十一話 理不尽な巨悪
ハイパー超絶久しぶりに書きました。設定引っ張り出すのでかなり時間食った....BLEACH面白いっ!!!京極さん好きっ!!
「俺を....殺す?」
「そう。社会の目の届かないところで、ね。」
平然と言ってのける織風の目に、嘘の色はない。
「磯淵少年院は表向きこそ刑執行付きの第4種少年院に分類されているけど、実態は矯正局に居る何人かの暴力団の息がかかった人達が管理する閉鎖空間。不正や暴力、それこそ殺人だって不問になる。隣の席の誰かが居なくなったって誰も気にかけない。そんな法の埒外の存在なんだ。まあそう頻繁に起こるわけじゃないけど。」
矯正局。法務省の少年院管轄部門。そこに暴力団の関係者が溶け込み、磯淵少年院を闇の坩堝として管理しているとなれば、大きな問題だ。
「何の為にそんなことを───」
「木崎君はさ、蠱毒って聞いたことある?」
「蠱毒....まさか、磯淵少年院が蠱毒の壺そのものだとでも言いたいのか?」
「うんうん、察しが良くて何より。裏社会で伸びる人間、あるいは使える人間を選別するための蠱毒だよ。やはり君みたいな人と喋るのはストレスが無くていい。」
「....そうか。」
俺はむしろ苦手だ。自分のリズムばかり押し通す喋り方に、人柄を掴ませないようにする空気感。表面上は親しくなろうとする一方で、相手を追い込むいやらしい話術。
「だから本来なら君のような裏社会に何の関わりも無い人間が此処に送致されることは有り得ない。どんなに非道な犯罪を犯そうが、カタギであればその時点でこの少年院に送致される可能性は皆無なんだ。」
「....だったらなんだ。誰かが裏で糸を引いていようが何だろうが俺は今ここに居る。それが全てだろう。長い前置きはもう止めてくれないか?」
「せっかちだなぁ。ま、単刀直入に言うね。君、僕の下に入らない?」
「.....聞こうか。」
これ以上部屋に居座られては困る。適当に本題を聞いて帰らせて後でどうにかするべきだと判断する。
「僕は君を評価している。入所早々成績上位を取り、体格、運動神経共に申し分ない。その上冤罪と裏切りというまたとない経験を得ている。このままどこの組とも知れない人間に殺されてしまうのは惜しい。」
「だからお前の下で庇護を受けろ、と言いたいのか。代償は?」
「話が早いのは良いことだ。条件は...そうだね、出所後の進路を僕に手配させて欲しい。」
「お前のバックにいる組に入れ、って言いたいのか。」
「ん?違うよ?それだと今の君と何も変わらない。」
「....お前、まさか司と同じ組なのか?」
「ご明察。まぁ、方向性は違うけどね。大方藤士さん側に入る予定だったんでしょ?司先輩に話を通せばそうなる。」
「待て、一旦整理させて欲しい。司と織風は同じ組がバックについていて、その組が2つの勢力で分離しかけているって理解で良いのか?」
「大体そんなところかな。もう言っちゃうけど、僕達が入る予定の木々背組は現在組長の隠居によって2つに分離しようとしているんだ。組長の引退を期に堅気へシフトしていこうという保守派と、今までのやり方を続けるべきだという続投派でね。」
「....それで、お前はどっちなんだ?」
「隠したところで意味も無いし教えてあげるよ。『僕達は』、続投派だ。そして司先輩は磯淵少年院唯一の保守派だ。」
「その言い方、他にも仲間が居るって認識で良いのか。」
「そう伝わるように言ったんだよ。最も、君が僕達の仲間に加わるという言質が取れるまでは詳細を教えるつもりはない。」
あくまで仲間と確定するまでは手の内を見せるつもりは無い、というのはヤクザ共通のスタイルらしい。が、既に藤士さんと話を着けている以上詳細の分からない敵対派閥においそれと参加するわけにはいかない。だが───
(続投派の詳細を知れれば出所後の立ち回りをある程度考えられるかもしれない。ならば──)
「随分と不親切なスカウトじゃないか。まだ司のスカウトの方が親切だったぞ。」
「ふむ、情報が足りないぞ、とでも言いたげだね。」
「当然だ。誘うからにはある程度納得がいく情報が無いとこちらとしては疑わざるを得ない。」
(会話のペースを握る。とにかく自分の要求を通して情報を拾う。そうして自分の手持ちの武器を作っていくことこそ重要。司が言ったにしては珍しく良い言葉────)
「ならば君は保守派について、何を、どれくらい知っているんだい?」
「────っ。」
「司先輩について、藤士さんについて、あるいはその目的について。」
「それは───」
「当ててみようか。君は何も知らない。付司先輩と藤士さんが兄弟であって藤士さんが保護司と弁護士であるという情報以外の何も知らない。」
何故。という疑問で頭が埋め尽くされる。司との会話の際は常に周囲に気を配っていたし、司と俺は基本一緒に居ることが多かった。今日のように司が俺の部屋に来たことも1度や2度のことではない。
「どこからそこまで知ったのか、とでも言いたげな顔だね。もう少しポーカーフェイスの意識を持ったほうが良い。」
「....どうかな。」
精一杯の強がり。こちらから切れる手札が無い以上、下手なことを言えなくなった。
「.....ごめんね。僕は自分が自分の話したいことを長々話すのは好きなんだけど、勝敗の決してる情報戦に長々と労力と時間を割くほど遊び人じゃないんだ。」
そう言うと織風はドアに向かって振り返り、歩き始めた。
「また気が向いたら来るよ。別に返事を急かすつもりはない。ま、それまで君が殺されなければ、の話だけど。」
「人のことを買ってると言った割には随分と冷たいんだな。」
「勿論続投派に来ると言うのならすぐ君を庇護下に置くとも。それが間に合うか否かっていうだけ。」
「そうか、なら検討しておくよ。今度会う時には答えを出せるようにね。」
終始ペースを握られた心理戦。脳の疲労を感じながら織風の後ろ姿を見送って終わる───はずだった。
ドアノブに手を掛けた織風が半身振り向き、目が合う。今日部屋に入って来て初めて見せる、冷たい視線。
「2つだけ教えてあげるよ。まず磯淵少年院における保守派は司先輩1人。それに対して僕達続投派は僕を含めて12人だ。」
「へぇ。結構偏ってるんだ──」
「そして、司先輩が磯淵少年院に入ることになったのは母親殺しとその再婚相手を下半身不随にまで追い込んだ暴行殺人が原因だよ。」
「───は?」
思考が止まる。告げられた情報の濃さに、思わず頓狂な反応を返すことしか出来ないまま、気が付けば織風は部屋から居なくなっていた。