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序章 悪女になるまで

皇后の愛と復讐と【悪には悪と愛で清算させていただきます!】

子爵令嬢から男爵夫人になり、フェルキア公家に奉公し数数の野望の為に手を染めていきます。


悪役アルビラの娘時代から結婚そしてフェルキア公家に出仕まで彼女の野心と欲望とを本編と切り離して展開していきます。

私の生家は子爵家という名前だけの爵位を持つ貴族の出で、物心ついた頃にはすでに無残に没落していた。

再興するすら望みすら持てないくらいにそれはもう跡形もなく。


5代前の先祖の当主達までは広大な穀物が豊かに実る大地と山間部の一部で採掘される貴重な鉱物の収入で子爵家と言えど、毎夜舞踏会や晩餐会、ティーパーティーを音楽祭や歌劇を主催しては芸術家達のパトロンを務めた。

地方の名家ではあったものの当時は贅沢な暮らしを送っていたと聞いていた。


それが4代前の当主の時代採掘していた鉱物は全て取り尽くし、運悪く水害に合い穀物の収穫もほぼ0になったという。


しかしそれでもいままでの蓄えが幸いし、土地の収穫の回復をまてばよかったにもかかわらず。

取り巻きの一人の口車に乗せられて、二束三文の山を「金鉱脈のある山」だと偽られ、即大金で買ったのが運の尽き。

何の価値もない山と気付いた後にはその男は姿を消して残ったのは価値のない雑木林の続く荒れ果てた山だった。

傷心した子爵家の当主に追い打ちをかけるように悲劇はそれだけでは終わらなかった。


以前から子爵に過ぎない田舎貴族が、位に似合わない財を保有していると王都では噂になっていた。

その話題を耳にした王が嫉妬に駆ら、あらぬ罪をねつ造しては爵位を準男爵家に格下げさせ、末代が細々と暮らせるくらい残っていた最後の財産も没収してしまったのだ。


その為に子爵家は一気に没落し、後は階段を零れ落ちる様に貧しい生活へと落ちていったという。


私が生まれた頃には女子は王都の裕福な名家か地方の新興貴族の侍女に召し出されるか。金持ちの貴族の妾か裕福な商人の妻になるしかなく、男子は羽振りのよい貴族の太鼓持ちか、裕福な商人におこぼれを貰う為に胡麻をすり続ける情けない者になっていた。

おおよそ貴族とは言えないほどの惨めな人生を一族は当然というように受け入れていたのだ。


華美な邸宅はやたらと広いだけで埃の被った一昔前のゴテゴテ飾りのついたテーブルやイス、衣装ケースに衝立の調度品は必要最低限しかない。

異国からの手に入れた多くの貴重な調度品の数々は随分昔に人手に渡ってしまったという。


壁紙は色が落ちたくらいはまだましで、所々中の土壁の破片が部屋に落ち内部がむき出しになっていた。

使われていない部屋の床は湿気を帯びて今や抜けそうで人が入る事も出来ず立ち入り禁止になっている。

使われている部屋は部屋で夏はやたら暑く、冬は少しの薪で寒さを凌ぐしかないし、とても清潔で綺麗などとはいえなかった。

当然召使いを雇う金がなく、自分達で掃除や洗濯、季節の衣替え、最低限の邸のメンテナンスをしなくてはいけなかった。


そんな邸だ。

口悪い平民からは「幽霊邸」と呼ばれていた。


そうなると当然のように訪れる者はなく、私は貴族の子女でありながら必要品を街へ買い出しにいかないといけないような惨めな人生をおくっていた。

父親はほとんど家におらずたまに帰ってきては小金を私に持たせては消えていく。

そしてまた家に戻り、そして出て行くを繰り返していた。

挿絵(By みてみん)

