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旧交の御使いと愚者の渇望(2)

         ⅱ―1


翌日、トンビルさんと王都にあるゼゼホの墓に向かおうと思ったが、トンビルさんは仕事を休めなかった。

「リャンの奴、「タイミングを考えてください」じゃと!全く・・とは言え、大規模な魔物掃討で、ここの魔物解体や素材の受け入れに人手が今足りてないのも事実じゃしな・・」

「・・トンビルさん、時間が出来たら、王都のチソエを訪ねて。ゼゼホの墓に案内するように伝えておくから。」

「チソエ・・つうと、討伐組のメンバーだったチソエか?」

「そう。あの一件で改心してくれて、今じゃ、あの時の事実を知ってる一人だけの証人だよ。ゼゼホの墓については国に知られたくなかったから、知ってるのは俺とチソエだけで、これからレーゼとレナリヤも行くから全部で4人ってことになるね。んで、トンビルさんも増えたら5人かな」

「そうか・・わかった。昨日の話じゃ、サラちゃんは大丈夫そうだが、レミィちゃんのことも頼んだ。また会う時はみんなの顔を見せとくれ。レーゼさんもレナリヤちゃんもまたな。」

「マタな!」

「お?おぉ、そうじゃな。ピヨちゃんもまたな。」

トンビルさんもピヨが結構気に入った様子だ

「・・どうして私だけ「ちゃん」なのかしら・・」

レナリヤは自分だけ子供っぽいのかと解せぬ顔をしていると、ピヨは「レナちゃん、ボクと一緒!」とご機嫌に余計な事を言ってしまい、「私だってちゃんとレディなんだから!」とグリグリされピヨはいつも通りに「ピョエー」とジタバタしながら先を歩いて行った。

「ルージュ、最後に余計なお節介を一ついいか?」

レーゼもレナリヤ達を追っていったので、自分もそろそろと思っていたら、トンビルさんが真面目な顔で呼び止めてきた

「レーゼさんは少し真面目過ぎる感じがするでな。少し、気を付けて見ておいた方がええ。戦闘能力は高いんじゃろうから、身の危険とかはレナリヤちゃんみたいに、気にせんでええだろうが、なんちゅうか・・お前さんが女性になったような感じじゃ。抱え込むタイプで、お前と同じく自分で解決できるなら、恐らく第三者に弱音は言わんじゃろう。お前さんの事は好きな男というより、信仰の対象に近い見方をしている感じがする。あの子がもし暴走するようなことがあったら、止められるのは恐らくお前だけじゃ。」

・・たった一晩、酒飲みながら話しただけなのに・・トンビルさんは勘がいいな。

「・・わかってる。中々話すタイミングないけど、もし話すタイミングより先に暴走しちゃうようなことがあったら、ちゃんと止めるよ」


トンビルさんは王都までの馬車を用意してくれていた。

そんなことしてくれなくていいと謝辞しようとしたが、「人の好意はありがたく受け取るもんじゃ」と言って引いてくれないので、申し出をありがたく受け取ることにした。

思えば馬車に乗ったことなんて、今回が初めてじゃないだろうか・・今まで自分で動いた方が早いというのもあったが、全く使おうと思わなかった。

馬車の中でもピヨは外の景色を見ては、色々反応してレナリヤとレーゼも楽しそうに過ごしている。

・・なんというか、ピヨっていてくれると本当に助かるな

「・・あ、そういえばピヨ。お前昨日あいつらにぶっ飛ばされたって言ってたけど、平気なのか?怪我とかしてないのか?」

「え!?!?ピヨちゃん、あいつらにそんなことされてたの!?大丈夫!?大丈夫!?」

レーゼは本気で心配している・・いや、俺も心配してるんだけど・・ちょっと過保護過ぎじゃないだろうか

「ボク、だいじょうブッ!」

ピヨは「だいじょうぶ」の「ぶ」と合わせて屁をこいた。

その屁をモロに浴びせられたのはレナリヤで、案の定「この、バカァ!」とぶっ叩いている。

前世の子どもの頃に見たお笑いを見ているようで、心から笑ってしまった。

あー、こんなに純粋にツボに入って笑うのなんて、この生で初めてだ。

「・・ハァ、ハハハ・・ハァ、笑った笑った!いや、ピヨ、それで話戻すけど本当に大丈夫なのか?どこか痛かったりしてないか?我慢とかはするなよ?」

「そうよ、ピヨちゃん。痛い時はちゃんと痛いって言った方が周りの人に心配かけないで済むからいい事なのよ!」

「ボク、へいき!」

「でも、確かに私もこいつが吹っ飛ばされるの見てたけど、怪我しててもおかしくない勢いでぶっ飛ばしてたわよ。あんた本当に大丈夫なの?」

ピヨは平気なことを、ふんぞり返ってアピールしている。本当に平気そうだ。

「それにしても、ピヨちゃんにまで手を挙げていたなんて許せないわね・・もう少し、痛い目みせないとダメね・・」

レーゼは小声で物騒な事を言っている。

「それで、結局あいつらはどうしたんだ?」

「まぁ生かしてはあるわ。それ以上は内緒よ!いつかレナリヤに時が来たら、最高の贈り物にしてあげる!」

「・・レーゼ、あいつらの首を私にプレゼントとかやめてよ?」

「なによぉ、私そんなに残忍なことすると思われてるの?」

レーゼは頬を膨らませているが、本当にしそうに見えて、俺とレナリヤはちょっとジト目で見てしまう。

「ちょっとぉ!本当にそんなことしないったら!」



馬車はトンビルさんが豪華なのを用意してしまうと、すぐに目を引いてしまうだろうと、昔から付き合いのある行商の用意した荷馬車にしてくれていた。

荷馬車にコロ町の討伐で山積みになった素材が積み込まれていることもあって、荷馬車の進む速度は非常にゆったりしていた。手綱を握っている御者も「いやぁ、すみませんねー。荷物が多いもんだから、あんまり速度出せなくて」と言ってくれていたが、こういう談笑してる時間も大事にしたい。

トンビルさんには感謝だなぁ。

「ルージュ、楽しそうだね!」

レーゼはいじけてピヨに慰めてもらっているので、レナリヤが隣に来た

「そうだね、こういう時間がやっぱり幸せなんだなーって思うよ。」

「だよね!私もそう思う!・・でも、昨日みたいなのもあるんだよね・・あ、思い出して怖くなったとかじゃないよ?ああいうこともあるから、ちゃんと私も自分のことくらい守れるようにならなきゃって思ってるだけ。昨日の奴らは同じ人間だったけど、あれが人間じゃなくて魔物だったら・・いきなり殺しに来られてたら、あそこで終わりだったもんね・・」

確かにそれはそうだった。同じ人間という事もあって、憎さが増しているが、そういう感情は置いておいて、あれが話の通じない魔物だったら、俺が駆け付けた時には死体が2つ転がってただろう。

「・・レーゼ!昨日言ってた私が強くなる為に馬車に乗りながらでも出来ることない!?・・っもう!いつまでいじけてんのよ!ほら、ピヨ!あんたはルージュの方にいってな、っさい!ちょと!レーゼ、あんたピヨから離れなさいよ!」

レーゼは「えーん!私を癒してくれるのはピヨちゃんだけよぉ!」とピヨを抱きしめて離さず、ピヨはされるがままになっている。

「お客さん!あんまり、後ろで動かないでくださいよ!」



馬車に揺られて、1週間。やっと王都に着いた。

荷物は国を挙げての魔物討伐の戦果である素材で、頻繁に馬車が出入りしている為、御者から「戦果の素材です」という言葉だけで検問は通された。

適当な所で降ろしてもらい、御者に礼と運賃を払おうと思ったが「うちの主人からトンビルさんのお得意さんって聞いてるし、主人の指示でアンタ達を乗せただけだ。要は運賃分先にもらってるから、アンタ達からはもらえないって事だ!まぁ、感謝してくれるなら、トンビルさんとこれからも仲良くしてやってくれ!あの人は昔は凄腕の冒険者で俺の主人も俺も助けてもらった恩があるんだ。あの人の頼みなら喜んで手伝うぜ!」と御者はニカッと笑うと「さぁ、行った行った!あんまり目立ちたくないんだろ?人込みに紛れちまった方が、変なのに気が付かれずに済むぜ!」と送り出してくれた。

「あんた、名前は?」

「俺か?俺はニル。じゃあ、またな!」

ニルは笑顔で去って行った。

「・・いい人だったわね。」

「ああ、トンビルさんと会ったら礼言わなきゃな。深い仲になれたわけじゃないけど、いい関係が築けそうな奴だったな」

「リトナさんみたいに?」

「あー、確かに。まぁリトナよりは、頼り甲斐ありそうな雰囲気だったけどな」

「フフ、私もちゃんと妻として、ルージュの交友リストはチェックしておかなくちゃね」

「あははは・・まぁほどほどに頼むよ。」

「ルージュ―、どっち行けばいいかわかんないから、早く先歩いてよー」

「あー、今行くよ!・・?あれ・・あれはチソエ?」

呼んでくれるレナリヤに向かおうとした矢先、レナリヤの向こうにフードを被ったチソエがいる。

大声で呼ぶと自分達も注目されてしまうかと思ったので、近くまで寄ろうとすると、大柄の人相の悪そうな男がチソエに大仰に話しかける

「これは勇者御一行のチソエ様じゃあ、ありませんか!」

「・・人違いじゃないかしら。悪いけど用があるので、失礼します」

「いーや、人違いじゃないね!あの頃散々虚仮(コケ)にされたが・・わからねぇもんだな。」

「アンタみたいなデカいやつ知らないわよ。」

「あー、そうだろうぜ。お前は俺を鼻で嗤って見向きもしなかったからなぁ!だが、要件はちゃんとある。トレビーの靴をオークションで強引な手段で落札しただろ。あれは今の俺の主人が落札するはずだったもんだ。それを横取りしやがって・・」

「何とでも言いなさいな。落札したのは事実よ。下っ端のアンタにどうこう言われる謂れは無いわ!」

「勿論、確かにルール上問題は無かったわけだが、主人が引き下がれないって言ってんだ。お前の言い値で買い取るとも言ってるぞ」

「何と言われても、もうあれは私の物よ。誰かに譲る気なんて一切ないわ。帰ってファグスにそう伝えなさい!」

「・・どうなっても知らんぞ」

大柄な男は意外とすんなり引き下がって行った。

「チソエ」

「え?・・あ、ルー」

シーっとジェスチャーをして名前を呼ばないように頼むと、すぐに察してくれたチソエは「こっちよ」と家まで先行してくれた。


「どうぞ。いらっしゃい、ルージュ。そちらの方々は新しい仲間かしら?」

「仲間と言えば仲間だけど・・それは後で説明するとして、さっきの大男はなんだい?オークションで落札がどうこうって・・」

「普段からオークションに行くわけじゃないんだけど、今回の品はどうしても落札したくて、少し強引な落札をしたのよ。それで落札で競った相手がさっきの大男の雇い主のファグスって奴だったってだけ。」

「確かに討伐組の頃に君がオークション行ったりしてるのは、見たことないね。でもそんな強引な手段を取ってまで何が欲しかったの?・・あ、いや、言いたくなかったら別にいいよ」

「ううん、今回ルージュと会ったのは少し感じるものがあるもの。今回落札したトレビーの靴はゼゼホが冒険者になって初めて自分で見つけたお宝だったのよ。それを装備して使ってたんだけど、悪い商人に騙されてね。偶々、トレビーの靴が出品されるって聞いて、ゼゼホのとは思ってなかったけど、何となく覗いてみたら、あの子のサインが書かれてたのよ。だから、あの子の墓前に持っていきたくて・・」

「なるほど・・俺も同じ心情だけど、強引な手段って何したの?」

「・・ごめんなさい、ルージュの名前を勝手に使ったわ」

「俺の名前?・・・あー、ブリューンズか。」

「まぁ、嘘は言ってないけど・・元々トレビーの靴はゼゼホの所持品だったってことと、ルージュとゼゼホはチーム内でも仲が良かったって。そう出品者に言ったの」

「なんだ、そんなことか。そういう使い方なら幾らでも使ってくれて構わないよ。寧ろこれからも今回みたいなことがあった時には、率先して使ってくれて構わない。で、その名前を使ってもイチャモンを付けてくる奴の方が今後の問題だな・・」

「ルージュ、そろそろ、私達の事もちゃんと紹介してもらえない?」

「え?あ、ごめん!」

レーゼにせがまれて、経緯を伝えると、チソエは祝福してくれた。

「さっきの話の続きは先にゼゼホの所に行ってからにしましょ。まだ行ってないんでしょ?実はあれから、この家に地下道を作ったのよ。私やることないじゃない?ゼゼホの墓に行くのにも、毎回監視を掻い潜るのはめんどくさいし。」

「え!?チソエがそんな肉体労働したの!?」

「魔法でやったのよ!」

「・・いや、あの頃のチソエを知ってる俺にそんな冗談・・」

「・・確かに、私、魔法てんでダメだったわよね・・まぁ、この地下道を見てもらえば少しは上達したのをわかってもらえるはずよ!」

チソエは風呂場に入ると結界を解いた。風呂場の奥に、部屋の景観を損なわない床の中に地下への蓋があった。

結界を張って、プライベートルームがあるように見せて、不自然に見えない床と一体化してる蓋で視覚的な工作もしてるのか・・しかもこれ・・普通には蓋が開かないようになってる。

魔力を通すことで反応して、蓋を開くにはチソエの決めた魔力の巡らせ方をしなくちゃ開かない構造になってる・・!

「スゴイ!・・これ、チソエがしたのかい!?」

「あなたにすごいって言われると、お世辞でも嬉しいわ。ちゃんと地下道も見て。一生懸命やったから」

下に降りていくと、一級の職人が何年と時間をかけたのかと思わせる荘厳な真っ白な道が出来上がっていた。

てっきり土を掘っただけのトンネルだと思ったのに、まるで聖櫃(せいひつ)へと続く道のりのようだった。

「これは・・!いや、お世辞とかじゃなくて、本当にすごいよ!魔力をぶっ放すことしかできなかったのに、どうやってこんな繊細な魔法を扱えるようになったんだい!?」

「・・私は・・あの日まで、魔物をぶっ飛ばすことこそ、魔法の神髄だと思い込んでたのよ。ただそうじゃなかった。そうじゃなかったし、ただぶっ放すだけでもルージュには足元にも及んでなかったのを知って、ちゃんと自分に出来ることを凡人なりに頑張ってみようと思っただけ。」

チソエは謙遜してる風でもなく、本心から思っているようで「まだまだだけどね。あなたの活躍を目の前で見てきた者として、あなたの高みを及ばないのはわかってるけど、目指し続けるわ」と言ってる姿に、レナリヤは感動した。あの部屋も、細工も、この荘厳な地下道も全部一人でやったというのが、信じられなかった。鍛冶職人の父の下でずっと手伝ってきたレナリヤにとって、物作りという分野に携わる者として、これは驚きしかなかった。

「・・ルージュ、あんたの仲間って凄かったんだね・・!私ザナンともう一人は馬鹿にしてたけど・・こんなの見せられたら・・!」

レナリヤの言葉通り、俺自身も驚きを隠せなかった。

チソエにこんな才能があったとは・・!

