの警戒を解いていた

アルガの名称は、この施設で把握しているのは自分だけだった

その名称を知っている人間は自分と同等か、それ以上の者しかいない

「そうか・・だが、それは私達からすれば過去の出来事でしかないということは・・魔人ケッセル自体には価値があまり無さそうだな・・まぁ、アレによって生み出された魔人のサンプルとしては、データに価値があるかもしれんがな」

ケレルの視線には、あまり興味が無さそうなものが強く混じっている

『・・やはり、こういう流れか・・ここで自分を売り込む為に、売られるとわかっていて付いてきたのだ・・』

ケッセルは息を静かに吐く

「私からも発言を許してもらえるだろうか?」

ファグスはこちらに輝く視線を送る

まるで子供がプレゼントをもらう瞬間のような、無邪気なキラキラした視線だ

ケッセルはその視線を感じ、吐き気を感じつつ、ここで失敗をするわけにはいかないと、気を取り直す

「私はどうやら、ファグスが言う通り、貴殿らが求める女の関係者に関わる情報があるらしい。それはファグス自身からここに来る前に聞かされた。が、それはその関係者が求める情報である組織に当時在籍していたというだけであって、私自身はその関係者の求める情報の根幹には関わっていない。ファグスがどう手引きするつもりでいるのかはわからないが、私という存在だけで餌の価値があるかは不明だ。寧ろその程度では弱いと考えられる。私程度の餌で良いなら、貴殿の組織力を考えれば、私以上に適任者を探すことは造作もない筈だ」

ケッセルは嘘偽りなく、冷静に自身の考えを交えて自身の価値について伝える

「・・で?お前の言う通り、我々であれば相手がわかれば、それに対する適任者の捜索は簡単なことだな」

ケッセルは勿論答えるともと口を開いたが、声が出ない

『?なんだ?声が・・これは特定の言葉を発せられない・・!?ブリューンズとそれに(まつ)わる言葉が封じられている!?』

「ケレル殿、プレゼントの中身はあとでのお楽しみですよ」

ファグスはニッコリと笑う

「それもそうだな」

「な!?ケレル殿!本当に役立つかもわからないものを受け入れるというのか!?」

「魔人ケッセル、一応今はハテンサグループの代表取締役だったな。商売は信頼が最も重要だ。君自体は確かに君が言うように最高品質の果実ではないかもしれない。が、販売者が信頼が出来るのであれば、話は別だ。それに、私が最高品質の果実を渡されるにふさわしいかもわからん」

『な・・!?その発言はまさかファグスの方がケレル自身より上の立場の可能性を本気で考えているという事か!?』

ケッセルは驚きで瞠目してしまった

ファグスの言葉に嘘は無く、ケレルだけが知る筈の情報がこれまでのやり取りの中にあったということだ

『こいつは・・本当に何者なんだ・・?俺との関係を構築したのもこの時の為だったというのか・・!』

レレルはこのやり取りを見ながら考え込んでいた

『この流れでいけば、ケッセルは予定通り売られて終わりの筈・・だけど、まだヴァッファゴ以上との戦闘はまともには起きてない。あの女魔導士は最初だけで、ファグスが対処するだけで戦闘はすぐに終わった(一方的に攻撃されただけだったけど)・・となると、まだ本題が残っている・・いつだ?いつ始まる・・?』

「ファグス殿、突然の来訪だったので大したおもてなしはできないが、良ければ食事をしていかないか?」

「ケレル殿の好意は大変ありがたい。だが、私も予定が詰まっているので、今日の所はこれでお(いとま)させてもらいます。またお会いできるはずですから、その時は是非ご一緒させてください」

「そうか、ではお帰りはポイント301でよろしいか?」

「いえ、プンス町に向かいたいので、ポイント276でお願いします」

「承った。僅かな時間だが、非常に有意義な時間であった。転送陣の起動は今させている。にしても、ファグス殿はホムンクルスでは無い様だが、普段の管轄でもない転送陣も熟知されていらっしゃるというのは驚きだ」

「なに、自分の行先の行路くらいは誰でも調べておくものでしょう?」

ファグスは爽やかに笑う








         ⅳ―4


「なぁ、師匠。あれから結構時間経ったけど、なーんも起きねぇのは占いが外れたって事か?」

パンタローネは怒るでもなく、普段通り愉快そうにケラケラ笑っている

「なんじゃ、さっきまであんなに入りたくないと駄々をコネておったのに、もう退屈になったのかぇ?」

「そういうわけじゃないっすけど・・なんつうか、占いや予知通りに動いたら、無駄な時間なんて無くて、テンポよく次々と対応することになんのかなって思ってたもんすから・・」

「そういう場合もあるがの、今回は相手に予知能力がある場合じゃとこういう事もあるんじゃよ。なーに、もう直ぐさね。いいかい、さっき言った通り、儂の読み通りなら、予知能力以外があるからね。ちゃんとそのつもりでいるんだよ」

ビチルは先程の話を聞いて、予知能力だけでもこっちに不利なのにと愚痴をこぼしていたが、パミラは落ち着いた様子で「相手の手の内がわかってるだけでも、対策ができるじゃない」と平然としていた。

