【第6話】宝石は明日も輝く
ルデムの放った<風の矢>がエルディオーネのわき腹へ届く!半透明の矢は騎士の体へ吸い込まれるように消えた!?
「マドマンは衣服の下に何かを隠し持ってる。すぐにバックステップしろ、エルデオーネ!!」
それは攻撃のためではなく<情報>を伝えるための矢だったのだ。騎士はバックステップした。その後をマドマンの<魔剣>が追って空を切る!彼の服の下から<三本目の腕>が伸びて魔剣を振るったのだ。間一髪、身をかわしたエルデオーネはマドマンの懐へ飛び込み<輝きの剣>で魔人を貫いた。まぶしく輝く剣はその肉体を傷つけずに、内に巣喰う<魔性>だけを攻撃する。
「ゲハアァッッ!!」
魔人は滅び、人間に戻ったマドマンは気絶して倒れ込む。二人は魔に魅入られた男を救った。
「さすがはルデムだ」
「でかした、エルデオーネ!」
念のためにマドマンの身柄はロープで拘束し、魔剣は袋に入れて運ぶことにする。賞金稼ぎと騎士のコンビはようやく目標を捕獲したのだ。
魔剣は直ちにサーベーデン市にある「混沌の神」の神殿に返却された。混沌の神は<鬼神>であり、魔剣の出身地<鬼世界>へ通じているからである。神官の話によるとマドマンの魔剣は<ライアー うそつき>という名で、ニセの情報を広範囲に放って敵の頭脳をかき乱す力を持っているのだそうだ。もはやマドマンは<魔剣士>ではなくなった。
「なあルデムよ。オレの心にも<鬼世界>への入り口は開いているのかな?」
「そうだな。人の心には光も闇も宿っているのさ」
* * *
二人が滞在していたホテルへ手紙が届いている。エルデオーネ宛てだ。彼の妻からであった。生後間もない騎士の長男が、立って歩き始めたと記されている。仕事が終わったら早く帰って来てくださいとも。
「お子さんはすくすく育っているみたいだな。どんな子に育てる?」
「たくましい男にさ!」
「フフフ、あんたらしいな」
「さあマドマンを<賞金稼ぎ事務局>へ連れて行こう。それでこの仕事は終わりだ」
「うん、急ごう」
賞金稼ぎは経済活動の神の管轄である。彼らの仕事は有償であるべきで、それを管理しているからだという。だから<事務局>も「経済活動の神」の神殿の中に設置されている。そこへ向かって街中を歩いてゆく。市内の人々がザワついているようだ。
「騎士と賞金稼ぎだ。見ろよ、捕り物のようだぜ!」
見事に依頼をこなしたルデムは、その時ばかりはちょっとしたヒーロー扱いだ。しかし彼はそんなことを少しも鼻にかけない。そういう相棒を大したヤツだとエルデオーネは思っている。
「ちょっとぐらい今回の報酬を受け取らないか、エルデオーネ?」
「いいって!今は騎士としての収入で生計を立てて行くぜ。この仕事はお前さんへご指名の依頼だったからな」
「子供を育てるのに金が必要じゃあないのかい?」
「気遣ってくれてありがとう。でも今回の仕事ではこの<輝きの剣>も手に入ったからな」
騎士は腰の剣を確認して言う。
「知ってるかエルデオーネ。<宝石は明日も輝く>っていう言葉にはもう一つ意味があって、大切に扱えば宝石はいつまででも輝き続けるという話さ」
「フフン……まるでオレたちの友情みたいだな!」
* * *
「だけどルデムよ。手伝った以上は依頼主のことを教えてくれてもいいはずだな」
「そうだ。では言おう。今回の依頼は、ある身分の高い方から受けた。名はサンティエンヌ侯爵。そう、私とあんたを引き合わせてコンビにしてくれた、あの恩人のサンティエンヌさまからの依頼だったんだ」
「そうだったとは!するとまさか」
「マドマンは……あまり大きな声を出すなよ。彼はサンティエンヌさまのところの末っ子だそうな。だから是が非でも彼を捕らえて救って欲しかったんだよ」
「そんな事情だったとは!上手く行って本当に良かったな」
サーベーデン市にある経済活動の神の神殿へ。そこにある<賞金稼ぎ事務局>へマドマンを引き渡した。
「無事に仕事を終えたな!今夜は一杯、祝おうぜ!」
「ああエルデオーネ、そうしよう。待ってくれ……今、賞金を受け取るからな」
報酬の<宝石>がたくさん入った袋を受け取るルデム。
「ずいぶん重そうだな。どれほど入っているんだ?見せてくれ」
袋の中には色とりどりの輝く宝石が20個以上は入っている。
「そんなに!?これほどとは思わなかった!」
一般に<宝石 ジェム>は一個で、通常の職業の月給の二倍から三倍の価値に相当する。それが20個以上も。破格の報酬である。すぐに隣の<銀行>へ預けようとするルデム。経済活動の神は銀行制度も扱っている。
「こんな話があってな。聞いてくれ。<宝石に明日は無い>とも言うんだぜ!今日得られる収入は今日の内にキチンと受け取らないと、後で悔やまれるから注意って訳だ」
それを聞いたエルデオーネは態度を豹変させる。ルデムの首に太い左腕を引っかけてグイッと引き寄せ、耳元でささやく。
「オイ相棒!宝石はやっぱり山分けと行こうぜ」
そして右手でルデムと握手して言った。
「オレたちの友情は<明日も輝く>!」
終わり。
作者なりに前回とは全く違う雰囲気の作品にしたつもりです。最後までお読み頂き、誠にありがとうございました!<(_ _)>