「この地下道を構成しているのは、元の土ですか?」

「あら、流石ルージュの奥様ね。仰る通り、これは全部元々あった物を私が魔力で変換させたものよ。外に見つからないように物資を持ってくるって言うのは、これだけ大掛かりにしようとすると、ちょっと無理があるもの。だから、元あるものを変換させて、作り上げました」

口で言えば簡単だが、それをこんなに装飾までこだわって作り上げるのは、どれだけの魔力制御が必要か・・そもそもこれが簡単な事であれば、職人はいらなくなってしまう。

ブリューンズの自分が言うのも何だが・・チソエは化け物としての才覚があったということだ。

努力だけで誰もが辿り着ける極致じゃない・・!

地下道を抜けると、すぐにゼゼホの墓があった。

振り向くと、自動で結界が構築されており、視界に映るのは、綺麗な森の景色だけだ。

出てきた所をみると、先程の蓋のあった部屋と同じく魔力を通さないと開かないようになっている上に、結界が張られている状態だと、ちゃんと地面があった。

魔力を通すことで地面が変換され、道が現れるようになっていた。

レナリヤは食い入るように見ている。

「ゼゼホのお墓はルージュの言いつけ通り、何もしてないわ。あなたの結界もそのままにしてあるわ。」

あの日チソエとゼゼホを埋葬した日のままだ。

墓石も何もない。ただ、そのことを知る人だけが想いを馳せる場所。

「・・今のルージュなら、いつでもそうできると思うけど・・いつかゼゼホさんのお墓をちゃんとしてあげたいね」

レーゼがしんみりした様子で話し、レナリヤも「そうだよ!これだけチソエさんがしてくれてるなら、墓石だってしっかりした感じの!」と相槌を打っている

「・・じゃあ、レーゼ、レナリヤ、これがゼゼホだよ」

魔力を込めると、埋葬したゼゼホが見える。

「ウソ・・!?え!?生きてる!?」

レナリヤが目をパチクリさせている。

「さっきルージュは褒めてくれたけど、ルージュがゼゼホを埋葬した時に施した魔法を見て真似しただけなのよ。」

「え!?じゃあ・・このゼゼホさんはその時の絵みたいなもの?」

「いいえ。ルージュはゼゼホの時を止めているの・・ううん、正確には違うわね。ルージュはゼゼホの遺体に「その時」を維持する魔法を掛けたの。周囲の大地から湧く地脈のエネルギーを循環するようにして。だからあの時から何も変わってない。それに、時を止めるって結構難しいのよ。この世界からそこだけ異物を維持するような感じだから。勿論ブリューンズであるルージュになら、出来ることかもしれないけどね。私のような凡夫には無理。でもルージュのこの魔法は、この世界の時間に逆らわず、エネルギーを循環させることで、この遺体は生きている時と寸分変わらず維持されているのよ。」

「・・・・」

レーゼはチソエを凝視している。

「キレイだねっ!」

ピヨがいつも通り率直な感想を述べてくれた。

俺は・・久しぶりに、ゼゼホを見たらまた涙が溢れてきた。

「・・あ・・ルージュ、ごめん・・ゼゼホさんに挨拶しに来たのに、私驚きっぱなしで・・」

「うん?あぁ、いいんだ・・あ、俺はもう少しここにいるから、疲れたら先に戻ってて大丈夫だからね」

一応、そう伝えたが、誰一人、日が暮れるまで、そこから動かなかった


『ゼゼホさん、か。ルージュは生き返らせることもできるはずだけど・・蘇生については慎重なのね・・』

レーゼは今後のルージュの方針を知る為にも、この情報は大事な項目だと頭の中でマーカーを引く。

『この人がゼゼホさんかぁ・・あれ?え?これって・・!』

レナリヤは何故か自分の知らないルージュの笑顔や、戦う姿などが走馬灯のように流れていく。

そして、目の前の女性が生き生きと動き笑顔を向け、チームの為に懸命に駆け回る姿を幻視する

『何コレ!?知らない・・!私の知らない風景が・・!これって・・ゼゼホさんとルージュの記憶・・!?!?こ、これ・・皆にも視えて・・?』

周囲を見渡すが、全く分からない。みんな思い思いに感傷に浸っており、ルージュとチソエさんは涙を滲ませている。レーゼは難しい顔をして考え込んでいるような感じで、目を固く瞑っている。

時間はアッという間に過ぎ、暗くなるとゼゼホはライトアップされているように淡く光り、幻想的な光景になっている。

「キレイだねっ!」

ピヨはまた素直な感想を言ってくれた。

「そうだな・・っと、みんな付き合わせてしまって本当に悪い。流石にそろそろ戻ろうか」

「・・いいのよ?頻繁に来るわけじゃないんだし」

チソエが気を利かせてくれて、レーゼもレナリヤも相槌を打ってくれたが、流石に長くいすぎたと思う。

「ありがとう。でももう大丈夫。それにゼゼホだったら「そんな辛気臭い顔でずっと居られても困るっすよ」って怒られそうだしな」

「フフ。そうね、あの子ならそう言いそうね」

レーゼは少し自分が不謹慎だと思いながらも、自分の知らない時間を共有しているチソエに少し嫉妬をしたが、ルージュをコピーしたレーゼにはゼゼホの存在の大きさをよくわかっていた為、すぐに頭を切り替えた。

『・・ルージュがゼゼホさんを生き返してくれれば、挽回もできるかもだけど・・死んでしまった人は時間が経つにつれてどんどん美化されていく。元々いい記憶だったなら尚更・・ズルいわよ。まぁ、あなたの記憶が美しいままであれば、ルージュが人間種に幻滅することも防げるでしょうし・・役割分担って感じかしらね。私はルージュと一緒に生きて、支える。あなたはそちらからルージュを支える。・・これも妻としての役割分担って感じかしら。』

レーゼがジロリとゼゼホを、()め付ける。

ルージュは普段は真眼を使っていないようで、視えていないが、レーゼの瞳には実体のゼゼホとは別に魂のゼゼホが視えていた。

『・・あのぉ・・もしかして、視えてるっすか?』

『ええ、ハッキリと。』

『うわぁ・・ルージュって怖いお姉さんが好きだったんすか?』

『そんなわけないじゃないですか!あなたにだけですよ!』

『な、なんでそんな敵意剝き出しなんすか!?アタシ何もしてないっすよ!?』

『あなたが、超えられない特別な存在として、居座ってるからですよ!・・全く、ルージュが「できない」んだったら、私がチャチャっとあなたを生き返らせてしまうのに。ルージュは「できるけど」しないという選択をしている。それをわかってるのに、生き返らせちゃったら、藪蛇になってしまうわ・・だから、ズルいって思ってるの。さっきの私の心の葛藤も、今のあなたなら聞こえてたでしょ?この状態では隠し事なんてできないのだから。思ったことがお互いにそのまま相手に伝わるんですからね。』

『・・そっすね。アタシは生き返されるなら、それでもいっす。このままでもいっす。ルージュが元気でいてくれるなら。』

『・・そこは同意です・・はぁ、認めたくないけど、あなたもルージュの妻の資格がちゃんとあるのね。』

『妻の資格?』

『ルージュの幸せを願っていることよ。心から。そして、ルージュもあなたのことを大事に想っている』

『・・へへっ、面と向かって言われると、照れるっすね!・・この状態だとアタシの方からは何も出来ませんけど、それでもルージュが元気でいてくれるように、ここでずっと願ってるっすよ!』









         ⅱ―2


その後みんなで食卓を共にしたが、レナリヤはチソエに興味津々だった。

魔力操作で物質の変換なんて職人には夢のようだ!ということらしく、ずっと教えてとねだっていた。

「熱心なお弟子さんが出来たら嬉しいとは思うんだけど、私は一緒に旅できないし、それにさっきの様子だとレーゼさんはわかっていらっしゃるようだもの。3人はみんな同じ出身なんでしょ?それなら、レーゼさんやルージュに直接教えてもらった方が、レナリヤさんの癖もわかってて成長も早いと思うわ。ね?レーゼさん。」

「ええ、レナリヤが嫌でなければ。」

棘のある言い方だったが、レナリヤは全く気にした様子は無く、「あ、そっか!元々レーゼに教わるって言ってたし、レーゼもさっきのあれわかってるなら、教えてくれるよね!」と楽しそうだ。

レーゼは眉間に指を当てながら、頭が痛そうにしている。

「・・あんまり、こういう事は言いたくないんだけど、先に言っておくと、チソエさんのあの結界や魔法制御技術は、努力しても皆が皆、辿り着けるわけじゃないわ。」

「フフン!そういうのはいいのよ!誰でも辿り着けるわけじゃなくたって、そこ目指さなきゃ、辿り着くことなんて絶対にできないじゃない!父さんがよく口癖で言ってたわ。「努力は裏切らない!」って!」

今は何を言っても響きそうにないと諦めたレーゼは「ハイハイ、わかったわよ」ともうネチネチ言うのはやめたようだ。

『はぁーあ・・なんか私、チソエさんのとこ来てからずっと嫌な女って感じじゃない・・悶々するなぁ』

「それで、チソエ。昼間の話だけど、そのオークションの件で嫌がらせしてきてるファグスって奴については、大丈夫そうなのか?」

「たぶん大丈夫だと思う。少し私も調べたけど、めんどくさいタイプなのはそうなんだけど、勝てない勝負はしないタイプの人間でもあると思うの。今ルージュがブリューンズだってことは、ギルドも人類保持同盟も大々的に広めてるから、余程情報に疎い人物でなければ、私がルージュの知人だって事はみんな知ってるもの。」

「でも、それって「討伐組」で同じメンバーだったってだけじゃないですか?あ、嫌みを言いたいんじゃなくてですね、世間に広まってるザナンやチソエさんの評判って悪い状態のままなんじゃないかなって。実際は私達が今見てきたように、ルージュにとって・・ゴホン。大事な人であるゼゼホさんの守り人的な、かなり重要な立ち位置な方なわけですが・・これは世間の人は知らないことですよね?であれば、ルージュの名前を出した所で、チソエさんが追及を逃れられる理由には少し弱いと思うんですけど。ルージュはどう思う?」

「・・そうだな。うーん・・でもなぁ大々的に言うと、ここも今までみたいに静かではなくなるかもしれないし・・やっぱり俺達が直接動いてった方が手っ取り早いんじゃ・・」

「・・取り敢えず、それも頭の隅に入れておくとして、ルージュ、ゼゼホさんのお墓参りの他にも目的あるのわかってるわよね?」

「レゼちゃん、コワーイ」

ピヨがずっこけるような真似をしている。表情はいつも通り何考えてるんだかわからないが、天然で出来るんだな・・と内心感心していると

「ピヨちゃん、時にはちゃんと話を戻してあげなきゃいけない役割の人もいなきゃダメなのよ!」

とレーゼは必死に力説している

ピヨはわかってんのかまるで読めない表情で「なのよ!」とオウム返しをしている。

チソエは静かに笑いながら、「それで、目的って?」と話を振ってくれたので、レミィのことを簡単に話した。

「あー、あなたが「討伐組」に入れられる材料にされた子ね?」

一応過去に話したことを覚えてくれていたようだったが、残念ながら目新しい情報はないとのことだった。

「ごめんなさいね、役に立てなくて。」

「いや、ここにはゼゼホの墓参りに来ただけだし、寧ろチソエは俺の期待以上にゼゼホを大事にしてくれていて俺は本当感謝してるんだ。ここをチソエに任せて本当に良かったと思ってる」

チソエの瞳から涙が一筋流れた。

涙が流れたことに本人が気付いてなかったが、レナリヤが「チソエさん・・?」と心配気に窺うと、やっと気付いたチソエは「あれ?・・アハハハ・・なんかやっと少しでも恩返しできたように感じたら・・」と言いながら涙を拭いた。

「・・チソエ、確かにあの頃の、ザナンとの頃は許せなかった。でも、ゼゼホはいつも何とかならないかなって言ってたんだ。そして・・今更ではあっても、チソエは心を入れ替えてくれたし、こんなに立派に整備もしてくれてる。ゼゼホはとっくに・・いや、そもそもゼゼホは気にしてなかったかもしれないけど・・俺ももう、今のチソエなら許せます。そのくらいここの魔法を駆使して作り上げた結界の緻密さは素晴らしい。これにどれだけ真剣に必死に取り組んでいたかが俺にはよくわかる・・だから、チソエ、本当にありがとう」

ルージュは私に何度も礼を言ったのに、最後には深々と頭を下げた。

これがギルドとかもっと上の人達が見てたら、大騒ぎだっただろうなとか思ったが、そんなことよりも、ルージュに許してもらえたというのは何よりの成果だった。



「じゃあ、俺達はレミィを探しに行きます」

「でも、チソエさんも知らないんじゃ、どこ目指すの?・・あ、プンス町のサラさんのとことか?」

レナリヤが珍しく鋭い。

「プンス町のサラさんって、王都で流行ってる「サラサーティ」って店のオーナーの?」

「そ。まだ確証はないんだけど、トンビルさんの話を聞いてた感じだと、どうもそれっぽいって思ってるんだ。レミィについての情報があるかはわからないけど、暫く会ってないのも事実だしね。」

「なるほど・・確かにあり得る話ね。サラさんがというよりは、彼女に付きっ切りの精鋭騎士団長がいるのよ。確か第三隊だったけど、親が宰相のクーズなの。だから、この国の事であれば情報を持ってる可能性があるわ・・あと、ラング公国にも向かうのよね?であれば、ギルド本部もそうだけど、あそこには有名人が沢山いるから、気を付けてね」

「ギルド本部のある所で、気を付けなきゃいけない様な問題があるってこと?」

「ええ、あそこにはマーバン・ヴァリという化け物が支配してる街がある。そして、さっき話してたファグスもラング公国にいるわ・・あと、ルージュに興味があるかはわからないけど・・どこかでメレーニ・ドロッツェオを訪ねるといいわ。」

「それは探す手間が省けていいね。・・そのメレーニなんとかさんっていうのは?」

「音楽家という仕事をしているらしいです。しかも生まれながらに目が見えないとか。それでありながら、彼の演奏する音楽は人々に分け隔てなく感動を届けているということらしいですね」

「レーゼさんは本当に何でも知っていらっしゃるのね。ルージュ、あなたの心にもきっと何かが感じられると思うの。」

「わかった。色々本当にありがとう。あ、そうだ。忘れるとこだった!」

「?」

「トンビルさんにも話したから、その内チソエの所に来ると思うから、その時はゼゼホに会わせてあげて。」









         ⅱ―3


ゼビィは頭を抱えていた。

アーメックさんに言われたこともあって、先日まで休暇を貰って、ラング公国まで旅行で行って、ドロッツェオの演奏を聴いてリフレッシュしたまでは良かったのだが、その後、ファグスという男にナンパされ、これが結構しつこいので困っていた。