パミラの落ち着きは、師であるパンタローネへの絶大な信頼から来るものだ

ビチルだってパンタローネの事は信頼しているが、予知が出来るという事は自分の攻撃などは当たらない可能性が高いのだ

自分がここに居る意味がよくわからなかった

「さて、ビチル。頃合いだ。アンタは配置に着きな」

ビチルはパミラが先に準備で向かった合流地点に移動する

ここで対応するのはパンタローネのみだ

ビチルが離れて数分後

「さて、予知能力同士の対面は久しぶりさね」

パンタローネの目の前に、ファグスが現れた

同時に転送されたレレルは目の前の人物の事は知らなかった

が、自分達の転送先に自分達に焦点を合わせて、立っている時点で待ち構えられていたのは容易に想像が出来た

「・・これは予定通りなのか?」

ファグスはレレルの短い質問に少し驚いた

自分の能力をレレルなりに予想した事で、これも予定通りの可能性であると思い至ったのだろう

「・・大まかには予定通りです・・が、完璧では無いですね。取り敢えず、「まだ」攻撃はしなくていいですよ」

レレルは目の前の不敵に嗤い、立ち塞がっている少女から目を離さずに臨戦態勢を解除せずに指示を待つ

「話は終わったかぇ?」

「えぇ、こちらは。あなたの話はこれからですよね。私達は次の予定に移る為に急ぎたいのですが・・」

「儂の話が終わってからじゃの」

聞く耳もたんと切って捨てる

レレルはまともに話に付き合うという理由がすぐにわかっていた

目の前の人物は、残念ながら自分より格上だ

相手の力量が見えない

そんな相手とやり合うのは得策じゃないのは、予知能力なんて無くたってわかるのだ

「・・それで、何を私から聞きたいのですか?」

「目的じゃ。サラサーティに近付く目的を言うがよい!」

レレルは耳を疑った。てっきり今魔人ケッセルを土産にした件について、追及されると思っていた

ファグスの今回の目的は明らかに先程のホムンクルス達だった筈だ

サラサーティなど、ケッセルを連れてくる為の口実に過ぎない

勿論、この後はサラサーティに向かう予定ではあるが、一仕事終えて息抜き程度の調査の筈だ

だが、この明らかに自分達を待ち構えていた少女はホムンクルス達の事など興味が無い様子だ

恐らく、この少女はホムンクルス達の事も知っている

知っていて、そっちには関心がないのだ

この少女にとって、ホムンクルス達より、サラサーティの調査の方が問題としているという事だ

「・・私はハテンサグループの理事長です。今キンナル王国で飛ぶ鳥を落とす勢いで大流行している「茶」という商品について、私自身が体感してみたい、調査の必要性を感じるのは至極当然の事ではありませんか?」

ファグスはレレルにこれまで話してきた通りの回答をする

「こうして、対面するのは初めてじゃが、儂らは「はじめまして」ではあるまい?儂がその答えで満足しないのは「知って」おるじゃろう?儂がここでお主を通すも、戦闘を開始するもお主の答え次第じゃ」

レレルは何が起こっているか全くわからなかったが、一つわかるのはこの出来事はファグスが想定していなかった出来事であるという事だ

その証拠にここまで少しも迷うことなく、話してきたファグスが、言葉を選んで、何を言おうか思案している

「フム・・ですが、あなたは既に「知って」いるのでは?」

「いいや、ここが分水嶺じゃ。お前さんが頻繁に運命線を変えるからの」

「・・成程。あなたは私の障害となる立ち位置ということですか」

「それもお前さん次第じゃな。さぁ答えよ。審判の時は来た」

夜空がやけに透き通っている

こんなに星が輝き、月が太陽顔負けに明るいのは滅多にない

「・・サラサーティに害は為しませんとも」

「サザーラン・カルーシャとその周囲の者には?」

「私自身は何もしませんとも。あなたの「ご存知」の通り、私は「非力」なのでね」

「カカッ、やはりそう応えるか!

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突如、彼女が瞬き一つすると、黒かった瞳は透き通った強く蒼い瞳となって、その爛々とした眼を見開き、聞き慣れない短い詠唱と共に、この辺り一帯が目が(くら)む程の明かりに満たされる

レレルの警戒レベルは臨界点を一気に超えた

『こんなの身代わりの護符が何百枚あったって足りねー!!!』

一地区を一瞬で転移する護符を身代わりの護符が起動した瞬間に発動するようにしていたことから、その一息でレレルは転移した



「お嬢様、只今戻りました」

「あれ?ゼビィ、随分早かったじゃない」

「ちゃんと頂いた日数の8割は消化して戻りました。残りはこちらで休ませて頂きます」

「・・それは全然いいけど・・ゼビィ、何かあったでしょう!」

「え?」

「もう私達、ずっと一緒に生活してきたのよ!ゼビィはダークエルフって言ったって、ある程度は私だって表情見ればわかるんだから!」

ゼビィは参ったなぁといった様子だったが、話してしまった方が、サラ自身も気を付けてもらえると考え、これまでについて報告をした

「ええ!?そんな事になってたの!?」

「ハイ、幸い、と言いますか、数奇なご縁で、今回の依頼に全面的にご協力を申し出てくれた、歴戦の冒険者が対処してくれることになりました。特にパンタローネ・カルーチェスは戻りがてら調べた所、ヒヒイロカネ級の中でも上位とされる非常に優れた方です。しかも予知や占いにも長けており、フレネミー・ファグスの対策には非常に相性の良い方です。私自身も過去には予知が可能だったのですが、今は難しい為、彼女の協力は非常に助かりました」

「でもハテンサグループと言えば、お父さんからも話に聞いてたわ。お父さんの方は大丈夫かしら・・ここはアーメックさん・・というか今じゃルージュのお陰もあって王国が全面的に支援してくれてるから問題ないでしょうけど・・」

「そうですね、ただそこを許容してでも、彼とは関係を持たない方がいいでしょう」

ゼビィはその損失は確かに避けられないが、それでもサラの身を案じるならその方が良いと断言する

「旦那様には私の方から後日説明させて頂きます」

「ルージュ達も丁度昨日出発しちゃったのよね・・こんな事なら引き止めておけば良かった」

「アハハハ・・確かにブリューンズであられるルージュ殿であれば、彼が一言述べるだけで奴を牽制できましたね・・まぁ、とは言っても今回の件、ギルドは私がルージュ殿の関係者であるという事も踏まえて、冒険者を斡旋してくれました。それを考えれば、ギルドも全面的に協力を得られると思っても良いかと思います」

サラは『色んな人が助けてくれて、本当にありがたいな』と前世の記憶を思い返しながら、しみじみと仲間のありがたさを噛み締めていると、アーメックが急いだ様子で入って来た

