新子爵の思惑2
予想外にフェリクスを喜ばせたもののなかに、カステリ家の財産がある。
あれほど金の無心しても出し渋り、なにかにつけて使い方に文句をつけてきた兄だが、その実は随分貯めこんでいたらしい。
これだけあればフェリクスが求めた額を出すことくらい、わけはなかっただろうに、ケチで嫌味な兄だったと肖像画につばでも吐いてやろうかと思ったくらいだ。
そして公爵家からの密かな支援。
カステリ家は公爵家の末端分家のひとつにあたる。
現公爵とは何代か前の当主から分かれた系譜だが、そんな家は何十とある。
ミザール家の一族として名が挙がる侯爵、伯爵家だけでも両手の指の数では足りない。
分家筋の子爵、男爵家などそれこそ数えきれないほど存在している。
大した領地があるわけでもない、防衛の要になる辺境伯ですらない、僻地のいち子爵家など、いちいち公爵が気にかける必要もないところを、わざわざカステリ家にだけ頻繁に援助するのは、なにも公爵とルイスが親しかったという理由だけではないだろう。
もしかしたら公爵は、まともな血筋の妻を持てなかったルイスを憐れんでいたのかもしれないとフェリクスは考えていた。
リリィの並み外れた美しさは認めるところだが、その素性は誰も知らない。
ある日突然連れ帰ってきて、妻に迎えた女である。
誰よりもルイスに近かったロバートにも探りを入れたが、ロバートもリリィがどこの生まれなのか、その両親すら知らないようだった。
下っ端役人として使節団に付き従って外国へ行くことも多かったルイスだから、おおかた、どこかの村で見染めてきた田舎娘なのだろう。
ルイスと公爵は個人的な親交があったと聞いているので、公爵もルイスにそれなりの身分の妻を世話することを考えていてもおかしくはない。
それが持参金も持たない外国の田舎娘を連れてきたとなれば、同情もうなずける。
そんな田舎娘を奥様と慕う屋敷の連中の気が知れないとフェリクスは冷ややかに見ていた。
だから本当は男爵家の娘であるイザベラを本妻として、リリィは妾にしようかとも思っていたのだ。
血筋と身分を考えれば当然のことだ。
末端貴族が成り上がるために妻の家や血筋は外せない。
子供も、たとえ父親が公爵家の筋だとしても母親が平民では一段も二段も低く見られる。
それでも兄の顔を立てるためにリリィを本妻としてやったのだから、感謝してほしいとすら考えていた。