消えた娘5
扇で頬を打たれた姪が呆然と座り込んでいる。
「でも、それはお母様の……」
「だからなんだというの? この屋敷のものはもうあたくしのものよ」
フェリクスは心の中で自分のものだ、と訂正をした。
リリィの首飾りをイザベラが使っているのを見て、姪が文句を言ったのが原因らしい。
これまでリリィの部屋も持ち物もろくに検分してこなかったが、イザベラが言うにはかなり上等なものが多いそうだ。
フェリクスが衣装や持ち物を新調することは邪魔しておきながら、自分こそ高価な宝石を買っていたのではないかと失笑が漏れた。
「イザベラの言う通りだ。謝りなさい」
「……ごめんなさい」
打たれた頬を押さえながら俯く姪を見下ろして、イザベラは笑った。
「最初からそう言っていればいいのよ」
「すまんな。母親に似て生意気なところがある。躾けてやってくれ」
「勿論ですわ。それよりも、ねえ旦那様。あたくし、この宝石に似合う衣装を新調したいですわ」
リリィの衣装は寸法はともかく、どれもこれも地味で流行に合わないのだとイザベラは説明してくれた。
「それならすぐに商人を呼ぼう。今年の公爵様の誕生祝いも近いからな。新しい子爵夫人も披露しなくては」
ベアトリスが頻繁に服を汚すので、大きさの近い姪の服や靴を借りることも増えた。
大きさが同じくらいなのだから、すぐに大きくなる子供の服を二人分誂えるより効率がいい。
どうせ姪には使用人の仕事もさせていて、飾りのついた服は必要ない。
その分をベアトリスが着てやるだけ無駄がない、というのがフェリクスの言い分だった。