「サラ殿!ルージュ殿は来てるだろうか!?」

言いながらアーメックは店内をグルっと視線で見回した

「え?昨日立ちましたよ?ほら、この間明日出発するって話してたじゃないですか」

「いや、そうなんだが、実は数時間前にA.A.の目撃情報があったんだ。夜中だったから今朝から捜索に部隊を動かす予定なんだが、入れ違いになったらいけないから、すぐに宝珠を用いて、ルージュ殿に通信魔法で連絡した所、それなら戻りますよと言っていたのでね。それで、やかましい二人組の見慣れない男女の客は今日来ているかい?」

アーメックの問いかけの直後、まるで天変地異でも起こったかのような凄まじい爆発音と地響き・大規模な地震が起こった



レレルは気が付くと地面に突っ伏していた

あれは次元の違う魔法だった

身代わりの護符はごっそり無くなっていた

「あのガキ・・私なんか眼中無かったくせに、何回殺してくれるんだ・・・イッツツツ・・」

痛みを耐えながら、ヒールを唱えようと思った時、人の気配がした

あのガキだったら、もうどうにもならないが、あれは自分に最初から最後まで無関心だったことを考えれば、その可能性は低いと思った

であれば、本当に偶々の通りがかりかと思ったら、妙に聞き馴染みのある声だった

「なぁパミラ、コイツこの間のレレル・トットーじゃないか?師匠の話だと、ここに飛んでくるのはフレネミー・ファグスじゃなかったか?」

「師匠も言ってたじゃない。予知以外があるって。恐らくそれのせいでしょ」

「ってことは、あのおっかねぇ魔法から逃げ切ったって事か?」

「・・それは流石にないと思うけど・・」

レレルは憧れの人物が助けに来てくれたのかと一瞬心の底から思った

だが、話の流れからしてこの2人の師匠とやらは恐らくさっきのチビ・・

「し、師匠!ち、違うんです!アタシ、な、何にもしてない!本当です!確かにファグスの護衛は仕事でさっきまでしてましたけど、ホントに!本当になんもしてません!なんだったら今日あった事全部話してもいいです!い、いや、話させてください!」

「・・それは師匠が戻ってからでいいわ。アンタに戦意が無いなら、何もしないわ。別にアンタを殺すことが今回の依頼じゃないからね。で、それより、一つだけ答えなさい。アンタは師匠の魔法から逃げてきたのはわかってるけど、ファグスはどうしたの?私達の今回の標的はファグスなのよ」

「アタシはファグスからヴァッファゴ以上の戦闘があるから用意しておけって言われてたから、準備を大量にしてたんです。勿論ヴァッファゴ以上の戦闘でも仕事をこなせる程度の用意もしましたが、最悪の場合にもかなり入念に準備して、身代わりの護符を大量に仕入れていたのと、転移の護符も連動して発動するように準備してました。それがあのガキ・・あ、師匠のお師匠様の魔法で自動発動を繰り返してここまで飛んできました・・もう護符は無いですし、身代わりの護符があるにしても何度も死ぬ間際までいってからじゃないと護符が発動しないから・・何回殺されたのかマジでわかんない・・」

ビチルは流石に憐れに感じて少し同情したし、この様子を見たら、完全に師匠の事はトラウマだろう

「つまり、ファグスも師匠の予想通り、予知で知ってたわけね。で、アンタにどういう準備をしていたかは伝えてなかったってことね」

レレルは首振り人形のように縦にブンブン必死に頭を振っている。他の身体が言う事を聞かない状態なので、必死だった

「となると・・恐らく・・」

パミラは視線を後ろに向ける

ビチルも「そうだろうなぁ」と相槌を打つ

ビチルはそれ以上パミラには特に何も言わず、そのままレレルを担ぎ上げる

「・・何やってんのよ?」

「標的でもなく、目の前で動けない状態の同業をそのままには出来ねえだろ」

呆れた・・とパミラは溜息を吐きつつ、レレルに一言だけ伝える

「こいつに感謝しなさい。ただし、私達に変な憧れは持つんじゃないわよ。アンタの経歴は知ってるんだから。私達は悪党は好きじゃないのよ」

「は・・ハイ・・心入れ替えます・・」

レレルはこの時本気で改心した

ビチルの優しさと、憧れていたパミラからのこれまでのやってきたことへの叱責によるものが決定打ではあったが、パミラとビチルの師匠がさっきのガキで圧倒的な恐怖を植え付けられたのが大きかった

そこまでわかった上でビチルは「そら、改心出来たならこれからの行動で示せや。パミラも師匠も言葉だけじゃ納得してくれねぇからよ」と優しく声をかける

レレルは恐怖と初めて心からの優しさに溢れた言葉に溢れる涙を止められず、グズグズ泣き続けた



天変地異にしか思えない、世の終わりかと思う轟音と大地震に驚き、アーメックは外に飛び出し、ゼビィもサラを担ぐと瞬時に外に出た

その直後、目の前に見知った金髪の爽やかでありながら、ゼビィには胡散臭くしか見えないファグスが転移で現れ、それに続き身の丈に合わない大きな杖を持った魔女帽子を被った少女が同じく転移で現れた

少女はゼビィの目の前に立ち、ファグスの間に立つように陣取っている

「すまぬ、恩人よ。こいつをここまで来させないつもりではおったのじゃが・・こやつを恩人の視界に入れてしまった事はあとでしっかり詫びさせて頂く!」

「あなたが・・いえ、貴方の現在の評価は伺っております。貴方が最善を尽くしたのであれば、これが最善なのでしょう。知らない所からお嬢様に接触されるより断然マシです」

「ゼビィ殿じゃないか・・これはまた随分嫌われてしまったようだね」

「よくもまぁそんな事を言えますね・・」

「その小さいのから何を吹き込まれたのかはわからないが、今初めて出会ったようなものの言葉を信じて僕を一方的に悪役にしようってのかい?」

「あなたが知る必要はありませんが、この方とは初めてではありませんし、あなたは元々悪役でしょう」

誰よりも何がなんだかわからないのは、この中ではアーメックだった

しかし、それぞれの話を聞いてれば誰が敵対者かはすぐわかる

アーメックは即座に剣を抜くとファグスに切っ先を向ける

「誉れ高き精鋭騎士団第三隊隊長ともあられる方が、何の大義も無く、この国では一般人に剣を向けるのかい?」

「貴殿の事は存ぜぬが、我が剣はこちらの方を最優先で保護することを至上命題とされている。この方が最も信頼を置いている一人であられるゼビィ殿が敵と言うなら、我が剣を振るうには十分すぎる理由だ」