あとを付けられているわけではないのだが、何故か向かう先々で彼に出くわすのだ。

ここには一人で旅行に来ているし、サラお嬢様やアーメックさんにもザックリとした行程しか伝えてはいない。

しかも、予定を変えたりもしたが、それでも何度も出くわした。

そして、全てにいるわけではなく、その内の幾つかには居ないこともあるのだ。

これがゼビィには偶然なのか、狙われているのかを結論が出せない理由だった。

全部にいるなら、何かしらの手段でこちらを追っている可能性もあるだろう。

サラお嬢様のことや、アーメックさんの立場を考えれば近付く理由には十分だ。

それを理解しているからこそ、警戒しているのだが・・。

こいつはまた何故か「偶然」に、同じ馬車に乗り合わせた。

「いやぁ、やっぱりゼビィ。これは神の思し召しじゃないかな?」

屈託なく、穏やかで爽やかな笑顔を振り向ける。

「いいえ!単なる偶然です!」

焦るような素振りも無く、ファグスは眼鏡の曇りを拭き取っている

「ハハ、その偶然もこう何度も起こると、必然に思えてこないかい?」

「いいえ!あなたが付いてきているだけでしょう!?」

「そうは言ったって、この馬車に先に乗ってたのは僕で、君は走ってこの馬車に乗って来たんじゃないか。」

そう。そうなのだ。どういうわけか、追われているように感じて、それまで予定していた交通手段を切り替えて、目の前にあった馬車に急遽飛び込んだ所に、こいつはいた。

まるで待っていたかのように。

「これだけ、行く先々で君と出会うなんて、僕じゃなくても運命を感じるのは普通じゃないかい?確かに最初に声を掛けて君を口説いたのは僕だけど。僕が向かう先もそうだし、僕が今みたく先にいた所に、君が現れるのももう何度あったかわからないじゃないか。」

ゼビィは返す言葉がなかった。この男は非常に容姿の整った男で、同性であれば皆がときめきそうな雰囲気だった。が、ある意味アーメックで免疫があったゼビィは心を奪われずにすんでいた。

『アーメック様を存じ上げている私に、容貌で私を攻略しようとするのは無駄なことです・・が、ここまで何度も鉢合わせするのが、仮に、万が一、本当に運命めいたものであるなら、色恋以外にどういう意味が・・』

ゼビィは言葉は返さずに考え込んでいた。

「全く・・まぁ、このやり取りももう何度目かだし、いいけどね。それで?君はどこに向かうつもりだったんだい?」

「それをあなたに伝える理由はありません」

いえ・・これは確認するチャンスかもしれませんね・・!

「ファグスさん」

「?」

「それでは行先をお互いに同時に言いませんか?」

「おぉ!それは面白いね!是非しよう!」

「「せーの」」

「ギルド本部!」

「サラサーティ!」

『!?』

「おや、今回は行き先が違ったようだね」

ファグスは残念そうにするでもなく、変わらず笑顔で言った。

「・・何故、サラサーティへ?この国ではありませんよね?」

「おや、君はサラサーティを知っているのかい?見た目通り、情報を得るのが早いんだね。あそこは今キンナル王国で非常に評判の「茶」というものを扱ってるそうじゃないか。その流行りはここラング公国にも広まっているんだ。是非僕も一度本場の味を体験してみたくてね。プンス町までの直行便が無いから、この馬車だけでとはいかないんだけど、乗り換えながら向かう所だったんだよ・・ほら、これがその茶葉というものだそうだ。取引先の知人から譲ってもらってね。私も最初はこんな枯葉が商品になるのかと疑ったが、使い方を聞いて試してみたら、得心がいったね。ドワーフが樹を煎じたスープを飲むというのは聞いたことがあったが、我々人間種にとっても美味いと感じられるものだったとは、驚いたものだよ。」

ファグスが取り出した瓶は、確かにサラサーティで貴族から持ち帰りを希望されたことで、商品化したものだった。

ゼビィは、いよいよ認めざるを得ないのかと頭を抱えていた。というのも、ギルド本部には確かに行く「予定」だった。が、その予定を繰り上げて、行先を同時に言う時に一旦サラサーティに戻ることにしたのだ。だから、今本当の行先はサラサーティだった。

ゼビィはギルド本部の所で、一旦降りた。

「じゃあね。君とはここまで何度も会ったんだから、また会える気がするね。」

ファグスは笑顔でそう言うと、そのまま馬車は出発していった。

・・ここで私が何をしようと、サラサーティの者は誰もいませんし、休暇の使い方は人それぞれ、ですよね。あの男、確か私を口説いてきた時、フレネミーファグスと言いましたわね。

少し、調べてから戻ることにしましょう。

ゼビィはギルド本部の受付に向かう。

「依頼をさせて頂きたいのですが」



サラは久しぶりに自分の店「サラサーティ」を従業員のソノと切り盛りしていた。

「ふぅー!ソノはいつもこれを回してるのね・・!」

「最近はサラさんが手伝ってくれるので、大分楽ですよ!」

ソノはここに住み込みで朝から晩まで働いてくれている。

開店する時に、アーメックさんが紹介してくれたのだ。

何でも、昔に奴隷商人から購入されてきたとかで、ずっと使用人として下働きをしていたらしい。

アーメック本人が関わることは中々できなかったそうだが、面識が出来て話もするようになったということだった。

ソノはアーメック家での苦労は口にしたことが無いが、その前の生活は本当に大変だったらしい。

アーメックさんが言うには

「僕と面識が出来てと言ったが、僕と面識が持てるということは、使用人達の中でも評価されていた人物だったってことなんだ。自分で言うのも難だが、うちは大きいからね・・普通奴隷商人から購入されたような、出自の分からない使用人は、僕らと面識を持つような所で、そもそも働かせてもらえないんだ。それを許していたという時点で、ソノは仕事が出来て、人間性に問題がないと判断されていたってことになる。そして僕自身、ソノとも頻繁とまではいかないが、ある程度人間性を知れたからね。サラさんに紹介できる人材だと判断したんだ」

とのことだった。

なので、この今の労働環境についても、不満どころか大変楽しそうに働いてくれている。

ただ・・私が何だか申し訳ない気持ちでいっぱいなのよねー・・いや、ソノさんの笑顔に嘘がないのはわかるし、前世での開業した店主が自分の店の開店から閉店までしてたような感じで、充実感でいっぱいって感じなんだけど・・私が開店した店なのに、当の私は普段別のことして雇った子を丸一日働いてもらってるっていうのは・・なんていうか、凄くブラックな気がするのよぉ!私の!私のメンタルにダメージがあるのよぉ!・・でも新しい子、前に増やそうとした時は、ゼビィが「もしやソノに何か至らない点があったでしょうか・・!であれば、教育責任として・・」とか言い出すし、ソノちゃんはソノちゃんでもう泣き出しそうな・・というか半ベソになってたのよねぇ・・うーん・・あ、でも、今回実際私も一緒に働いてみて必要性を感じたってことなら、できるかも!アーメックさんが今日の閉店後か明日に来るって言ってたし、その時にソノも交えて話してみよう!

うまく人員増強に持っていけそうな算段が出来て、ルンルンになったサラは閉店作業をする時間だったので、片付けをし始め、物を片付けに後ろに下がると、客が入って来た時に鳴る扉のベルがなった。


カランカラン


「あ、すみません!今日はもうラストオーダーは過ぎてるので・・ってハンスさん!」

「や、これから隊長も来るんだが、サラ殿はいるかい?」

「はい!今呼んできますね!」

「あ、まだいいよ。隊長がくることだけ伝えてもらえるかい?あと・・ラストオーダー過ぎてるのはわかってるんだけど・・」

「大丈夫ですよ!今いるお客さんたちは馴染みのお客さんばかりなので、ハンスさんやアーメック様の事も皆さん理解してくれてる方ばかりなので!いつものサーティの他にご注文はありますか?」

「そうだな・・パンを俺と隊長に2つづつもらえないだろうか?公務の後真っ直ぐ来てるから、食事を取れてないんだ」

「それなら、温かいスープもいかが?」

「ああ、そりゃあいい。流石ソノは気がき・・ってサラ殿!?」

「何よぉ!私がいるってわかってて、来たんですよね?ちゃんと二人の話も聞こえてました!ソノ、先にパンとスープをハンスさんに。サーティは食後に出してあげて。あと、スープは二人分温めてあげて。温めている内にアーメックさんもくるかもしれないから、一人分ずつやってたら、待たせちゃうかもしれないから。」

私がそう言ってると、アーメックさんが丁度良く入って来た。


カランカラン


「ハハ、サラさん、店長も板についてきた感じですね」

「あ、アーメックさん。思ったより早かったですね。ハンスさんも今来たばっかりなので、ちょっと時間かかりますが・・」

「どうかお気になさらず。僕もハンスも何時に来るとは伝えられてませんでしたし。遅くなってしまってすみません」

ソノちゃんは、ハンスさんとアーメックさんに軽くお辞儀をすると、急いで後ろに下がって行った。

「私もソノを手伝いに後ろに行って大丈夫ですか?」

「勿論だ。その方が店の仕事も早く終わるだろうしね。」

さて・・ちょっと自分で試してみたい魔法があるのだ。

火魔法だとパンを消し炭にしちゃったり、焦がしてしまうから、手をかざして手の平だけを熱くするように魔力を意識する・・でき・・!

・・一つ目は失敗してしまった。

何も言わずにアーメックさんに持っていく。

「アーメックさん、悪いんですけど、ちょっとこれで待っててもらえますか?」

「!?」

「サラ殿!?」

「あ、ハンスさんの分はソノが持ってくるので待っててください」

「そうじゃなくて!これは私がもらうから・・」

アーメックは首を横に振って、ハンスを座らせる。

「ですが隊長にこんなもの食べさせられませんよ!こんなのアーメック家の執事長とかに見られたら・・」

「いや、こういうのを食べる機会の方が僕は少ないんだ。案外美味しく感じるかもしれんじゃないか」

バリッジャクジャク

「うーん、これは中々・・」

「これはハンスさんの分で、アーメック様の分は今サラさんが・・え!?これサラさんが出したんですか!?」

「いや、いいんだ。前に僕から頼んだんだよ。サラさんの手作りの食事を食べてみたいって。こういう失敗したものっていうのは、出来るようになると中々逆に見れなくなるものだ。こういうのを知ってると、将来料理が上手くなったサラさんの昔の味を知ってるっていう優越感を味わえるじゃないか。」

ハンスは頭を痛そうにし、ソノも困った様子だったが、後ろから「出来た!」と嬉しそうな声が聞こえてきた。間もなく走って皿をアーメックの前に置く。そこには湯気の出ているパンがあった。

「なんだ・・もう成功してしまったんですね・・ハムッ、ムグムグ・・ゴックン。温かくてふわふわで、本当に焼き立てみたいだ。流石サラさんだ。そして、さっきのパンもちゃんと私が貰って本当に良かった・・!」

「隊長のさっきのは少し変なおっさんみたいで気持ち悪かったですが・・それはともかく、本当にうまいですね。最初のを失敗したばかりだというのに・・」

「加減が難しいんです。でも大体わかったかなって思います。で、この後サーティも用意するので、もう少しお話し付き合ってもらえませんか?」

「ああ、勿論。ここで君と話すのに来たんだから。」

他の客達も思い思いの時間を閉店ギリギリまで過ごすと、皆満足気に帰って行った。

ソノは片付けは自分がするから、サラに話してきていいですって言ってくれたが、今日話したいのはソノにも聞いてほしいので、申し出を断り、一緒に片付けをチャッチャと済ませて、人数分サーティを用意して席に着いた。

「それでは、まずは今日も皆さんお疲れ様です!」

乾杯ではないが、それぞれの一日を労うと「私はサラさんが手伝ってくれるので、最近は随分楽なんですけどね」とソノは苦笑している

「そう!それ!アーメックさん、私、実際に店に入ってみて、思ったんだけど人手がもう少しほしいです!あ、先に言っておくけど!ソノちゃんが使えないとかヘマをしたとか、そういうことじゃなくてです!ソノちゃんは店員として完璧だけど、マンパワーが足りないから、お客さんを待たせちゃってるって言うのを実際に入ってみて感じたんです!」

「フム・・もしかして、今回サラさんが直接店のオペレーションに入ってみたのも、その辺の理由があったんですか?」

「ええ、入る前にこの話をしてみたら、ソノちゃんは半ベソになっちゃうし、ゼビィは「教育者として責任を・・」とかって何か私が意図した方とは違う方に転がっちゃって・・で、実際入れば、机上の空論じゃなくて現場の声として話せるなって思ってたんです!」

「ええ!?サラさん、そんなこと考えてたんですか!?も、申し訳ないです・・」

「ソノ、そうじゃない。そこは君を責めてるのではなく、さっきサラさんが言ってたように、人手が足りてないことで、客にしわ寄せが言ってることが問題なんだ。寧ろ、現場にいたソノの方から、この提言を出していれば、もっと早く対策できたってことだ。あ、これは君を責めてるわけじゃない。君がアーメック家にいた時のことを考えれば、自分一人で何とかしなくてはと思ってしまうのも致し方ないからな・・私の言いつけよりも、今の君の仕事はサラさんの想いを形にすることと思ってくれ。サラさんはこの店をみんなが落ち着けるように、快適に過ごせるようにというコンセプトで作っているから、これからはその観点で必要に思ったことはどんどん言ってくれ。」

「・・はい!」

「よし、人数はどのくらいが理想だい?」

「そうですね・・ソノさん入れて4~5人くらいでどうですか?開店業務と閉店業務は1人でもいいですけど、日中のお客さんが多い時は、厨房に一人と接客に二人くらい欲しいです。あとは店を毎日開けるなら、休みを回すのにもう一人くらいは欲しいです。あと、新しい人についてはアーメックさんの紹介でも勿論良いんですけど、町の人やギルドの人とかどうかなって考えてるんですけど・・あ、これは私がこうしたいっていう「意向」では無くて、どう思いますか?っていう「提案」として考えてほしいんですけど・・どうでしょう?」

アーメックとハンスは考えている様子だが、ソノは「私は今回のサラさんみたいに、一生懸命お店やお客さんの為に頑張ってくれる方なら、誰でも歓迎ですけど・・」と言ってるのを聞いて、サラは慌てて一言付け加える。

「あ、今回の募集については、私も勿論人選については参加するけど、ソノちゃんにも参加してもらうからね?本当はゼビィにも参加してほしいけど、今はやっと休暇取ってくれたから、休暇あけてからゼビィにも協力してもらうとして、それまでは私達でって考えてるから、誰でもいいっていうのはナシだよ!ちゃんとこの人と働きたいっていう人を選んでもらうからね!」

