八話 魔境、磯淵少年院。
リアルが忙し過ぎて投稿が疎らになってしまう....許して下さい(・ั﹏・ั)
お楽しみ頂けると幸いです。
藤士さんとの面談から1ヶ月が経った。更生プログラムはしっかり受けているし、成績も上位をキープしている。監督官にも好印象で、なんとか法学と少年院での生活を両立出来ている。
「淳二〜。遊びに来──」
「帰れ。」
「ん辛辣ぅ!!ヨヨヨ....少年院入りたての頃の優しい淳二ちゃんは何処へ行ってしまったの.....」
「やかましい司。用がないなら速く帰れ。無断入室は減点対象だろ。」
「別に良いだろ?そんなん形だけのもんなんだし。暇なんだよ一人でいると。」
「知るか。暇なら本でも読めば良いだろ。」
司にはこの一ヶ月間で少年院のルールや暗黙の了解を教わった。その点には感謝している、のだが....
「それに、司はこの前のテストでも最下位層だっただろう。暇だ暇だとほぼ毎日俺の部屋に来る余裕があれば勉強したらどうだ?」
「俺はお前と違ってベンキョー嫌いなの。おれ、ほん、きらい。」
「はぁ.....また罰則食らっても今度は助けないぞ。」
「とか言って〜!いつも結局手助けしてくれるじゃねぇかよ!ツンデレ野郎だなぁ?」
「....うるさい。」
どうやら司はかなり前から少年院に入っているらしく、基礎教養が恐ろしく出来ていない。その上本人のあまりやる気のない性格が災いし、俺が手を貸してやっと及第点を取れるかどうかという有様。
「本当にヤバくなってから頑張る癖直せよ....」
「別にイイだろ?座学は苦手だけど実技は得意だし!」
「典型的な脳筋バカ野郎.....」
「ハハハ!俺にとっちゃ褒め言葉だな。」
まあ本当にヤバくなる前には及第点を取るし、実技で点数をかなり稼ぐので少年院内における順位はそう低くはない。勉強は苦手だが実技が得意な典型的な脳筋である。
4位。今月の俺の磯淵少年院の月間総合成績順位である。本来、少年院で行われる教育プログラムは生活指導、職業指導、教科指導、体育指導及び特別活動指導の4つで構成されているが、此処、磯淵少年院は特に教科、体育指導に力を入れている。というのも、職業指導、生活指導の授業はほぼまともな授業にならないのだ。
『チッ、かったりぃ〜!!やりもしねぇコトをなんでベンキョーしなきゃなんねぇんだよ!!』
『うっせぇなぁ!黙って作業できねぇのかボケ!!』
『うるっせぇのはテメェだボケカス!!』
『あぁ!?やんのかオラァ!!』
『上等だゴラァ!!ボコボコにしてやるよ!!』
『止めなさい!!授業中だぞ!!』
『知るかクソジジィ!!そもそも俺ぁ磯淵を出ればこんなチンケな仕事なんざやらねぇん───ぶふっ!』
『よそ見してんなぁ!?雑魚の癖に舐めてんのかオイ!!』
『不意打ちの方が舐めてんだろうがぁ!!ぶっ殺すぞ!?』
『来いよ単細胞!』
『殺すぞボケカス!!』
出所後に縁が無いからと言って真面目に受けようともしない上に細かい作業にストレスが溜まるのか、そこかしこでいざこざが起きるのだ。そのくせちゃっかり成績上位に食い込む辺り、単なる喧嘩っ早い単細胞ではないことが分かる。
(───レベルだけで言えば全国でも上位クラスだろうな。偏差値55~65辺りの脳味噌はあるらしい。)
磯淵少年院は何故か更生プログラムの教科指導のレベルが他の少年院より遥かに高く、実際の大学入試にも通用するようなレベルの内容を学ばされる。それについて来れるレベルの連中の多いこの少年院の奴らは、伊達に俺と同年代の若さでバックに裏社会が付いている訳じゃない。振れ幅こそ大きいが、上位に限れば日本トップの大学に入るのも夢でないレベルの頭の持ち主が何人かいる。何より───
「俺が本気でやってるのになぁ.....」
実を言えば、人生において学校のテストで俺が本気を出したことはない。理由は何か、と問われれば絵美の為だった、ただそれだけ。教育に熱心だった絵美の両親は、驚くほどに厳しく、『1位を取らなければならない』という強迫観念に絵美が囚われるほどだった。かつて俺は絵美のことを大切に思っていたし、絵美の為なら何でもやろうと全力を尽くしてきた。絵美が1位になれるように、俺は常に一歩引いた順位を取ったり、どうしても分からないと悩む絵美にそれとなく教えたりしていた。
『多分、ここをこうすると───』
『ホントだ!!淳二やっぱり凄い!!』
『マグレだマグレ。大体お前のほうが点数良いだろ。』
『それもそっか。いやぁ~鼻が高いなぁ。』
『腹立つなオイ。』
本当に偶に絵美と1位争いする奴が居た気もするが、大体の場合絵美がトップだったので名前すら覚えていない。とにかく、そうやって影で絵美を支えるために手抜きをしてきたものの、本気でやれば学校の定期テストくらいなら全教科満点を取れるレベルだった。そもそも、今まで通っていた高校だって絵美のレベルに合わせて選んだところだ。全国模試だって良くも悪くもない順位を狙って受けていた。少年院に来てからは、それを隠す必要が無くなったから全力でやってみた、はずなのだが。全教科において上から3、4番目。総合順位が3位と俺の上には絶対的な連中が居る。特に1位。ずっと名前が変わらない男がいる。
「ま、だからどうしたって話か。」
「ん?何が。」
「いや、独り言。」
別に少年院での成績など殆ど今後の役に立たないだろう。監督官からの印象を良くすること以外にこれといったメリットはない。兎に角法律学に全力を注ぐべきだろう。考えを一巡させた後に、再び参考書を読もうと目を落とした、その時だった。
コンコン。
静かに、俺の部屋のドアがノックされた。監督官であればノックと同時に呼びかけてくる。いつもとは違う来客に少し身構える。
「......はい、どなたですか?」
『入っていいかな、木崎淳二くん。』
ドアの向こうから聞こえた声は、同年代と思しき若い男の声だった。
「......少し待って貰えますか。」
『ああ、大丈夫だよ。用が済んだら開けてくれるかな?』
「はい、それじゃあちょっと待ってて下さい。」
誰であれ、いきなり尋ねてきた人間にやすやすと俺の情報を明かすわけにはいかない。机の上の法律学類の書籍を押入れに仕舞い、小説を机に置く。部屋を見回し、何か都合の悪いものが無いか確認をする。
「....どうぞ、入って下さい。」
「うん、失礼するね。」
そう言ってドアを開けて入ってきたのは───
「初めまして、織風達昌、高校一年生の16歳だ。よろしくね、木﨑淳二くん。」
磯淵少年院総合成績順位1位。織風達昌。その人だった。
次回の投稿が何時になるかは不明です。心待ちにしていらっしゃる読者の皆様には大変申し訳なく思っとります....




