初デート
「変じゃない、よね。」
待ち合わせ場所に少し早く着いた優は、ショーウィンドウに映る自分を見て髪を整えた。
健太郎とデートをする。
友達としての期間が長かったし、帰る方向が同じで2人で歩くことも多かったが、2人で出かけるのは初めて。不思議な感じだ。
土屋健太郎は一つ年上の大学生だ。
高校までバスケをしていたというのが頷ける長身で筋肉質な体つきで、短すぎず長すぎない髪を無造作に散らして爽やかに笑う好青年と評されている。
イタリア料理が主な少し洒落たカフェでアルバイトを始めた優より一年先輩だった。
仕事を覚えるのに必死な優をさり気なくフォローしてくれるいい先輩だった。
他のスタッフとも馴染んで行くに連れてお互い呼び捨てにするようになり、最近では異性のスタッフの中では一番話すことが多かったように思う。
だからといって健太郎は優だけに話しかけてきた訳でもなく、寧ろ大学の後輩だという女の子の方が仲良いと思っていた。
「優、おはよう」
「おはよう」
「早めに来たつもりだったんだけど…待たせた?」
「ううん、全然。」
「行こうか」
歩き出した健太郎の隣に小走りで並ぶと健太郎は少し歩調を緩めた。
「今日」
「うん?」
「可愛くしてきてくれたのな」
健太郎が目を伏せて少し照れたように頬を掻くので、優も思わず頬を紅潮させた。
「いつも可愛いけど」
仮にも彼氏に会うんだから、と服を選んでいるところを麗に見つかったのだ。張り切り過ぎず適当過ぎない服にしようと思っていたのだが、第一候補だった可愛いのチュニックにスキニーという格好は即却下された。
代わりに渡されたのはデニムのコクーンスカートとビジュー付きの白いシャツ。その上にオレンジのカーディガンを羽織っている。
初デートで歩き疲れてられないと靴はローヒールを指定され、せっかくの休みだというのに早起きをしてメイクまでしてくれた。
ナチュラルメイク、とは言っても普段優が自分でしているマナー程度のメイクとは全然違う。
「嬉しい」
真っ直ぐな言葉を向ける健太郎に、優は曖昧に笑い返すしかできなかった。