ソノは仰天しているが、ハンスは納得している様子だ。

「確かにアーメック家の使用人から斡旋すれば、店員としては一流だろうが、ソノからしたら、上司が自分の部下になってやってくるようなものだしな・・それにソノでさえ今隊長に言われるまでは、アーメック家の使用人としてという意識が根強かったわけで、これが他の使用人となると予め言いつけておいても、そこは中々柔軟にはならなそうだし・・今後お客が増える事を想定すれば、面倒事を起こす客が無いとは言い切れない・・って考えれば、ギルド上がりや冒険者を経験した人間なら、そういう場合にも対応してくれそうだし、町の人間であれば、知った顔には無理難題も言い辛いというのも効果として期待できそうではあるな・・」

ハンスの言葉に、アーメックも頷く。

「であれば、貴族達にも対処できる人間もやはり居た方がいいだろう。ソノはアーメック家の使用人ではあるが、他の貴族と接する機会は皆無だったからな・・・少し、時間を貰えないだろうか?その人選は恐らく私しかできないだろうから、一人分だけは私に任せてもらえないだろうか?ギルドと町人からの募集については、私の名前を使ってくれて構わないから、ハンス、調整してもらえるか?」

「そうですね、ギルドには隊長の名前をお借りして、仲介するとして・・」

「あ、ギルドと町の方の募集は私とソノちゃんでしますから、大丈夫ですよ」

「「「え??」」」

サラの言葉に3人共ハモッてしまう。

「カルキスさんとはもう馴染みありますし、受付のナナさんとも面識があります。それに、今回募集しても、皆ずっといれるかはわからないじゃないですか。また募集することもあるかもしれません。そういう意味でもソノちゃんに今回一緒に動いてもらって、覚えてくれれば、これから任せられるじゃないですか。ゼビィは普段からこの手のことはしてくれてるので、ソノちゃんには今回この辺も覚えてもらえたらなって。」

ソノは「えぇ!?む、無理に決まってますよぉ!」と嘆いているが、男二人は「成程・・」とこれまた納得した様子でいる

「わかりました。であれば、さっきハンスに任せると言いましたが、私もサラさん達に同行しましょう。逆にハンスには、部隊の方に戻って、私の代役をしておいてもらうとしよう。」

「え?でもアーメックさんじゃないとできないって・・」

「私の心当たりの人物に話すには私が対応するしかないんですが、カルキスさんの方は、明日でもいいですよね?」

「ま、まぁ、明日いらっしゃるかは行ってみないとわからないですけど・・」

アーメックは「まぁ取り敢えず行っていなければ、通信魔法で私の方から話をするようにすればいいだけなので」ともう明日行くことは決定事項になってしまった。

ソノは「えぇ!?」と緊張しきっている。

アーメックはサーティをゆっくり味わうと、ハンスに引き継ぎ事項を伝えている。

「隊長、カルキス殿は明日訪問するなら、元々隊に戻るのは明後日の予定でしたし、必要ないのでは?」

「いや、この間ゼビィさんに自分で話して思ったんだ。俺もちゃんと休まないといけないってな。元々明日は休みのつもりでいたが、カルキス殿と話に行くのは公務だ。であれば、休みを一日ずらすと明後日に戻ることはできないだろう?ちゃんとハンスの休みはまた調整するから、そこは心配しないでもらって大丈夫だ」

「いや、そんな俺の休みなんて心配してないが・・少し意外な返事で驚いただけだ」

「お二人は普段あまり休まれないんですか?」

サラは内心「ゼビィもソノもそうだけど、みんなブラック体質なの・・!?」とドギマギしていた。

「うーん、休まないってわけじゃないんだが・・結局休みの日も何かしら用事があるんだ。精鋭騎士としての公務は休みでも、家の事とかね」

「隊長がそこは特殊なだけで、我々一般軍人はちゃんと休みありますけどね。勿論、私みたく隊長と行動を共にすることが多い役職になると、ある程度制約はありますが、そうは言っても私なんかは隊長と違って貴族ってわけでもないので、休みは休みって感じです」

「まぁ、我々の事より、サラさん。あれからグルジュの芽についてはどうですか?薬草に詳しいルンズは直ぐに向かわせたが、先日やっと派遣できた物語に詳しいカムスベルト殿も到着してると思うんだが・・」

「あ、そうなんです!ルンズさんはグルジュの芽に釘付けで、ずっと張り付いて観察されてるんですけど・・カムスベルトさんは一目グルジュの芽を見ると、通信魔法でこの件に関わっていた者以外に伝えるわけにはいかないって宿に戻っちゃって・・だから、アーメックさんとハンスさんが来られるのを待ってたんです。」

「・・その感じだとルンズくんは同席させられないって事の様だな・・」

「一応、言わない方がいいかなって思ってたので、ルンズさんには何も伝えてないんですけど・・」

「いや、それで構わない。ルンズくんは一応軍所属の人間だから、そこは理解してくれる・・はずだ。寧ろ理解してくれないと困る。カムスベルト殿はフラーナック王国から招聘させて頂いた方なので、気を使わないといけないのはカムスベルト殿の方になるからな」

「ちなみに、ルンズくんは何か新しいことは分かった様子なのかい?」

「ルンズさんはわかったというより、様々な観測をしてます。私があの時のグルジュの芽の状態やどういう効能があったかなどを伝えたのを参考に、グルジュの芽が周囲に与える影響などを計測したりしてるみたいです」

「ふーむ・・泊まり込みなのかい?」

「そうなんですよぉ・・観測するから持ってかないでって言われてるので、私の部屋にずっと籠ってます・・」

「え!?君の部屋に籠ってる!?・・しかもサラさんの身を守る為に、渡したっていうのに・・本末転倒じゃないか・・」

アーメックには珍しく素っ頓狂な声をあげ、少し怒っている様子だ

『隊長・・こんなわかりやすくサラさんのことで、不機嫌になるのに、まーだ自分の気持ちに気付いてなさそうなんだよなぁ・・』

ハンスは内心やれやれと思いつつ、「じゃあこの後、ルンズを持っていきましょう。ちゃんと、報告の為って名目はあるし、取り敢えずちゃんとルンズを派遣した目的を改めて、落とし込みましょう。あいつは初めて見たグルジュの芽の虜になってるんでしょうから」とアーメックに進言する

「そうだな」

「だから、最近サラさんお店に泊まったりしてたんですねー」

ソノの何気ない言葉に、アーメックの顔に更に亀裂が走る。

「・・今、何て?」

「え?あ、今お話しした通りで、サラさんずっとここで寝泊まりしてたんですよ。理由聞いても、「お店の事をちゃんと知る為」ってはぐらかすから、それ以上聞かない方がいいかなって思って・・」

サラはアワアワしながら「ソノちゃん、それは言わなくいいからっ」と口を押えている。

アーメックは眉間を抑えると、ひどい頭痛がするような感じがした。



サラの部屋ということで、アーメックとハーナルは後ろに着いてくる。

「ルンズさーん、入りますねー」

サラは一声掛けながら、扉を開けると、ルンズは血走った目でノートに殴り書きのように記録を付けている。

ルンズは狐の獣人族で顔立ちは人間から見ると、少年の様に見えるが、年齢は40過ぎの中年だった。

「なんだ!?いきなり入ってくるでない!・・あ・・、おやぁ・・?サラさん・・後ろのお二人は・・」

アーメックの表情は笑顔だがピキピキしている。

「ルンズくん・・まず、グルジュの芽についての報告を下で聞こうか」

「あ、はい・・あ、サラくん!そのグルジュの芽に触るなよ!」


ゴチンッ


ルンズの頭にハンスのゲンコツがメテオの様にお見舞いされた。

一瞬星が出たように思う程、いい音がした。

ハンスは気を失ったルンズを持ち上げると、さっさと部屋を出ていく(ルンズの身丈は少年程度しかないので、担ぐのも容易だ)

「サラ殿、そのグルジュの芽はあなたが持っていてください。さっきのルンズの話は無視してください。」

「あ、私も話聞きたいんで一緒に行きます!」

サラは言われた通りグルジュの芽を持って、ルンズの方に向かおうと思ったが、何か飲み物もと考え、3人にサーティを用意して持っていくと、ルンズは説教されていた

「事前に伝えたはずだが、グルジュの芽はサラさんの守護を目的に、持っていてもらったのに、君が取り上げてしまったら本末転倒だと思わないか?」

「で、ですが彼女が持ち歩いてたら、研究なんてできませんよ」

「で?彼女の寝室に陣取って、彼女を追い出して研究してたと?」

「あ・・いや、そのそこにあったので、その場で計測を始めただけでして・・」

「まず、先にこれは決定事項として伝えておくが、グルジュの芽はサラさんに所持して頂く!これは絶対に守れ。次に、サラさんを追い出してまでやった観測で、わかったのは何かあったのか?」

サラがそーっと3人にサーティを置いた。

「おや、度々申し訳ない。サラさん、グルジュの芽は持っていますか?」

アーメックに続いてハンスも礼を言う。

「あ、はい。さっきそう言われたので・・でも、本当にそんなに心配されなくても・・」

「いや、大真面目な話、サラ殿を身を守るのは、我が国の中でも最重要事項なんですよ。」

「え?どういうことですか?」

「その様子だとカルキス殿からは何も聞かされていないのかもしれませんが、ルージュ殿がブリューンズの者だったということが判明したんです」

「ブリューンズ?」

「簡単に言うと人類、世界の生物にとって最も気を遣わなければならない、一族ということです。ギルドもそうですが、我が国はルージュ殿に対し、サラ殿も知っての通り、最悪の仕打ちをしてしまいました。なので、これ以上彼の不興を買う訳にはいかないということです。ギルドも今は同じ立場なので、サラさんをどうしようということはない筈なんですが、そうは言っても、何があるかわからないので、サラ殿を守るという意味でもグルジュの芽は持っていて頂きたいということです。勿論、隊長には他にも思う所があるかもしれませんが」

ハンスが少し悪戯っぽく笑うが、アーメックはやはりまだ自身の気持ちに気が付いていないのか、ポカンとしていた。

「ルンズ、今ハンスが話してくれたのが理由だ。それとそもそも、あまりこういう言い方はしたくないがな、事前に伝えてあったにも関わらず、それを無視したのは命令を破ったことになる・・まぁ、その話は後日でいいとして、それで何かわかったのか?」

ルンズはブリューンズの(くだり)を聞いて、「マジっすか・・」と青褪めていたが、やっと自分の仕事の部分を聞かれて前のめりに説明を始めた

「まず、魔力の吸収が凄まじいということでしたが、魔力を吸い上げるというのは、魔力回復のポーションに使われるマレット草にも見られる傾向なのですが、このグルジュの芽の吸い上げる力は比にならない上に、吸い上げる対象を明確に決める事が出来るというのが、難しい点でして、本来ただの植物にそんな調整をすることはできないのですが・・・」

「いや、待て。経緯は私は本業じゃないから省いてくれ。それで、これと同じような物は作れそうに思うか?難しい場合、これは何か代用できそうなものを、ルンズは浮かんだか?」

気持ちよく話し始めた途端に止められて、少し残念そうな様子だったが、上官への報告という事で、渋々質問にだけ答えることにしたルンズは正直な感想を述べた

「同じような物が作れるかについては、現状ではわかりません。何せ、キンナル王国の歴史上、これを今回目にしたのは今回の件に関わった者だけです。少なくとも文献にはありません。そんなものをたかが一か月程、観測した程度で量産できるなど、簡単じゃありません。代用できそうなものという点も、そんなものが、この国に存在していれば、既に軍に使われている事でしょう。ただ、先程少し触れましたが、元々マレット草は魔力の濃い地域で群生し、魔力を吸い込んで良質なマレット草になるとされています。なので、そういう特質のある植物は存在はします。グルジュの芽程強力ではなかったので、そういう観点がこれまでなかったことから、吸収力という点に注目されて来なかったということです。探せば似た物はあるのかもしれませんが」

アーメックは「そうか・・」と言ってある程度想定通りだったようで、驚く素振りは全くなかった。

「よし、状況は理解した。では、今後についてはハンスに追って指示をさせるから、一旦今日と明日は休め」

「ですが・・」

「これは命令だ。先程も話したようにグルジュの芽はサラ殿に所持してもらうということもあるし、お前を派遣してから、ずっと籠りっぱなしだったと聞いている。今後もこの件で仕事してもらうとしても、体調を崩して倒れられたら、それこそ代わりがいないんだ。」

「!」

ルンズはアーメックが今後の展望に自分のことを含めて話してくれたことに、この件から外されないと安心した。

ルンズは会釈すると、自身の宿に戻って行った。

「良かった・・これでルンズさんもちゃんと休めますね」

見送った後、サラは心から安心していた。

ルンズは来てからずっと、研究していたのだ。追い出された自分の部屋から夜はずっと明かりがついていて、サラサーティに来てくれた町の客からは「サザーランさん、最近ずっと明かり点いてるけど、体大丈夫?」と心配される程だった。驚いたサラが日中に訪ねてみると、日中でも起きていて、「邪魔をするな!」と怒鳴られたものだった。

アーメックとハンスも改めてルンズの勝手な振る舞いを謝罪すると、「今日は夜も遅いので」と帰って行った。

アーメックさんとハンスさんも、お城で公務してこっちに来てくれて、今までずっと動いてくれてるのよね。皆ちゃんと今晩休めますように。

サラが祈るように手を合わせると、神聖力が湧きだし、銀色の淡い光がサラを包むと、サラが頭に浮かべた者達にも銀色の輝きが包み込む。

既に眠りについていたソノやルンズ(ルンズは部屋に着くなり、倒れるように眠ってしまった)は気が付かなかったが、アーメックとハンスは気が付いていた。

「これは・・サラ殿か・・私にも神聖力で休息促進の魔法をしてくれたのか・・」

サラ殿は変わらないなと感じつつ、もう少し頑張ろうと意識を切り替える。



「あれ!?サラさん、今日はギルドに行かれるんじゃなかったんですか?」

サラサーティにサラが来ると、ソノが既に開店作業をしていた。

「ソノこそ、昨日話したじゃない!今回はソノも一緒に行くのよ!だから、今日はお店はお休みにします!」

ソノは昨晩本当は今日の事で緊張して眠れずにいたものの、何故か突然緊張が解けて、ぐっすり眠れた。が、そのせいなのか、すっかり今日自分もカルキス達と話すのは綺麗に忘れてしまっていた。

「えぇ!?・・た、確かに・・昨日そう話したのは思い出しましたけど・・お休みにしちゃうんですか?」

「偶にはそういう日もあるわよ。多分アーメックさんとハンスさんもすぐ来ると思うから、ここで朝食食べちゃいましょ!」

サラはルンズに追い出されてから、ずっとここで寝泊まりしていたので、自分の家と同じくらいここに体が馴染んでいた。

ソノが普段仕事する時の癖も把握してるので、彼女の仕事の邪魔にならないように動くのも、もう意識せずとも出来ていた。

ソノと自分の2人分の食事を手早く作って、ソノに席に着くように促す

「ありがとうございます」

「熱いうちに食べちゃいましょ!」

穏やかな時間が過ぎる。

アーメック達がどのくらいで来るかはわからないが、一応店は休みにしたので、のんびりと朝食が取れる。

サラはソノからの視線を感じると、ソノはこちらをポカンと見ていた

「?どうかしたの?」

「あ、別に何かあったんじゃなくて・・サラさんっていつも前向きで凄く活動的だなぁって」

「急にどうしたの?」

「本当に、何かあったから、今思ったってわけじゃなくて・・ただ、今もサラさんが美味しそうにパンを頬張ってるの見たら、なんとなく、本当に、なんとなくそう思っただけなんです」