アーメックは自身の事を正確に言い当ててきた相手に眉を顰めつつも、迷わずに臨戦態勢に入る

「・・っ・・レレルの奴にも折角準備させたというのに・・!」

「阿呆が。あの護衛のせいではないぞぇ。お主の力不足。儂との力量差を計れなかったお主の過ちよ。で、どうする気かぇ?お主のような害虫は駆除するのが人の世の為じゃが、少なくともお主が目的としたサザーラン・カルーシャ殿との親睦は叶わんであろう?」

パンタローネは嫌らしく見下ろす

身長差がありすぎるが、ふんぞり返っているパンタローネはご満悦だ

サラはゼビィに担がれたままだが、小声で尋ねる

「あの人が・・でも結局あの人は何なの?」

「・・あれは彼女が的確な表現をしましたが、害しか生み出さない害虫です。人の不幸に悦を感じ、近寄っては裏切り、使い潰す悪の権化を体現した一種です」

「本当に酷いじゃないか。僕が何かしたのを見たのかい?君の旅先で頻繁に出会ったのは確かだが、僕たちはそれ以上何も無かったじゃないか。君の言う私の評判もどうせどこかで噂として聞いたものだろう?人は自分より恵まれている者を妬むのさ」

「お嬢様、そこの少女、パンタローネ・カルーチェスが先程話しておりましたヒヒイロカネ級の冒険者であり、予言の魔女、いえその的中率から彼女の言葉はそのまま現実となるとまで言われた「真言」の二つ名を持つ者であります。彼女自作のアーティファクトにより、彼の実態を知ることが出来るのですが、彼は真正のクズ、悪人です」

「何を根拠に・・その小さいののお手製なら幾らでも偽ることが出来るじゃないか。そんなものを信じるなんて論外でしょう」

「ファグス、残念ながらそうでもないのですよ。それは私がまだエソゾの里に居た頃、彼女に私自身が与えたエソゾの里に伝わる精霊の力が満ちているセソールの泉の精霊水から作られた水鏡を元に、彼女の能力で更に精度を増した真実の鑑です。彼女が手を加えることで、この世界以外での可能性までも映し出すことが可能となったものです。彼女が手を加えたと言っても、エソゾの里出身の私が鏡の性能を見誤ることはありません。あなたに鏡の精度の向上についての解釈は難しいでしょうが、ハテンサグループの情報力であれば、我がエソゾの里のセソールの泉から作られる水鏡を知ってる筈ですね。寧ろ有名過ぎるので、別に貴方じゃなくても知っている者も多い程です」

ファグスはここに来て、いよいよ焦っていた

自分が「調整」した未来ではこんな顛末は無かったはずだ

寧ろそもそもが、この小さいの自体がファグスの描いた未来には現れなかったはずだった

こんなことは今までなかった

まさか、この小さいのの言う通り、自分が見誤ったとでもいうのか・・認め難いが、事実は目の前にある通りだ

ファグスは認め難くはあるが、見苦しく自分の失敗を受け入れられない愚者ではなかった

『・・口惜しいが、認めざるを得ないか・・しかし、どうするか・・私はまだ彼女に手は出していない。私の実態を鏡で見抜いたということだが、まだこいつらに私は実害を出してはいない。それなら、まだ大義は奴らにない・・まぁこれだけの面子が集まれば真実などどのようにでもでっち上げられるというのはわかるが・・』

「やっと事の重大さがわかってきたようじゃな。儂らに大義が無いから、儂らの甘い正義感を利用する算段じゃろうが・・安心せぃ、ファグス。儂らは手は出さん」

パンタローネの言葉に、ファグス自身より、アーメックやゼビィの方が驚いた

サラも「?どうしてかしら?」とポカンとしている

「カルーチェス殿・・それはどういう・・」

アーメックが素直に疑問を口にすると、姿は見えないが、突然重圧がその場の全員に()し掛かると同時にどこからともなく、静かな低い男の声が響いた

「それは私が殺すからということだな?カルーチェス」

人型をしているものの、その男から(およ)そ人間とは思えない気配が漂っていた

ファグスはその男の声を聞いた途端、自身の結末を察したのか、ここに来てとうとう表情が凍り付いた

「な、なぜ・・何故あなたがここに・・」

「私が生み出したケッセルを売ったであろう?私が来る理由がそれ以外に必要か?」

「そ、そんなバカな・・!あなたが生み出したとは言え、そんな事あなたは少しも気にしてない筈だ・・!あなたが出てくる理由など・・!」

「まさ・・か」

ゼビィはとある結論に思い至り、パンタローネに驚愕の眼差しを送った

「恩人には流石に見抜かれてしまったの。恩人殿にそんな目で見られると、年甲斐も無く儂も照れてしまうわい!」

パンタローネがニカッと笑う

「・・は?そこの小さいのがまさか・・まさか運命線を書き換えたというのか!?いや、この方を引きずり出すなど・・どれだけの・・」

「ファグス、こやつはお前程才には溢れていない。が、熟練という意味ではお前では足元にも及ばん。お前が生まれ持っての天才であるなら、この老婆は努力の果てに掴んだ努力の天才だ・・まぁ年の功というのもあるがな」

「んな!?こんなに見目麗しい少女に対して、老婆とは随分の言われ用じゃないか。アンタに比べたら儂だってまだまだ少女で通用するじゃろうが!」

「な・・知己だったのか?」

「知り合いではある・・が、この老婆が私に持ち掛けたのは、知り合いとしてのコネを使ったわけではない。そもそも、私がそんなもので動くものではないのはお前が良く知っているはずだな」

