プロローグ1
さて、ことの始まりは彼女らの物語より少し遡る。
西大陸のサザロクスは歴史のある大国である。
時のサザロクス国王は、敵対する相手は徹底的に処断し、一族郎党まで容赦しない苛烈な性分で名を馳せた。
反面、追従する者には十分報いてやったし、君主が揺ぎ無く君臨していることは、下々の民にとってはむしろ安定した生活に必要だった。
戦さえ起きなければ、民は地道に畑を耕し、作物を売り買いして、権力者の悪口を言いながらも、なんだかんだ生きていける。
サザロクスに手を出そうとする近隣国は片端から平定し、この国王の治世の間にサザロクスの国土が二割増えたとも言われている。
政治的手腕を発揮する一方で、この王は女性関係がとかく派手だった。
正妃、第二妃、第三妃のほか、愛妾を何人も後宮に召し抱え、侍女や視察先の貴族の娘などにも手を出していたから、生まれた子供の数は20を超えたところで貴族や閣僚も把握しきれなくなっていた。
ただ、王子王女と庶子の中でも、特別に気に入って可愛がっていたのが、第二妃の生んだ姫君だった。
この姫君を語るとき、いつも華やかな言葉で名前を飾り立てられるのが常であった。
王の宝玉、社交界の白百合、サザロクスの至宝、水晶姫や百合姫の愛称で親しまれた。
その美しさは齢一桁の頃から匂やかに際立ち、絶世の美姫として知れ渡っていた。
いつも王が近くに置きたがり、年上の王子らには目もくれずこの王女を可愛がった。
年下の子供たちに至ってはなにをかいわんや。
やがて13歳で少し早い社交界へのお披露目をすると、夜会では踊りの申し込みが後を絶たず、姫君の出席如何が夜会の質を決めるとまで言われるようになった。
一方の姫君も、若年でありながら慈善活動などをよく行い、姫君に良い印象を持たれたい貴族たちがこぞって協力したので、美貌の百合姫は民間でも絶大な人気を誇った。
年上の王子たちを差し置いて、この姫君を次の女王にするのではないかと噂されるなど、とにかく話題に事欠かない時代であったことは間違いない。
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