「・・それはみんなのお陰で今が充実してるからだと思うわ。時々ソノちゃんとはここに泊まり込んでる間に一緒にご飯食べたけど、こうやって気の許せる仲間と充実した時間を過ごせるのってかけがえのない時間なのよ・・」

私の前世では・・もうずっと一人で働きづめで・・人の事を考えられるような状態じゃなかったもの・・あの時は同僚が何人も入れ替わって、私はまた転職活動するのも嫌だったから、何も考えないで終わらない仕事の山に取り組むことだけ考えて終わっちゃったんだよね・・あの時に比べたら本当に今はみんなが優しい。

サラは思わず前世を思い出し、少し遠い目をしていた。

ソノは「私なんかを気の許せる仲間だなんて・・!あ、ありがとうございます!」と言いながら、視線を戻すとサラが少し物思いに耽っている様子にどうしたんだろう?と不思議に思っていた

が、声を掛けていいのかわからなかったので、そのまま静かな時間を過ごしていると扉がノックされた


コンコンコン


「あ、はーい」

ソノが走っていくと、予想通りアーメックとハンスだった

「おや、朝食中だったのかい?出直そうか?」

ハンスが言うとソノは「私はもう食べ終わったし、サラさんもお食事は終わってるんですが・・」とサラに視線を送る。

サラは扉を背にする形で座っていたので、様子が窺えない。

「なんか、サラさん、考え事されていらっしゃるようなんです」

「へー、私達に気が付かないほど集中してるってことかい?何か重要なことでも話してたのか?」

「そんな大したことは話してなかったんですが・・」

ハンスとソノのやり取りを見ていたアーメックはサラに直接話した方が早いと判断し、サラに声を掛けようとしたところでサラがボソッと呟くのを聞いた

「・・こういう時はお茶もいいけど、コーヒーも飲みたいなぁ・・朝食にコーヒー。コーヒーも近いものあるかな・・?」

『コーヒー?サーティとはまた別の飲み物だろうか・・新商品について考えていたのかな?』

アーメックはこういうアイディアを考えている時は、邪魔しない方がいいかと判断し、そのまま戻ると、「ソノ、私達は昼過ぎにまた出直すから、サラさんの考え事が終わったら伝えておいてくれ」とソノに伝言を頼む。

ハンスは何があったのか不思議そうな顔をしながら、アーメックに続いて店を出ていく。

「ハンス、コーヒーという飲み物をお前は知っているか?」



昼になると、アーメックとハンスが予定通りにやって来た

「ソノちゃんに聞きましたが、さっきはすみませんでした!」

「こちらこそ、取り込み中に失礼しました。ギルドに行く前にお昼を貰ってもいいですか?あ、それと、ギルドにカルキス殿がいるのは先に確認しておきましたので、この後向かえばちゃんと対応してくれる手筈になってます」

「あー、結局先に動いてもらっちゃってすみません・・」

サラとアーメックのやり取りの横で、ハンスに注文を確認してソノは準備で中に戻って行った

「いえいえ、今回のサラさんの思惑の部分もカルキス殿には話しておいたので、今後の所も大丈夫だと思いますよ・・それで、さっきは新商品でも考えていらっしゃったんですか?コーヒーとかって聞こえましたが・・ハンスにも確認しましたが私達に馴染みのないようだったので、新商品のことかなと思ったのですが・・」

「え!?私、そんなこと声に出してました!?」

サラは顔が真っ赤になるのを自覚するくらい、恥ずかしかった。聞かれて困るとかではなく、独り言が声に出てしまっていたことと、それを自分が気が付かない状態で聞かれていたことが、恥ずかしかった。

耳まで真っ赤になっているサラを見て、アーメックもマズったかなと内心慌てていると、サラは軽く溜息をついて話し始めた

「はぁ・・その、聞かれて困ることじゃ全然ないんですけど、声に出てたことも気付いてなかったことを聞かれてたっていうのが、ちょっと恥ずかしかっただけです・・それで、コーヒーって言うのはお茶と似てる所もあるけど、また違った飲み物で、苦みや酸味、あとは香ばしさもある飲み物で、黒い飲み物なんですよ。お茶とコーヒーはどちらも好きという人もいるけど、どっちの方がいいって好みが分かれることも多い飲み物ですね。」

「ほう・・黒い液体が飲み物というのも想像できないが・・サラ殿が言うと不思議と美味しそうに思えてきますね・・やはりサーティの実績のある方が言うと説得力がある・・」

「そうだな、確かにハンスの言う通りだ。実際飲んでみたいと私も思ったが・・サラさん、そのコーヒーというのは何から作るのですか?」

サラはモジモジして恥ずかしそうにしながら、ボソッと呟く

「・・ないんです・・」

「うん?」

「わからないんです・・その・・コーヒー豆って言うのを焙煎して粉末にしたものから作る位はしってるんですけど・・」

転生前のことなんて話せないし・・自分で墓穴掘っちゃったなぁ・・どうしよう・・

「・・フム・・、昔何かの時に飲む機会があったけど、作り方や材料までは殆どわからないということですか・・これは、ルンズに聞いてみるとか、ギルドのに依頼を出してもいいかもしれませんね」

「えー!?そ、そんな大事じゃないですよ!しかも、私が飲みたいなぁって思ったのに、アーメックさんがお金を出してギルドに依頼してもらうなんて・・!それなら私が自分で依頼するから、大丈夫ですよ!」

「いやいや、単純にその飲み物に私が興味が出たってだけです。それにそれがわかれば、ここでサーティと同じように飲めるわけでしょう?」

「それは・・そうですけど・・」

「隊長、いっその事共同名義で依頼を出したらいいんじゃないですか?それなら、サラ殿もご自身も参加できる事になりますし、隊長にとっても、実際飲んだことのないコーヒーを今のサラさんの聞き取りだけで、探すのは大変でしょう。勿論、実際に試飲してもらうまでには多く人間に試飲してもらって、選りすぐった物をサラ殿に試飲してもらうって感じにはなるでしょうけど、それでもお墨付きはやはりサラ殿に確認したい所ですよね?お互いに利のある関係だと思いますよ。サラ殿もどうです?」

アーメックは成程と合点がいっている様子だ。

「あ、えーと・・そうですね、その方が気が楽かな・・」



ソノは緊張で頭が真っ白になっていた。

あの後、昼食を済ませ、ギルドにやってくると、カルキスは事前にアーメックから要件を伝えられていた為、カルキスはギルドの候補者をリストアップをすぐに完了させ、ナナに該当者を連れてくるように伝え、それら候補者を5人面接させる準備を済ませていた

「と、いう訳でだ。早い方がいいだろうと思ってな。私が責任をもって推薦出来るものを5人用意した。この中の面子なら人間性も問題ないし、ごろつき程度なら対処もできるのは私が保証する。ただ・・まぁ、なんだ。どれも料理とかそういうのは焼くだけとかその程度しか、みんな知らないだろうから、その辺の教育はそちらに頼むことにはなると思う。以上だ。」

うわぁ・・カルキスさん、仕事早過ぎよう・・アーメックさんも即実行!って感じだし、何かこの世界の人って行動力高すぎない・・?

などと、サラはカルキスやアーメックの仕事ぶりに驚きを隠せずにいる一方で、ソノはやはり頭の中はパニックになっていた

『えぇ!?今日は依頼するだけじゃなかったの!?こ、これって、いきなり、これから、面接を私がするってことなんだよね・・!?ど、どどどどうしよー!?』

「仕事が早くて助かる。カルキス殿、恩に着る」

「なーに、ルージュ絡みっていうことも当然だが、我々の仲だ。親交のある者の頼みは優先するのは人情ってもんだろう。まぁ、お前達のことはルージュ絡みと言えば、上の理解を得るのは簡単だからな」

カルキスとアーメックは随分仲が良くなったようで、裏表のない笑顔で笑い合っている

「それでは、サラさん、ソノさん、別室にご案内させて頂きます。面接にはサラさんとソノさんだけでよろしいですか?アーメック様とハンス様も同席されますか?」

「いや、我々はここで待っているよ。」


ナナに案内された部屋で席に着くと、ナナは「私は候補者の案内役として、同席させて頂きますね。面接自体には口を挟まないので、雑用係くらいに思っててください」とニコッと笑顔で結ぶ

「あ、はい・・」

サラが何とか返すが、ソノは緊張してカチコチになっている

「ソノ、大丈夫。どんな人か聞いて、一緒に働きたいと思った人を選べばいいだけだから。カルキスさんの話が本当なら、どの人もカルキスさんが太鼓判を押すような人物なんだから、能力的にはきっと優秀な人達ばっかりだと思うの。だから、今回選ぶ一人以外の面子はそんなにガッカリしたりしないと思うのよ・・まぁ、そんなの断言できるものじゃないけど、そこは割り切りが大事よ!・・取り敢えず、全員の話を聞いて、一人が終わったら、印象をメモしておいて、最後の人が終わったら、どの人にするか話し合いましょ」

「はいぃ・・」

情けない声しかだせなかったが、サラに肩を叩いてもらったおかげで、幾分気持ちは楽になった。

「それではご案内させて頂きます」

         ・

         ・

         ・

5人全員の面接が終わったのだが、誰にするかが中々決まらなかった。

「ナナさん、今回の5人についてはカルキスさんの面識のある方達なんですか?」

率直に気になっていたことを確認する

「そうですね、ギルド長ですから、当然多くの冒険者と面識がありますし、今回の面々は直接面識がある者もいれば、昔の冒険者としての仲間の弟子とかそういう所の方もいます。なので、豪快な方もいたかもしれませんが、悪人はいないのは確かです」

冒険者とは名ばかりの悪人みたいな人間もいるのは、サラもこの世界で見聞きしてきたので、冒険者を雇うというのはそういうリスクもあるのは覚悟していた為、そこを最初に考えなくていいのはとてもありがたかった。

「なるほど・・ありがとうございます。それで、ソノはどうだった?何番目の人が良いとか、何番目の人はちょっと苦手とか感想を聞かせてくれる?」

「・・みんな良かったんですよぉ・・」

あちゃー・・全部好印象なのは選ぶのに時間掛かるのよねぇ・・

「最初の方は朗らかだったし、2番目の方はちょっと失礼かもですけど、私と同じようなすごく普通って感じで話しやすかったですし、3番目の方はがっちりしてて頼り甲斐ありましたし、4番目の方は知的な感じで冒険者さんっていうより、事務の方って印象でしたけど・・私そう言うの得意じゃないですし・・5番目の方だけ口数少なくてわからない所もあったけど、逆にそこが良い感じもしたんですよぉ・・」

「ソノは人の良い所を見つけるのが得意なのね。それはとっても良い事よ。それができれば、一緒に働く仲間が落ち込んだりする時に元気付けられるもの。で、まず、少し整理しましょ。ギルドの紹介は1人だけとは決まってないけど、一応他にも、プンス町の方からも1人は採用する予定よね。で、プンス町の採用枠は町の人に顔が利いてる人が望ましいわ。そうなると、ある程度どの人とかがイメージ湧くでしょ?で、アーメックさんの心当たりという方は恐らく、ソノと同じような出身か、貴族の方だと思うの。貴族の方が店の店員なんてって思うけど、アーメックさんが声かけるってなると、その可能性も否定できないと思うのよ。これで最低2人は決まってるでしょ。だから残りの枠2~3人。ギルドの方を最低枠数の1人だった場合、あと1人か2人はどこか別で採用することになる。だから人数の帳尻はどこで合わせてもいいの。ここで3人っていうのもいいのよ」

ソノは考え込んだ後、ナナに質問をした

「そういえば、今回の候補者の方々は全員面識はある方々なんですか?」

「面識がある方もいるとは思いますが、同じパーティーみたいな所属が同じという方は誰もいないですね」

ナナは「まぁある程度名の知れてる方々ばかりなので、面識はなくてもお互いの情報は持ってるでしょうけど」と一言添えた。

ソノはそんな有名人なんですか!?とまた驚きを隠せずに、ここから暫く掛かるのだった



「お、人選は決まったようだね。」

「はい、ソノが一生懸命考えてくれました。」

ソノは頭から煙が出てるかのようにフラフラしている。

「それで、サラさん。出掛けに話していたコーヒーの件、選考を待ってる間にカルキス殿に話しておいた。」

「え!?・・何から何まですみません」

動くの早過ぎだよーっと思ったものの、選考に結構な時間が掛かったので、待ち時間を考えれば、自然な事かと察して、素直に頭を下げる。

「ああ、アーメックから話は聞いた。中々面白い依頼じゃないか。お前さんの依頼なら料金など不要・・と言いたいところだが、それだとアンタは嫌なんだろう。顔に書いているよ。依頼料については、アーメックに7割、サラ殿に3割負担してもらうことにしている」

カルキスの話にサラが曇りかけたので、すぐに依頼料の内訳を提示された。

自身の胸の内が表情に出ているなど思っていなかったので、カルキスに言い当てられ、ギョッとしたが、それ以上に依頼料の内訳も予想外だった

「え?どうして私の分がそんなに少ないんですか?アーメックさんに出資して頂くだけでも、申し訳ないのに・・」

カルキスは、ほれ見た事かとアーメックに笑っている

「カッカッカ!そーら、俺が言った通りになったぞ。建前で言えばな、何度も言われてわかってるだろうが、サラ、あんたがルージュの関係者だからってのが一番の理由だ。それはギルドもキンナル王国も共通した理由だ。だが、アーメックは他にも理由があるかもしれん。あとな、サラ。お前がああいう反応するだろうことはわかってるんだが、ギルド側もさっき話した通り、ルージュの関係者であるお前には特別待遇をしろってスタンスなんだ。本音を言うとお前が普通に依頼料金ちゃんと支払いますってのは真っ当な感覚ではあるんだが、俺の立場で行くと「どうして一般対応するんだ!」って上からは言われるんだ。特別扱いされるのは嫌かもしれんが、もうすこーし、こちらの背景も考えてくれると助かる。あと依頼料の内訳は、さっきも言ったようにギルド側は無くてもいいんだ。内訳については更にどうでもいい。だが、アーメックの立場を考えれば、先程の儂の言い訳と同じところがあるのは察してやれ。それを踏まえて、どうするかは話し合いをしてくれ。依頼は受諾したから、すぐに冒険者は募る。依頼料金の内訳はこの場で決まるならそれでもいいし、決まらないなら、後日ナナに伝えておいてくれりゃあいい。」

