十話 意図的に作られた鳥カゴ
かきかきたいへんでちゅ
「君、出所させてあげよっか?」
「────は?」
優位性や情報戦、腹の内。頭の中を巡っていた思考を吹き飛ばす発言。
「君が冤罪なのは既に知ってるよ。関係者とコンタクトが取れたからね。」
「────なぜ知っている。」
「あれ?警戒度が上がっちゃったか。う~ん、どう言ったものか....」
俺は、自分が冤罪だという事実を司以外には伏せている。身内に訴えかけ、信じてもらえなかったその後からずっとそうだ。冤罪だと知っている人間は冤罪を仕掛けてきた奴らと司、そして藤士さんとその関係者だけ。
「誰から、どのように聞いたのか。この2つが明確にならない限り、俺はお前とこれ以上会話をする気はない。」
情報戦などとゆっくり考えている暇は無かった。これ以上コイツに余計なことを喋らせてはいけない、それだけに焦点を絞る。
「ハハッ、悪くないなぁ。でも、良くも悪くもまだカタギだね。」
「何をぐだぐだ──」
「そう邪険にしないでくれ。それに、君のことはもう丸裸も同然なんだ。駆け引き抜きで交渉しに来た、ただそれだけ。」
「な.....に.....?」
前提が崩される。最初から探り合いも駆け引きも抜きにして話に来られてしまえばこっちから打てる手は無い。それを証明するかのように、目の前の男は続ける。
「司先輩を追い出してくれて助かったよ。これで君と真っ直ぐ交渉が出来る。ねぇ?木崎淳二君。」
「どこまで調べ上げて───」
「5人家族の長男で、姉の木崎春姫と妹の木崎依織を兄妹に持つ。父親の名は木崎圭一、母親の名は木崎優子。家族ぐるみの付き合いがある幼馴染の伊藤絵美とは幼稚園からずっと共に過ごし、彼女の父親である伊藤幸雄と母親である伊藤真弓とも仲が良い。」
「────っ!」
「強姦冤罪をかけられたのは5ヶ月前の深夜。部活の自主練後の帰宅途中に路地裏で人のうめき声を聞いた君は、警察を呼び路地裏に向かった。そこでボロボロの女性を見つけ、呼びかけている最中に女性の彼氏を名乗る男とその仲間に囲まれ、暴行を受ける。そのまま警察に見つかり、虚偽の証言を根拠に押し切られ有罪。現在に至る。」
「何故.....見てきたように....」
「言ったでしょ?君は丸裸なんだ。何なら君の知らないことも教えようか。」
「知らないこと、だと?」
淡々と俺の生活を見てきたかのように全てを語る織風。その雰囲気に、今まで感じたことのない気味悪さを覚える。しかし、口が回り話し尽くす今の織風相手なら余計なことを口滑らすかも知れない、そう思って──
「例えば──」
かかるべきではなかった。黙らせるべきだった。
「この寸劇は、全て君をこの鳥籠に連れ込む為のものだった、とかね。」
「────何?」
「少年院は本来、法務省が管理を行う更生施設。でも、磯淵少年院は唯一の例外だ。僻地に建てられた、社会の掃き溜め。ここに来る殆どの人間は、後ろ暗い背景を持つ人か精神異常者ばかり。そんなところに君みたいな人が来る理由はたった一つ。」
「────君を秘密裏に始末する為。」
会話文と地の文の文の配分が難しいでちゅ