公爵のため息2
数年前まで、具体的にはルイスとその妻リリィが生きていた頃のカステリ領は、良い場所だった。
最後にアルバートがカステリ領を訪れたのはまだルイスが健在だった頃。
遠くに眺める急峻な山脈の頂上には白い雪が輝き、柔らかな風と草の匂い、素朴な土地に人々の笑顔がある場所だった。
それがここ数年、納められる作物は品質が落ちる一方で、しかも野盗が増えているという。
カステリ領と境を接する家が野盗を捕まえようとしても、カステリ領へ逃げ込んで手が出せない。
そこで隣領の領主がカステリ家に野盗の捕縛を求めても一向に捕まる気配がない。
増え続ける野盗の被害に困り果てた隣領からの訴えがついにミザール公爵へ届き、今年の検分予定に急遽カステリ領を組み込んだのだった。
実のところ、アルバートは現カステリ子爵があまり好きではない。
先代のルイスが優秀だっただけに、本当にフェリクスはルイスと血を分けた弟なのか疑わしいくらいには、似ていない兄弟だった。
理由がなければ特別会話をしたい相手でもないが、ことが他家との軋轢になりかねないとなればそうもいっていられない。
カステリ家に行けばロバートもいることではあるし、彼に聞けばたいていのことはわかるはずだとアルバートは考えていた。
しかし、馬車の窓に見える景色が変わるにつれて、アルバートの顔色も変わっていった。




