電話
一晩寝て体調は大分よくなった。元々シフトに入っていなかったから、次の日もゆっくり寝ていた。
なんとなく気まずくて、健太郎へのメッセージは、いつもより時間を置いて当たり障りなく返信した。
返信をしない勇気はなかった。
「ぅわ…っ」
熱下がったよと返したら、急にプルルと電話が鳴り、反射的に電話に出ていた。
「もしもし、優?」
「あっ、わっ、健太郎?」
「あはは、返信来たから電話かけちゃった。寝てた?」
「う、ううん」
電話越しの健太郎の声。じんわりと心が温まるのを感じた。
「声ガサガサだね」
「うん、ちょっとね」
「微熱だけど声がひどいって愛ちゃんが言ってたよ」
愛とそんなに仲良くなったのか。頻繁にメッセージのやり取りをするくらい。
「ずいぶん、仲良くなったね」
そう言いかけて、棘のある言い方になりそうで、飲み込んだ。
「昨日も早退してごめんね」
「空いてたし大丈夫だよ。みんな心配してたよ。空くまでいてくれたけど、無理してたでしょ」
聞いてるだけで、落ち着く健太郎の声。
「じゃあ、声が聞きたかっただけだから」
「うん…」
「ゆっくり休んで。」
「うん、ありがとう」
「おやすみ。好きだよ、優。」
「…おやすみなさい」
何とか平静を保って返したが、ドキドキが止まらない。
通話の切れたスマホを両手で握りしめる。
「私も、すきだよ」
ぽつりと、誰もいない部屋でつぶやいた。
「…バカだな」
答えなんて出てたじゃないか。
少しでも好きじゃなかったら、押し切られて付き合うこともなかった。
デートするのも。手を繋ぐのも。
麗や愛と仲良くなって欲しくないと思ってしまうのも。
その手に触れたいって、一緒にいたいって思うのも。
笑っていてほしいって、思うのも。
全部、好きだってことなのに。
きっと好きだと言われるより、前から、きっと。
「いまさら、何て言うのよ…」
怖い。
自分の感情が。
自分の感情を、口にするのが。
いつか、自分じゃない誰かを、健太郎が好きになることが。
「好き」の気持ちに気付いたときには、もう、引き返せないところまできていた。