「そ、それなら一体・・」

「ファグス、先程のケレルがお前の前で面白い事を言っていたな。商売というのは、信頼が大事だと・・」

「!!」

「そう、「信頼」だ。「真言」のパンタローネ・カルーチェスが私に予言をしたのだ。こいつが発した言葉は現実になる。私ですら、そのからくりはわからん・・未来を読み取ることでそれを口に出しているだけなのか、それとも、本当に自身の思い描く通りの事象を誕生させる力を持つのか・・だがケレルが話していた通り、経緯はわからずとも、確かな結果を出してきた「信頼」がこいつにはある」

普段の余裕は見る影も無く、ファグスはいよいよ手詰まりだった

「・・ハハ・・、まさかこの僕が天に運命を任せるしかない時が来るとはね・・」

気が付くと自分の胸から男の腕が生えていた

「・・・」

ファグスは口から血が滴りながらも、ボンヤリと自身の胸を貫いている手を眺めている

「・・もっと・・愉・・し・・みた・・」

ファグスはそのまま絶命した

「・・フン、その生まれ持った神聖力の高さで好き放題愉しんだであろうに・・どこまでも欲深い奴よな」

「貴方にそれを言われると素直に同意しかねますが・・」

「ダークエルフか・・エルフにしては珍しい考え方だな・・そうか・・貴様がこいつの火付け役だったという訳か・・そういう意味では今のこいつがあるのは貴様との出会いの賜物。私への祝福を告げる能力に至ったのも貴様の功績というわけか」

「あー、さっさとその害虫を持って帰ってくれんかの。お前の出番はもう終わりじゃ。さっさと行かんとお前の悲願は叶わぬぞ。今はまだその時ではないんじゃからの」

「・・わかっているとも」

言葉少なく男は登場した時と同じく、消えるようにいなくなった

重圧が解けることで、彼がいなくなったことがわかる

「・・ゲホッ・・はぁ、はぁ・・今のは一体・・ゼビィさん今の男をご存知なのですか?」

アーメックは先程の男の重圧で息が出来なかったのがやっと解放されたことで、空気を必死に吸い込む

アーメックに疑問を投げられたゼビィだったが、ㇷとアーメックですら、息をすることすら厳しかったのなら、自分が担いでいたサラは・・青褪めたゼビィはアーメックの言葉は取り合えず、後にして担いでいたサラを降ろして様子を確認する

サラはしっかり気絶していた











         ⅳ―5


サラは目が覚めると、サラサーティの2階の泊まり込む時用のベッドにいた

体を起こすと、アーメックとゼビィが椅子でうたた寝している

ゼビィは自分の手を握ってくれていた

『なんか気が付いたら、気失っちゃってたのよね・・ゼビィはずっと私の事心配してくれてたのよね・・アーメックさんもずっと私達の事で動き回ってくれて・・こんなに大事に想ってくれる仲間に出会えて・・本当に私って幸せだなぁ・・』

周囲の状況に追いつけてなくて、たぶん、自分がどういう状況なのか一番渦中にいたはずなのに、一番わかってないのは恐らく自分なんだろう

そう察しつつも、自身の幸せを噛み締めると改めて嬉しくて、サラの目には涙が滲む

「お・・お嬢様!?如何なさいましたか!?」

うたた寝から目覚めたゼビィが、涙を拭いているサラを見て驚いて声を掛ける

「違うの、みんなに囲まれて幸せだなぁって、幸せを噛み締めてたの」

サラの笑顔にゼビィは胸を撫で下ろす

ゼビィからあの後の顛末を聞く

「まず、お嬢様を気絶させた者は、マーバン・ヴァリという非常に悪名高い者です。まぁアレについてはまずは一旦置いといて、ファグスは死にました。お嬢様を脅かす者はもういません」

「・・そう、なんだ・・なんか私は全然ピンと来てないんだよね・・ゼビィが戻ってすぐあの騒ぎだったから・・」

「まぁそれが当然ですね、あ、先にお伝えしておかなければいけないことが。お嬢様が気絶されていた所を駆けつけてくれたルージュ殿が見てくれました。今も下でみなさんと情報共有しながら、お嬢様が目覚めるのを待っていてくれています」 

「あ、そういえば、アーメックさんが言ってったっけ・・そうだ、他にもなんか冒険者の方とかも色々協力してくれてたって言ってたよね?」

「ご安心ください、お嬢様なら全力でおもてなしされると思いましたし・・その・・私自身も今回の件は彼らに非常に助けて頂いたので、久しぶりに全力接待させて頂きました・・もし、売上が今月赤字になるようでしたら、私が責任を持ってお返ししますので・・」

ビシッ!

「ったぁ・・。お嬢様・・?」

サラはゼビィにチョップをかました

「私がそうするってわかってるんでしょ!今月赤字でも問題ないわ!ちゃんと貯めてる分もあるから。それに、カルキスさんやアーメックさんが協力してくれて、ソノ以外にも従業員が増えて、今まで以上に売り上げが伸びてるのよ!」

「ええ、仰る通りですね。まさか私がいない間に従業員が増えてるとは・・驚きました」

「ゼビィ、今までも助けてもらってきたけど、今まで以上にこれからもよろしくね」

ゼビィは自分がいなくても、、もう切り盛り出来るようになったように感じたことで、少し寂しくも嬉しく思っていたが、サラの「これからもよろしく」という言葉が嬉しくて、満面の笑みで応える

「ハイ、お嬢様!これからもよろしくお願い致します」


アーメックをつついて起こし、3人で階下に降りると、みんながこちらに視線を向けた

みんな一斉に大丈夫かと声を掛けてきて、本当に心配させてしまっていたことを痛感した

・・それと同時に、ただ気絶しただけというのが何とも恥ずかしく感じた

「サラ殿、あの場で失神してしまうことは恥ずかしい事じゃ無いぞぇ。そこの精鋭騎士団長ですら、息をするのを忘れてしまうくらいの重圧があったのじゃから、冒険者でもない一般人のサラ殿が失神してしまうのは当然のことじゃよ。全く、あいつに他意はなかったじゃろうが、漏れ出る圧をもう少し自覚してほしいもんじゃわい・・まぁ滅多に外に出ない奴じゃから、そんなことまで気が回らんのじゃろうが・・」

