生き延びた娘4
数刻おきに公爵からの知らせは届き続けた。
揺れる馬車の中ではほとんど書き物も進まないのだろう。
時折歪む筆跡で書ける範囲のことを書き送ってきている。
屋敷内のことはヴィクトリアと侍女頭がいればそれ以上家令が手を出すこともない。
彼が続けて手配をしたのは、信頼のおける部下と公爵旗下の手勢である。
先行する少数の一団を送り出したのがその日の朝のことだ。
昼には公爵の馬車が無茶な道中を進んできたことがありありと分かる汚れ具合で到着した。
公爵に支えられながら降りてきた少女ー連絡があったから少女と判じたが、薄汚れた姿とぼさぼさの髪では、一瞬男か女かもわからなかった―はまだ8歳程度に見えた。
ヴィクトリアに連れられて少女が玄関広間を出ていくのを見送って、家令は公爵へ歩み寄った。
家令の困惑が伝わったのか、公爵は声を低めて言った。
「あの娘は、シャーロットだ」
「シャーロットというと……、まさか、なんと……」
長年公爵に仕え信頼の篤い家令は、先ほどの少女の様子を思い出して哀れみに視線を落とした。
「詳しくは執務室で話そう」
「口の堅い者を集めております」
公爵の急な帰還から半日、執務室の明かりは夜まで消えることはなかった。