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旧交の御使いと愚者の渇望(1)

         δ ⅰ―1


 あれから、経緯を伝えて、すぐ2日後には出発することを伝えると、母さんは急いで荷造りの手伝いやご飯を奮発しようとしてくれた

我が家の普段の味を堪能したいからと言ったものの、出発前夜は母さんはやっぱりご馳走を用意してくれた。

あたたかい。前世でもそうだったが、家族にだけは恵まれていると実感する

「全く・・事情が事情だから仕方ないが、もう少しゆっくり今度はしていけ。しかも今回はレナリヤちゃんも一緒に行くんだろ?ちゃんと守ってやるんだぞ?あと・・パーティー内での色恋はうまくいく場合と気まずくなってパーティーが解散するパターンに分かれるから、ちゃんと先の事まで考えるようにな。レナリヤちゃんもレーゼちゃんも村の子だから、父さん達はどちらでも大歓迎だが・・」

「どちらかとっていうのは前提なの?・・ただ・・そのぉ・・」

元々親父としてはレーゼとレナリヤのどちらかとという思いだったのは意外だったが・・そもそも、もうどちらかじゃなくて、二人がパートナーっていうのは・・言い辛い・・

「なんだ、ルージュ。大の大人の男がモジモジしてたら気持ち悪いぞ」

「・・いやぁ・・その・・二人から告白されて、二人共俺のパートナーなんだ・・」

「「・・・・」」

母も「お父さん、それは2人の気持ちもあるんだから、ルージュだけに言っても仕方ないわよ」と後ろで笑っていたので、俺の爆弾発言に二人は絶句していた。母さんは持っていた野菜を手から落としてしまっていた。

「・・は、はぁ!?二人に告白されたっていうのは、ま、まぁまだわかるが、二人「共」ってどういうこった!?」

「俺の方が聞きたかったよ。レナリヤに告白されて戻ったら、レーゼに告白されたんだけど、二人共俺のパートナーになることは理解してるって言うんだもん・・俺だけ置いてけぼりな感じで、正直今でもよくわかってないんだ」

「・・ってことは、お互いにその状態に納得してるって事か!?」

「らしいよ。俺の方が混乱してるんだから」

「か、母さん・・今の子ってのはこんなに価値観が違うのか?」

「私にだってわからないけど・・そういうものなのかしらねぇ?」

「まぁ、だったら尚更だ・・というか、ちょっと二人も呼んで来よう」

親父はカーンとブゼンに通信魔法で連絡しながら、2人を呼んで今回の話を共有した

カーンはレーゼの事までは知らなかった様子だが、レナリヤのことを知っていた様子で「ハッハッハ!流石俺とジェーンの子だ!まぁ俺よりこの行動力はジェーンの方が色濃く感じるが・・なあ、クッスル?」と上機嫌で話している。

ブゼンはというと、親父の話で初めて知った様子だったが、神妙な面持ちで俺に少し外で話せないかと呼び出された。

怒られるのかなぁ・・と緊張しながら付いていくと

「ルージュくん、君はレーゼの事をどう思っている?」

「大事に思ってます。それは本当です・・ただ、告白されるまでそういう意識をしたことは無かったので、正直戸惑っているというのも本当です。でも、気持ちに応えられるようになりたいと思っています」

噓偽りない気持ちだった。

「・・そうか。君は昔と変わらず本当に正直だな。だが、だからこそ、信頼できるというものだ。娘をよろしく頼む・・それと、これは伝えておかなければならないことなんだが・・」



家に戻ると、親父達はギョッとした様子でレーゼを見ていた。

カーンは「面白いな!レナリヤがそれでいいなら、俺から言う事はない!」と笑っていた。

「ど、どうかしたの?」

聞きたくない気がしたが、一応聞いてみると、レーゼが俺のパートナーは何人いても構わないと言い切ったことらしい。そしてレナリヤも理解していることを知った親父は「まだ嫁が増える可能性があるってことか!?」と驚愕して開いた口が塞がらないという状況だった・・まぁ普通はその反応だよね

それから、改めてこれはお祝いしなければとカーンもブゼンも自宅から、肉や酒を持ち込み、3家族での宴会となった。

「お父さんとは何を話してきたの?」

レーゼがごく自然に尋ねてくる。まぁ、わざわざ場所を変えて話をしてたのだから、普通は気になるだろう。

ただ・・そのまま伝えていいんだろうか・・

「娘をよろしくって言われたよ」

「・・嘘はついてないね。でも全部じゃなさそう」

レーゼはこちらを覗き込んでいる。

「普通の人にはそれで誤魔化せるでしょうけど、私にはまだ足りないわよ」

「・・レーゼは、何か思い当たることがあるのかい?」

「・・ズルい質問ね。でも・・後ろめたい理由じゃないのはわかるわ・・思い当たることがあるかという点では・・無い、かな?・・私が知ったらマズい事なの?」

「・・俺が言うより、ちゃんとブゼンさん自身から聞いた方がいいと俺は思うんだ」

「そっか・・じゃあ、話してくるよ!」

「え?今すぐ聞きにいくの!?・・切り替え早いなぁ」

「だって明日には出発なんでしょ?お酒も入って今の方が勢いで聞けちゃうじゃない!」

レーゼは言いながブゼンの元に駆け寄り、一緒に出て行った。

家の中ではカーンさんもいつになく上機嫌で酒に食事にと満足している様子だった。こんなカーンさんの顔は始めて見た。

「お、色々な事は済んだか?」

「カーンさんは何かご存知なんですか?」

「いや、知らん。だが、娘が嫁に行くなら父親として託すものがあるのはどこの家庭だって同じだろう。俺は特に無い。だが、娘が選んだんだ。私はその選択を信じるさ!」

「信頼してるんですね・・」

「そうさな・・レナリヤは俺の妻ジェーンによく似ている。ジェーンについては俺より、クッスルに聞くといい。ジェーンは俺に一目惚れだったらしくて、そりゃ、すごいアピールだった。俺のいた集落を救うために残って対策を全面的に協力してくれたくらいだったからな・・本当にいい女だった。気質もレナリヤはジェーンに瓜二つだ。ジェーンを信じているからこそ、レナリヤの選択にも全幅の信頼を置いているという訳だ!」

「そう、なんですね。でも何故父に聞いた方がいいと?」

「うん?あいつ話したことないのか?お前の親父と俺の妻ジェーンは昔一緒に冒険者をしていた仲間なんだ。」

「え!?そうなんですか!?」

「なんだ、本当に知らなかったのか」

「じゃ、カーンさんも冒険者の仲間だった?」

「いや、俺は違う。寧ろ、俺がキッカケでパーティーは解散したという見方もできる」

「カーン!それは違うと何度も言ってるだろ!」

父さんが割って入って来た。少しアルコールの匂いもするが、酔った勢いというわけではなさそうだ。

「・・まぁ祝いの席でこの話は無しだ!ルージュ、取り敢えずレナリヤの事は頼んだ!ジェーンについては、クッスルにいつか聞け。トミィさん悪いがもう少し酒を貰えないか?」

カーンは親父とそれ以上その話題で議論することを避けて、離れていった。

「・・はぁ・・いつかわかってくれたらいいんだが・・」

「父さん、ジェーンさんのことは・・」

「・・悪かったな。こんなことになるなら、もう少し早く話しておけば良かった気もするが・・確かに父さんとカーンの妻だったジェーンは同じパーティーだった。そしてジェーンがカーンに一目惚れをして、カーンと添い遂げると決めてパーティーから抜けて残ったんだ。それから程なくしてパーティーは解散したんだが、それを・・まぁ外から見れば、そういう見方も出来るだろうが、元々そろそろ年齢的にも冒険者から別の事を模索していくことをそれぞれ考え始めていた頃ではあったんだ。だから、カーンが言うようにジェーンが抜けたのはキッカケではあった。が、カーンが後ろめたく思うようなことじゃないんだ。」

父さんの顔は曇っている。さっきの様子だとカーンさんとは、この話題できっと何度も衝突したんだろう。だからカーンさんもそうなるのが見えたので、強引に席を移動したんだ。

「・・そっか、詳しいことはわかんないけど、レナリヤにもその内聞いてみるよ。カーンさんとは喧嘩してるわけじゃないんだよね?」

「馬鹿言え。この件についてはあいつも頑固だから話がずっと噛み合わないが・・喧嘩なんてするもんか・・あいつはジェーンを、かけがえのない仲間を幸せにしてくれた男なんだ。感謝こそすれ、これを理由に喧嘩はしない・・まぁ頑固だから怒鳴り合いにはなるがな!・・にしても・・さっき、レーゼちゃんやレナリヤちゃんからも話を聞いたが、実際本人達からあんなこと言われたら、父さんも開いた口が塞がらなかったぞ・・ブリューンズってモテるんだなぁ・・」

「お・義・父・さ・ん?」

「ひぇ!レ、レナリヤちゃん!?」

「私はブリューンズがどうとか、そんなことはどうでもいいんです!私は、ルージュだから好きなんです!」

「あ、あぁ・・いや、うんちょっと言葉が違ったな・・にしても、カーンじゃないが、レナリヤちゃんは本当にお母さんにそっくりだ。昔カーンに惚れ込んだ君のお母さんに、同じように「ドワーフってそんなにカッコいいのか?」って言った時に、今のレナリヤちゃんと同じ返しをされたよ「私はドワーフがどうとか、そんなことはどうでもいいの!私は、カーンが好きなのよ!」ってね。」

「・・クッスルさん、サナのこと、よろしくお願いします。あの子私と違って内向的だから・・。」

「うん?あぁ、サナちゃんは確かにレナリヤちゃんに比べれば静かだが・・カーンがいるから問題にならないだろう。勿論村の仲間として私もちゃんと協力できるときは協力するさ」

サナはレナリヤの妹で、身長も170cmくらいまであった。

親子皆大喰らいの一家で、サナだけはカーンやレナリヤと違って、食べた栄養は身長と筋力と胸に全ていっており、村の中では若い男達には非常に人気だった。カーンは小柄なので、慎重が高いのは母親譲りのようだ。

スタイルも良く容姿もレナリヤと似た顔立ちだったが、内向的な性格から、レナリヤとは正反対の雰囲気だった。

また、レナリヤが目立っていたこともあるが、サナは非常に物静かで昔からレナリヤの後ろに隠れていることが多かったので、声を掛ける勇気のある男子はこれまでいなかったが、それでも村では強気なレナリヤとは正反対のサナの評判は小さな村なので、男子の憧れの的というのは周知の事実だった。

「・・あ、あの・・ルージュお義兄、さん。」

モジモジした様子で、サナが声を掛けてきた。昔の様子を思い返してみたら、きっとこれは相当勇気を出したんだろうと思えた

「や、サナ。久しぶり」

「あ、サナ。珍しいじゃない」

レナリヤが視線を向けると、サナが爆弾を落とす

「あの・・!姉さんをよろしくお願いしますっって言うのと・・私もお嫁に入れてもらえますか?」

「「「!?!?!!?」」」

ブフゥーッッ!