あの時の少女が自分の心中を的確に言い当て、フォローしてくれる

「そのみんな心配かけてごめんなさい。私は大丈夫だから。あとルージュも戻って来たばっかりなのに、なんか色々心配かけてたらごめんね」

「いや、俺が駆け付けた時は、もう全部終わってたから・・寧ろ肝心な時にいなくてごめんよ・・にしても、かなり賑やかになったね」

「本当にね。あの冒険者さん達はゼビィに関係する方達みたいよ」

「ああ、サラが寝てる間に少し聞いたよ。ゼビィさんも出来る秘書ってイメージだったけど・・ホント人に歴史ありって感じたなぁ」

ゼビィは褐色肌ではあるものの、かなり照れている様子だ。肌が白かったら真っ赤になっただろう事が容易に想像できる

「ゴ、ゴホン。改めてパンタローネ、そして金の盃のお二人、依頼以上の働きに改めて感謝致します。追加の報酬も心ばかりではありますが、是非・・・」

言ってる途中で、パンタローネが遮る

「ゼビィ殿、儂があの時貴殿に助けて頂いたことに比べれば、まだまだ御恩は返せていないと思います。報酬に関してはギルドからの既定の報酬で十分です。儂もですが、こいつらも一応儂の弟子にあたりますので、いつでも声を掛けて下され。カルキス、ギルドの要望通り、ちゃーんとブリューンズにゴマすりしとくんだよ。ゼビィ殿への御恩がある以上、儂はギルドを通さずとも今後は協力していくが、儂らを使ってゴマすりする予定だったんじゃろが」

「本人がいる前でそんなこと言ったらゴマなんか擦れるか!それに、ゴマを擦りたいのは会長やデケスだ。儂は知らん。それにな、ルージュとはお前達より交流はそれなりにして、関係性もお互いの腹の内ももうわかってる仲だ。今更ゴマする必要なんか儂にはないわ!・・全く昔から一々めんどくさいババァじゃ」

「・・ちっ・・その相変わらずめんどくさい性格は変わらんね」

ビチルはカルキスの一歩も引かないパンタローネとの舌戦に、この人すげぇなっと感心している

パミラはというと、ずっとレーゼに詰め寄っていた

「貴方、あの時ヴァッファゴを人差し指で止めた女性よね!?」

「またその話ですかぁ・・他人の空似ですよ・・」

「・・開け、キールの指輪」

パミラはボソッと言うと、レーゼの持ち物が開いて服が飛び出す

「ちょ!?女性の服を無断で荷物から取り出すなんて・・!」

「私も女だから大丈夫です!それにホラ!この服あの時来てた服じゃないですか!しかも服の汚れまでバッチリ!」

レーゼは参ったと頭を抱える。生活魔法で服の汚れを落としておけば良かったのだが、汚れた服が増えたらまとめてしようと思っていたのが失敗だった

「師匠、私達が言ってたヒヒイロカネ級以上の女はこの方で間違いありません!ビチル、あんたもわかるわよね!レレル、アンタも一応あの場に居たんだから、見てる筈ね!」

2人が頷くと、パミラは最後の追い込みと言わんばかり、捲し立てる

「さぁ、レーゼさん、私含め3人も証人がいるんですよ!言い逃れなんてできやしません。貴方は一体何者なんですか?・・あと、師匠はレーゼさんのことはわかりますか?実は偽名の誰それとか」

パンタローネは、パミラがルージュ達を見つけてからずっと、興奮冷めやらぬ状態でここまで熱弁されていたので、観察はしていた

「・・パミラ、レーゼ殿の事は最初に話した通り、初耳じゃ。そして、知人の誰かでもない。ただのぅ・・ルージュ殿の奥方というだけで、十分じゃないか?なんたってブリューンズに関わるなら、何があったって儂は驚かんよ」

パンタローネは「それなりに」長い時間生きていることもあって、ブリューンズとの関りも多少ある

「ほら、パミラさん、お師匠様を見習うべきですよ!・・全く私の服をこんな大勢の前で公開されるなんて羞恥プレイもいい所です!」

レーゼはプンプン怒りながら急いで服を荷物にしまい込むと、空間を開いて投げ込んでしまった

まぁ、今更空間に投げても、遅いのだが、また何かやられるよりマシと思ってだった

「それより、お主、レレル・トット―・・だったか?」

パンタローネはまじまじとレレルを覗き込む

「ヒィッ」

パンタローネの凄まじい魔法をモロに浴びて、生きてるのが奇跡というレベルの経験をしたレレルはパンタローネはトラウマの象徴でしかない

「あ、師匠。あんまし本人の前で言うのもアレだけど、レレルの星とは別っすよ」

ビチルはサラっと補足する。本人の前でというのは、有名なレレルの星という二つ名をもつ魔法使いと同じ名前であることで、レレル・トットーが冒険者として活動を始めた時、やたらと揶揄(からか)われていたという話が合ったのだ(からかった奴らは、後にみんなレレルに再起不能にされたらしいが)

「そうさな。確かに「本人」じゃあない」

「?」

ビチルはポカンとしている

「だが、全くの他人というわけでもないだろう?お前さんからはレレルの星と似た空気を感じるよ。あー、安心おし。別にレレルの星と儂は仲が悪い訳じゃない。目的が共通する時には協力することだってあるからね。あとお前さんが儂に絡んでこない限り、別に儂はお前さんをどうこうするつもりもないぞぃ」

この言葉で少し安堵したレレルはポツポツと話す

「その・・パンタローネさんならわかってると思うんですが、レレルの星は、レレルという厄災が星を落とす魔法を行使した際に、その墜ちてきた星ごとレレルを撃ち落とした魔法使いの偉業を二つ名にしたものです