「ルージュのことって、そんなに大事(おおごと)なんですね・・私今一ピンと来てないっていうか・・」

「ルージュの事については、ブリューンズとわかった時には、人類保持同盟のトップと我々ギルドの現トップの会長、神殿のトップが揃って謁見を求めたって話だ。ちなみにこの3者は各国の国王が謁見を申し込んでも数年単位で待たされるのもザラな権力者達だ。そして特に一番ヤバいのが人類保持同盟のトップだ。こいつに限ってはうちの会長も頭が上がらないらしい。そんな連中が、謁見を求める側だったということだ」

みんなが驚いている。アーメック達もルージュがブリューンズであるということは、知っていたが、その時の状況などは知らなかった。

「それは・・雲の上過ぎて、想像できませんね・・」

アーメックもハンスも難しい顔をしている

「・・でも、ルージュはそういう特別扱いはされたがらないと思います。特に既に交友関係がある私達みたいな人間には、これまで通り接してほしいって思うんじゃないかなって私は思うな」

「そうだな・・儂もそう思う・・が、それでも一応本人の了承を得られるまでは、儂はギルド長としてこのスタンスは変えられん。仕事だからな。」

ハンスはカルキスの言い分をルージュなら「あー、カルキスさんらしい」と言ってる姿が頭に浮かんだ。

その後、カルキスが先に経緯を伝えてくれていたこともあり、サラも不承不承ながらも了解した。


「アーメック、依頼の件だが、薬草について詳しい者に確認すると言ってた件、あとで儂に通信魔法でいいから共有しておいてくれ。その方が、こちらが依頼を出すのにも成果を出しやすい形にできるからな。これから行くんだろ?」

カルキスの言葉にアーメックが了解を示し、出て行った。

「で?結局誰を採用したんだ?」



ルンズの所でサラがコーヒーについて、思い出せる範囲で一生懸命説明をすると、ルンズからは二つ返事で答えが返ってきてしまった。

「コーヒー?ああ、その特徴と同名の植物がありますよ。というか、あると言っても、実際に見たことがあるんじゃなくて、伝え聞いた話ってやつです・・ただ、なんというか、信憑性があるのかが・・何というか、その情報の出どころが、信頼できるのかが何とも言えないんですよ」

ルンズはゴニョゴニョ言っている

「歯切れが悪いな・・ルンズ、取り敢えずその情報源はどこの誰なんだ」

ハンスが急かす。

ルンズはアーメックに視線をやると、アーメックも「話してくれないか?」と促す

「・・エンターテイメンツという組織をご存知ですか?」

「なんだそれ?」

ハンスは首を傾げ、アーメックも「はて・・?」と傾げている

「カルキスさんなら、わかると思います」

「・・?何故、ここでカルキス殿なんだ?」

「エンターテイメンツはギルドの組織・・と言っていいかわからないんですが、ギルド創設者であるライザー・カトゥルーが個人的に組織したとされるもので、ギルド内の正式な組織ってわけじゃないんです。このエンターテイメンツって組織は公のものじゃないんで、本当にあるかどうかさえわかりません」

「・・そんな秘密組織のような、御伽話のような組織を何故お前がそんなに詳しいんだ?それと今回のコーヒーの件とどんな関係があるんだ?」

「そのコーヒーって情報を私が知ったのが、エンターテイメンツを名乗る変人だったからですよ。なんかいかれた奴でして、話が通じてるようで通じてないような・・とにかく自分の世界が色濃い奴で、全くこっちの話を聞かないんですよ。ただ、そいつと話してる時に、話の流れでコーヒーって飲み物が美味いという自慢されて、そんな聞いたこともない植物デタラメだろと一蹴したら、自慢げに渡されたんですよ」

「なに!?ということは今それを持っているのか!?」

「いいえ、渡されて、そいつに言われたように、調理した所、サラさんが話してくれたような真っ黒な液体になり、サラさんの言う通りの特徴の飲み物だったということです。出がらしはまだ取ってありますが、貴重なサンプルなので、ギルドに渡すのはしたくないです・・サラさんも知ってるってことは、見た目とかはわかるんでしょう?だから、カルキスさんに今の話をして上に掛け合ってもらったら、エンターテイメンツが実在するなら、早いんじゃないかなと思います・・私もエンターテイメンツなんてその時まで知らなかったし、胡散臭いと思いましたが・・奴らが言ってた通りのものが本当にあったという事実から、私の中では信憑性が増してるんです・・ただ、世間的には本当にあるのか懐疑的な意見が多いという事です」

アーメックもハンスもサラも想定外で驚きを隠せずにいたが、ルンズが嘘をいう理由も無いので、確認することにした。








         ⅲ―1


チソエと別れ、プンス町へのんびりと歩を進めていたが、昼間動くと怪しまれる可能性があったので、深夜に出て、城門は俺がピヨ、レーゼにレナリヤを任せて、こっそりと通り抜けた。

途中ガラの悪い連中が幾つか絡んできたが、レーゼが全て片付けてくれた

レーゼが動くのを見るのはこの間の小鬼達の時以来だが、レーゼには戦うという雰囲気すら感じさせない。

レナリヤの目には、こちらに近付いてくる者が、勝手に宙に舞って倒れているように見えていた。

俺の瞳にはレーゼが高速で相手の顎を掴み、そこを起点に相手の身体が、レーゼの速度によって足からグルグルと回って地面に落下しているのがハッキリ視えていた。

当然、そんな負荷は致命的なダメージを与えるが、レーゼにそんなことまで気にする慈悲はない。

寧ろ消し飛ばさないだけ手を抜いていると見るべきか・・。

「レーゼ、本当にすごいじゃない!こんな時間に出てくって起こされた時は眠くて仕方なかったけど、いまのレーゼの見たら目が覚めたわ!」

「レゼちゃん、すごーい」

レナリヤは興奮冷めやらぬと言った感じで、普段通りのピヨと意気投合してノリノリだ。

「それにしても、王都から出たとはいえ、こんなに堂々と襲ってくるんですねぇ・・時間も時間っていうのもあるんでしょうけど・・私もニツェンでは仕事場と宿の往復だったし、こんなに治安が悪かったなんて、知りませんでした」

「まぁ、偶々だとは思うけど・・レーゼに襲い掛かったあいつらには運が悪かったね」

手をパンパンとしながら、小言を言っているレーゼに、ルージュは相手に不憫な視線を送りながら同情をしている

・・あら?私、またなんかマズったかしら・・?

・・昔の村の立ち位置的には、レナリヤの方がこういうケンカ事にはイメージが付いてた筈なのに・・なんか自然と私がそっち方面の担当になっちゃってないかしら・・?



朝日が昇り、プンス町が見えてきた。

「いやぁ、久しぶりだなぁ。サラ元気にしてるかな・・カルキスさんもいるし問題ないだろうけど」

プンス町に近付くにつれ、何故かイケメン率がかなり高いのを感じる。

「なんかさ、やたらイケメン多くない?」

「「??」」

レーゼもレナリヤも全く何も感じてないなかったようで、心底疑問な顔をして、周囲を見回す。

「あー、確かに・・ルートゥ村ではあんまり見かけない顔立ちばっかりね」

レナリヤの基準はほぼ村で完結しているので、それ以上の評価がない。

レーゼはニツェンにもいたので、村以外の男も知っているが「ルージュ以外なんて、どれも一緒よ」とまるで野菜売り場のジャガイモを見るような目で、全く関心が無い様子だ。

『好きでいてくれるのは嬉しいけど・・女性って想い人がいたらこんなに関心持たないもんなのかな・・というより、このイケメン率、身に覚えがあるんだけど・・もしかして・・』

「ルージュ殿!?」

あーやっぱり。絶世の美男子アーメックがいた。

プンス町で発見された時と同じく、アーメックは自身の確信を疑わず、真っ直ぐに近寄って来た。

咄嗟に、レーゼが間に割って入る

「どちら様でしょうか?」

「おや!これはまた素敵な方だね!」

敵意が無いのはわかっていたし、名指しして近寄ってきている時点で知り合いであろうことは察したが、これまでの者に比べて境地が一段、いや二・三段高いように感じ、気が付いたらルージュの間に割って入っていた。

「レーゼ、大丈夫。この人は僕に理解を示してくれた一人のアーメックさんだ。チソエが言ってたから、いる可能性も想定はしていたけど、まさか本当にいるとは・・しかも、今回もすぐに僕達に気が付きましたね」

「ああ、僕も近付いて気が付いたが、君の居る方角にあの時と同じように、魔力が全く感じない人影が視えたのでね。つい君かと思ったんだが、それはそちらの女性だった・・で、人違いだったかと思った矢先、隣に君がいた。ルージュくんの顔はもう知っていたからね。」

要するにあれから俺は気をつけてたんだけど、レーゼにその話をしていなかったので、レーゼは抜けていたのだ。

まぁ見つかって困ることは全く無いし、寧ろ話が通じる人にすぐに出会えたのは幸運だった。

「改めて、お久しぶりです。こっちの二人は妻であり、仲間、ルートゥ村の同郷って感じです。こっちは仲間のピヨです。詳しいことはみんながいる所でまとめてってことでいいですかね」

アーメックは目を見開いて驚いた様子だったが、すぐにいつも通りの爽やかな笑顔に戻った。

「ああ、勿論!名乗り遅れて申し訳ございません。私はキンナル王国精鋭騎士団・第三隊・隊長アール・クナーシャ・アーメックと申します。以後、お見知りおきを。」

アーメックは丁寧に、そして恭しく礼をした。

レナリヤは「あ・・えっと、よろしくお願いします」と長い名前と肩書を聞いて緊張した様子で、アーメックにつられて頭を下げていたが、レーゼは黙って見ている。

『・・このご婦人は一筋縄じゃいかない感じなのかもしれないな・・』


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「!?」

アーメックの脳内にレーゼの通信魔法が響く。

驚いて視線を上げたが、彼女はこれ以上話を発展させる意思が無いようで、こちらに視線を合わせてはくれなかった。

・・私の心がわかるのか・・

「こんにちはっ!ボク、ピヨ!」

「うん?あ、あぁ、よろしく、ピヨ」

取り敢えず立ち話しているわけにもいかないので、いつもの主要メンバーに通信魔法を飛ばし、ギルドに集合としようとしたが、サラのサラサーティに行ってみたいとのことだったので、場所はサラサーティに決まった。


アーメックさんは、ハンスさんを呼んでくるということで、一旦戻って行った。

というか、こちらに駆け寄って来た時も、日課の朝の鍛錬中だったようなので、着替えも兼ねてだろう。

「レーゼ、あんたさっきから何か不機嫌なの?」

レナリヤがジロッと視線を送って来た

「あら、そんなことないわよ?」

「だってさっきアーメックさん挨拶してきた時、レーゼ反応しなかったじゃない」

カチコチになってたように見えたけど・・意外とよく見てるのね・・

「そうだったかしら?」

「ルージュの友達なんだし、そういう態度は良くないと思うよ」

「はいはーい、気を付けますよー」

レーゼはこれ以上この話題を話す気が無い様で、ピヨと先を歩いているルージュに走って行ってしまった

「・・?レーゼってあんなに露骨に態度に出すようなタイプだっけ?村から離れてから色々あったのは知ってるけど・・随分変わるもんなんだなぁ・・」

レナリヤは複雑な思いが燻っているのを少し感じながら、ルージュ達を追いかけた


カランカラン


サラサーティに入ると、町の常連の客が2,3組既に寛いでいた。

・・おぉ!こっちの世界では殆ど見かけない、小洒落たカフェみたいな作りは、あっちの世界を思い出すな・・実際にしっかりした木材で出来た建物であっちの世界の木目調の代用品とは違った本格さを感じられる・・まぁこっちの世界じゃ、代用品の方がそもそもないから、普通の建物と言ってしまえば、それまでなんだけど・・

上の階から走ってくると音と、厨房と思われる方から、走ってくる気配が同時に来た

「ルージュ!?」

「い、いぃらっしゃいませっ!!」

開幕名指しの時点で、2階から駆け下りてきた方が、サラなんだろうとレーゼとレナリヤも察したが、どちらも同時に来たので、どちらに対応したものかと、一瞬考え、ルージュの出方を待つことにした直後

「こんにちは!ボク、ピヨ!」

誰よりも素早く、ピヨが挨拶した

ルージュも応えようとしていた所で、出鼻を挫かれた感じだ

レナリヤはすかさずピヨにゲンコツをお見舞いすると「アンタの挨拶はあとよ、あと!」と急いで後ろに引っ張って行った。ピヨはいつも通り「ピョエー・・」と変わらない表情だ

「・・あー・・えっと、久しぶり、サラ。」

「うん、本当に久しぶり。ちょっと狭いけど、上でもいいかな?下は・・」

「勿論、それでいいよ。なんか突然来ちゃってごめんよ」

「そんなの気にしないで!ここは予約は必要ないんだから!えーと、お連れ様は全部で何人かしら?」

満面の笑みで応えてくれる様子に、充実しているように感じられて少しホッとした。

レミィが全く分からない状況なので、まずはサラの様子が見れてよかった。

「俺入れて取り敢えず3人と1匹。1匹って言ってもこの大きさあるから、1人分と数えた方がいいかな」

「そうね・・子供の背格好くらいあるのに不思議と威圧感みたいの感じないのは、このフワフワと愛くるしい目のおかげなのかな?」

愛くるしい・・?何考えてるのかわかんない表情にしか俺には見えないけど・・まぁカワイイって表現も間違ってはないのかな・・?などと思っていると、レーゼがサラの手をガシッと握ると、目を輝かせている

「!?」

「わかります!?わかります!?そうですよね!ピヨちゃん、こんっなに!カワイイのに、何でかみんなそう言ってくれないんですよ!・・あ、申し遅れました。ルージュの同郷で妻の一人、レーゼと申します」

「え!?お、奥さん!?・・うん?妻の「一人」?」

「あ、私もルージュと同郷で妻のレナリヤって言います」

「え?え?え??」

「ごめん、経緯はアーメックさんとカルキスさん達来たらまとめて話すから」

ルージュの「ごめんね」というジェスチャーを見ながら、サラは混乱しかける自分に取り敢えず、まず案内してしまわないと、とするべきことに頭を切り替えた。

先程ソノとルージュを出迎える時に鉢合わせしてしまったが、事前にルージュを案内したら、軽食とサーティを準備するように伝えてあった。

ソノは鉢合わせてしまった時、「サラさん、ごめんなさーい!」と必死にこちらに向かってペコペコ謝罪の意思表示をしていた。

先日カルキスから聞いたルージュの背景についての情報共有で、そんな天上人が来るということで、緊張しきっていた

『・・私からしたら、アーメック様も雲の上の人だから、それ以上だともうよくわかんなくて、緊張しちゃってたけど・・意外と普通な方だったな・・とは言っても、アーメック様が驚くレベルの方なんだし、粗相の無いようにしなきゃ・・!』

