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序章 悪女になるまで 思わぬ出来事

得体のしれない男爵の訪問と謎の晩餐会を経験したアルビラには更に奇妙な夜は続いた。




それは夜更けと夜明けの間の頃だろうか?

ふっと寝ている自分の身体に何か重い物が覆い被さったような不快な感覚を感じ、ぼんやりする意識が徐々に覚醒していく。

ハッと瞳を大きく開く。


「!!?」


目の前に巨大な黒い物体が突然目の前に現れていた。

誰かが…何かが…自分を見上げているのだ。

自分よるも遥かに大きな。

直ぐに自分を飲み込んでしまわれそうな恐怖が襲ってきて動くところか声すら出ない。


そう人だ……陰で男だとわかる。

四つん這いになって自分を覆いつくしている。

まるで捕食者に捕らえられ、今にも殺されそうな獲物の様に恐怖で絞り出したいとなんとか声を出そうとするが出てこない。


ガタガタガタと自分の歯がぶつかり合う音が耳を突く。

身体中の血が凍り付く感覚の中で、感じた事のない恐怖で声も身体も動かない。


寝台がその人影の重さ分軋んで甲高い音が静寂な部屋に響く。


アルビラは自分の置かれた状況を把握出来ないのか?微動だにしない。


その人影は少しアルビラの後頭部に顔を近づけながら、窓から差し込む光で誰だか辛うじて見えた。

この時ようやく空気を吸い吐いたついでに声が出る。

「男…ッ男爵?」


「ふっ」


「な…離して…」


「お父様との取引だよ」


「はっ?」


「お父上が……貴方の今後の事を相談されてね」


「は?父が?」


「あぁ。貴方の将来が心配だとね。

 没落貴族に生まれて今度の身の振り方を心配して…」


「……」


アルビラは嘘だとわかった。

あの強欲で才能のないくせに強欲な父が私の心配などするはずがない。

売ったのね……。



アルビラは男爵の訪問の意図を初めて知った。


「ようは……私は売られたのですね」


「そういうと…身も蓋もないな」

男爵は艷やかな私の髪を指で抓んでクルクルと手元でも手遊び始める。

口元は満足そうに緩んでいる。


「あの父が私の事など心配するはずがない。

 どうせ愛人関係と引き換えにして金銭でも要求したのでしょ」


男爵は苦笑しその笑い声が静かな部屋に響いくのは滑稽でもあった。


「…なるほど。

 私は面白い者を手にする事になるかもしれない

 な。

 金ならまだましだが……父上が手にしたかったの

 は土地だ」


「土地?」


「あぁ。郊外の肥沃な耕作地でな。

 同じく借金苦で八方塞になった伯爵家の土地の売

 買権利金を用立ててほしいとね」


「…土地…」


「あぁ。

 金は使うとなくなるが、肥沃な土地は安定した収入がとれると言ってね。

 王都で散々金持ちのお世話をしてやったから。

 のんびり何の心配もせずに田舎暮らしを愛人と過ごしたいそうだ。

 私はそれ相応の見返りを要求した。

 貴方の人生を無償で提供すると言ってきてね。

 まあ。

 とりあえず娘に会わせるように要求したら二つ返事で了解した」


そう男爵はそう告げるとアルビラの光沢のある髪を手にとり口つけた。


「はっ。

 あの…ろくでなし!!」


そうは言っても何故か怒りを通り越して呆れ果てて遂には笑いすら沸き起こる。

思わず高笑が口から漏れてしまった。


「ほぉ~。この状況で笑えるのか?

 大した方だね。

 さてどうするかね?

 このまま私が去る事も出来るが?」


「………」


「どうせ男爵が去ったとして。

 また私はどこかの老人の慰め物として売られえる

 でしょう。

 買い手がかわるだけです」


私は何かに吸い寄せられる様に、今までの拒否的な反応とは打って変わり、自分の手で男爵の頬を撫で始めた。


「ふっ!