・・みんな今じゃレレルの星って呼ぶので、本人の名前は忘れてしまった人が多いんですが・・」

「レザス・カルディメン。近代の物語では一際有名人よね」

レーゼは物語の事となると活き活きとして話に参加してしまう癖がある

レレルは少し驚いた様子だったが「そうです」と肯定した

「レザスは・・その・・私自身は面識がないんですけど、レザスが家のリンゴの木で偶々(くつろ)いでたらしくて、リンゴ泥棒だと勘違いした爺ちゃんが怒鳴りつけたらしくて・・その怒鳴り声をうたた寝しかけてたレザスが「リンゴを取るのに邪魔だ!」って聞き間違って、リンゴを一つ取って投げてよこしたらしいんですが、爺ちゃんが反射的にそのリンゴを剣で切り落としちゃったらしいんですよ。で、それを見たレザスが思わず「お見事!君はレレルの星すら、切り落とせそうだ・・!そうだ!君はこれからレレルと名乗るといい!」って一人合点したけど、爺ちゃんは「儂には云十年使ってきた名前があるんじゃ!」って言ったら、じゃあ家の者で新しい子供にレレルと名付けたら、レザスの祝福を授けようって言われて私の名前はレレルになっちゃったんです。私にレザスと似た空気を感じるのは、恐らくその祝福とやらのせいだと思います」

ビチルは「なんで爺ちゃんは剣なんか持ってたんだ?」と素朴な疑問を持ったが、単純にリンゴ泥棒が多かったので、現行犯だと思った爺ちゃんが、剣を持って詰め寄ったという経緯らしい

レーゼは「まぁ・・!そんな裏事情があったのね・・!物語の隠された、知る人ぞ知る・・みたいのが素敵ね!」と目を輝かせている

「・・師匠、レーゼさんの事についてはあんまり興味ないんですね・・」

パミラは珍しく残念そうだ

まぁ実際にあの活躍を目の前で見せつけられた自分達だからこそ、興味が強まるとも言えるが・・ビチルも意外な事にパンタローネと同じく、「やっぱブリューンズの関係者だったのかぁ」とこれだけで、かなり納得してしまっているようだった

「どうして、そんなに私に関心持つんですか?今のレレルさんお話の方がずっと興味深いように思うんだけど・・」

レーゼはかなり呆れつつ、聞いてみる。レーゼからしたら今のレレルの話の方が当人しか知りえない物語の裏側を知ったような外伝をこっそり覗けたような気持ちで、非常に有意義な話だというのに、ちょっと強いくらいの事にどうしてそこまで強い関心があるのか甚だ疑問だった

「レレルの星は確かに有名ですけど、師匠と同じ位のイメージなので、私の尺度では凄い人には変わりないですが、既知の存在だからです。それに対して、レーゼさんは突然現れたんですから、そこは色々聞いてみたいじゃないですか。師匠やレレルの星みたいな逸話はまだ無い訳ですし、折角本人が目の前にいるわけですし」

「パミラ、お前俺に散々「強さの順位なんて、どうしてそんな事気になるんだか・・」みたいな事言ってた割には、滅茶苦茶気になってたんだな・・」

ビチルがまた余計な事を言って、ぶたれる

「っとに!本人がいるから聞きたいだけよ!」

「それはまた後にしてもらえるかの?サラさんやゼビィさんも降りて来たんで、ここに居る面子には一つ共有しておきたいことがある」

パンタローネが自分に意識を集中するように、パンパンと手を叩く

「まず、手っ取り早く結論だけ言っておくと、ファグスは死んだ。これは確かじゃ。が、矛盾してるように思うかもしれんが、恐らく奴はまた現れる」

「!?」

一同は驚きが隠せず、皆が瞠目した

「パミラとビチルには事前に話しておいたが、あ奴には予知能力以外にも何かがあった。じゃが、今回のあ奴とは予知合戦をしただけだったんじゃ。勿論それを儂が制したわけじゃが・・肝心の他の能力が見えず終いじゃった

恐らく・・としか言えんが、あ奴は世界線を移動できるんじゃと思う。今回目の前に現れたのも確かにフレネミー・ファグスには違いないが、そのファグスが元々のこの世界の本人かどうかもわからん。仮に本人だったとしても、他の世界線から移動してくる場合もある可能性が否定できん」

ビチルは頭が追い付かず、もう理解することを諦めたようだ

サラとルージュは前世でのラノベなどの影響でそういう知識があったので、「あぁ・・」と割と簡単に理解できた

レーゼは数多ある物語の中の転生者に纏わる話から、「こういうことかしら」と理解を進めている

他の面々はゼビィが過去に予知能力があったことから、少し理解できたものの、世界線などというものは初耳だったのでやっと理解できるかどうかだった

「まぁ奴が現れる可能性が高確率であるということだけ、覚えておいてくれりゃあいい。あいつは儂らとはもう顔を合わせたくないじゃろうから、仮にこの世界に来たとしても、なるべく出会わないように動くじゃろうとは思うがの・・ただ、あやつの人間性から、儂らと敵対する所にいるじゃろうから、奴の影を頭の隅に可能性として入れておけば、驚いたりすることも無いじゃろうという事じゃ」

「・・なんか、全っ然解決した感じが無くなっちまったなぁ」

ビチルは愚痴る

「にしても、師匠、今更だけどよ、どうして占いや予知ができたのに、今までゼビィさんに辿り着けなかったんだ?」

ビチルは思い出したように質問を口にする

「お前さん達から聞いたので、予想はしていたが、まぁ予想通りじゃったが、カロロープの魔眼のせいじゃな。パミラの話を聞いて、ゼビィさんの姿を運命線でやっと認知出来るようになっておったが、それでも黒い霧のようなもんで、視認するのが非常に難しかった。やっとお会いできるようになって、かなり鮮明に視えるようになったが、今でもゼビィさんには黒い霧が纏わりついておるように儂には視える・・全く、あの悪竜めっ、仕返ししてやりたい所じゃが、儂でもあれを相手にするのは骨が折れる・・」

