消えた娘9
ロバートが消えてしまえば、もうフェリクスの邪魔をするものはいなかった。
税は重くし、反抗する農民は切り捨てた。
平民などフェリクスにとっては減れば増やせるネズミのようなものだった。
事実、減った分は以前から付き合いのある商人が追加を連れてきたし、フェリクスの望みをよく聞く有能な部下をよこした。
商人から借りた用心棒は税の取り立てから領民たちの締め上げまで、よく働いてくれた。
小さく薄汚いシャーロットが屋敷の役に立つかは別として、出来ないことを理由に杖で叩くのは楽しかった。
相も変わらず公爵はシャーロットのことばかり心配して、折に触れて病状を訊ねてきていたので、最初のうちは適当に返事を書き送っていたが、それも徐々に煩わしくなった。
兄と妻の忘れ形見なので自分が責任を持って面倒を見る、という感動的な文面を部下に代筆させたものの、回復の気配がないシャーロットに対して、公爵領で療養してはどうかという打診まで届いた。
「くそっ、いつまでもシャーロットシャーロットと! 少しは俺やイザベラのことを聞け!」
公爵は、シャーロットの治療に金がかかると匂わせれば使いに金品を持たせてくるのに、フェリクスの商売がうまくいっていないことや、ベアトリスの進学のことを書き送ってもなんの支援も寄越さなかった。
当のシャーロットは今まさに暖炉の灰にまみれて燃えかすの始末をしているというのに。
フェリクスは閃いた。
いつまでもシャーロットがいるから、公爵はシャーロットの心配をするのだと。
シャーロットがいなくなってしまえば、今度こそ公爵はフェリクスたちのことを見るはずだと。
さっそく近くにいた部下を呼びつける。
「おい、筆記具と紙を用意しろ」
この思いつきが気に入ったフェリクスは、鼻歌交じりに部下に代筆させた。
ありがたく公爵領での療養をさせてほしいと。
勿論、支度に金が必要だと匂わせ、公爵から支度金をもらうことも忘れない。
そして出発予定日の直前、最後に送った書簡の内容は勿論こうだ。
『支度の甲斐なく、シャーロットは両親のもとへ旅立ちました』
死亡記録まで部下が完璧に作ってくれた。
もう厨房横の半地下にいるのはシャーロットではない。
世界のどこにも存在しない、フェリクスがどう扱ってもいいモノになったのだ。
シャーロットは、齢8つにならずして、この世から消されてしまったのである。




