消えた娘6
フェリクスは焦っていた。
ミザール公爵家の印章が捺された招待状を手に公爵家を訪れたものの、公爵の反応が芳しくないように思われたのだ。
いつも通りに挨拶を受けてくれたまでは良かった。
「娘がいたかと思うが、どうしているかな」
公爵が娘の存在まで知っていたことにフェリクスは気を良くして、笑いながら答えた。
「ベアトリスでしたらまだ幼いので領地に置いて参りましたよ」
「ベアトリス……? たしかルイスの娘の名前はシャーロットと言ったかと思ったが、記憶違いだったかな」
使用人部屋に追いやってこき使っていた娘がそういえば姪であり、そんな名前であったことを思い出して、フェリクスは咄嗟に言い繕った。
「あ、ああ! シャーロットですか! シャーロットは、ええ、その、ちょっと体調を崩していまして。母親に似て体の弱い子ですから心配で!」
「そうか。養生させてやってくれ」
「勿論ですとも!」
「ゆくゆくはカステリ家を継ぐ娘だ。よろしく頼む」
そうしてさっさとフェリクスから離れてしまった公爵に、フェリクスはイザベラの紹介すら出来なかった。
いつもは自分を羨ましげに見ている連中からも冷ややかな視線を向けられている気がした。
悔し紛れにカステリ領ではなかなか手に入らない高級な酒を浴びるほど飲んでいると、横からイザベラが囁いてくるのだ。
「公爵様はあの娘が跡取りだと思っていらっしゃるの? そうしたらベアトリスはどうなりますの」
そんなことはフェリクスにも分からない。
今日のために二人分の衣装を仕立て、田舎から四頭立ての馬車で出てきただけでもかなりの大金を使っている。
そんな自分にねぎらいの言葉もなく、リリィだシャーロットだと言う公爵に一泡吹かせてやりたいとフェリクスは考え始めた。
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