序章 悪女になるまで 2度目の没落
当主の死という不幸が男爵家を襲う。
転落はさらに屈辱と苦痛の始まりでもあった。
乗船名簿には男爵の名があり、救出された乗船客から男爵の容貌に瓜二つの目撃情報、病院や遺体安置所でも男爵の身元は確認は出来なかった。
警察は行方不明者として男爵の名をリストに加えたが、結局最終的には死亡の結論を出されてしまう。
遺体はなく没船から僅かに漂流した中から回収された懐中時計だけが遺品として戻された。
その遺品と誕生した時の産毛を一緒に葬儀と埋葬が執り行われた。
詰めかけた弔問者は概ね取引先の経営者だったが、皆心から悲しんで哀悼の意を捧げに来た訳ではなかった。
顔にはありありと自分達の利益が阻害されるのでじゃないか?
売掛金は回収できるのだろうか?と言わんばかりの顔つきで葬儀に参列している。
彼らを見てアルビラは更にイラつく。
正直まだまだ経営のいろはを男爵から学んだわけではない。
男爵は若い人材や有能な人材を敢えて育てなかった事もあって、経営が前途多難であるのは目に見えて明らかだった。
おそらく経営には夫が名目上社長になるだろう。
そして経営の知らない男爵夫人が口を出し、あっという間に会社は倒産するだろう。
アルビラはそこまでわかっていて、自分ではどうする事も出来ない苦々しい思いを吐き出す方法が分からない。
男爵夫人も私非難するだろう。
これからは間違いなく経営は傾く。
どうして今なの!
アルビラは心底怒りが身体の底から吹き出した。
これからさらに大きな取引と経営を大規模にしようとしていた矢先の不幸。
しかし最善の策は思い浮かばない。
葬儀は静寂の中で執り行われ月日は瞬く間に過ぎてゆく。
そう転落への階段は上がるよりも速いのだ。
債権者の訪問は毎日後を絶えず、両替商や取引業者、金融商長い馬車の行列が門の付近にまで達した。
アルビラの夫は経営者のトップに就いたが、予測通り何の策も取れず病床にあった。
仕方なく姑が代理を行うも全ての決定が裏目に出て更に経営は傾いた。
遂には倒産してしまった。
残られたのは病床の夫、口やかましい姑、5人の子供達だけになった。
次回転落の後には次のステージへ上がるきっかけになっていく。