 なるほど。

 きっとそうだね。

 貴方はなかなか頭がいいね」


「……どうせ売られるなら条件があります」


「ほっ~」


アルビラは男爵の耳元で囁くようにその要求を口にする。


男爵は一瞬たじろいだがそれも一瞬で、次には口元には不敵な笑みを浮かべながら、アルビラに自分の身体を押し付けて欲望のままに重なり合わせてきた。


二人の熱が合わさる。

耳元で取引の内容を囁いた。


「いいだろう。

 なかなか面白い取引になりそうだ。

 商売以外で久しぶりに興奮するよ」


アルビラは覚悟した様になされるままに、身体をまるで捧げ物のように寝台の上に投げ出した。


どうせいずれは誰かに売られるなら、父の好き勝手に遊びの道具にされるなら。


自分の意志のままに。

自分の価値を。

自分を。

自分の為に。


男爵は差し出された無垢な女のナイトドレスを乱暴に剥ぎ取った。

布の切り裂いた冷たい音が空気を切り裂くと、アルビラは少し震えながらぎゅっと瞼を強く閉じる。

そして顔を背け、拳でシーツを握りしめて、ただその白い身体を捧げた。


男の皺のよった枯れた肌が若くはちきれんばかりの私の肌に重なると感じた事のない身震いが沸き起こった。

それはこれからなされる未知の体験への恐怖と倫理感の決別からだろう。

けれど止める訳にはいかない。

手放して得られるものもあるのよ。



暗闇の中で青白く浮かんだ私の身体はは初老の男爵には新鮮だったようだ。

勿論娼婦は抱いていたが、商売女達の身体は新鮮味には欠けるのは認めざるをえない。

しかし今暗がりで見る私は新鮮で少なくともその裸体は十分にその条件を満みしていりだろう。


男爵はそのドレスを引き裂いた乱暴な手つきでなく、冷静に自分の手をアルビラの肩、脇、腰を撫でまわしながら、薄い唇をアルビラのプックリとした朝露に濡れる濃いピンク色のそれに重ねて深い口づけをかわす。


そこには愛など存在せず、どちらかというと契約の証といったほうが確かかもしれない。

私の身体を堪能しながら自分の私への興味と感心が性欲でないと感じる自分の冷静さを思わず笑いがこみ上げている。


ゴツゴツした冷たい手をアルビラの小さいが形の良い胸に押し当ててはまさぐり翻弄していく。

その手は乱暴でありながらもどこか紳士的でもあるかもしれないとアルビラは思った。


その夜まだ少女とも言っていい私の無垢を身体は翻弄され、男のますがままに無抵抗にまるで性の殉教者であるかのようにある種の儀式の様に受け入れた。

「ぁぁ!いっ!!」

 強烈な下腹部の痛みに耐えかねて男爵の背中に爪をたてしまった。


男爵は一瞬痛みを我慢する表情をしたものの私に男性経験がない証でもあったので、満足そうに自らを私の中に沈め込んだ。

私はシーツを指で引き裂くような力でぎゅっと握り締める。


男爵はすっかり収まった後に私の上で上下に激しく動き始めた。


ピストン運動のまるで機械的な動作に私は真っ白な世界に翻弄され続け、後は気絶したのか?まったく記憶になくなった。



翌朝にはすでに男爵は私の寝室から姿を消していた。

はたけたシーツの上に私だけがうつぶせになって横になっていた。


いつもと同じでいつもと違う朝だった。


シーツに小さな血痕が染みついていて、自分の身体が感じた事のないくらいの気だるさと重さを感じた以外は特段変わりのない朝だった。


コンコン!!

扉をノックする音。

その瞬間までは。


「お嬢様。

 旦那様が出発されるとの事です。

 どうかお仕度をなさってください」



「わかったわ今支度をして降ります」




アルビラを呼ぶ父。

今後アルビラはどうするのか?

次回思いもよらない展開に。

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