公爵邸の戸惑い(1)
到着した少女の風体に驚いたのは家令だけではない。
ヴィクトリアと有能な侍女たちが少女を風呂に入れている間、裏では侍女頭の指示が矢継ぎ早に飛んでいて、指示に副うべく、公爵家の侍女が裾を翻して小走りに行き交っていた。
今にも破れそうな襤褸切れ同然の服を脱がせ、その下の体を見て息を飲んだ年若い侍女もいる。
骨と皮ばかりで子供らしいふくよかさはまるで無く、肌には新しいものから治りかけのものまで、あちこちに青痣がある。
あかぎれた指は、おそらく水仕事が原因だろうと判るだけまだ良かった。
細長く何本も走る蚯蚓腫れは明らかに鞭か何かで打たれた痕であったし、足にはしもやけの症状が見える。
軟膏を持ってくるように言われた侍女は、日頃の礼儀作法も忘れて裾を蹴立てて薬を取りに行ったし、用意していた服ではとても寸法が合わないと見て、衣装部屋に走った侍女もいる。
風呂の間、近くに控えていた侍女はヴィクトリアからそっと手招きされて耳打ちされた。
「料理番のトマスに、ミルク粥を少なめに盛っておくように伝えてちょうだい。たしか、何も食べていない人に突然たくさん食べさせるとかえって体に良くないと聞いた覚えがあるわ」
侍女は忠実にこの言葉を厨房に伝え、トマスははたと用意していた陶器の器を軽くて小ぶりな木の器に変えた。
「そんな小さい女の子じゃあ、重たい器は持てないよな」
「本当に、小さな手も傷だらけで……」
そうして侍女が涙ぐむので、一緒に聞いていた侍従や料理人たちも、いったいどんな少女なのだろうかと気になり始めていた。