進み始めた時間(2)
「お嬢様がお小さいころの衣装がぴったりですね」
侍女がそっとヴィクトリアに囁いた。
「取っておいてくれて良かったわ。それにしても、あの髪も、随分、なんというか」
シャーロットは鏡台の前に座らされて、髪を整えられている最中だ。
ヴィクトリアも言葉に迷った髪の毛は、どこも長さがばらばらで、痛みきっている。
侍女が櫛を通す音も荒く、あちこち絡まり合っていることがわかる。
「あれも時間を掛けて整えるしかありませんわね」
当のシャーロットはメアリーの言うことを聞くという命令通りに黙って従っているが、顔には何が起きているか分からないと書かれている。
両手に軟膏を塗って手袋を着けられたシャーロットは困惑して言った。
「あの、これではそうじもせんたくもできないです」
メアリーはわざとらしくゆっくりと頷いた。
「そうです。今日は私の言うことを聞いて頂くのが、お嬢様からの罰ですから。次はこちらへ座って下さい」
シャーロットをヴィクトリアの向かいに座らせ、待ち構えていた侍女がすぐさまミルク粥と白湯の入った茶器を並べた。
落ち着かない様子でヴィクトリアやメアリーを見るシャーロットに、ヴィクトリアはことさら優しい声音で言った。
「それはあなたの分よ。安心して食べなさい」
食器を手で握りこんでミルク粥をほおばる姿は作法もなにもあったものではなかったが、部屋にいた誰もがシャーロットを可愛く思い始めているのは明白だった。
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