好きと不安
ドキドキと心臓の音がうるさい。
「あ…わ、たし…」
指先が震えるのがわかる。
言うなら今というのはわかっているのに。
「健太郎、が、」
言ったら戻れない不安と、自分の感情を口にする恐怖感。
「ん?」
健太郎は握っていた手を握り直してくれた。
手のあたたかさに、少し心が落ち着く。
ーーーああそっか。
自分が傷付きたくない、ばっかりで。
逃げていたのだ。
優を大事にしようとしてくれる人からも。
「健太郎のことが、すき…」
優が絞り出した消え入りそうな声を聞いて、健太郎は破顔した。
「俺も優のことが大好き」
「わ」
ぎゅ、っと、抱きしめられて息がつまりそうだった。
すっぽり包み込まれるように、けれど、潰されないくらいの力加減で。
ドキドキと健太郎の心臓の音が聞こえる。
「嬉しい」
見上げると、言葉の通り嬉しそうな表情の健太郎。
優はおずおずと、健太郎の背中に手を回す…勇気は、まだなくて、そっとコートの裾を握った。
ふふっと笑った健太郎が、優の頬に触れた。
「キス、やり直していい?」
ーーーん?
「……健太郎、覚えてたの?」
「…………あ。」
優が問いかけると、健太郎は珍しく罰の悪い顔をする。
「てっきり、酔って覚えてないのかと…」
「…そりゃーさぁ」
観念したように口を開いた。
「その前に一度拒否られてるわけで。酔ってたのはほんとだし、夢か現実か微妙だったし。そんなん怖くて自分から言えないって」
言いづらそうにボソッとつぶやいた健太郎に、優はぱちくりと瞬き。
「怖かった、の?」
「怖いよ。惚れた女にどう思われてるか。怖いし不安だよ。
弱みにつけ込んで無理にでも一緒にいたいけど、無理に進めて嫌われたくないし。」
「そう…なんだ」
「はー…カッコ悪いからこういうのあんまり言いたくないんだけど、言って優が安心するならいくらでも言うよ」
怖いのは優だけじゃないのかと、安心半分と嬉しさ半分で、優は笑ってしまった。
「多分俺、優が思ってるよりずっと好きだからね。優のこと。」
ちゅっと、優の額にキスを落とされた。
飾らない言葉に優は頬を染める。
健太郎は満足そうに笑って、優の右頬にキスを落とす。
「でもね」
うん、と、返事をしながら左頬にも触れる。
「たぶん、私も、健太郎が思ってるより、ずっと好きだよ」
自然とそんな言葉が口をついて出ていた。
見上げて、優が伝えると、健太郎はたっぷり10秒は固まって、
「……もう、優さぁ」
ただでさえ浮かれてるんだから、煽らないでとため息を吐いた。
そして、
「すきだよ」
そっと、唇にふれた。




