新子爵の思惑4
次第にフェリクスは違和感を覚えるようになった。
リリィはいつもフェリクスに従順に従い、使用人たちもフェリクスを一番に扱った。
しかし、フェリクスがなにかを命じたとき、後ろにいる使用人がふと視線を動かすことがある。
そういうとき、そこには決まってロバートかリリィがいて、微かに頷き返している。
衣裳の新調に高価で希少な毛皮を使おうとすると、そのときにはさんざん毛皮を勧めてきた商人が、あとになって毛皮の用意が出来なかったと謝罪してくる。
ある日は、いつも通らない廊下を歩いていると、書類の束を持ったロバートが部屋から出てくるところに出くわした。
家令であるロバートには個室が与えられているので、おかしいことではないが、扉の隙間から見えた部屋には書斎のような大きな本棚が置いてあった。
「これは旦那様。ただいま書斎に書類をお持ちするところでございました」
ロバートはそつなく一礼し、フェリクスを書斎へ誘導した。
しかしフェリクスには、あの扉の隙間から一瞬、女の衣裳の裾が翻ったような気がしてならなかった。
フェリクスはこうしたときの勘は非常に良かった。
勘が良かったからこそ、早々に公爵とリリィがやりとりする手紙は全て差し押さえていたが、もとより手紙自体も多くはない。
リリィの手紙を見ても、娘が大きくなっただの、いつか領地にお越し下さいだのと、社交辞令が書かれているだけだ。
それでもフェリクスは、自分がなにかの枠から締め出されているような、疎外感を覚えていた。
よろしければ評価、ブックマークをお願い致します。




