記念日
順調、なのだろうと、思う。
バイトは変わらずにこなして、たまに休みの合った日に出かける。
喧嘩をすることもなく、今日みたいにのんびりとデートする。
「はい」
「え?」
「何がいいかわかんなくてベタなんですけど」
「何の、花束?」
「何って…付き合って1ヶ月のお祝い?」
優は黄色を基調とした両手で包み込めるほどの花束を受け取ってまじまじと見つめる。
「…そんなになるんだっけ」
そう漏らすと健太郎は大袈裟なくらいため息を吐いた。
「忘れてると怒るかと思っていろいろ考えてたのになー優チャンはどうでもいいんですねー」
「え、違っ」
わざとらしく拗ねる健太郎に否定の言葉を、思わず追いかけてしまう。
「ま、いいけど。俺がやりたかっただけだし」
「ま、待って!」
1ヶ月になることを忘れていたのは、付き合っていると言うことに戸惑いがある微妙な関係だからだ。
「あの、ありがとう。嬉しい。でも私何も用意してなくて」
健太郎は少し考えるような仕草を見せて、
「じゃあ、はい」
優の前に手を差し出す。意味がわからず首を傾げると健太郎はイタズラっぽく笑った。
「手」
「手…?」
「繋いでくれない?」
優は思わず健太郎の手と健太郎をまじまじと見比べてしまった。
「嫌ならいいけど」
戸惑っているうちに、拗ねたように手を引っ込めてしまいそうになるから。
「い、やとかそういうわけじゃ…!」
優は咄嗟にその手を追いかけていて。
上手いように転がされたと気付いたのは、健太郎がニヤリと笑って手を握り返してからだった。
身長差の分手の大きさも違くて、麗や愛とは違う節くれだった温かい手が優の手を包み込んだ。
「帰ろうか」
ハンドクリームを塗っていてもカサカサしている手なのに、大事そうに、握り返すから。
「う、ん」
反対の手に持ったブーケを見る振りをして、意図せず頬が紅く染まるのを隠した。