本人を見て、意外と安心したものの、それでも緊張はすぐには解けず、普段は音など立てずに持っていけるのが、トレイに載せてる皿やカップはカタカタと音を立てていた

「ど、どうぞ・・!」

全員に配り、最後の一人にパンにスープを置き、最後のサーティのカップを置こうとした時、これまでよく確認していなかった人は、人ではなかった。

「ハ・・!?」

トレイにあるカップを持つ手がガタガタ震えていると、ピヨはソノの緊張で固まりきった心にトドメを刺した

「こんにちは!」

「ヒィ!?」

普段通りのよく通るマヌケな大声で挨拶をした途端、ソノは話すと思っていなかったこともあって尻もちをついて倒れてしまった。

そして震える手で持っていたカップは宙を舞い、ピヨの頭に盛大にぶちまけ、カップがピヨの帽子のように乗っている

一瞬時が止まったような静寂と、レーゼの目がソノには恐ろしかった

「も、もももも申し訳・・!!」

サラもルージュも慌てて謝罪と問題ないことを言おうとした矢先

「ピョエー!レゼちゃん!これもらった!」

ピヨはカップが非常に気に言ったようで、大喜びしている

「ピヨちゃん、それより、かかったスープは大丈夫?火傷とかしてない?・・あ、火傷って熱いって感じてないかってことよ?」

「ボク、へいき!」

馬車の中で見たのと同じように、胸を張るようなポーズで全く問題ない事をアピールしている。レーゼへ返答してからもピヨはずっと喜んでいて、周囲の緊張とは真逆に、非常に楽しそうだ。

「・・ピヨ、取り敢えず本当に大丈夫なんだな?」

一応念押しで俺からも確認しておく

「ボク、へいき!」

「それなら良かった。まぁわざとじゃないのはわかりきってるし、サラも店員さんも本当に気にしなくていいよ。何でもないみたいだし・・まぁ仮に火傷になったらなったで、俺もレーゼもヒールは出来るしな。」

「アンタも店員さん驚かすから、そんなことになるのよ」

レナリヤが助け船を出してくれた

「・・はぁ、ルージュもレナリヤもサザーランさんも、大丈夫よ。怒ってないから」

・・うーん・・どうもなぁ、私視えちゃうから色々勘繰っちゃうのよねぇ・・アイナさんはこれが日常だって言ってたけど・・慣れるのには時間掛かりそう・・そういった意味では、ルージュとピヨちゃんは本当に何も視えないのよねー・・アイナさんが驚くのも、こりゃ仕方ないわ

その後、軽い挨拶をそれぞれお互いにして、レーゼ達の知らないコロ町の話をしていた所で、アーメック達とカルキス達が入って来た。

「お、ルージュ殿!久しぶり!」

まずはハンスさんが入って来て、それからアーメック、カルキス、ギルドの受付嬢が入って来た。

「・・二階も急いで片付けたんですけど、普段自分の仕事場でしか使ってなかったので・・すみません」

サラはみんなに改めて狭いことを謝っている

「いや、これを機にもう一店舗、もしくはこういう時専用の店舗を用意してもいいかもしれないな」

アーメックも顎に手を当て、当たり前のように呟き、カルキスもうんうんと頷いている

「いや、そんな簡単に・・」

「いや、俺達の為にわざわざいいですよ、本当に!」

サラとルージュが同時に訴える

ハモッてしまったのが気恥ずかしかったが、こういうのはちゃんと言っておかないと、周囲が勝手に動いてしまうことになり得る

「僕はサラの店で、他のお客さんとまったり過ごせるのがいい所だと思うんですよ。」

「あー、ルージュくん。それはそれで良いんだ。そうじゃなくて、「今回みたいな」時に使える場所を作ろうってことだよ。自分で言うのも難だが、プンス町にもよく来るのでね、私の事を町の人も結構知ってるんだ。それに加えて、ギルド長のカルキス殿も一緒に席に着いて話すとなると、みんなルージュくんやサラさんの言うようなリラックスができないと思うんだ。まぁ、私達も周囲に気を使って話すより、そういう場という方が話しやすい場合もあるしね。これはルージュくんに限ったことじゃなくて、ということだ。で、丁度ここのサラサーティの人員を増やそうという話になっていた所だったものだから、どうせならこれを機にするのは悪くないかもってことなんだよ」

・・・ヤバイ・・ちゃんと意思表示して止めようと思ったのに、論破されてしまった・・返す言葉が見つからない

「ま、まぁ・・そういうことなら、僕が口出しするのは藪蛇ですね・・」

「カッカッカ!あのルージュを言い負かすなんて、面白いものが見れたな!」

カルキスが面白そうに笑っている。

「で、そちらのお嬢さん方を紹介してくれないか?道中、チラッとアーメックからは聞いたがな」

レーゼとレナリヤ、そしてピヨの紹介と簡単な経緯を伝えると、アーメックは貴族なのでそういうことにはあまり驚きはない様子なのと、カルキスについても殆ど驚いていなかった。

カルキスは「女っ気なんて全然なかった奴が、こんなに嫁貰ってるっていうのに、アーメックの奴は・・」とゴニョゴニョ言っている

サラだけは、「ルージュ、ハーレムってやつじゃない!勝ち組じゃないの!」と目をキラキラさせて笑っている。

「な・・何がそんなに面白いのさ・・?」

「だって・・!私もそんな話は昔(前世)見たけど、それを本当にしちゃうなんて・・!面白くって!」

サラがケラケラ笑っている。

そしてその横のレーゼはカルキスの言葉に激しく同意して

「全くです・・!こういう鈍感は困りものですっ!おかげで、私の最初の印象悪くなっちゃったですもん!」

と、うんうん頷いている。

カルキスは道中アーメックから、レーゼは心が読めることを聞いていたので、声には出さず

『アーメックは心の中でも、鈍感なのですか?』

と尋ねると


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カルキスはレーゼからの通信魔法で、同じ悩みの持ち主ということで非常に共感する一方で、結構よく話すなーとついつい思ってしまった。


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レーゼは悔しそうに唇を嚙む。

ゼゼホに続いて、また自分では届かないものがある・・同じ世界からの転生者・・ルージュがそうなのかまではわからないが、サラの情報からはそのように視えるのだ。

レーゼは自分を通してルージュの情報を視ようと思えば、出来るのかもしれないが、それはどうしてもしたくなかった。

お互いの事は、自分達で知っていきたい。

そう思ってるせいなのか、他の人間のことは正にアイナが言っていた真眼と同じように、視えていたが、ルージュのことは全く視えなかった。

視えるけど本心が視たくないと思っているから、視えないのか。

はたまた、コピーはオリジナルを上回ることは出来ないということなのか。

どちらにしろ、今現在、レーゼはルージュの情報は視れなかったし、視たいと思っていなかった。


・・ルージュは真眼を普段切ってるみたいだし、私もそれできるのかしら・・でも、ルージュが真眼を切ってるなら・・近づく悪意は私が排除しないと・・


『・・ま、お互いにやきもきする気持ちを共有できる仲間が出来たということで、いいではないですか。儂も中々この話が出来るのがいなかったので、嬉しい限りですぞ』


カルキスとはさっき会ったばかりなのに、こんなに思いの丈を赤裸々に話したのは、思えばルージュ以外では初めてだったかもしれない。


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『せめてサラ殿の方は、レーゼさんにも協力してほしいものですなぁ』


などと、クラスメートでくっつきそうなのにくっつかない二人に対しての包囲網を固めるべく結束するお節介な仲間のように、カルキスはレーゼと談笑していた。

カルキスは年の功なのか、これだけレーゼとの談笑に花を咲かせているにも関わらず、他の面々の会話に相槌を打ったりしながら、全く表情には出さずにいた。

寧ろ、他と自然に話す余裕すらあった。

それを努めてしているのではなく、自然に行っていた。

レーゼはその様子を見ながら、レーゼにしては大変珍しく、「出来る男」として認識するのだった



粗方お互いのこれまでについて、双方が話し終えたところで、カルキスが本題に入る前にこれは確認させてくれと口を開いた

「で、ルージュ。ここまで話しておいて、今更だがお互いの接し方、呼び方はこれまで通りでいいか?ダメだというなら、儂らの立場じゃそれに従うしかない。お前さん、あんまりわかってないだろうと思うんだが、儂らなんかより、お前さんは遥か雲の上の人間になったということだ。これをお前の了承も得ずに今まで通り接したり、呼び方を今まで通りしていたら、儂らの上の人間に罰せられる可能性すらある。」

「・・勘弁してよ・・て思ったけど、ちゃんと言わないとマズいって事ね。カスキルさんがそう言うんならそうなんだね・・はぁ・・わかってるとは思うんだけど、呼び方も接し方も今まで通り変えないでください。今まで親交のあった人には、これまで通り接してほしいです。呼び方や接し方を変えるなんてのは、本望じゃないです。」

「よし、言質をとった!手間をかけたな。」

カルキスが宝珠を取り出す。

「それは?」

「今の様子を映像としてこの宝珠に残したんだ。まさかどうこう言うまいな?」

「勿論、言わないよ。寧ろ準備良いなーって関心したくらいだ」

レナリヤは「何それ?」と興味津々で、サラは前世の知識からビデオ・DVD・メモリーディスクとかの動画保存みたいなものかな?という様子で覗き込んでいる

またサラはレーゼとレナリヤにも、サザーランではなく、サラと親しみを込めて呼んでほしいと伝えていた

「よし、次は本題のレミィの件だな。まず、レミィの件については、ルージュが匿って以降の事はこちらも一切情報が無い。というよりな、お前がブリューンズと判明して、レミィの問題どころじゃなくなったって方が理由だ。お前の友人を人質にしたようなやり方だったからな。寧ろこれ以上関わらないようにした方がいいという感じになって、レミィの件についてはお前さんから言われん限り、ギルド側は今後一切関わろうとはしないはずだ。」

「・・レミィの背後にある組織にとっては、旨い話になってしまうのか・・?」

「どうだかなぁ・・確度の高い情報かはわからんが・・この禁忌を行う施設っちゅうのがロッピー村にあると聞いたことがある。」

「ロッピー村?」

「カバッツ王国の村じゃ。儂の持ってる情報はこれくらいしかない」

「それは真ですか!?」

アーメックが身を乗り出す

「だーから、お前さんの前では話したくなかったんじゃ。いいか?今の話はルージュにしたもので、キンナル王国のアーメックに話したわけじゃない。キンナル王国の軍にこの話を持っていくのはやめろ。そもそも情報の精度が悪い内容だから信じていいのか、今の段階じゃ確定できんからな。それに、他国の話になれば、簡単な話じゃないだろ。お前はそんなこと考えないだろうことは、察するが、この話を軍に持ち帰れば、ルージュの友人保護なんて名目を使って戦争の大義名分にするような奴がいないとも限らん。」

・・先にここまで私達の前で言い切っておくことで、仮に彼が軍に報告してそうなってしまった場合の保険にしてるのね・・聞いてた通り抜かりのない男・・

レーゼが感心しながらやりとりを見ていると、アーメックは頭をグァシグァシ掻きながら「はー、わかりました。ここだけの話にしましょう」と報告は諦めた様子だ

「カルキスさん、情報ありがとう。まぁここに来たのはサラの店を見たかったのと、サラが元気にしてるか、久しぶりに会いたかったって言うのが第一の目的だったから、それはそれでいいよ。サラにレミィから伝言がないかって確認もしたかったってわけで、目的自体は達成したしね」

「フム・・であれば、この後はルージュくんはどうする予定なんですか?」

ルージュの言葉に、アーメックが疑問を口にする

「予定では次が本命で、ラング公国のギルド本部に行って、創設者、ライザー・カトゥルーに会うつもりです」

「!?ジドー会長では無く、カトゥルー様にか!?」

カルキスが初めて感情を表に出して驚き、レーゼがルージュの言葉を引き継ぐ

「ライザー・カトゥル―が今も生きているかは公式には不明ですけど、本部からは時折、彼に関する情報が散見されています。今も生きているというのは、恐らく間違いないと思ってますし、レミィさんの背景に闇組織が関わっている場合、一国にとどまらないと思うんです。その場合、各国のお偉方に聞いて周るより、全国に拠点のあるギルドの方が情報を多く持ってるでしょうし、何より、創設から現在まで生きているのであれば、ライザー・カトゥルーの人脈や情報量は最も信頼できるでしょう」

カルキスは瞠目しながら、レーゼを見る。

「それにライザー・カトゥル―の物語は結構沢山ありますし、今でも本部から彼についての情報が流れてくるということは、彼自身、自分が生きてることを隠してるわけでもないのでしょう。であるなら、ルージュがブリューンズという肩書を使って一番大きな成果を得られるのはそこしかないとも言えます。」

サラはゼビィが眼鏡をクイッとして教え子に教える姿をレーゼに幻視した

「うーむ・・レーゼさんは想像以上に賢い方のようだな・・」

「行ってマズい事もないでしょう?カルキスさんの方から、この後ギルド本部に報告しておいてくれてもいいです。寧ろそうして、万が一出掛けてすれ違いなんてならないようにしてもらえると助かりますね」

カルキスは初めてルージュと会った時を思い出しながら、『まるで女版のルージュみたいな方だな・・』と心底驚いていた。

「・・わかった。どちらにしろギルド本部に向かうと言う以上、儂は報告をせざる得ないからな。」

カルキスはレーゼにうまく使われていることを実感しながら、回答すると、サラから想定外の質問が飛んできた

「あ、そういえば、この間のコーヒーの件、ルンズさんに話を聞いたら、そのカトゥルーさん?が結成したとかいう「エンターテイメンツ」って組織の人から情報があったって言ってて、カルキスさんならギルド関係者だし詳しいんじゃないかって言われたんですけど知ってます?」

「コーヒー?」

ルージュが首を傾げると、サラは簡単に経緯を説明してくれた

「そっかー、ここのお茶も美味しいし、コーヒーもいいね!」

ルージュの様子にアーメックやハンス達は「あれ?コーヒーのこと知ってるの?」という反応になったので、慌てて弁解する

「いやいや、このお茶も美味しいし、そのコーヒーって言うのも美味しいんだろうなって思っていいなって感じたって事!ね!サラ!?」

「あ、そそうだね!・・それで、カルキスさんわかります?」

サラに強引に質問を投げられ、仕方なく答え始めた

「エンターテイメンツについては、別に緘口令(かんこうれい)があるわけじゃないから、答えてマズい事はない。レーゼさんの方が詳しい気もするがな。で話を戻すと、ルンズ殿が言った通り、エンターテイメンツはカトゥルー様が個人的に創設したとされる組織だが、「個人的に創設」という所がポイントでな。要するにギルドの組織図の中の話じゃないから、ギルドの関係者ってわけじゃないってことだ。だからエンターテイメンツの組織の人間とギルドの人間が接触するっていうのは、一般人と遜色ないくらい難しいって事だ。巷に流れている情報以上のものをギルド関係者も知らないということだ。」