私はその金で命を繋ぐための食糧や必要品を買い一人日々を邸の図書館で過ごした。

歴史だけは古い家柄だったので書籍は沢山あった。

おそらく人生を読書に捧げてもその生を終えても読み切れないほどの量だ。


まず手始めに伝統的な貴族女性の読む童話や伝承記を読んだ。

はっきり言ってつまらない。いやたつまらないどころか吐き気すら覚えた。

没落貴族の美しい娘が清い心で逆境に耐えて最後は高貴な人の妻になり幸せに暮らす。

邪悪な魔女の呪いにかけられて不幸なめにあい、高貴な人と出会い魔女を退治する話。

魔女に監禁されて虐待されて育った生活を高貴な人がやってきて助けて最後は幸せに暮らす話。

義母や義姉に虐待された後、貴人に愛され高貴な身分を手に入れて虐待していた者に復讐する話。


結局は他力本願で、かつ女性たる者は男性に幸せにしてもらうもの。

良妻賢母的教育本だ。

つまらない。


その後読んだ流行恋愛本はもっと面白くなかった。

大体パターンが同じで最後は必須のハッピーエンドで、恋など落ちるだの論外だとさえ思った。


その後は我が国の歴史ヴァレイアルの王の伝記やフェレイデン帝国やその他の歴史、地理、エルディア大陸の各国の歴史、そしてエルディア叙事詩と神話書は興味をそそられた。


田舎の領主や才ある者が世に出て戦いやがて君主となった物語。

皇帝の寵臣となり、あらゆる策略をかけて最後には影の参謀として影で帝国を支配する物語。


帝国の田舎貴族が才をかけて、皇帝に近づき宰相の地位に昇りつめついには新王朝を建国し皇帝になる物語。


凡庸で統治能力のない王に取って代わり王位を略奪して即位する王弟の物語。


国王の公娼となり国内に留まらず他国との外交に関与し、最後には王妃に登りつめた物語。


作り話ではなく史実に基づいて紡がれる話は私の心の奥底に眠っていた支配力の欲望を大きく揺さぶった。

読み飽きる事など知らずにいくも手に取っては置き、置いては取るを繰り返す。


ただの平民が。貴族に。

そして宮廷の重鎮に。

そして最後には帝国の皇帝に。

そんな物語は今あるエルディア大陸にある帝国や王国、公国で過去の歴史の一部にあった事実だから、なおさら現実的で私の欲望を叶えてくれるかもしれない。

その欲望がどういうものなのか?

具体的にはどうしたいと考えは思いつかないけれど。

私の興味をそそるには魅惑的で甘美な味を知った瞬間でもあった。


私も歴史に名を残す者になりたい。


漠然とそんな事を考えるけど、今の私の環境を考えるととても現実的ではない。


溜息を吐息の様に吐いた後、読書をさらに進めていく。


そして社会学、経済学、神学、古代エルディア語、外国語、現代史、古典、化学、哲学むさぼるように読んでいった。


だから食事は簡単なパンとスープですませて、一日のほとんどをこの図書館で退屈も知らずにひたすら読み漁った。

おかげでそれなりの知識や学問、教養、文化に至るまで家庭教師や教授に授業されなくても十分すぎるほど身についた。

最も家庭教師や教授を雇える生活の余裕はないが。


この読書経験が邸での生活で唯一よかったと思える事だった。

それ以外は最悪だったが…。


悶々として過ごした少女時代。

過去に囚われて今の自分に置かれた不幸な環境から飛び出す勇気も持てなかった頃。



そんな蒸し暑い日暮れ時久しぶりに邸にいた父親が私の部屋に現れて言った。


「今日は大切なお客様がお越しになるので夕食の接待をするように」


父親が私に声をかけに部屋までくるなどなかったのに。


まだ15歳だった。


女性とも少女ともいえぬ年頃。


後2.3年もするとおそらく王都のどこかの貴族かもしくは王族の侍女として召し抱えられるだろう。

もしかしたら召し抱えられる家の当主で素性や顔を確認しにきたのかもしれない。

まがいながらも子爵家の当主の父と母は王族の血を引く同じく没落貴族だった侯爵家の娘だというのに。

私の唯一の誇りを捨てなくてはいけない時が迫っているのだと自覚した時だった。


ついに私もおべっかを使いながら生活をしないといけなくなるのだ。


「はぁ~」


溜息で窒息しそうな感覚が襲い憂鬱の海に埋もれた。

心ここにあらず。

ただブラシを自分の意志とはかかわらずゥ時髪を梳かしていた。


「はぁぁ~~どうしようもないわね」

そう独り言を呟いては諦めた。

何度目かの諦めのため息をついて覚悟した。


アップに結い上げて、清楚な唯一の真珠のネックレスとブレスレット、イヤリングをつけ手元にある来客用の品はありながらも花々が刺繍された紺色のドレスに着替えた。


これが愛する婚約者や。

愛…いえせめてお金の心配や貴族らしい生活をおくれるだけでもいい。

多くは望まない。


「少なくても明日を考えなくていいそんな生活なら何でもいいわ」


諦めと希望を口にして自分を慰め、重い身体を引きずる様に部屋を出てた。


廊下に出て階段を下ると暗いエントランスに出ると、すでに父は階段先にある玄関口に客人を待っている所だった。


「遅いぞ。

 アルビラ!」 


痩せこけて頬はくぼみ、目だけがギョロリとした貧祖な父。

私はこの父親が大嫌いだった。


母はとうの昔に父親を見限り、平民だったが裕福な商人と駆け落ちして他国へ逃亡してしまった。

つまり私も捨てられたのだ。


うんざりした顔を見せない様に階段を下りエントランスの父の隣に移動し玄関に目線を向けた。


そしてある男が我が家にやってきた。


その男の登場と私の鼻をくすぐる嗅いだ事もないくらい美味しそうな料理の匂いがダイニングからしてくる。


私にとって悪夢とも全ての始まりともいえる夜がこの時始まった。

没落貴族の娘として生まれ、甲斐しょのない父親との生活で、ある男が突然現れる。

アルビラの今後は?


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