カーンが向こうで盛大に酒を噴き出し、その場にいる全員が絶句している。

「・・ルージュ・・?サナの事は初耳なんだけど??」

レナリヤが夜叉のような顔になっている

「え?え?いや、これもレナリヤとかレーゼとか知ってることじゃないの!?俺もさっぱりだよ!と、父さん!そんな信じられないような目で俺を見ないでよ!?いや、サ、サナ!ど、どういうこと!?サナのことは勿論昔から知ってるけど、そんな・・その今告白されるような事、何かあったっけ!?」

「わ‥私じゃ・・ダメ・・ですか?」

「いや、そうじゃなくって!どういうことなのか全くわかんないよ」

カーンがレナリヤ件を知った時とは打って変わって、号泣している。

サナの件は、カーンにもわからないようだ。

祝いの席がまるで一瞬で修羅場のような雰囲気になってしまっていたが、レーゼとブゼンがタイミングよく戻ってきた。

ピヨが「レゼちゃん戻って来た!」と暢気に駆け寄って行っている

「?どうかしたの?」


レーゼに顛末を話すと、レーゼが種明かしをした。

サナがレナリヤが行ってしまうことで、村の若者に言い寄られることに怯えていたので、レーゼが、ルージュの嫁になっちゃえば、ルージュの奥さんってことで、手出されなくて済むんじゃない?と言ったことが理由だったらしい。

父カーンにずっと守ってもらうのも悪く思っていたので、言い寄ってくる人がいなくなればと思ったらしい。

「・・・父さん達はどう思う?」

告白の経緯はわかったが・・みんなどう思ってるんだろう

「父さんは・・まぁ既に2人も嫁がいるんだから、レーゼちゃんの(げん)じゃないが、もう一人増えたっていいだろうと思う。まぁこれからもっと増えるかもしれないんだし。」

「私がいなくなれば、確かにサナに言い寄る男の数は村の若い連中の殆どかもって思ってたし、だからさっきクッスルさんによろしくお願いしますって話してたんだけど・・確かに、サナをルージュの嫁ってしてしまえば、防げそうよね。さっきの話じゃないけど、ブリューンズって後ろ盾もあるわけだし・・」

「・・だが、レナリヤ。村ではブリューンズなんて御伽話程度の印象でその名声が役に立つかは微妙じゃないか?」

カーンが首を傾げている

「いえ。たしかに、村の若者にはカーンさんが仰るように効果は薄いでしょう。ただ、今回私達が戻ってきた理由に、今後この村に多くの国のお偉方やギルドの者が数多く来る可能性があるのを危惧したという事があります。ブリューンズにはおべっかをしたい連中が沢山いるんです。その連中の中に村娘で気に入ったものが居れば、言い寄ってくる輩も否定できません。ルージュが生まれ育った村の村民を誘拐したりは流石にしないでしょうけど・・そういう連中にルージュの嫁という肩書があれば、手出しは絶対してこない筈です。」

カーンの疑問にレーゼが雄弁と切り返した

「な、成程・・サナもそういうことなのか?」

「う、うん・・黙っててごめんなさい、お父さん・・」

俺の話のはずなのに、俺はずっと蚊帳の外だった。

親父もカーンさんも母さんも、レナリヤも皆「そういう事なら・・サナだとあり得るし・・」みたいな感じだ

「よし、ルージュ悪いが、サナも嫁にしてやってもらえないか!」

「マジすか・・」

俺の意見はほぼ聞かれることなく、満場一致でサナも嫁になることになった

「あの、ありがとう。わ、私、誰でも良かったわけじゃないよ?姉さん達ほどじゃないけど、ルージュさんとならって気持ちもちゃんとあったから・・」

レーゼとレナリヤの周囲にピシッと何か亀裂が入ったような音がした後、サナは二人に連れられて行ってしまった。

なんだか、色んな事が起き過ぎて、流石に疲れた

「悪いな、ルージュ。村の人間なら俺がどうにかするつもりでは居たんだが、レーゼちゃんの話を聞いて流石に外の人間からもとなると勝手が変わってくる。勿論何かあれば、娘に近づく奴は俺がぶっ飛ばしてやるが・・レーゼちゃんの話の雰囲気的にそういう小さな話じゃないんだろ?俺も昔妻にブリューンズの御伽話を聞いたが、それが事実・・だったんだよな?お前たちは既に、お偉方達とも話してきたって言うし。まぁ、サナの為だと思って名前だけでも貸してくれ」

「まぁ・・それで危害とか加えられないなら安いもんですし、気兼ねなく使ってください」

「明日には出発だというのに、色々悪いな」

慌ただしいことが続いたがやっと平和な時間になってくれた。

ピヨがみんなに可愛がられている。

あいつ、本当に居てくれて助かるなぁ・・窓から見える夜空は、月が明るく晩酌するにはもってこいだった。



前日結構みんな飲んでいたこともあって、母さん以外はみんな二日酔いの様子だ。

「うっぷ・・ルージュ・・わ、悪いが・・見送りはできそうにも・・オエーッ」

見るとサナまで潰れている。見送りは無理にしてもらわなくてもいいが、家族が具合悪いのは普通に治癒魔法をしてあげようと思っていたら、レーゼがチャッチャと回復させてしまった

「わぁ!レーゼさん、こんなことできるんですか?」

「・・すごいな!レーゼちゃんがいてくれたら、幾らでも酒が飲めるじゃないか!」

効果は覿面(てきめん)だった。

「見送り前に情けない姿を見せちまったが、気をつけてな!レーゼちゃん、レナリヤちゃんもルージュをよろしくな!」

「え、えーと・・!ルージュ・・あ、あなた!お義父さん、お義母さんは・・私がちゃんと留守を守りますので・・お、お気を付けて!」

サナが目をギュッと瞑って、一生懸命最後まで言い切ったが、「あなた~」辺りから、隣のレーゼとレナリヤからは冷たいものを感じるが・・気のせい、気のせいという事にしよう

手を振って別れて、村の入り口まで来ると、ラパンが居た。

あれからずっと泣いていたのか、目が赤く泣きはらした顔をしている

レナリヤはゲンナリした顔をし、レーゼは「あらあら・・」と口元に手を当てている

「ル、ルージュ・・!レナ、レナリヤの事大事にしろよなっ!俺、俺・・本当だったら俺が守ってやりたかったけど・・!レナリヤがお前・・を選ぶなら、仕方ねぇもん・・グ・・ヒッグ・・」

ラパンは話しながらまた感情が昂ってしまったようで、話してる途中で泣き出してしまった。

・・こんなに泣ける程、本気だったんだな・・お前にもいい人が出来ると良いな

「・・任せとけ!レナリヤはちゃんと俺が守るし、大事にする」

レナリヤは顔を綻ばせて付いてきた

「えへへー。ね、今のも一回言ってよ」

『きっと私と同じく照れて言ってくれないんだろうけど』

嬉しくてニヤニヤが止まらないレナリヤが強請(ねだ)ってくる

「うん?ああ、勿論!大事にするよ!」

「!?!?」

迷いなく目を見て言われて、レナリヤは面喰ってしまって、更に耳まで真っ赤になってしまった

「あれ?そういえばレーゼ付いてきてないな・・って、ラパンとなんか話してる・・?」

「え?」

頭が真っ白になってしまっていたレナリヤは、ルージュの言葉をよく理解できないでいたが、レーゼから通信魔法が届いてきた。こういう時、通信魔法って便利だなぁと全然違う感想を持って一瞬呆けていたが、ルージュが動きそうな様子に気が付くと急いで伝える

「先に行っててって今、レーゼから言われたわ。私達の事を伝えてるみたい。ほら、ラパンって思い込み激しいじゃない。だから私達が(たぶら)かされたとか、そういう解釈をする可能性があるからじゃないかな。だから、ここはレーゼに甘えましょ。私から言ったって、私に振られたんだから、聞きづらいでしょうし、ルージュが話したら尚更聞き入れられないだろうし。」

「・・たしかに・・そうだね」

ブリューンズって肩書や、ちょっと人より魔法が得意でもこういう自分じゃどうしようもないことって変わらないんだなと複雑な思いに駆られる。



あんまり離れてもよくないと思ったので、レナリヤとも話して、レーゼを待つこと数分。

「あ、来たわよ!」

「待たせちゃったみたいで、ごめんなさいね」

「いや、寧ろ話してくれてありがとう」

「ラパンのこれまでの事を思い返したら、あそこで伝えられたのは寧ろ良かったと思うわ。正直昨日の今日で私達の前に出て来れるなんて思ってなかったから、あそこにラパンが出てきたのは、かなり驚いたんだけどね・・それで、このままイクーツに向かうのよね?」

「あぁ、途中コロ町でお世話になったギルドのトンビルさんって人に挨拶してっていいかな?」

「じゃあ、今日はコロ町で宿泊ね。」

「そうだね。あ、そういえばさ、二人って戦闘とか心得あるの?攻撃魔法とか補助魔法とか。基本、この辺の魔物は俺が対処できるから、守るのは問題ないんだけど、出来ること知っておきたくてさ」

「そうよね、アイナさんとあの時は一緒だったから、規格外が二人だったのよね。私は治癒魔法を簡単なのならできるかな。あとは・・その時になったら、私の特製上、多分出来ること増えると思う」

「私は鍛冶で火を扱ってたから火魔法は得意だよ!あとラパンの手を治したように、治癒魔法もちょっとは出来るよ!それと、身体強化が出来るから、魔法を使えない普通の同年代の男くらいなら力でも負けないわ。父さんが言うには一般の兵士くらいなら負けないって言ってた」

「そっか。手頃な魔物で、少し実践してみた方がいいね。急ぐ旅でもないし、旅の途中で二人に怪我もしてほしくないし、ここはちゃんと時間作ろう」

2人が同意してくれたので、歩いてみたが、どういうわけか今回は全然気配が感じられない。

というか、気のせいかコロ町の方からかなりの人がこちらに向かって来ている気配がする。

なんだ?ルートゥ村にこんなに人が向かう理由・・

「どうしたの、ルージュ?」

「いや、結構の人がこっちに向かってる気配がするんだ。ルートゥ村にこんなに人が向かうなんて理由が思い浮かばなくてさ・・」

「はぁ・・、ルージュ私でも察したわよ。レーゼが何度も言ってたじゃない。あんたよ」

呆れた様子でレナリヤが指をさしてくるが、サッパリわからない。

「だ・か・ら、あんたが目的なのよ!そうでしょ、レーゼ?」

「そうね、ルートゥ村に向かってるのであれば、恐らくそれで間違いないと思う」

「・・ったく、自分の事だと鈍いのね」

あー・・、そっか・・ブリューンズの名声についてはどうしてもまだ慣れない。


そうこうしている間に感じていた集団が目に入ってきたが、どうもブリューンズ目的で向かっているというよりは、兵士と冒険者があちこちにいて森の魔物を狩っているようだった。

流石に想定外で、レーゼは考え込んでいる様子で、レナリヤは森から魔物を追い立てて人間が一方的に蹂躙している光景にゾっとした様子でいる。

魔物はルートゥ村でも当然警戒すべき対象だが、こんなわざわざ森から魔物を炙り出して、蹂躙するようなのは異様な光景だった。今までだって父に付いていって王都に行ったことはあるので、この道だって初めてではない。魔物に出くわしてしまって、父に助けてもらったこともあるが、何もない時だってあった。魔物が多すぎるというようなことはこれまでなかったし、最近になってそうなったというような情報も聞いていなかった。何の為にこんな大規模にやっているのか・・しかも冒険者の中には嬉々として魔物を狩っている者も結構見受けられる

「ハハッハー!全く、こんなうまい依頼初めてだな!」

「そうね!・・あ、ちゃんと討伐の証としてちゃんと魔物の一部は回収しなさいよ!無駄働きはゴメンよ!」

「・・チッ!貴様ら!我々軍の邪魔をするな!せめて協力しろっ!」

「ハン!私達は軍の依頼じゃないんだから、協力する義務なんてないわ!寧ろ私達の邪魔しないでくれるかしら!私達に任せておけば、ちゃんと殲滅しておいてあげるわよ!休暇でももらったと思ってそこで見てればいいわ!」

冒険者と兵士はいがみ合いながら、魔物を狩っている。

上官らしき者から指示を受けた様子の兵士がこちらに駆け寄ってくる。

パッと見・・言い方は失礼かもしれないが、鎧などもうまく着こなせておらず、体力も大してないのか、息を切らしながらやってきた。なんというか、入隊したばかりの新参者のように見える。

「っはぁ、はぁっ、はぁ・・あ、あぶねーっぺよ!」

「?」

「だらぁ、危ねぇて言ってるっぺ!」

「私達はコロ町に向かってるから、ここを通らなくちゃいけないんだけど・・」

「あれさぁ見て、わかんねっが!?」

「だから!なんでこんなことになってんのよ!ルートゥ村にはこんな事してるって話来てないわよ!?」

「すったらこと、オデに言われてもわがんねっぺ。急に連れてこられて、ここら辺の魔物退治をデッ底的にする言われたんだっぺ。おで、村で畑しかしたことねんで、何がなんだが・・ど、どにがぁ、言っだがんな!とっとと、けぇるべ!」

言うだけ言うと、面長で日焼けで小麦色の肌をした男は、ヘロヘロと上官と思しき所に戻って行った。

レナリヤは調子を取り戻してきたようで、「何なんのよ、どうなってんのよ!」とブツブツ言ってる。

「ルージュ、どうする?一旦戻る?」

「・・いや、レミィの事がどうなってるのかわかんないし、あまりのんびりしたくないのと、この道を通れないにしても、さっきの兵士じゃ話が見えないから、あの上官らしい人に聞いてみよう。道を通してもらえなくても、何が起きてるかくらいはさっきの話よりはわかると思う」

「あいつ、なんだったのかしらね!」

「ピョー!」

レナリヤはピヨをつかまえるとギューッと抱きしめて、ブーブー言っている。枕を抱きしめる感覚に近いんだろうか。ピヨはじたばたしているが、相変わらず非力な様子で、レナリヤから逃げられずにいる。

