公爵のため息6
「こ、こ、これは閣下! ご予定よりだいぶお早い到着で……」
階段を踏み鳴らしながら降りてきたフェリクスにアルバートはさらに顔をしかめた。
フェリクスもアルバートが抱えている少女に顔色を変えた。
「カステリ子爵、この娘の名を言ってみよ」
フェリクスの後ろにはイザベラとベアトリスもついてきている。
イザベラは視線をそらし、ベアトリスは何を期待しているのか目を輝かせている。
「その娘は……」
「それは下働きですわ公爵様!」
答えたのはベアトリスだった。
「ほう、下働き?」
公爵が自分を見たことが嬉しいのか、ベアトリスは勢い込んで言った。
「そうです!」
「だから薄着でこの寒さのなか、一人で雪かきをさせても良いと?」
ベアトリスが黙ると、今度はイザベラが叫んだ。
「領民をどう使おうが我が家の裁量ですわ! いくら公爵様といえども……」
少女を抱えたまま、公爵は声を荒げた。
「そのようなこと、我が家門で許した覚えはない! 子爵、いやフェリクス」
大きな体を震わせたフェリクスに公爵は淡々と命じた。
「追って沙汰を下す。それまでこの館で謹慎せよ。妻と娘もだ」
「は……」
「謹慎!? たかが下働き一人の扱いごときで!」
「それも分からぬようでは話にならん! これ以上は時間が惜しい」
踵を返して再び雪の降りしきる外へ出た公爵は、厚い上着を着ていても冷たい空気に身を震わせた。
抱えた少女は、どれほど寒かったことだろうか。