進み始めた時間(3)
シャーロットが白湯を飲み干すのを見計らって、ヴィクトリアはシャーロットを怯えさせないよう訊ねた。
「名前は言えるかしら。あちらではなんと呼ばれていて?」
メアリーが新しく注いだ白湯の茶器を持ったまま、シャーロットはしばらく中空を眺めながら思い出して答えた。
「……おい、や、おまえ、と呼ばれていました」
控えていた侍女たちは戸惑いを隠せなかった。
メアリーも咄嗟にヴィクトリアを確認し、ヴィクトリアさえも顔色をなくしていた。
答えたシャーロットすら俯いてしまい、気まずい沈黙を断ち切るようにヴィクトリアは音を立ててセンスを閉じた。
「ではね、今日からあなたはシャーロットよ」
シャーロットは瞬きを繰り返して復唱した。
「シャーロット……」
その名前は特別な響きでシャーロットを包んだ。
今の今まで忘れていた名前と本来持っていたものの記憶を呼び覚ますものだった。
ヴィクトリアは紙にシャーロットの名前を書いて見せ、シャーロットに筆記具を持たせると、横について筆記具の持ち方から教え始めた。
「何度も書いて、覚えればよくてよ。これからはいつでも練習出来るわ」
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