「じゃあ取り敢えず、進みましょう。魔物を狩ることが目的みたいだから道というより、森の方で戦闘してるみたいだし、もしかしたらこのまま通れちゃうかもしれないしね」

レーゼの言うのもごもっともだったので、スムーズに行けるかと思っていた矢先、先程の使いっ走りに指示を出していた上官と思しき者がこちらを見つけてしまった。

「止まれ!お前達、先程注意をさせたはずだ!」

「さっきの人の話じゃ、わかんないですよ。僕たちはルートゥ村から来ましたが、こんなことになっているなんて聞いてないですし、見た感じ、魔物が現れたから討伐しているというより、追い立てて積極的狩っているように見えます。寧ろこの道は兵隊さんや冒険者が戦っているなら普段より安全な道じゃないですか?」

上官の後ろでさっきの使いっ走りが「お、おで、ちゃんと言っだべさぁ!わ、わがんねがっだのか・・?」と何故か頭の悪い不憫な子を見るような目で見られているのが気になったが、上官の方はすぐに理解できたようで面白くなさそうな顔をしている。

「・・この道で怪我をしたって、知らんからな」

「えぇ、勿論・・見た感じ足並みが揃ってないようですし、あの感じじゃあ軍の方は何もしなくてもいいんじゃないですかね。冒険者は依頼で動いてるみたいだし、任せて、道まで漏れてきたのを狩ればお勤めしたことになるのでは?それにしても、何故こんな大掛かりな作戦が急に始まったんです?」

「・・お前、行商・・には見えないな。まぁ、確かにお前が言うように、あの勝手な行動をする冒険者共のせいで攻めるという点では軍の強みを活かせずにいるからな・・この作戦については、正直俺もよくわからんのだ。ただ、よくわからんが、非常事態に近い強権で今回の作戦は始まったのは確かだ。何せ、王命だったからな。」

「王命!?・・そんなことまで話してしまって、いいんですか?」

「なに、お前らコロ町のギルドにも行くんだろ?見た感じ荷物が大してないんだから行商じゃない、とすれば、冒険者だ。すぐにわかる話を、ここで誰からでも聞ける情報を話したって何の問題もあるまい?」

『あんたのお付きの使いっ走りは何にもわかってなかったわよ!!』

レナリヤが小声で盛大にツッコミを入れていたが、見ないふりをする。

「成程、そんなに大々的なものだったんですね・・ありがとうございます。それではこれで」

「あー、待て。一応、お前たちの名前・・」

「・・これで。私達もお忍びなんです。安心してください、ご迷惑は掛けませんから。」

上官が話し終える前に、レーゼはスッと懐に潜ると手に金貨を握らせた。

一瞬何が起きたかわからなかった上官だったが、握らせられた金貨を見ると、わざとらしく咳払いをする

「ゴホン、まぁ、お前達も突然の事で運が悪かったとは思うしな、うむ。さっさと行くといい。」



その後は想定通り、コロ町までの道のりに魔物が現れることは無かった。

ただ、森の方では戦闘をしている声や爆発などが鳴りやまずにいたので、全く落ち着かない旅路だった。

「ねー、さっきはレーゼあの兵士に何してたの?」

「金貨を握らせたのよ。まぁ簡単に言えば、見逃すように買収しただけよ」

「そ、そんな普通の事なの!?」

村で鍛冶屋の娘として育ってきただけのレナリヤには、驚きでしかなかった。

「いや、普通じゃないよ。俺だって思いつかなかったもん。やり取り見て何やったかはすぐわかったけど・・レーゼ、よくあんな自然にできるね」

「なんとなく、ああした方が話速そうに思ったの。さて、と。ちょっと予想外だっだけど、無事付いたわね。まずはギルドに行くのよね?」

「ああ、ただ正面から行く前に素材の搬入口にちょっと寄ってみていいかな?」

トンビルさんなら、あっちの方が居そうだし、トンビルさん以外のギルドの連中には正直会いたくない。


ガンガン


搬入口の入り口は結構草臥(くたび)れていて、軽くノックをしても、壊れそうな音がしてしまった。

前もこんなに酷かったっけ?

「なんじゃー。ったく、今日の退治はもう終わりなのか?」

扉の向こうでトンビルがブツクサ言いながら、扉を開けて出てきた。

少し疲れた様子だったが、前の調子に戻っているように見える。

「ル、ルージュか!?」

「トンビルさん、ご無沙汰してます・・あ、それと、毎度のことで申し訳ないんですけど、他の連中には内緒でお願いします」

「そうは言っても・・聞いたぞ。ブリューンズだったんだって?聞かされた時は驚いたわい。」

「あー、じゃあ、何かあとで聞かれたら僕に言われたからって言っていいですから。あ、それと今まで通り接してください。ブリューンズだろうが、僕は僕です。トンビルさんにお世話になったことは忘れませんから」

「そうは言ってもなぁ・・」とゴニョゴニョ言っている。ニツェンのギルドで姉さんに対する反応だと思っていたので、少し意外だ。

「ちょっとルージュ!」

レナリヤとレーゼには、トンビルさんがいるかわからなかったので、少し後ろで待ってもらっていた。

居たら合図すると伝えてたのだが、待ちきれなかったのかレナリヤが駆け寄って来た

「いるなら、早く呼んでよ!」

「いや、俺がブリューンズだったこととか色々先に話してたんだって」

「ごめんなさい、ルージュ。レナリヤったら、言うが早いかすぐ行っちゃうんだもん。」

「な、なによー!最初から、みんなで来てれば良かっただけじゃん!」

「お、おい、ルージュ。このお嬢さん方は新しい冒険仲間か?」

「うーん、そうでもあるけど・・」

「トンビルさん、私達はルージュの妻です。ルージュからトンビルさんやお友達のお話とか色々聞いてます。ルージュに色々良くしてくれて、ありがとうございます・・改めまして、私はレーゼと申します。こちらはレナリヤ。あと一人、ルートゥ村に彼女の妹のサラも妻にしてもらいました」

目をパチクリさせながら、トンビルはやっとのことで言葉を出す

「は、はぁ??・・おい、ルージュ。このお嬢さん方何言っとるんだ??」

簡単に経緯を伝えたが、理解が追い付かない様子だ

まぁ当人の自分もなんか気が付いたらこんな感じになっていたので、そりゃそうだよなっと感じる。

「それで、ちょっとトンビルさんと話したいこともあったから、今晩一緒にご飯でもどうかなって。ずっとここで話してる訳にもいかないでしょ?」

「いやぁ、お前さんがブリューンズの名を出してくれりゃあ、最優先で時間作れるが・・まぁ、出したくないんじゃよな。わかった。じゃあいつもの宿でいいのか?お前が前に滞在してた?」

「あぁ、これから空きみてくる」

「なんじゃ、まだ行ってなかったのか?・・恐らく宿は空いてないと思うぞい」

「え?」

「ルートゥ村から来たなら、あの大規模な魔物退治を見てきたんじゃろ?あいつらは、普段コロ町にいなかった奴らなんじゃから、当然宿を取るじゃろうが。」

「あー、そりゃそうかぁ」

「えー!?今日は野宿じゃないんじゃなかったの!?」

「大したもてなしは出来んが、儂の家に泊めてやる。」

「え!?いいの!?ありがとう!トンビルさん!!」

「なぁに、久しぶりにお前さんのインパルの美味い肉を食わせてくれりゃあ、それでいいぞ」

ニカッと笑う。結構本気で楽しみにしてくれてる様子だ。

「あ、そうだ。その大規模な魔物退治のことだけど、まだ手が入ってない所ってある?」

聞いてみると、ここ数日くらいから急に始まったらしいので、奥地まではまだ手が入ってないだろうとのことだった。

「そうさなぁ・・前にサラちゃんとレミィちゃんと出かけて行った時に、ポズンに出くわして討伐してきたことあったじゃろ。あの辺までは作戦上はまだ行ってない筈じゃ・・が、高ランクの冒険者も今回来てるでな。あのレベルのパーティーじゃと、軍と足並み揃えてなけりゃあ、ズンズン奥に入って行ってる可能性は高いって感じじゃな」

成程・・であれば、少し俺が先行して冒険者がいない所を感知魔法で探ってから動くか

「じゃあ、儂は仕事をチャッチャとやってくるでな。日暮れ頃にまた来てくれ」

トンビルは言いながら戻って行った。







         ⅰ―2


ビチルは自分の身体よりも大きな大斧を軽く振り上げると、勢いよく振り下ろした。

目の前には小鬼が3匹、地面に肉塊となって埋まっている。

「チッ、おい、パミラ!こいつら、さっきから殆ど普通の小鬼じゃねぇぞ!どうなってんだ!?」

パミラと呼ばれた草臥れた魔女帽子を被った女が、考え込んでいる。

「おい!聞いてんのか!?せめて、補助魔法や攻撃魔法で補助するとか仕事しろ!」

言いながら鍛え上げられた筋骨隆々な身体を存分に活かして、大斧を振り回し、群がる小鬼を吹き飛ばし、切り飛ばし、叩き潰す。

「・・お前・・いい加減に・・っ!」

痺れを切らしたビチルがパミラに振り向いた瞬間、顔の真横を激しい雷撃が走る。

瞬間、後ろに現れていたポズンが麻痺し、周辺にいた小鬼達は感電し、丸焦げになった。

「こっの馬鹿野郎!目開けられねーだろうがっ!」

「あんたは気配感知すればいいでしょ。そのポズン今のでも仕留めきれてないから、トドメよろしく」

ビチルは言われるまでも無く、即大斧を全力で振り下ろした。今回は当然刃を使って切り殺す算段だったが、ポズンの体液でスリップしてしまった・・が、ビチルはそれも想定済みと狼狽することなく、そのまま回転し、武器強化を施すと、そのままの勢いで今度こそトドメを刺す

「ッシ!・・取り敢えず今ので一段落か?」

魔物の気配が無くなってきたので、視力の回復に専念しようとポーションを取り出す。パミラのこれはもう何度も経験してるので、自分で常備しているのだ。

「・・そういう発言は、大体更に悪い状況を引き寄せるから言わない方が賢明・・」

ビチルは「んなこと言ったって、魔物気配は一旦無くなったじゃねぇか」とボヤいていたが、パミラの言葉が残念ながら当たってしまう。

後ろから悲鳴を上げながら、軍にイキっていた冒険者が走ってくる

「どうなってんのよ!」

「た、助けてくれ!ビチルさん!!」

ポーションでやっと目を開けられるようになったビチルに一番に目に入ったのは、頭は牡牛で目はガンギマリし、よだれを垂らしながら猛進してくるヴァッファゴだった。

「・・!なっんで、最初に目に入るのがこんなきめぇ奴なんだよっ!」

流石に体勢が悪いので、一旦避ける。

女冒険者は浮遊魔法でビチルの跳んだ枝に向かって必死に上に逃げたが、男冒険者は逃げきれず、ヴァッファゴの突進をモロに喰らう。

そして、それは伝説で聞いてきた通りの行動をとった。男の冒険者もビチル程ではないにしても、中々筋骨隆々の戦士職で決して弱くはなかった。この二人はこれでも黄金級の冒険者だった。

