コンプレックス
少しはどっちかに似たらよかったのに、そう嘲ったのは誰だっただろう。
誰もが認めるセンスの良さで服を着こなし、専門学校時代はアパレル店でのアルバイトをこなしつつ小遣い稼ぎと称してモデルも務めるほどのスタイルのいい美人。なのに専門学校卒業と同時に「私のやりたいことはこれじゃない」とモデルをすっぱりやめて、起業して仕事に勤しむほどの決断力も行動力もあるリーダー気質の姉、麗。
絶対音感があり、小さい頃からピアノのコンクールは総ナメ、弦楽器や管楽器も遊びでやってみたと何でも使える天才音楽家。
くりくりとした大きい瞳とよく変わる表情で、わがままさえも周りに可愛がられる妹、愛。
そんな姉妹に挟まれた優は特に何が得意ということもなく、平均身長、平凡な容姿、平凡な才能だ。唯一この姉妹よりできることと言ったら料理くらいのものか。それでもそれは家庭料理の域を出ない。
何でも人並みにこなすので、器用と言われることが多いが、言ってしまえば特に何の才能もないのだ。
器用であればいいというものでもない、と、優は思う。
例えば将来のことを考えたとき、これといった決め手がない。
麗は服飾系の仕事に就くために専門学校に行って資格を取っていたし、
愛はピアニストになるべく現在有名音大に行くために猛練習して、苦手な勉強を優に聞きに来る。
ハッキリと自己主張できる麗と、甘え上手な愛。
優はワガママも言わず静かにその後ろを歩いている。
小さい頃から優は両親に頼りにされはしても、優先順位はいつも最後で、ひどいときには忘れられもした。 小さい頃はそれが悲しかったが、成長とともにそれも仕方ないことだと理解した。
何の才能もないことを恨んだことは一度や二度じゃないが恨んだところでどうしようもなく、いつからか周りに求められることをするようになった。
それをクールと呼ぶならそうなのだろうし、でもだからってそれに逆らう度胸など優にはなかった。
だから、わからなかった。
なんで、私なの?と。