生き延びた娘2
少女は、最初のうちは馬車に怯え、外套に怯え、渡された水を、公爵の顔色を見ながらちびちびと飲んでいたが、次第に眠そうにしはじめて、ついには外套にくるまって眠り始めた。
少女が眠っている間、馬車は丸三日走り続けた。
公爵家の名を活用して早馬を出し、各所で馬を変え、馬車は一路ミザール公爵領を目指してひた走った。
ミザール公爵邸には早馬が知らせを届けている。
公爵邸の正面玄関でようやく止まった馬車は、文句の一つも言いたげに軋んだ。
よく眠っている少女を起こすのは忍びなかったが、公爵はそっと揺すって声を掛けた。
「起きられるかい。到着だ」
なかなか足を踏み入れようとしない少女を促して玄関広間に入れば、侍女や侍従がおかえりなさいませと頭を下げる。
「おかえりなさいませ、お父様」
侍女を引き連れた公爵の娘ヴィクトリアが姿を見せたので、さっそく少女を紹介した。
「この子は今日からお前の妹だよ」
早馬の知らせで万端整えて待っていたであろうヴィクトリアは、ゆっくりと少女の前にしゃがんで少女を抱きしめた。
「待っていましたわ。ああ、まだこんなに手も冷たくて……。まずはお風呂ですわね」
少女がヴィクトリアに連れて行かれてしまうと、取り残された公爵の心情を組むように家令が苦笑しつつ一礼した。
「旦那様の無事のお帰り、なによりでございます」
「良いところは全部ヴィクトリアに持っていかれてしまった。やはり娘同士のほうが話しやすいのだろうな」
そんな冗談を言いながら、公爵の目は遠くを見ている。
「忙しくなる。頼むぞ」
「万事、心得てございます」