その戦士がヴァッファゴの突進で背骨が折れ、全く動けなくなってしまった。

装備だって黄金級に相応しくしっかりしたもので、女冒険者の補助魔法も受けていたにも関わらずだった。

ヴァッファゴは相手が動けなくなったことを確認するまでも無く(寧ろ動けてもその行動をとっていたのかもしれないが)、いきり立った一物を男の尻にぶっ刺した。

「ブモォォォ!!!」

ガンギマッた瞳は変わらず、快楽を貪っている。

ヴァッファゴは狂った魔物として名高い化け物だった。

大昔、悪の権化と語り継がれる魔神ケィロゥーの伝説に登場する化け物で、当時の人々を凌辱し蹂躙したとされる生粋の化け物だ。

男だろうが女だろうが生物であれば、こいつらは凌辱することを最優先に行動する。そして、決して満足することがない。

「ヴァアアアァッァァ!!た、たしゅ・・!」

男の絶叫が響き渡る

「ヒッッ!!」

女冒険者はあそこで捕まっていたら、自分があそこにいたという疑いようのない現実に心が折れた

「・・!バカ野郎っ!ここで気失ったら、死ぬぞ!」

女冒険者にビチルは気功法での喝を入れ、強制的に意識を保たせ、すぐに戦士を貪っているヴァッファゴに向かって全力強化を施す。

パミラも、ビチルの身体が壊れるかギリギリの全力強化を施す。

こんな強化は普通なら殺す気かと全力で抗議する内容だが、今はこれですら足りないと思わせる。

『チクショウ!今程、自分の身体がこの程度でガタが来そうになることに悔しさを感じたことはねぇ・・!』

パミラとビチルはミスリーク級の冒険者で、間違いなく最高峰の冒険者だ。

が、その二人でさえ、ヴァッファゴには1度しか出遭ったことが無い。

力を付けてきて、その実感を持ちつつも奢らず、常に警戒心も持っていたプラチナ級だった頃だった。

当時はもう一人の仲間、正確にはリーダーがいた。

亜人種の蛇竜種で、数々の依頼を達成してきた英雄だった。

比喩ではなく、依頼先のとある村では彼に助けられた村人たちに、本当に英雄として感謝をされていた。

今でも訪れれば、リーダーだったグエンの英雄譚を喜んで語ってくれるだろう

グエンは当時の自分達より一つ上の階級で、既にミスリーク級の冒険者だった

皮肉な事にグエンも、自分達と組む前のパーティーをヴァッファゴに壊滅されていた

壊滅の経験のあるグエンは、そういう冒険者独特の空気を漂わせており、当時はパーティーを組むなど全く想像が出来なかった。

だが、どういうわけか、受ける依頼が重なることが多く、話す機会も自然と増えた

そして、グエンは魔物の異常発生や大群の襲撃の依頼のような、危険な依頼を多く受けていた

勿論、黄金級以上の依頼は殆どが危険が付き物ではあるが、その中でも飛び抜けて危険なものばかり依頼を受けていた。

到底、一人で受けるような依頼ではないものばかりだった

ギルドからも、受注を止まる様に説得されている光景はこの時の日常風景になっていたくらい、無謀と思える挑戦ばかりだった。


同じ依頼に参加し、話す機会が増えれば、聞かずともわかった

グエンの瞳が雄弁に語っていた

仲間を壊滅した魔物を生ある限り、殺しつくすと。

自分の目の前で、二度と犠牲者を出させはしないと。

それは復讐なのか、義信なのか・・恐らく当人ですらもうわからなくなっていた。

ただその思いに駆られて、衝動のままにグエンは動き続けていた

そんなある日、もうグエンと行動を共にするのもいつもの流れだったが、パミラがグエンの方にツカツカと真っ直ぐに向かい、グエンの前で立ち止まると、有無を言わさない雰囲気で一言言い切った。

「あんた、私達のリーダーになりなさい!」

俺はあの時「おいおい、リーダー頼む言い方かよ!」って思わず、ツッコんじまったが、思えばあれで良かったんだ。あいつは、パミラのあの言い方じゃなけりゃ、断ってた。

勿論、それでもグエンは断って中々首を縦には振らなかったが・・パミラの正論パンチが効いた

「あんた、わかってんでしょ!私達が同じ依頼組んだ殆どが協力しないと、私達もそうだったけど、あんたは間違いなく死んでたじゃない。それがわからないほど馬鹿にはなってないでしょ!私達にとってもあんたの適切な指示があって、ここまで生きてるわ。私は何も、あんたを憐れんで勧誘してんじゃないわ!お互いにwin winな関係だって言ってんのよ!私達は、あんたの指示の適切さを十分理解していて、戦力アップもできるし、生存確率だって上げられる。あんたは成し遂げたいことをより手広く出来る。お互いの人柄なんかはもう十分知り合ったでしょ!」

この時の剣幕は凄かった。英雄グエンの面影はどこ吹く風で、見たことのないタジタジのグエンを始めて見れた。パーティーを組んでからは、それもいつもの風景だったのが懐かしい。

その後、パミラの怒涛の説得と勧誘でパーティーの一員に無理やりした。

ギルドの姉ちゃんにも口裏合わせてもらって、パーティー組まないともう依頼は受けさせないと突っぱねて、それでも一人で依頼なんて受注しなくても善意だけで、向かおうとした所を当時はまだ会長になってなかったジドーさんが、ぶん殴って止めてくれた。

グエンも本物の英雄だったが、ジドーさんはもっとすごい化け物だった。

・・いや、会長を化け物って言うのは違うか・・だけど、あの人は本当に規格外だった

まぁそんなこともあって、パーティーに入らざるを得なくなって、やっと俺達は正式にパーティーになったんだ。

俺達は向かうところ敵無しだった。

今までも危険度の高い任務ばかりだったが、同じレベルの依頼、それ以上の難題依頼も危なげなくこなしていった。

そして、グエンはオリハルコンに昇級し、俺達もミスリークになった。

ギルドの中でも実力を認められて、チームとしての等級はオリハルコンでも上位と認定されていた。

それからも問題なんて何も無かった。

パミラが年齢的にもしかしたら、家庭に入るとか一線を退いて研究に籠るとか言いそうかなぁとかは思ってたが、そんな暢気な事を想えるくらい順風満帆だった

あの日が来るまでは・・。

結論から言っちまえば、グエンは死んだ。

俺達を庇って。

依頼自体は何て事のない、寧ろ普段に比べれば楽な位の依頼だった

依頼を終えて、さぁ戻るかって所にこいつは突然現れた。

瞬時に戦闘態勢を整えて、しっかり臨戦態勢で挑んだ

だが、こいつは俺達の攻撃なんてまるで何も無いように動き回った

全くこちらの攻撃に怯む様子が無かった

あいつが今まで話してこなかったことを口にした

「パミラ、ビチル、俺の前のパーティーはこいつに壊滅させられたんだ」

「「!!!」」

「お前達も攻撃してわかっただろう。今のお前達の攻撃じゃこいつの気を逸らすことさえできない!こいつの一つ唯一こちらが優位にとれるのは、本能を刺激することだ。こいつは快楽を追い求める事を何よりも優先する。」

グエンが話している間にも、ヴァッファゴは雄叫びをあげて、パミラに襲い掛かる。

パミラに覆いかぶさり凌辱に及ぼうとする僅差で俺が飛び込み、物理的にパミラに触れさせないようにした(パミラは俺とこいつの巨体の体重で圧死する程だったが、凌辱されるよりはマシだ)

ヴァッファゴに顔を舐め回され、いよいよもうダメかって時だった。


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心に直接ハッキリ聞こえたから、通信魔法かと思ったが、その直後空気が震えた。

すると正にもう犯される寸前だったにも関わらず、ヴァッファゴの血走った目がグエンを捉えた。

グエンのことしかもう見えないような顔をしていやがった。


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その言葉に倒しきる為というのを感じた俺はグエンの言葉に従って、その場を離れた

「っの、馬鹿!そんな都合のいいことあるわけないじゃない!」

「んなこと言ったって、俺達じゃ傷もつけられなかったんだ。どうしようもないだろ!それに、確かにあいつは勝機があるって顔してたんだ!」

喧嘩しながらもギルドに報告をして後詰を頼んで、急いで戻った

そこには息絶えたヴァッファゴと、ヴァッファゴの喉元に咬みついたグエンがいた。

グエンの切り札は、自身の体内で特殊調合をした必死の猛毒だった。

「・・グエン、生きてんでしょ!ヒール、ヒール、ヒール!!・・は!そうだ!試すっきゃないわね・・!」手のひらをグエンの心臓にかざすと、パミラは驚くことに雷撃を打ち込んだ。

「な、何やってんだよ!?」

「黙ってて!昔ジドー会長がカトゥルー様の話をしてくれたのよ。私達が心があると信じているこの左胸に電気を当てることで、息を吹き返すことがあるんだって!」

ホントかよって思ったが、パミラの真剣な表情に傷つける意図がないのは明白だったし、助かってくれるならって思った。ありがたいことに、臨終の言葉を残すくらいは息を吹き返してくれた

「ガハッ、ハァハァ・・パミラはもう少し、優しく起こせるようになったら・・いい嫁になるぞ、きっと。」

「あんたが貰えばそんな必要はないでしょ!」

「ははっ・・そりゃ残念。俺は自分の嫁をすぐに未亡人にしてしまう程、愚かじゃないんだ」

「・・なによ・・なによ・・折角息吹き返したなら、ちゃんと生きなさいよ!!」

「こいつに使った切り札は俺が体内で特殊調合した猛毒だ。これを作るのには俺の生命力が必要だった。そして・・足りるかと思ったが、用意した分では足りなかった。仕方ないからこいつが動かなくなるまで、毒を生成して注ぎ続けてやっと殺せた。もう俺に生命エネルギー自体がないんだ・・寧ろパミラのお陰でこんなに遺言をしっかり残せる時間を作ってくれて感謝している。そして・・ビチル、俺を信じて離れてくれてありがとう。言ってた通り、こいつが俺から離れてしまったら、どうしようもなかったから、こうするのが一番勝機があったんだ。まぁそれも見誤って、自分もくたばってしまうことになったが・・なに。存外お前らとパーティーを組めたのは、居心地が良くて充実した時間だった・・今度は壊滅じゃなかった」

「・・・馬鹿野郎!!壊滅じゃなくても・・残された俺達の事を少しは考えろ!」

「ハハ・・大の男が泣く奴があるか・・あの時は、為す術がなかった・・目の前で仲間が凌辱され、生きたまま食われ、蹂躙された・・ハハ・・実に清々しい・・ざ・・ザマァ・・みろ・・化け・・」

満足気な表情で目から生気が無くなった

ったく、ホント残される身になれってんだ・・



ビチルは全力での自身の持てる全てを総動員した必殺コンボを叩き込む。その一撃一撃はあの頃グエンと一緒に戦った時の比ではない。

確実にダメージを与えられるとは信じているが、それでもそもそもダメージを感じない、生物として破綻している可能性もビチルは想像していた。明らかにこのヴァッファゴという化け物はもれなく狂っている。

そうであれば、怯むとかは考えない方がいいと思っていた。

「からぁのぉ、無限コンボだぁ!お前が動かなくなるまで止まらねぇぞ!!」

パミラもビチルの意図をハッキリと理解していた。

グエンが逝って暫くしてから、ビチルはパミラと万が一こいつに出くわした時の動きを事前に話し合っていた。グエンは種族の特性を活かして猛毒の生成という手で辛勝したが、自分達は人間なので、同じ事は出来ない。なら、人間種の魔女と戦士の得意を活かすしかない。


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「宮廷魔法使いが10人掛かりで発動するアダンラァを一人で!?!?しかも、この強度で・・!・・で、でもこんな強い結界張っちゃったら、ビチルさんを閉じ込めちゃうんじゃ・・!」

女冒険者が同じ魔法使いという職業もあって、パミラの実力に目を見張りながらも、意図が読めず、困惑していると、続けてパミラが詠唱を始める。

『あの強度のアダンラァを短時間で発動できるパミラさんが、詠唱をするって・・』

高位の魔法使いは、詠唱を省略することが可能だ。熟練すればする程に速くなり、最終的には無詠唱で可能になる。


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パミラの魔法が発動したと思われるが、見た目には何も変化がないように見えた。が、聞きなれない詠唱だったが魔法名を聞いた女冒険者は何が起きているか理解した。


パウム・ポズィーラ。人類の到達できる最高点とされる極級魔法。語り継がれる伝説の魔神を溶かし、魔神の軍が跡形もなく無に帰したとされる毒の極致。


「パミラさん!結界の中にはビチルさんがいるんですよ!?」

パミラは全く反応してくれないが、それはビチルが結界の中で連撃を続けていることで、杞憂だったことを知る。そして、ヴァッファゴは明らかに動きが鈍っていた。

とは言え、あれでも何も感じていないのか、苦しんでいる様子は見られない。ただただ、渇き、欲望を満たそうと動き続けている在り方には改めて怖気が走るが、身体は溶け始め、身体中から血が流れ出している。

どうして、あの状態で動けるのか不思議で仕方ない。

そして、ビチルの方はというと、全く効いてないどころか、結界によるバフで最高の状態で休まず連撃を繰り出し続けている。

止まらない。ビチルは全く止まらない。

パミラに視線を移すと、パミラも魔法を発動し続けている。しかも結界の強度を保ち、ビチルへの補助魔法も両方を一人で完璧に維持し続けている。

この二人の連携に自分が入る余地はない。

役立たずな自分を恥じながらも、今できることは、この二人が全力でヴァッファゴに集中してもらうことだ。

他の魔物にパミラが襲われれば、全てが崩れてしまう。

あと少しできっと倒しきれるはず。


場違いな普通の中年にしか見えない男が双眼鏡でこの死闘を覗いている。

「お前たちの管理不足で、冒険者に出くわしちまったが・・ありゃあ、殺しきれそうじゃないの」

男は感心した様子で見入っている。

「ふーむ・・あの二人は・・何級なんだ?」

「ミスリーク級でございます」

側にいた容姿端麗の男に、双眼鏡を渡すと、もう一人の美女が迷いなく答える。二人は性別こそ違うが、顔立ちはほぼ全く同じだった。

「ミスリーク級かぁ。仮に実力は既にミスリーク級を越えてるって場合も考慮しても、その程度であれ殺せちゃうのか・・ちょっと計算間違ったんだろうか・・」

中年の男にお前も見てみろと合図された、容姿端麗の男が覗き、次は美女に双眼鏡を渡す。

表情を変えずに、回答が許されるのを待つ。

「で、どうだ?要因は?」

「はい。まず、あの魔法使いの使用した魔法が、ここからは結界と補助魔法以外は視認できませんが、ヴァッファゴの状態を見るに、猛毒かと思われます。恐らくサタナの毒に匹敵するものかと。そして、それを結界魔法で外に漏れることを防ぎ濃度が濃い状態を保っています。また、その猛毒に対する耐性と身体強化を始めとするバフにより、脆くなったヴァッファゴに効果的な戦士の連撃で確実に身体能力を削っています。」

