プロローグ
空は厚い雲に覆われ、今にでも雨が降ってきそうなそんな空の下、1人の少女がお墓の前で目を閉じ、手を合わせていた。
「パパ、ママ行ってきます。」
少女はそう呟くと廃墟と化した街にある研究所に向かって走り出した。
少女が研究所に辿り着き、研究所の中へと入っていく。
研究所内は薄暗く、多くの部屋の天井や壁が崩れかけていた。
少女は研究所の奥にある大きな部屋のドアを開ける。
その部屋にはいくつも機械が置かれており、その機械から部屋の中心にある装置へと続くケーブルがたくさん伸びていた。
壁には大きなモニターが設置されており、その画面にはA H Pという文字が表示されている。
少女は部屋の片隅にあるパソコンで作業をしている女性に声をかける。
「今、戻りました。」
「おかえりなさい。ご両親に挨拶は済んだかしら?」
「はい」
「そう。もう少し時間がかかりそうだから、部屋に戻っていて、後で呼びに行くわね。」
「はい」
そして少女は部屋から出て行った。
部屋にいた眼鏡をかけた青年が女性に声をかける
「まだ私達とは心の距離を縮められないみたいですね」
「そうね。でも最初に会った時より、かなり心を開いたと思いますよ。」
「そうですね。」
「作業を続けましょうか?」
「はい、このケーブルはB7とF9に繋ぐんでしたか?」
「ええ、次はそのケーブルを…」
2人は作業を続けていく。
「プログラムの入力、全て完了です。博士達に伝えて来てくれますか?私はあの子を呼びに行ってきますので」
青年は頷き、部屋から出て行った。
女性は机の引き出しから、小さな箱を取り出し、その箱を開ける。
そこには光り輝く宝玉が入っていた。
「希望の光『ホーリージュエル』、これを見ると心の不安が和らぎますね。さて私もあの子を呼びに行きましょうか」
女性は箱を閉じ、上着のポケットに箱をしまい、少女が待つ部屋へと向かう。
青年は研究所の屋上へとやってきた。
そこには椅子に座り、目を閉じている老人の姿があった。
「博士、準備が整いました。」
その声に博士と呼ばれた老人は目を開ける。
「そうか、やっとこの時が来たか。すまないが全員に準備をして、あの部屋に集まるよう伝えて貰えるか?」
「わかりました。」
青年が下へと降りていく姿を確認し、博士は椅子から立ち、空を見上げる。
髪は白く、身体は痩せ細っているが、その目には何かを成し遂げようとする熱意があった。
青年が階段を降りてくると大きな荷物を持っている背の高い男性と出会した。
「ちょうど、よかった。博士が準備をしてあの部屋に集まって欲しいそうです。」
「ということはやっと完成したのか?」
「えぇ、先程」
「そうか、他に何を持っていく物はあるか?」
「念の為、水と食料、後は倉庫の中にある貴金属や宝石を持っていきましょうか」
「貴金属と宝石?どうして」
「きっと私達が持っているお金は使えないでしょうから」
「あぁ、なるほど、そういうことか」
「では私は2人に伝えて来ますので、準備お願いしますね。」
「わかった。」
男性と別れた青年が女性と少女の部屋までやってくると扉が開いた。
「あら」
「博士が準備をして、あの部屋に集まって欲しいそうです。」
「そう、わかったわ。」
「では私も自分の荷物をまとめて来ます。」
青年が自分の部屋へと戻って行く。
女性は少女に伝え、準備を始めた。
そして博士を含む5人は準備を終え、たくさんの機械が置かれた部屋へと集まった。
「ようやく、時が来た。ここまで君達はよくやってくれた。感謝しても仕切れない程に、だが、もう少し私に付き合って欲しい。」
「最後まで付き合いますよ。」
「もちろん」
「どこまでもお供します。」
しかし少女は黙ったままだった。
博士は少女の前まで歩き、膝をつき話しかける。
「私について来てくれるかい?」
「ねぇ博士、博士についていけば、本当に変えられるの?」
少女が博士に質問する。
「変えられる。私達はそのために行くんだ」
「ずっと私と一緒にいてくれる」
「もちろんだ。血の繋がりは無くても、私にとって君達は家族なのだから」
少女は博士の手を握る。
「では行こうか」
博士は少女の手を握り装置の上に立つ。
「みなさん準備はよろしいですか?」
女性の声に全員が頷く。
「3分後に起動します。みなさん装置の中に入って下さい。」
装置が作動し、彼らを光が包む。
そして5人は光の中に消えた。