「へぇ・・出来るんならとっくにしてんだろうけど、その魔眼の影響ってのは師匠じゃ解けねぇのか?」

「あぁ、悔しいがな・・元のカロロープを退治できれば、出来るじゃろうが・・それも難しいしのぉ・・」

ヘックチッ

パミラが悔しそうにしてると、それまでレナリヤに抱っこされていたピヨがくしゃみをすると、その前にいたゼビィの黒霧が霧散した

「「・・・は?」」

パンタローネとパミラはまるで双子の様に、信じられないものを見たように瞠目し、言葉を失って、口をパクパクしている

何もわからないビチルは「どうしたんだ?」と思いつつ、「二人ってホント仕草とかそっくりだよなぁ、やっぱ師匠と弟子ってそういう仕草も似るもんなんだな」と場違いな事を言って笑っていると、パミラはちゃんとツッコミを忘れず、ビチルをナックルを装着した拳でぶん殴り、パンタローネはピヨにヨロヨロとしながら近づくと、「こ・・これは何なんじゃ・・?」とやっとのことで、声を絞り出す

「・・ボクね、ピヨ!」

鼻をズビズビさせながら、いつもの調子で返してくるが、パンタローネは驚きが隠せない

「儂でさえ、解けんカロロープの呪いをくしゃみで吹き飛ばすなんて離れ技・・れ、レナリヤ殿の召喚獣なのかぇ?ということは、レナリヤ殿も名のある召喚士なのかぇ?」

パンタローネは目を白黒させながら、ピヨからレナリヤに視線を移す

「召喚士とか、よくわかんないけど、ピヨはルートゥ村の湖にいて、レーゼが気に入っちゃって、付いてくるようになっちゃったのよ。まぁ今じゃ私達の仲間ね」

レナリヤは「認めたくないけど」と小声でボヤくのを忘れないが、ピヨも「レナちゃん、ひどーい」と本気なのかツッコミなのかわからない事を言って、レナリヤに「うっさいわよ」とやり取りをしているが、パンタローネはそんな事は耳に入っていない

「で、では、レーゼ殿の召喚獣とかなのかぇ!?・・パミラ達から聞いてる実力を鑑みれば・・そもそもブリューンズのルージュ殿の嫁であれば、それもあり得るのか・・?」

レーゼはやれやれと言った様子だが、正しく訂正する

「更に混乱させちゃうかもしれないけど、パンタローネさんは間違ったわかりやすい答えより、わからなくても真実を知りたいタイプの人だと思うから伝えるけど・・パンタローネさん、さっきレナリヤが言った通りで、私が召喚したわけでもないの」

パンタローネはそれならとこっちをジロッと見る

「そ、それならルージュ殿、ブリューンズの守護獣とかかぇ!?」

まぁブリューンズなら何でもありと思えば、そう思うのは必然かもしれない・・けど、俺にもわかんないんだよなぁ・・

「いや、僕もよくわかんないんですよ・・ただ、レナリヤが話してた通り、今では僕らの大事な仲間の一員です」

パンタローネはルージュの言葉を聞くと、少しだけ目を瞑り、再び目を開くと、もうこれまで通りの落ち着きを取り戻したパンタローネに戻っていた

「し、師匠?何かわかったんですか?」

「全く分からん!」

パンタローネはエッヘンと胸を張る

「パミラ、ありのままを受け入れるというのも、実は大事な事なんじゃよ。儂も昔はそうじゃったが、お前さんは昔の儂と考え方が近い。そういうものとまずは受け入れ、それの理屈が後々わかったりするんじゃ。パミラお主、前に気の運用について儂に聞いてきたことがあったが、あれを理解できたのはこれまでの魔術や魔法の運用方法を知っておったからじゃろ?」

パミラは「あー・・なるほど!」と合点がいった様子だ

「取り敢えず、このピヨ殿はルージュ殿達の大事な仲間の一員ということだけで、十分じゃ。何より、恩人であるゼビィ殿の呪いをかき消してくれたという事実は変わらない。いやいや・・まさか、ブリューンズに借りが出来てしまったの・・ゼビィ殿、どうじゃ?体感できる位、変化があるじゃろ?」

パンタローネの言葉を掛けられる前から、ゼビィは驚きで言葉を忘れていた

『今まで押さえつけられてきたものが、体の奥から溢れてくるような感じ・・しかもあの頃のようにあらゆる物が「鮮明」に視える・・!』

「ゼビィ?大丈夫??」

目を白黒させているゼビィを心配そうにサラが覗き込む

「・・は?・・あ!ハイ!勿論です!・・すみません・・あまりに突然の事で、信じられなくて驚きを隠せなくて・・ピヨ殿・・なんとお礼申し上げていいのやら・・」

ピヨは全く分からなそうな、普段と変わらないポケーとした顔で眺めている

「確かに・・ピヨ殿はルージュ殿やレーゼ殿と同じく、色々視えん所が多いのぉ。パミラ・ビチル、あとレレル。儂と同じく、お前さん達も今後協力を惜しまんように」

「そりゃあ、いいけどよ。師匠ならともかく、俺らなんかで役に立つことなんてあんのか?」

「バッカもん!!お使いでもなんでも、どんな些事でも声かけられたらやれって事じゃ!ビチル!特にお主は余計な一言が多いからの!儂らであれば寛大に見過ごしてやるが、ゼビィ殿とルージュ御一行に粗相をしでかしたら、特別修行計画をさせるからの!」

ビチルは一瞬で青褪めた

ビチルが幼少の頃、子供の悪戯で来客の対応をしていたパンタローネのスカートを盛大にめくりあげてしまった際、その時は「いやぁ躾がなっとらんくて申し訳ないのぉ」と来客者と笑い合っていたが、来客者が帰った瞬間「特別修行計画」と銘打ったお仕置きが待っていた

その時のパミラは連日の徹夜(十歳に満たないにも関わらず)続きで欠伸をしながら、通り過ぎる瞬間にビチルが無邪気な笑顔で、パンタローネのスカートをめくりあげた所だった

『うわぁ・・あいつ終わったんじゃない・・?』と思っていたが、結局その特別修行計画も功を奏する事は無く、未だにビチルはいつも抜けている・・が、矯正することはできなかったが、ビチルのトラウマとしては鮮明に残ったお仕置きだ

ビチルが戦慄するのも無理からぬ事だった

「懸念点も残ってはいるみたいだけど、ゼビィの長年の問題も解決したみたいだし、知り合いも更に増えたし、マイナスよりプラスの方が多いみたいで良かったね」

サラは満面の笑みで、非常に満足だった

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