「あー、確かにな。儂もヴァッファゴの身体症状を見て、それは思っていたが、サタナの毒レベルか・・いや、そうだな。実験中もサタナの毒くらいまでいかないと、ヴァッファゴを弱体化するのは無理だった・・だが、そんな強力な魔法を使える冒険者がミスリーク級?・・今回のはミスリーク級に殺されたっていうよりは例外だな・・そのレベルの魔法を使えるなら冒険者協会だったらどのくらいの等級になるんだ?」

「オリハルコン、もしくはアダマンタイト級かと。レレルの星などがその手の魔法を使っていたという情報があります」

「ほぉー!!そりゃ、すごいじゃないか!まぁ、それに比べれば、ヴァッファゴ1体に集中して何とかって感じではあるが・・が、これはとんだ拾い物かもしれん。あのままヴァッファゴを普通に退治してしまっては情報として勿体ない・・おい、コナッサスの因子あっただろ。あれをここからヴァッファゴに打ち込め」

「「はっ」」

二人は申し合わせたように無駄な動きは一切せず、簡易的な三脚の様に見えたが、美女が触れ膨大な精霊力が注ぎ込まれると三脚は予め刻み込まれた回路に精霊力が行き渡り、まるで大地に根付いたようになる。

更に三脚に固定されていた、高級そうな筒にも同じように強化が施される。

その前に陣取っていた男は自身の口の前に魔力を凝縮していく。

「コナッサスの因子、ヴァッファゴに標準設定完了しました」

美女が告げたタイミングで、凝縮された魔力球が可視化され、ジジジジっと不快な音が鳴り始めると男は魔力一気に解き放つ。

瞬間極細の線が大気を貫いた。


パミラは異常に直ぐに気が付いた

『なに?ヴァッファゴの攻撃にも耐えられる強度にしてるのに、外から結界に穴を開けられた!?すぐに修復しないと毒が漏れる!』

パウム・ポズィーラの毒は少量でもマズい。パミラは当然すぐに穴を修復したが、一瞬漏れただけで、周辺の植物は枯れ果て、ヴァッファゴと戦闘前に戦っていた魔物達の死体は溶けた。

「誰か他にいるわ!」

パミラの言葉に自分が言われたことをすぐに察した女冒険者は必死に探したが、全くそれらしいものを見つけられない。

『ヴァッファゴだけでも手一杯なのに・・!とにかく、まずはヴァッファゴを先に処理しなきゃ・・!』

が、異変が起きる。


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ビチルの想定外の通信魔法が来た。

何を馬鹿なと思うものの、予め戦略を話し合っていた上でその結論をだしたと理解できた為、即解除を決断する

瞬間、結界が割れた

女冒険者は解除されたことで、ヴァッファゴを退治できたと顔を輝かせたが、パミラの顔は凍り付いていた。

毒が周辺に漏れる。

「チィッ、パミラ失敗か!?」

「違うわ!私が解除する前に、割られた!ビチル!逃げて!!」

勿論、パミラに言われる前から既に後ろに下がろうとビチルは動いていた。

動きながら、パミラの状況確認をしていたので、これまで通りのヴァッファゴなら、例え毒を盛る前の万全の状態のヴァッファゴでもちゃんと対応できたはずだった。

が瀕死の筈だったヴァッファゴは、万全の状態以上の動きでビチルを跳ね除けた。

「グァッ!?」

一撃。

たった一撃で、ビチルをそれまで守っていた補助魔法と自身での強化全てを破り、ビチルはゴム鞠が跳ねるように飛び、大樹に打ち付けられた。

「・・何よ・・アレ・・」

ヴァッファゴの身体があちこちで絶え間なく脈打ち、うねっている。傍目から見ていてもわかる異常。

さっきの結界を外から割った何かが要因としか思えない。

恐らく、あれは放っておいても、すぐに力尽きる。

だが、力尽きる前に自分達を殺しつくすには十分過ぎる。

まるで、何かを知ってしまった自分達を消すかの様に・・何を知ったのかもわからないのに、理不尽だ


ビチルは顔を動かすので精一杯だった

『逃げろ・・逃げてくれ・・パミラ・・!』

誰もが諦めた時だった、本当にここでは場違いな声が聞こえた。

まるで風の音を聴いた位、自然に。

「あら?聞いてたのとは随分違うなー」

宙に女性が浮いていた。

いつから・・?

ヴァッファゴがビチルに動き出し、その前兆を知ったビチルは絶望する

自分の身体は、まるで自分の物ではないように言う事を聞かない。

が、動き出そうとするヴァッファゴに、いつの間にかそこにいた宙にいた女性が、人差し指をツンと突いただけで、動かなくなってしまった

「・・今回集まってる冒険者さんは強いって聞いてたけど・・瀕死?・・うーん・・どうしようかな・・それともこれが特別強いのかしら?取り敢えず、覗きをしてる方々はさよならして・・」

女性はどこかへデコピンをするような仕草をした。

いや、ヴァッファゴ前にして・・しかも何か強化を間違いなくされている個体で余所見なんか絶対マズい!

「アンタ!そいつは放っといても、絶命するはずだけど、それまでは確実に動き続けるわよ!!早くトドメを・・!」

パミラが叫ぶ。

「え?これ放っておいても死んでくれるんですか?・・なーんだ、じゃあこのままでいいですね!おめでとうございます!あなた達がこのヴァッファゴは退治したんです。胸を張って大丈夫です!それでは、ご機嫌よう」

女性はその場からまるで元々居なかったかのように、消えた。

『転移魔法!?・・私達以上の冒険者は粗方把握してるはずだけど・・一体・・』

ヴァッファゴはその場で必死に動こうともがいていたが、まるで動けなかった。

寧ろ動こうとすればするほど、ダメージを負っていたようで、間もなく息絶えた。

「何なの・・あのヴァッファゴのことも、さっきの女も・・!」

理解が追い付かない苛立ちを募らせ考え込み始めた所で、女冒険者の声に中断させられた。

「パミラさん!ビチルさんの息が・・!」

「はあ?・・ったく、世話が焼けるわね・・喝!」

パミラは気怠そうに、樹にもたれて息をしていないビチルの胸に手を当てると、気功法で喝を入れた。

すると、効果は覿面ですぐにビチルは咳き込み息を吹き返した。

「ッガ、ハァッ、ゲホッゲホッ、もう少し優しく起こしてくれよ・・グエンが死に際に言ってたのを思い出したぜ・・」

「え?今のって気功法、ですか・・?パミラさんは魔法使いなのに?」

「気功法も魔法に似てるのよ。扱うエネルギーが違うのと、生物の構造を知ってると扱いがしやすいわ。攻撃魔法しか使わない脳筋の魔法使いは苦手でしょうけど、補助魔法を普段からしてるタイプの魔法使いなら、そんなに修得には時間は掛からないわ。手札を増やすことが大事よ。魔法使いだから魔法しかできないんだったら、今回みたいな時には足手まといよ。こんなこと大したことないわ。こんな大したことない物を覚えてなかったせいで、後悔することもあるのよ・・」

パミラは心からの後悔を隠さずにいた。

グエンが逝ってから、何気なく、ビチルに気功法について聞いた時に気付いたのだ。

あの時グエンの心臓に雷撃を当てることで、一時的な蘇生が叶ったが、本当は気功法の喝を入れていれば、グエンを生かすことができたはずだった。喝を入れるというのはエネルギーを注ぐ方法だった。それは身体強化によく似た手段で習得は容易だった。あの時、気功法を修得していれば気を注ぐことができたが、パミラは魔力しか扱えなかった。それからというもの、パミラの知識的な探求心は魔法以外にも向けられるようになって今があった。

『大したことないって・・こんな実際の現場で実用できるレベルを、畑違いの魔法使いができるって・・』

女冒険者はパミラに驚きを隠せずにいた

「・・いつまで、寝てんのよ。喝いれたんだから、動けるでしょ。」

「いや、息吹き返しただけで、身体なんて全く動かねぇよっ。なんかいつも以上にキツくねぇか?・・あ、さっきのグエンの話マズかったか?」

ビチルは女冒険者にグエンの死に際の言葉を聞かれたのをマズったかと見当違いをしている。

「あんたは・・はぁ、ほら、ポーションよ。ちゃんと全部飲むのよ」

あの頃のやり取りを知る者が自分以外いないので、ビチルに「女性に乱暴者扱いしたら怒るよ」と指摘してくれる者が誰もいないので、パミラは諦め、顔を動かすことすらできないビチルに咳き込ませないように気を付けながらポーションを飲ませきる。

「あ、ヒールなら私もできます!」

「いいのよ、魔力はまだ戻るまで何が起きるかわからないから温存しなさい。こういう時にポーションは役に立つのよ。ほら、こっちはいいから、あんたの仲間の戦士見てやんなさい。心はダメかもしれないけど、まだ死んではないと思うわ」

女冒険者は仲間の戦士はとっくに死んだと思い込んでいた。

何しろ、あの結界の中にいたのだから、毒で何もかも溶けてしまったと思っていた

『・・うそ・・』

戦士はヴァッファゴに犯された状態ではあったものの、毒に侵された様子はなく、息もまだあった。

「何呆けてんのよ、そのまま放っといたら、折角助けたのに死んじゃうじゃない!」

「あ、ご、ごめんなさい!ヒー」

ゴチン!

「ったぁ!」

「今言ったばっかりじゃない!ポーション使いなさいって!」

パミラに杖で手加減なく打たれて、女冒険者は頭を押さえながら、急いでポーションを取り出し飲ませる。

「パミラ、さっきのヴァッファゴを止めた女性、お前誰か知ってるか?」

「・・私もアンタに聞こうと思ってた所よ・・お互い知らないって事ね。」

「あのヴァッファゴを指だけで、止められるなんて、アダマンタイト・・ヒヒイロカネとかか?」

「グエンがオリハルコンだったから、少しはわかるけど、オリハルコンだってピンキリだし、それ以上の等級になると、正直私達のレベルじゃ測れないから、この考察は無駄な時間よ。」

「・・ギルドには何て報告する?」

「ジドー会長に直接話に行きましょ・・流石に、このヴァッファゴ以上の化け物は出てこないと思うから、残りは他の冒険者と軍に任せればいいわ。アンタ達!」

パミラは女冒険者と連れの戦士に視線をやる。

戦士はまだ目が覚めてないが、ヴァッファゴに強姦されたことで、心が折れている可能性は高かった。

「・・身体のダメージはポーションである程度良くなったね。今は起こさなくていい。起きてもさっきのトラウマでパニックになる可能性が高いからね。ギルドまではビチルに担がせるから、心配しなくていいわ。で、私達はあんたらをギルドまで送ったら、そのままギルド本部に向かって、詳細をジドー会長に直接報告してくる。あんたらは簡単な報告でいいから、コロ町のギルドに報告して、どうするか判断を仰ぐようにしなさい」

女冒険者はコクコクと首振り人形のように、振っている。

「パミラさん・・すごいなぁ・・」

「あんた・・声出てるわよ」

パミラが振り返らずに指摘する。

女冒険者は驚いて口を押えていたが、意を決した様子に変わった

「パミラさん!私も・・私もパミラさんみたいになれますか!?私達ここには今回いい儲け話って気持ちで来てたんです。でも・・その、今回パミラさんの戦闘見て感銘受けました!」

ビチルが「いや、俺も結構頑張って戦ってたんだけど・・」と小声で訴えていたが、女冒険者には気付いてもらえない

「知らないわよ、そんなの。成れるかなんて言ってる奴は成れないわ。成ると決めた奴だけが、その可能性を掴めるのよ。自分の事なんだから、他人に答えを求めんじゃないわよ」

