表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

真夜中のバー

あの日、愛から夕飯食べてくるからいらないとメッセージが送られてきた。

誰と、とは聞かなかった。


もう1週間くらい前になるだろうか。

健太郎とはあまり話していない。

シフトが被らないか、一緒になっても忘年会シーズンで話す暇もなかった。


忙しくてちょうどよかった。

時間があると、思い出してしまうから。


「おー、おかえり!よかった帰ってきた〜」

「麗ちゃん!明日帰ってくるんじゃなかったの?」

「ホームシックになっちゃって今日のうちに帰ってきたわ〜やっぱ我が家が一番」


バイトで疲れて帰ると、出張でいないはずの麗がリビングでくつろいでいた。


「優、ちょっと痩せた?」

「そうかな?そんなことはないよ」


麗は優の頬に手を当てて親指でスッと目元を撫でた。


「っていうかやつれた?上手く隠してるようだけどあたしの目は誤魔化せないわよ。寝てないでしょ?」

「ふふ、麗ちゃんには隠せないね。ちょっとレポートが重なってたんだー。それなのに夜中に映画も見ちゃって。おすすめだから麗ちゃんも観なよ」


ふぅん、と疑うような視線を優に向ける麗に対して、あくまでシラを切るつもりだった。

優が踏み込まれるのが嫌だと意思表示をすれば、大抵麗は折れてくれる。


「ま、いいわ。ちょっとこれから飲みに行くの付き合ってよ。」

「え」

「グイッと行きたい感じなんだよねー!せっかく金曜日なことだし!」

「私、」

「『レポートを頑張った優ちゃん』のお疲れ様会ってことで?特別にお姉さんが奢ってあげるし?」

「……ハイ。」


折れてくれたのかは微妙だが、話し相手をしてくれるというのは有難い。

麗がニヤリと不敵に笑ったのを見て、頷いたことを早々に後悔した。



◇◆◇



連れて来てくれたのは麗の行きつけだというバーだった。


「マスター、あたしいつもの。この子は、そうだなー、オレンジブロッサムねー」


マスターと呼ばれた壮年の男性は、カウンター席を案内してにこやかに頷いた。


「わーおしゃれ」

「でしょう。落ち着くよねぇ」

「愛も成人したら一緒に来たいね」

「愛がお酒飲めるイメージ全然ないんだけど」

「まだ高校生ですからね。」

「ママはお酒強いけど、パパあんまり飲まないからどっちに似るかね」

「楽しみだね」


麗が選んでくれたカクテルは飲みやすくてスルスル飲めてしまう。

ナッツをつまみながら、麗の仕事の話を聞く。


「で?健太郎くんと上手くいってないの?」

「ん…そんなことないよ」


ひとしきり話して満足したのか、麗はそう切り出した。

上手くいくいかないの話ではない。元々、優と健太郎の関係は微妙なものなのだ。


「健太郎くん、優のこと大切にしてくれそうだけどなぁ」

「私のことなんか好きじゃないよ」


彼は。否。


彼も。


「何でよ」

「好きになるわけないじゃない」

「はぁ?何バカ言ってんの」


麗にしたらバカなことかもしれない。


「好きだって言われたんでしょ?」


麗にはわからないのだ。何の取り柄もない優の気持ちなんか。美人で誰からも評価されて好かれる麗には。

酔っているのかもしれない。目の前に置かれた洒落たグラスが少し揺れた。


「私を見てくれるかと思ったの」


真剣な瞳から目が離せなかった。

この人は愛してくれるかも、なんて。

そんなわけ、なかったのに。


きっと優が健太郎の周りにいない珍しいタイプだっただけで、ただの気まぐれだ。

そうじゃなきゃ、見目もよくて優しくて、女に不自由しなさそうな人が優を選ぶわけない。


気まぐれで、デートに誘って、手を繋いで、好きだと言ったのだ。

あの手の温かさも、嬉しそうに笑うのも、特別なんかじゃなかった。


「すき、なの」


簡単に好きだと言わないから、躍起になってただけなんじゃないの。



こんなに好きにさせて、どうしてくれるの。


「バカね。ちゃんと本人に言ってあげなさい」


麗は、どうせ何も言ってないんでしょうとわかった顔で、優の頭を撫でた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