「・・そうですかぁ・・」

サラはがっかりした様子だが、レーゼがツッコむ

「その話通りなら、ライザー・カトゥルーに近い人であれば、そのエンターテイメンツの事を聞けるし、なんならそのコーヒーの事もライザー・カトゥルーなら情報があっても不思議じゃないですね。ルージュもコーヒー飲んでみたいって事だし、その件も一緒にギルド本部に報告しておいてもらえれば、私達が向かった時に一緒に聞いておきますよ」

カルキスは頭が痛そうにしている。一応ギルド長という立場ではあるが、上を飛び越えまくって名誉会長みたいな立ち位置の人間にあれこれ話を投げるのは中々に気が引ける内容だった

「はあ・・今日はこんな事はないと思ってたんだが・・ルージュ、お前さんに関わると毎回こういう腹がキリキリすることになるのかね?」

カルキスの恨みがましいジト目を受け、ルージュは「いや、今回は俺何も口開いてないんだけど・・!?」と慌てたが「レーゼさんが言わなければ、お前がそう言っていただろうってのが容易に想像できるんだよ」とカルキスが愚痴をこぼしている

「・・ちなみに、そのルンズ殿が話していたエンターテイメンツを名乗る者の特徴とかはわかるのかね?」

情報をまとめる為に質問をすると、ハンスが答える

「たしか、男女のペアでA.A.というコードネームのアーネス・アードという人物らしい」

「・・コードネームと名前もわかってるのか・・まぁ、恐らくすぐわかるだろう・・というか、アーメック、アーネス・アードだったら、キンナル王国でも目撃情報は結構あるんじゃないか?」

「確かに・・アーネス・アードという二人の人物はこの国でも有名人ではあったが・・それはもう20年以上昔の話で、最近は聞かないな。その位、カルキス殿ならわかってるだろ?アーネス・アードは一つの所にとどまらないから、ギルドの方が結局今の行方を探すには手っ取り早いってことだ」

「はぁ・・取り敢えず、その通り報告するとしよう。ナナ、今の件について報告は儂がするが、記録は任せた」

ナナが了承しながら、ㇷと思ったことをポロっとこぼしてしまった。

「そういえば、ピヨ・ポヨンって団員がエンターテイメンツの第一号らしいですよね」

と何気なく、ピヨに視線をやる

全員がギョッとして、ピヨに視線が集中したが、ピヨは慌てるでもなく、先程頭に乗ったカップを眺めてボーっとしている

完全に自分の世界に入っていて、周囲の視線に気が付く様子が無い


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カルキスがルージュに通信魔法で頼む

「え?俺が?」とルージュは思ったが、レーゼの過保護を考えると自分が動いた方がいいのかと思い直し、ピヨに食べ物で意識を戻させて聞いてみたが、ピヨは全くわからない様子で「ボク、わかんない!」と断言した。

ただ、全員が覚えてないだけなんじゃ・・と思ったが、思い出させる術も特にないので、諦めた










         ⅲ―2


ビチルとパミラは、あの後ルートゥ村まで歩き、そこから居合わせた馬車に乗って、ラング公国に向かっていた。

「今回の依頼の理由が、さっきのルートゥ村出身の新しいブリューンズ様なんだろ?」

「そのようね。」

「なんでブリューンズなのに、あの村出身なんだ?」

「私が知るわけないじゃない・・ただ、真眼のアイナ様がブリューンズの末子であると公言されたそうだから、嘘ではないのは間違いないわね」

「ブリューンズを騙るって線は・・ないか。アイナ様本人が言ってるんだもんな」

「ええ、ブリューンズを騙る馬鹿が居ないとは限らないけど・・いても、人類保持同盟が黙ってないでしょうね。ブリューンズ自体は関心なさそうだけど、人類保持同盟はブリューンズの狂信者ばかりだもの。」

「それが、俺ら人類のトップなんだもんなぁ・・ってそんなこと言っちゃまずいんじゃないか!?」

「私達しかいないし、流石に私達くらいの末端の思想なんか彼らは興味ないわよ。そんなことより、アンタからそんな話題振って来るって言うのは・・」

「あの時の女、ブリューンズの者なんじゃないか?・・いや、ブリューンズの者で女性ってなると今回の末子はどうも男らしいから、そうなると今話してたアイナ様か、母であるフルー様しかいないけどよ」

パミラはビチルの発想の可能性も当然考えていた。

「・・・」

「おい、パミラ」

「聞こえてるわよ・・確かにあの状態のヴァッファゴを、指で一突きするだけで身動き一つさせないなんて、そのレベルの実力差なのは間違いないわ・・でも、私達はその二人と面識が無いし、何より私達より上の階級の冒険者達の実力を、私達は知らないわ。グエンが最終的にオリハルコンだったし、あの当時の私達のパーティーとしての評価はオリハルコンの中でも上位とジドー会長があの頃話してくれたことを加味しても、私達が想像できるのはせいぜいアダマンタイトの入り口くらいまでだと思う。そこから先はどれも規格外よ。ただハッキリ言えるのはあの女はその規格外の領域ってことだけね」

「・・なぁ、グエンがいた頃でオリハルコンの上位なら、実力の上がった今の俺達なら、2人でもオリハルコンの中堅くらいはあるかな?」

「・・それは可能性としては、あると思うけど、それがどうしたのよ?私達二人はそれぞれミスリーク級っていう事実は変わってないのよ」

「いや、そのレベルの俺らが、恐らく強化されたヴァッファゴにはまるで相手にならなかったじゃねーか・・あれをパーティーじゃなくて個人で制圧するって・・あれを冒険者の枠で測ったら何級になんのかなって・・」

「全く、男ってなんでそんな格付けが気になんのかしらね」

「いいじゃねーか、馬車で揺られて他にすることも無いんだし・・」

「アダマンタイトの入り口までは想像できるって過程でいくなら、その先のヒヒイロカネ、神代、未知でしょ」

珍しく無駄話に乗ってくれて、少し意外ながらも、ビチルは自分の好みの話題に乗ってくれたことに嬉しくなって続きを促す

「そこまでは、俺も同じ答えなんだけどよ、最後あの女、突然消えただろ。あれ転送魔法だろ?」

ビチルは脳筋な見た目にそぐわず、自身とは畑の違う魔法についてもちゃんと見ていたが、パミラは今更そんなことに驚かない。

グエンが死んだ時、パミラが自分の専門以外の知識や技術の修得を心掛けるようになったように、ビチルも同じように出来る出来ないは別にして、色々な事に関心を持つようになったのだ。

「・・転送魔法を無詠唱で、あんな気軽な様子で個人で行使できるのはヒヒイロカネより先だと思う。アダマンタイトのパーティーでは予め魔法陣を作成しておくことで、パーティー全員がその領域内では転送魔法を駆使して戦闘を行うことができて、そういう戦法があるのは知ってるわ。でも個人でそれを出来るのは、聞かないわね」

「パーティー全員ってのは、それはそれですごいけどな・・にしても、今回の件、報告したらジドー会長何て言うかな?・・「久しぶりに俺が行くか!」って獰猛に笑って動きそうじゃね?」

「・・それは書記官とか、会長の取り巻きの方々に任せればいいわ。私達は事実を淡々と報告するだけよ」

ビチルの話はパミラにも簡単に想像できたが、そうは言っても、報告しないわけにはいかない。

ヴァッファゴが出ただけでも、大事(おおごと)なのに、それが強化されて自分達は蹂躙されかけた上に、それをたった指一本で一突きするだけで動けなくさせてしまう見たことのない女。

何か起きてしまったわけではないし、寧ろ何事も無く何とか収めることが出来たわけだが、報告は必要な内容だとパミラは思っていた



「なー、デケス」

「ダメです」

ジドーの呼びかけに、話が始まる前に、話を切る。問答無用と言わんばかりに。

「儂、まだ何も言ってないんだが」

「何を言うか察しが付くので、ダメです」

「・・だってのー、パミラ達の話、お前も一緒に聞いたじゃねーか。しかもあいつら、あの時の実演までして見せたんだぞ」

「ですので、彼らの昇級には問題ないと伝えました」

「だから、それはあれだけ実力があったんなら、当然じゃねーか。その次の話だろうよ」

「ですので、それはダメですと再三言っております」

「そうは言ってもよう、そうでなくても対処できる冒険者の数何てたかが知れてるヴァッファゴを死に際まで追い詰めて、そこから万全のヴァッファゴともう一戦やりあえる状態だったと豪語した状態のビチルとパミラを蹂躙するレベルに強化を施した第三者と、その強化されたヴァッファゴを指だけで止めた女って、とんでもねーもんが動いてる可能性が高いぞ!?」

「ですから、そのような事案は現職の高位の冒険者に依頼を出せばよろしいのです。あなたは会長なのです。いい加減、立場をわきまえて下さいよ。もう10年になるじゃないですか・・子供だって大人になる時間ですよ」

この掛け合いももうずっとやってきたことなので、ジドーにとっても右から左に素通りしている。

「・・よし、デケス、儂も最近働き過ぎておったように思うから、お前らへの示しってものを見せる為にも、少し休暇を取ろうと思う。そうだな・・一か月くらいでどうだ!?」

「・・その手はもう何度目ですか・・会長は定期的に休暇を取ってくださってるので十分職員への示しはついているので、安心して公務に従事してください。」

「・・な!?そ、そんなこと言ってもよう、俺休みまだ取れるだろ?」

「そうですね、数日くらいなら」

「お!じゃあその数日で少し休んで・・」

「が、予定が立て込んでいるので、暫く休暇が取れるのは先ですね。それより、「金の(さかずき)」の2人には今回の件の調査をさせますか?個人的には、ヴァッファゴを強化した何者かは彼らを消そうとした考えられますが、ヴァッファゴの強化なんて狂った発想をするような組織相手となると、彼らには荷が重いように思いますが」

数日の休みを取って、そのままトンズラしてしまおうという算段はアッと言う間にご破算になってしまい、ガッカリしつつもデケスが話を進めるので、真面目に答える

「そうだな、助けてくれた女というのは助けてくれたという事は、ヴァッファゴを強化した連中とは別の勢力だろうから、そっちは警戒せんくてもいいから、その女の調査をビチルとパミラには任せるか。その危険な組織については・・ヒヒイロカネ級で今動けるのは誰かいるか?」

少し考える素振りをした後

「いませんね、今はみんな出払っています。ただ、確かにヴァッファゴの強化なんて酔狂な珍事はまだ何も被害などはでてません。我々がわざわざ自主的に動く内容ではないと思います。それより、その謎の女の方がまだ見ぬ優秀な人材なら確保する方が有益ではと思いますが」

「なんじゃい、結局そっちが本命じゃないか。」

「ですが、事実でしょう。謎組織の方はまだ具体的な被害も出ていない以上、依頼を出すにしても我々ギルドが報酬面は全額負担しなければなりません。採算が合いませんよ。それよりは新しいヒヒイロカネ級以上の力量の可能性が高い謎の女を引き入れる方が、余程大きな利益になります」

「かー、デケス、お前、若かった頃から随分合理的になっちまったのー」

「褒め言葉として、受け取ります。あの頃と同じ考えをしていたら、ギルドは我々の代でご破算です」

ジドーはどうにも、これ以上話しても話の主導権は握れないと観念した所で、デケスは次の話題を振る

「先日、身辺調査の依頼が入ったとのことなのですが・・」

「?身辺調査?そんな依頼、儂が聞かなきゃならん内容なのか?王族か、どこかの組織長とかか?」

「いえ、対象はフレネミー・ファグス。色々な商業を手広くしているハテンサグループの長ですね」

「・・あそこかぁ・・最近はギルドの仕入れ先や納品先にも、末端店舗が沢山入って来てる所じゃったな・・」

「えぇ、正直、あまり関係を拗らせたくないところなんですが、依頼主がゼビィ殿なんです」

「?誰じゃ、それ??」

「はぁ・・頭に入れておいてくださいって渡したリストの一人ですよ」

ジドーは「リスト」という言葉ですぐに察し、ゲンナリした顔になった

「・・っちゅうことは・・マイナ殿の知り合いっちゅうことか・・」

「えぇ、マイナ様のご友人であられるサザーラン・カルーシャ殿の親しい関係者という感じですね」

「そりゃあ、儂が言うまでも無く、どっちを優先させるかなんて、決まってることじゃろう」

「はい。で、その依頼を「金の盃」に謎の女の調査と合わせて任せてはと思ったのです」

「金の盃に同時に2つの依頼を任せるのか?・・出来んことはないじゃろうが・・そんなに人手が足らんのか?」

「・・会長は結構「金の盃」には思い入れがあったように思いますけど・・忘れたんですか?金の盃のパミラさんとハテンサグループは犬猿の仲じゃないですか。パミラさんなら徹底的に調査してくれそうじゃありません?」

「あー・・そういうことか。まぁそれに加えて今回昇級もさせてオリハルコンにしたしな(正直、儂はアダマンタイトでもいいと思ったが・・)・・マイナ殿の知人という所を鑑みても、最低限配慮したことにはなるか」

「ええ、相手がフレネミー・ファグスという大物であるにしても身辺調査だけでオリハルコンに依頼は普通はしないですからね。それに一応自分の弁明として補足しておくと、さっき話した通りパミラさんは元々ハテンサグループとは犬猿の仲なので、ある程度既に情報を持っていると思うんですよ。要は、楽な依頼で報酬をという私なりの配慮をしたつもりです」

「・・確かに一理あるが・・パミラの性格的に、ある程度情報を既に持っていたとしても、改めて徹底的に調べると思うがのー・・」

「・・まぁ、それは彼女が決める事です」

デケスは流石にそこまで面倒見れませんと話を打ち切る

ジドーも「これで緊急の案件は終わりかぁ」と一息つこうとした矢先、職員が血相を変えて飛び込んできた

「ジドー会長!カルキスギルド長から緊急通信にて、「マイナ・フリレチア・ブリューンズ様がここギルド本部に向かってるとのことです・・!さ、更に、目的はカトゥルー様であるとのことです!!」

「・・あー、わかった。カルキスは別に返事を待ってるわけじゃないんじゃろ?追って指示を出すから、一般業務に戻ってよい」

今話題のブリューンズが来るという事で、慌てふためいた様子だったが、落ち着かせて業務に戻らせる

「デケス、さっきの身辺調査の件、今すぐ金の盃に依頼を出せ。拒否権は無しだ」

「そう思って、報せを聞きながら通信魔法で既に指示は飛ばしました。あと本人達にも、直接伝えておいたので、すぐ動いてくれるでしょう・・それで、カトゥルー様についてはどうされますか?今また出かけてますよね?」

ライザー・カトゥルーは自由奔放でギルドの正式な役職を退いてからは、自由気ままに過ごしていた

ずっと籠っていることもあれば、突然思い立ったように飛び出して数か月~数年居ないこともザラだった

そして今はジドー達にとっては不幸な事に、丁度ギルドには居なかった

既に飛び出して2年程経っている

「・・緊急通信の宝珠を使う。デケス悪いが付き合え」

「・・まぁ、そりゃそうなりますよね。わかりました、及ばずながら手伝わせて頂きます。ただ、良質なポーションをギルドにある分取りに行かせてください」


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