「・・ハイッ!!わかりました!師匠!!」

「はあ??何で私が師匠なのよ。私は弟子なんていらないわ。私がほしいのは一緒に並んでくれる奴だけよ」

「か、必ず追い付きます!その時は一緒に走っていいですか!?」

「それはそうなってから、聞きなさい。」

「ハイッ!!頑張りますっ!!!」


ギルドまでの道のりは、予想通り、もう大した魔物はいなかった。

「よし、じゃあ、俺とパミラはさっき話した通り、このままギルド本部に向かうから、ここの報告は任せた・・あ、君の名前聞いといていいかい?」

「・・え?何ですか?口説いてるんですか・・?」

女冒険者がドン引きした顔をしている。

「違うって!本部で話す時に、一緒にいた面子の名前知ってないと報告できないだろ!?それに、俺達のことは君達知ってる様子だけど、俺達は知らないからさ。君の憧れのパミラにだって名前くらい覚えてもらっておきたくないか?」

「レレルですっ!レレル・トットーですっ!」

パミラの名前を出した途端、前のめりに名乗って来た。

「わ、わかった。わかったよ。そっちの戦士くんは?」

「こいつは・・多分もう冒険者できないと思います。多分パーティーは一旦解散かなぁって思います。でもちゃんと私は師匠に追いつきますから!」


その後、報告の為に必要だから戦士くんの名前と今のパーティー名を教えてくれと何度か押し問答を繰り返してやっと話してくれた。

「遅いわよ!急ぐって言ってるのに、何口説いてんのよ!」

「いや、そうじゃなくて、報告するのに同じ場所にいた人間についても報告が必要だろ。あんなに懐いてんのに、お前あの子の名前知らねーだろ。」

「レレル・トットーでしょ。」

「ほら、やっぱり知らねー・・え?お前知ってたの?」

「あんたの方こそ、周りに無頓着すぎんのよ。あいつらは力を正義と思ってるタイプだよ。キガン集落の前の魔王オウズが居た頃に、頻繁にあの辺で軍の依頼を受けて強奪をしてたパーティーよ。敵国だから、資源の奪取とか聞こえの良い依頼だったけど、あいつらのやり方は度が過ぎてたって聞くわ・・まぁ戦争相手に綺麗事なんて言えたもんじゃないのは仕方ないけど・・それでも、周囲からの情報によれば、あいつらは嬉々としてやってたって話よ。・・私達とは毛色が全く違うわ」

「・・そんなひでぇ奴らなら、助けなくたって良かったんじゃ・・!」

「それはそれ。仕事なのよ。あいつらを助けるのは仕事じゃなかったけど、生き証人が今回の件で私達以外にいるというのはちゃんと意味があることよ」

「・・・面倒くせぇのに、気に入られちまったもんだな・・」









         ⅰ―3


俺はトンビルさんの情報を元に、魔物と冒険者達の位置取りを確認し、2人に手頃な魔物を探していた。

確認を終え、戻る道すがらインパルを一頭狩って戻ると、レナリヤとピヨしか何故かいない

「レーゼはどこ行ったの?」

「なんか「私も様子見てくるわー」って行っちゃったのよ。引き止めようと思ったんだけど、レーゼってあんなに足早かったっけ?なんか、昔のルージュくらい早かったわよ」

レナリヤは時々カーンと仕事の手伝いで出かける以外は、基本ずっとルートゥ村で生活していたので、冒険者や衛兵などがどのくらい強いとかがわからないので、凄かったという尺度が村の外の人間には表現できない。

ただ、自分を例に表現してくれたので、ルージュには的確に伝わった。

『俺をコピーしたからなのかな・・十中八九、それしかないか。あの頃の俺の身体能力でも確認してきた限りでの魔物なら、問題ないか・・とは言っても、心配だし一応追うか。』

「そっか、それでどの辺に向かって行ったの?」

「あっちよ」

「!?」

レナリヤは村で喧嘩の経験があるくらいで、戦闘など経験もないので、何もわかってない様子だったが、レナリヤが指さした方向は、コロ町に向かっていた時に既に戦場となっていた少し先だ。

時間が経ったことで、順調に進んでいれば今の主戦場が正にその辺と思われた。

『レーゼなら、わかってる気がするけど・・わかってて主戦場に向かったのか?俺をコピーしたことが理由か?レーゼの性格的に慢心とは無縁な気がするけど・・考えてても仕方ないな』

「レナリヤ、ちょっとレーゼを見てくるから、悪いんだけどもう少し待ってて。魔物が入ってこないように結界張ってくからさ。ピヨ、お前もちゃんと待ってるんだぞ」

「わかった!」

「う、わぁ・・さっきのレーゼも早かったけど、今のルージュってあんなに速いの?馬より早いじゃん・・」



自分でも少し不思議なのだが、何故かレーゼについては正直あまり心配していなかった。

どういうわけか、レーゼの身の危険が全く想像できない。

それよりも、レーゼの状態を正確に知りたいというのが、本音だった。

レーゼの気配は・・あった!森の中・・魔物と対峙してるな。あれは小鬼か、丁度いい相手だな。

「キャッ!・・・タタタ・・。」

小鬼と対峙してる所で、レーゼは自分のスカートの裾を踏んで盛大にこけた。

『・・というか、わざわざこんなとこに自分から来てるのに、ロングスカートのままって・・って、マズッ!』

「ゲギャッ」

小鬼の首にナイフを突き立て、即死させる。

様子を見てレーゼの実力を見ようと思ってたが、流石に見てられない。

「あ、ルージュ。」

「「あ、ルージュ」じゃないよ!流石に危険だよ!しかもそんなスカートのままなんて、戦闘できないよ!」

「あー、今転んじゃったの見られちゃった?恥ずかしいなぁ」

「そうじゃなくて!」

「フフ、ルージュ大丈夫。安心して。」

レーゼは言い終えた瞬間、周囲でこちらをジリジリと囲んでいた小鬼が4匹、一瞬で燃え上がり、絶叫を挙げる暇もなく灰となった

『!・・今のはフレアか!?しかも無詠唱!?』

突然の出来事に残っていた小鬼が驚き散り散りに逃げ出した・・が、それと同時にレーゼは消えると10秒も経たずにのんびりした足取りで返り血も浴びずに(スカートはさっき転んだ時の泥で汚れているが)、戻って来た。

魔力探知で確認していたので、小鬼の首を持っていなくてもわかっていた。

全てレーゼが殲滅した。

レーゼは戻って俺と目が合うとニッコリ笑うと、具現化した短刀を確認もせずに、後ろに投擲した(投擲するような姿勢ではなく、後ろに物を投げただけのような姿勢だ)。

直後、樹の上に残っていた最後の一匹が落ちてきた。

「ねえ、ルージュ。この辺の今集まってる冒険者の人達って強い人達なの?」

「あ、ああ。トンビルさんの話だとミスリーク級も来てるって言ってたから、この辺には普段いなかったレベルだね。それより、レーゼ・・」

「この程度の事ならなんかできるって感じたの。ただ、ちょっとまだ自分でも把握しかねてるの。どう?今のは何点くらい?」

「・・さっきの小鬼達は最初のは普通ので、その後逃げ出したのと最後にレーゼが落とした奴は、異常種・強化個体の奴らだよ。あれは衛兵達でも苦労する魔物だ。あと最後の落とした奴が一番強さという点では、突出してた・・けど、君はそれを見ないで短刀を急所に当てて絶命させた・・そもそも、あの短刀・・具現化したものだよね?そんなことできる冒険者は、相当上位の者でもおいそれと出来る芸当じゃない」

「じゃあ、取り敢えずは及第点って感じで大丈夫かしら?私、もう少し自分で見て来たいの。ちゃんと自分の事把握できたら、またルージュにも話すよ」

色々気になるが、レーゼの心配が不要なのは間違いなかった。

ここでレーゼと話すより、置いてきたレナリヤの方が心配だ。

ちゃんと魔物も他の人間もいないのは確認してたので、何もないとは思うが・・。

「わかった。じゃあ、俺はレナリヤの所に戻るよ。場所は・・」

「通信魔法で話しましょ?この辺の広さくらいなら私達なら話せるじゃない」

それ、普通じゃないんだけどなぁ・・まぁレーゼの場合は、俺をコピーする前から通信魔法についてだけは尋常じゃなかったんだけど・・。

「わかった。さっきの見たら心配なんて微塵も必要なさそうだけど、何かあったらちゃんとすぐ連絡してね」

「ええ、勿論。じゃあ、また後でね」



「あーあ、何か今日は待ってばかりねー」

「レナちゃん、つまんない!」

「私もつまんないのよぉ!」

そう言いつつ、ピヨがいるおかげで、話し相手がいる。

こいつ居なかったらって思う事、結構多いわよね・・

「おやぁ?こんな場違いな所に麗しい女性がいるじゃないですか!」

ピヨの評価を改め始めていたレナリヤに、馴れ馴れしい雰囲気の男が3人。

こいつら、冒険者・・?

