予感
あー風邪引いたな、と思ったのは雪もチラつく時期だった。
幸か不幸か、忘年会シーズンで、お店も忙しいし、学校のイベントもあるようで、ゆっくり健太郎と話す機会はあまりなかった。
麗も仕事が忙しいようだし、愛は受験勉強に集中しているようだ。
頭がズキズキする。
バイトの日だったが、人がだいぶ少なくなってきたところを見計らって早退させてもらった。
ちょうどすれ違った健太郎には一言伝えて、お大事にと心配そうに言われた。
「おかえり、優ちゃん。風邪なんだって?大丈夫?」
自宅のドアを開くと愛がリビングから出て来て、優を気遣う。
「…何で愛が知ってるの?」
嫌な予感しか、しなかった。
だって、優が風邪を自覚したのは。
「そりゃあ」
優が風邪だと伝えたのは。
「健太郎さんが連絡くれたんだよー?」
愛が何かを言っていたが優には聞こえなくて、そのうちに呆れた愛に手を引かれて自室に連れて行かれた、ような、気がする。
遅くに帰って来た麗が作ったお粥を作ってくれたのをなんとか飲み下す。
「ほら、愛がポカリとゼリーを買ってきてくれたから、食べれる?」
「愛が?」
あの愛が?
氷嚢も愛が用意してくれてんだろうか。
優の中で愛はいつまで経っても小さい愛だ。
成長したなぁとぼんやり思った。
「ひどい声ね。そうよ。」
声がガサガサだ。
ほら薬飲んだら寝てと布団に押し込まれた。
感情がごちゃ混ぜだ。
平坦な、波のない穏やかな状態が好きなのに。
いや、また性懲りもなく期待して、勝手に傷付いてるだけだ。
体調が悪いというのはよくない。
パジャマの袖を目に当てた。
ーーー期待なんてするから、いけない。




