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新子爵の思惑3

フェリクスは領主としての仕事も精力的に行った。

子爵という身分に相応しく、朝食は田舎臭い献立をやめさせ、都会風に変えさせた。

食事のあとには書斎に入り、机に揃えられた書類に目を通して判を押す。

子爵家当主が代々継いできた書斎で当主の印章を使うのは非常に心地が良い。

あのケチな兄は、当主の証だからと印章に触ることすらさせてくれなかった。

書類を捌き終えると早めの昼食を取り、新しく誂えた服に着替えて屋敷を出る。

イザベラのところへ行くついでに、新調した二頭立ての馬車で領内を検分するためである。

元々本邸にあった古い馬車を買い換えることに対して、ロバートには渋い顔をされたが、これも必要なことだと説き伏せた。

現に子爵家の紋章を描いた豪華な馬車を見かけると、領民たちは農具を放り出して慌てて頭を下げるようになっている。

リリィはよく気が利いて、見送りの時にはイザベラのための手土産も用意している。

いつ帰るのかとか、向こうに泊まるのかなどと煩わしいことは聞いてこない。

いつ帰ろうとも当主であるフェリクスの自由で、いつ帰ったとしても屋敷の中をフェリクスにとって快適な状態にしておくことがリリィの役目だからだ。

そうしたところをよく弁えているのは悪くなかった。

あれだけルイスを持ち上げていた使用人たちも、あっというまにフェリクスを旦那様と呼ぶようになったので、案外ルイスもたいしたことはなかったのかもしれないと、フェリクスは馬車の中でほくそ笑んだ。


違和感を覚えたのは、偶然予定を変更して本邸に戻った日のことだ。

いつものように屋敷を出たものの、靴の汚れがどうにも気になって、いっそ新調してしまおうと考えたのだ。

本邸に商人を呼びつけて、流行りの靴を用意させようと考えていた。

馬車が本邸につくと、妙に慌ただしく使用人がフェリクスを出迎え、一人はなにをそんなに驚いたのか、頓狂な声を上げた。

「まあ! 旦那様! お早いお帰りでえ!」

書斎に向かうと、そこからは聞いたことのないリリィの慌てた声がした。

「あら、あら、大変! 窓を閉めて!」

なにごとかと書斎の扉を開け放つと、ちらばった書類を集めるリリィと窓を閉めたロバートが中で慌てふためいていた。

「ここで何をしている!」

自分の城を荒らされたような不快な気分で怒鳴りつけると、リリィはしおらしくうなだれた。

「申し訳ございません。旦那様がお出かけの間に、お部屋に風を通しておこうと思ったのですが、思ったより風が強くて……」

見やった机の当主印も筆記具も動いていなかったので、その時はリリィの言い分を信じて許してやった。


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