「えぇ、勿論。僕はこのレイピアで、彼は弓、そして彼はナイフと格闘を得意としてるんだ」

「それより、お嬢さん、暇にしてるんでしょ。僕たちと楽しいことしようよ」

ニヤニヤしていて気持ち悪い。

気が付くと3人いたはずの一人がいなくなっていた。

「ちょ、何すんのよ!」

背後に立ったナイフ使いの男が拘束しようとしたが、いち早く勘付いたレナリヤは身体強化をして振りほどくと即座に蹴り上げようとした。

「ヒューッ!これは威勢のいい姉ちゃんだな!」

「おい、武器は使うなよ。ケガさせたら楽しめねぇからな!」

「ピョッ」

「なんだぁ?こいつ。」

「いじめは良くないんだって!」

「じゃあ、どうにかしてくれんのかなっと!」

「ピョエー!」

男はピヨをぶん殴ると、ピヨがバウンドして転がっていく。

「・・あいつ、喋ったな・・おい、そいつは高く売れるかもしれねぇから、そいつも殺すな」

「だなぁ」

男共は好き勝手な事を言って、ゲラゲラ笑っている

ピヨが目の前で吹っ飛んでいくのを見た途端、レナリヤは気が付いたら怒鳴っていた

「何してんだ!そいつは私の、私達の大事な仲間だ!!」

自分でもピヨのことでこんなに頭に血が上るなんて、少し意外だったが、我慢できなかった

「およ?こりゃあ、怒った顔もそそるねぇ!!やっぱ美人ってのは得だなっ」

「ゴフッ!ゲホッゲホッ」

弓使いの男はレナリヤの顔に傷つけないように腹部を弓で突き上げると、レナリヤはそのまま吹っ飛び転がって行った

「よし、これでもう動けねぇだろ。一番は俺が貰うぜー」

「レゼちゃん、いじめは良くないって言ってた!」

「?おい、ゲスオネ。こいつまだ縛ってなかったのかよ?」

「うるさい、お前こそ美味しい所を取ろうとすんな。久しぶりのいい女なんだ。」

「いつも早い者勝ちじゃん」

「今回は金になりそうなこの鳥を捕えてからだろ。な、ゲニス」

「ああ、サゲスン、ちゃんと仕事してからだ。どうせ今のであの女は動けないんだ。」

「・・チッ、わーったよ。だがなぁ・・生け捕りってのがめんどいんだよなぁ。殺すだけなら俺の矢ですぐなのによ。」

「サゲスン、威嚇射撃であいつの動線をうまく誘導しろ。俺が直接捕まえてくる」

ゲスオネの指示に合わせて、サゲスンが威嚇射撃を行ったが・・ピヨは全く避けずに「ダメなんだって!」と変わらない調子でいる

「なんだ、あいつ!?当てられないってわかってんのか!?」

サゲスンは驚いていたが、ゲスオネは動いていた。

そしてあっさりピヨは捕まってしまった。

「ピョエー!」

じたばたしてるが、相変わらず非力で全く動けない。

「こいつ、速くも無いし、普通に捕まえるだけで楽勝だな・・」

「まぁ・・ちょっと予想外だったが、鳥も捕まえたし、メインディッシュだ!へへへ、俺がまずは1番に・・」

「鳥捕まえたのは俺なんだから、最初は俺によこせ。どうせ全員で飽きるまで楽しむんだ。お前は後ろか口にしろ。」

「サゲスンはさっきの威嚇射撃失敗しちゃったし、口でいいよな」

「ゲニス、お前一番何もしてねーだろ!それにあの女のさっきの気性見た感じじゃあ、心折るまでは噛んできそうだし、暫く使えねーだろ!」

一応3人共、容貌は整った恵まれた顔立ちだったが、内面が全てをダメにしている。

ピヨを適当な所に投げ、レナリヤの元に行こうと3人が振り返ると、いつからいたのか、自分達より若干若そうな男がそこにいた



レーゼと別れて感知魔法を広げて少し急ぎめで戻っていると、レナリヤの所に知らない気配が3つあった。

あの周辺は魔物含めて誰もいないのを確認したし、念のために魔物が入れないように結界も張ってあった。

レナリヤの近くにいるという事は、そうなると人間という事になる。

更に言えば、行くときにいなかったという事は、俺が出発したのと同じタイミングで、レナリヤの方向に向かってきたということだ。

狙って来てるなら、悪意しかないだろうし、偶然なのだとしたら、ツイてないとしか言えない。

全力で駆け付ける間、感知魔法内でピヨとレナリヤが吹っ飛んだ。

そして現地に着いた時、レナリヤは意識はあったが泣いていた。汚されたというよりは悔しさに歯を食いしばって、泣いていた。

男達の元に向かうと、ピヨを丁度投げてこちらを振り向いたところだった。

「なんだぁ、お前?いつから、そこにいたんだ?」

サゲスンが「ったく、どけよ!」とオラついてくる。

「悪いが用があるんだ。そこをどいてくれるかな」

ゲニスが俺をどけようと手を伸ばす。

瞬間、ゲニスの手がズルリと落ちた。

「??・・・は、はぁあああ??おおおれの、俺の腕がぁー!!??」

一瞬何が起きたかわからなかったものの、視界に自分の腕が落ちてるのを見て、理解した途端、灼熱の痛みに絶叫が響き渡る。

サゲスンは弓を構え、ゲスオネはすぐにナイフに手を構えたが、動けなかった

「・・ここで何してたんだ・・?僕の勘違いなら、その腕も戻してやるし、金だって詫び料としてくれてやる」

ゲニスは叫び続けている

「・・うるさいな。」

変わらずゲニスは絶叫しているが、何故か音がどんどん小さくなっていき、小声程度の音量まで下がった。

サゲスンとゲスオネは目を疑った。声を出せなくさせる方法は痺れ薬を使ったり、のどを潰したり簡単だ。魔法でも音を無くすことはそんなに珍しい事ではない・・が、音量が下がるというのは聞いたことも体験したこともなかった。ゲニスは今も変わらず、絶叫し転げまわっているのだ

「さぁ、これで聞き間違えることも無い。転げ回って遊んでるお前でもいいし、お前ら2人のどちらかでもいい。誰でもいいから質問に答えろ。ここで何をしていた?」


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「・・答える気が無いのか、声が出ないのか・・まぁ、それなら、それでいい。ピヨ、何があった?」

「レナちゃんとボク、ぶっ飛ばされた!」

ピヨは普段通りに答える。

「お、おい・・。ま、まさかそんなペットの言う事信じたりしないよな・・?」

サゲスンが恐怖のあまり、つい口を開く

『ば、馬鹿野郎!声が出せないフリしろって・・!』

ゲスオネが心の中でサゲスンに悪態を吐いていたが、時すでに遅し。

「うん?なんだ、話せるじゃないか。お前らが答えてくれなければ、ピヨの言う事を信じるしかないよな?それとも、あっちで泣いてる俺の嫁に何があったか聞いてくるか。別に逃げてもいいぞ。俺の想像通りなら必ず生き地獄を味わせてやる。」

「ま、待て・・!その・・彼女が暇を持て余してつまんないって、そこの鳥と話してたんだ!なあ!?サゲスン!?」

「あ、あぁ・・」

「それで?俺の嫁とピヨがぶっ飛ばされたってのは?嫁が泣いてる理由は?わかってるだろうが、当然嫁にも話は聞くからな?嘘をついて逃れられるなんて考えるなよ?あと、嫁が言う事を当然俺は信じる。お前達の回答と違ってれば、問答無用で嫁を信じる。」

「す、すまなかった!出来心で・・アンタの嫁とは知らず・・」

「え、サゲスン・・?あ、あぁ、すまなかった!この通りだ!あんなに美人なの、つい放っておけなくて・・!」

言い逃れがどう足掻いてもできないことを悟り、ゲスオネは即座に非を認め、全力で許しを乞うた。

サゲスンも一瞬、理解が追い付いてなかったが、仲間が認めてしまったので、急いで自分も頭を下げる。

「下衆が・・まぁわかってたけどな。これだけの状況、どんな馬鹿でもわかる。」

下手な事を言えば悪いようにしかならない事くらい、流石にわかっているようで、ルージュの審判が下るのを待っている。

ゲニスは相変わらず、涙と鼻水で整った顔はグシャグシャで苦悶に顔を歪ませ、震えている。

すると、いつの間にそこにいたのか、突然女性が現れた。

現れたのか、元々そこにいたのか、あまりに自然に女性がいた。

「ただいまー!・・って、あら?どうしたの?ルージュ、怖い顔して・・」

レーゼは周囲を見渡すとすぐに察した。

「・・ごめんなさい。私が勝手に行動したせいね・・レナリヤは?」

レーゼが転移魔法で戻ってきたことも、驚くことではあるが、流石に今はそれどころではなかった。

「ピヨが言うには二人共ぶっ飛ばされたそうだ。で、レナリヤはあっちで泣いてる」

「あなた達、レナリヤに手を出したのかしら?」

ゲスオネはこの新しく現れた女性も、この男と同等に自分達が到底届かない存在だと察した。

「い、いや!出してない!いやサゲスンが突き飛ばしたが、それ以上の事はまだ何もしてない!本当だ!!」

「お、おい!お前だけ!・・あ、いや、そ、その偶々突き飛ばす流れになった時の位置に俺が居たってだけで、そこにこいつやゲニスが居れば、こいつらだって同じ事してましたよ!!」

『・・醜いわね・・』

「レーゼ、こいつらを動けないようにして、少し一緒にレナリヤの方に来てくれないか?」

「?ええ、わかったわ」

レナリヤの所に着くと、レナリヤも少し落ち着きを取り戻してはいた。

俺達に気が付くと、レナリヤは涙を拭いながら、こちらに向き直る。

「ごめん・・私・・ルートゥ村でのケンカくらいなら、同年代の男子には負け知らずだったんだ・・父さんやクッスルさんには、稽古してもらうくらいで全然及ばないのはわかってたけど・・その・・あいつらにも、どうにかなるって・・過信してた・・私・・弱かったんだね・・突き飛ばされた時、身体強化で咄嗟にお腹守ったおかげで気絶はしなかったけど・・こわかった・・」

気持ちを言葉に表すことで、改めて恐怖心が蘇ったのか、レナリヤの目からはまた涙が溢れてきた。

「・・ごめん。村を出る時守るって、言ったばっかりだったのに・・!」

レナリヤを強く抱きしめる。

緊張が解けて安心したのか、(たが)が外れたのか、レナリヤは俺の胸に顔を押し付けると、声をあげて泣いた。


30分近く経って、やっと落ち着いてきたレナリヤが顔を上げレーゼを見た。

「レーゼ、私も強くなれる?」

「え?私?」

「一人で行っちゃうって事は、レーゼは腕に自信あるんでしょ。ルージュが戻ってきてくれた時に、レーゼいなかったもん。ルージュが一人で戻って来るって事は、認められたって事でしょ。同性のレーゼがルージュに認められるくらいなれるなら、私だって・・!」

「・・ええ。私もレナリヤに協力するわ。」

「レナリヤ、あいつらどうしてほしい?」

「ルージュ、そのことなんだけど、今のレナリヤの言葉を聞いてちょっと私に考えがあるの。あいつらの処遇については、私に任せてくれない?レナリヤも、八つ裂きにしても許せないでしょうけど、あなたが必ず満足するようにするから」

ルージュもレナリヤもポカンとして、全くわからない様子だったが、レナリヤは「ルージュと同じくらい、レーゼの事も信頼してるから。任せるよ!」と笑った。

ルージュも「レナリヤが良いなら、僕が口を出すことはしないよ」と納得した様子ではなかったが、了解してくれた。

「じゃあ、私はあの3人の方に行ってきます。ピヨちゃんは、ルージュ達とここで待っててね」

ここまで、そんなこと出来るのかは不明だが、空気に徹していたピヨに声を掛けると、レーゼが戻っていく


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通信魔法越しにも、ルージュの憤りが伝わって来た。

自分を助けてくれた時は意識がボヤついていたので、ハッキリとは覚えてないが、あの時のルージュの気迫と同等のものを強く感じた。

レナリヤ。あなたもやっぱりルージュに愛されているのね。

元々レナリヤについては認めていたが、ルージュの想いの強さを再確認し、自分と同等の立ち位置の嫁であるとレーゼは認識を更新する。

その意味ではレーゼの中では、サラはまだ殆ど名ばかりの嫁だ。

サラの気持ちがルージュに向いているのは、最低限の条件であって、ルージュにどれだけ想われているかが重要だ。


戻ると、2人は罵り合っていたが、腕が落ちた男は失血死していた。

サゲスンは戻って来たのが、女性の方だったのを確認すると、何の根拠もなく、あの男よりはどうにかなると思うと内心安堵した。

ゲスオネはどちらでも変わらないと感じているので、腹を括っていた。

「呆れた。仲間が死んでる横でよくそんなに醜く争えるわね。ただし、死ぬなんて私が許さないわ。」

あくまで心情表現として許さないと言ってるだけだと思っていた2人は、目の前の奇跡に目は離せず、声も出てこなかった。

レーゼは詠唱も手を掲げるような動作も一切せず、ゲニスをジロリと一瞥しただけだった。

それにも関わらず、落ちた腕は繋がり、ゲニスは目を覚ました。

「お、俺は一体・・」

顔を上げると見知らぬ女性がいる。

ゲニスは腕を落とされた激痛と失血でのショックで、腕が落ちてからの記憶がは殆どなかったのだ。

「女神・・さんか?じゃあ俺は死んだのか・・クソ!あの野郎!!」

ゲニスは地面を何度か殴った後でㇷと疑問に思った。

『あれ?死後の世界って、今までと同じ地面なのか?なんか雲の上とか思ってたが・・』

周囲を見渡すと、信じられない者を見たような顔で、サゲスンとゲスオネとこちらを見ている。

「安心して。あなた達がこれから死んでも何度でもちゃんと戻してあげる。」

それは殺しては生き返すをずっと繰り返すということ。

「ば、化け物ぉ!」

サゲスンは涙目で、縛られた状態でも必死に後ろに退こうと悶える。

「女性に化け物なんて、本当に信じられないこといいますね。私容姿は普通な方だと思ってます。」

「俺達をこんなにしたら、家族がだ、黙ってないし!ギルドだって・・!」

「そんな小者じゃどうにもならないわ。あの方はブリューンズなのよ。この間はジドー会長も人類保持同盟のハーナルさんも頭を下げてたわ・・あなた達末端じゃあ、ハーナルさんは天井人過ぎてわからないかしら。」

ゲスオネはいよいよ終わったと、完全に諦めた。

出てきた名前がデカすぎる。サゲスンやゲニスはハーナルを知っているかは不明だが、ギルドの上位組織の長だ。

これだけ実力がある者が、自分達のような雑魚に一々嘘を吐く理由が思い浮かばない。

「・・あなたは現状がわかったみたいね。まぁわかったところで手心は加えて上げないけど。」








         ⅰ―4


ルージュとレナリヤが戻って来たので、取り敢えず、トンビルさんの元に戻ることにした。

あいつらはいなくなっていた。

今晩はトンビルさんと食事なので、明日以降にでもレーゼとは話そう。

いつものギルドの搬入口が視界に入ると、トンビルさんが待っててくれていた。

「先に帰って待ってようと思ったんじゃがな、儂の家教えとらんかったし、ギルドの連中には会いたくないって言ってたからの。待っててやったぞい!」

「ありがとう、トンビルさん!ちゃんとインパルも最高の状態にしてきたから、期待してくれていいよ!」

トンビルさんの家は、殆ど郊外だった。

今の大規模な魔物退治中は魔物が来てしまいそうに思うくらい、町の中心からは離れていた。

「ほれ、入ってくれ。ブリューンズみたいな高貴な方にはみすぼらしい家かもしれんが。」

「トンビルさん、ホント勘弁してよ。確かにブリューンズだけどさ、俺が生まれ育ったのはルートゥ村だからこの家とそんなに変わらないよ。あとブリューンズの家も大樹の中が居住空間って感じだから、人間でいう豪華な建物とは多分大分違うよ?」

「そうなんか?」

話ながら、トンビルさんは料理の準備や食器の準備をしてくれている。

俺もインパルを空間から取り出して解体を始める。

レーゼとレナリヤは、トンビルさんの指示を貰いながら食器を並べたりと各々がそれぞれの役割をしている。

トンビルさんも昔は冒険者をしてたからだろうが、この辺の役割をテキパキと指示するのは自然にやってる感じだった。

レーゼもレナリヤも俺が信頼する人という前情報があるからなのか、率先して手伝ってくれた。

1時間も経たないうちに、食卓は豪勢な食事がズラリと並んだ。

「こりゃ、うまそうだ!いつも搬入口でお前さんが、納品しとるのを見て、旨そうに思っていたんじゃ!」

「え?トンビルさんにあげたことなかったっけ?」

「お前なぁ、あそこで受け取るのは仕事じゃ。そりゃ金払えば儂が買うこともできるが、鮮度が良すぎて儂にはちと高すぎて手が出せんかったんじゃよ」

そう言いながら、好みの焼き加減でとても美味しそうに食べてくれた。

こんなに美味しそうに食べてくれるなら、もっとプレゼントしたいなと思ってしまう・・レミィが言ってた冷蔵庫が完成すればなぁ・・ちなみに、インパルを焼く鉄板はレナリヤが用意した。

本人曰く「少しは私にも見せ場頂戴よ!」とのことで、持参した特性の鉄板に自身の火魔法で調節役を買って出てくれた。

「それで、この辺はどうして急にこんな大規模な魔物討伐を始めたの?」

ずっと気になっていたことを、単刀直入に聞くとトンビルさんは少し言い辛そうな表情をして少し躊躇いながらも渋々話してくれた。

「あー・・、お前さんは嫌がるじゃろうが・・その、お前さんがブリューンズだからじゃよ。御上の事情は知らんが、お前さんと話して色々聞いていた儂は何となく察しておる。まず国の方は、「討伐組」の件でお前さんを使い潰そうとしたじゃろ。で、ギルドはギルドで同じことをしたじゃろ。」

「つまり、ルージュ、というよりはブリューンズの評価を挽回したいってことかしら?」

「ああ、レーゼさんの言う通りじゃ。ルートゥ村がルージュの生まれ故郷ってことで、そこまでの道のりを徹底的に綺麗に整備するという御触れが出たんじゃ。その第一歩が周辺の魔物の徹底駆除じゃ。国としても依頼を出すだけじゃなく、自分達もしっかり貢献したっちゅう名目の為に、軍を派遣し、ギルドも大々的に依頼を出して、優秀な冒険者も導入したっちゅうのが、全容じゃな。」

トンビルはやれやれと言った表情をしていたが、思い出したように目を見開いた。

「そうじゃ、いや、今更じゃあるんだが、お前達大丈夫じゃったんか!?さっきの話じゃが、正直この辺に大した魔物なんぞおらんから、高名な冒険者なんか導入しても金が掛かるだけで、無駄じゃと思っておったんだがな!黄金級の冒険者が戦闘不能になった上に、助けに入ったミスリークの優秀な2人組のパーティもボロボロになってやっと倒せるような怪物が出たっちゅう、話が聞こえたんじゃよ!」

「「あー・・」」と俺とレーゼは少し言葉に詰まった。

「魔物の件は大丈夫だったんだけど・・レナリヤがごろつきに襲われて・・」

経緯を伝えると、トンビルの顔は曇った。

「そいつらは王都の「聖銀団」っちゅうパーティーじゃ。見た目が良いもんだから人気でな。貴族出身で元々装備なども恵まれていたのもあってすぐに頭角を出したんじゃが・・お前達の様な被害も多かった。だが、家の力でもみ消しているっちゅう噂じゃった・・なんというか、つくづくうちの国とうちのギルドはお前さんとは合わんのじゃなぁ・・」

『確かに金髪に透き通るような白い肌のレイピアを持っている男に、地肌なのか日焼けなのかわからないが黒寄りの褐色肌のナイフ使い、アジア圏にいそうなイケメン弓使いとどれも思い出してみれば整った顔立ちの連中だったか』

「で?聖銀団の連中はどうしたんじゃ?」

「私が処罰させて頂きます」

「へ・・?」

「あー、トンビルさん。まだ俺もどのくらいのことができるのかは分かんないんだけど、レーゼは俺と同じくらい恐らく戦闘能力が高いんだ」

「そりゃ、どういう・・?」

端折って説明するのが難しいので、改めてトンビルと別れてからの経緯を全部伝えた。

長い話だったが、トンビルさんは親身に聞いてくれた。

「そうかぁ・・ブリューンズも大変なんじゃなぁ・・それと、儂が言うようなことじゃないが、ルージュをよろしく頼む。こいつは一人で抱え込み過ぎるところがあるからな。支えてくれるお前さん達のような、奥さん達が居れば安心じゃ。世の男はこんなにいい女を沢山嫁にしてたら、羨むじゃろうが、儂はルージュには、いい嫁さんは沢山いた方がいいじゃろうと思う。ゼゼホにもその一人になってもらえたら良かったんじゃがなぁ・・ルージュ、お前さんには無用な心配じゃろうとは思うが、ジャゲナーのハーレムのようにはするなよ?」

「ジャゲナーのハーレム??」

「物語に登場する大規模なハーレムよ」

聞き覚えのない単語に首を傾げると、レーゼがすぐに答えると、トンビルさんは目を丸くして「ほう!レーゼさんは博識じゃな!」と感心している

「ジャゲナーというのはとある国の王とか、野党の長とか背景がしっかりしない人物なんだけど、ジャゲナーのハーレムという言葉だけは有名なの。ハーレムというのが男性としては魅力的っていうのも、あるんでしょうけど、その内容が男性に取って都合がいい内容なの。このジャゲナーというのはハーレムの主なんだけど、ハーレムの女性のことを誰一人愛してなかった。つまり全部の女がジャゲナーの都合のいい女だったということよ。しかも、どういうわけかそんな扱いをされていたにも関わらず、女性達は誰一人ジャゲナーを悪く言ったり、思っていなかったというの・・ね?男性からすれば美女をとっかえひっかえ都合よく、遊べるこのハーレムは理想的でしょ?トンビルさんが言いたかったのは、妻は増えても、ちゃんと大事にしろってことじゃないかしら?」

トンビルさんは笑いながら「そうじゃな、その通りじゃ!儂から言う事はもうないわい!」と酔っているせいもあるだろうが、心底楽しそうだ。

「にしても、レーゼさんは本当に物語に詳しいんじゃな!物語が好きでも、親とかが、中々そういうのは知らないように色々するもんじゃが」

「普通はそうかもしれませんが、私はどんな物語も大好きです。勿論こういう傾向の話が好きとかは好みも当然あるので、あまり好きじゃないのもありますけどね。でもそれも含めて物語というのが好きです。ジャゲナーのハーレムについても、私は女ですけど、ある程度認めているところもあるんです。ルージュに妻が増えるという事は、それだけ自分が好きになった人が魅力的な人だという証拠だと思ってるので。あと、私だけだったら私が得意な事でしかルージュを支えられないけど、他にも妻がいれば、私とは別の側面からルージュを支えてくれると思っているので。」

レーゼの瞳には惚気(のろけ)のような色は微塵もなく、まるで決意表明をしているような凛とした眼差しだった

『・・この娘は・・少し危なっかしい気がするのぉ・・じゃあ、ルージュを支えることができない妻が今後もし現れたら・・ルージュが大事にするだけで、何も支えられるものを持っていない娘だったら・・どうする気なんじゃ・・?』

トンビルはボンヤリ思いながらも、気になっていたことを思い出して話題を変えた。

「ルージュ、話が色々あったから、どこで聞くか迷ったが、単刀直入に聞かせてくれ。ゼゼホの墓を建てたとこれまでの説明の中でしてたな。そしてこれからそこに向かうとも。儂も連れてけ。いや、連れてってくれなくても付いていくからな!・・全く、儂に教えておいてくれんかったのは正直面白くないわい!」

「ああ、勿論。まぁ、あの時はトンビルさん泣いて大変だったし・・」

「ピョエー、大変だったぁ」

ピヨが何も考えてなさそうな顔でオウム返しをしている。

「・・なぁ、ルージュ。嫁さんたちの話はわかったが、このデカい鳥は何なんじゃ?なんかみんな自然にしておるから、つい聞くタイミングを逃してたんじゃが・・」

「ボクね、ピヨ!」

「・・昔、儂が冒険者だった頃になーんか、こいつの特徴に似た話を聞いた気がするんじゃがなぁ・・なんじゃったかなぁ・・たしかノックスの奴がカトゥルー殿の何とかって・・まぁ、害はなさそうな奴じゃし、気にせんでもええか・・」

「俺達もそんな感じで落ち着いたんだよね。っていうか、レーゼが気に入っちゃったのも大きいけど・・」

「まぁ、いいじゃない。私もコイツがいると雰囲気が和むっていうのは、段々わかってきたわ」

驚いたことにレナリヤのピヨへの評価がかなり好転していたようで、接し方も随分柔らかい。

ピヨ自身はこれまでと何も変わらないのだが・・。

「それで、すぐ出発するのか?」

「そうだね、勿論先にゼゼホの墓参りに行くけど、レミィの事がどうなってるのか全く分からないからね。」

「確かにのう・・サラちゃんも急にいなくなっちまったから、二人で動いておるのかと思っておったわい」

「サラの事はまだわからないの?」

「儂も村から出る暇が中々ないからのう。ただギルドの中で少し聞こえたのがプンス町に「サラサーティ―」っちゅう「茶」とかいう飲み物を提供する飯屋ができたらしい。何でも王都の貴族にも今大層流行ってるそうじゃ。プンス町で人気なのは別に大した情報じゃないと思うんじゃがな、王都の貴族の間で流行っておるっちゅうのが儂は気になっとるんじゃ。」

「お茶」かぁ!この世界に来てから、お茶は馴染みがなかった。これは同じ転生者のサラなら考え付きそうだ。

それにトンビルさんが言うように、王都で流行ってるっていうのは、恐らくアーメックさんだな。

にしても、アーメックさんと面識ないのに、トンビルさんよくそこに気が付くな・・これも昔冒険者として色々見て回った経験から来るものなんだろうか・・。

思わず、感心してトンビルさんを見つめてしまった。

「なんじゃ、その変な目は。まぁ、もしプンス町にサラちゃんがいたなら、落ち着いたら顔見せに来いと伝えておいてくれ。一人でやってくと決めて今までずっと来たがな・・なんじゃ、その、ゼゼホやルージュ、それにサラちゃんにレミィちゃんが通ってくれた日が冒険してた頃より、儂には充実した時間じゃった・・ゼゼホが逝ってしまって、サラちゃん達がいなくなって・・気が付くのが遅かったわい。」

「・・勘だけど、トンビルさんの読みは当たっていると思うよ。今はもうブリューンズの肩書があるからトンビルさんに話してももう大丈夫かな」

「?なんじゃ、まだ何かあるのか・・?」

俺はサラ達が急遽出ていくことになってしまった経緯を伝えた。

トンビルさんはリャンの(くだり)で、見て分かる位に顔が真っ赤になった。

完全にブチ切れていた。

「あいつ・・そんなことまで・・いや、ルージュお前さんの判断は正しかった。この立ち位置にいたことが悔しいが・・儂なんかの事より、サラちゃん達の安全の方が大事じゃ・・なんというか・・本当に、お前さんの立場からするとギルドは糞じゃな・・じゃが・・ギルド側の儂が言っても信じてもらえんかもしれんが・・昔はこんなんじゃなかったんじゃ・・ギルドは世界中にある。偶々、お前さんに縁があったここ周辺だけが腐っておっただけかもしれん。だから、もう少しギルドを見限らんでくれ」

「大丈夫だよ。ギルドの糞なとこも多かったけど、トンビルさんは信頼してるし・・あとね、さっき話に挙がってたプンス町のカルキスギルド長は中々話の分かる人だよ。最初はギルドの人間ってこともあって印象悪かったけど、腹を割って話をしてからは、中々良い人だなって思ったんだ。だからサラがプンス町にいるかもって思ったら、カルキスギルド長の守備範囲にいるなら、安心かもとも思えたんだ」

「ほー、あの堅物のカルキスと腹割って話したのか。儂とはタイプが違うから、勝手に好かん奴かと思っとったわい。」

「規律を重んじるタイプだから、最初は結構嫌な言い回しもされたんだけど・・まぁ色々あったんだよ」

トンビルは「ほー!」とたまげた様子で、「今度会ったら、少し話してみるのも悪くないかもしれんの」とカルキスさんに会うのが楽しみになったようだった


副鼻腔炎の手術や入院など色々あって遅くなりました

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