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ごめんなさい

「ーーーう、、ゆう!!」


肩を叩かれて、優はハッと顔を上げた。

心配そうに見下ろす健太郎と目が合う。


「持って」


買ってきてくれたのだろう。

ペットボトルで優の握りしめた手をトントンと叩く健太郎。

知らず握りしめていた手は、爪が食い込むほどきつく握って真っ白になっていた。


手を開くと、温かいペットボトルを優の両手に握らされて、指先まで冷えていたことに気づく。


「座ろうか」


優をベンチに座らせて、健太郎は静かに隣に座った。


何か、言わなければ。


「…ごめん、なさい…」


隣に、いつもより少し離れて座った健太郎の顔は見上げられずに、優は自分の足元を見つめながら呟いた。

嫌われた、だろうか。


「……それは、何のゴメンナサイ、かな」


酷く、冷たい声だった。

優はビクリと震える。

温かいお茶のペットボトルを持つ手に力がこもる。


「俺さ、一応それなりの好意は持ってもらえてるって思ってたけど、自惚れだった?」


想像と違う言葉が落とされて、優は思わず顔を上げる。


「優のことだからどうしたら一番傷付けないかとか、考えてない?」


畳み掛けるように言う健太郎に優は何も言わせてもらえない。


健太郎の横顔を見ていると、ぐしゃぐしゃと自分の髪を掻き上げた。


「あー…ごめん。焦って、余裕なくて。追い詰めたいわけじゃないんだ。」


だから、そんな顔しないでと健太郎は眉を下げる。謝らなければいけないのは優なのに。

そんな顔しないで、っていうのは、優のセリフなのに。


「思ったこと、全部話してよ」


そんな穏やかに訊かれたら、突っぱねられない。はぐらかせない。


いつもなら考えなくてもツルツルと出てくる方便もこんなときはいくら考えても出てきてくれない。


「さっき、いやだったんじゃなくて」

「うん」

「あんまり…いい思い出、なくて…」

「うん」

「そのときのこと、思い出して、それで…」

「…うん」


ぽつりぽつりと出てくる言葉を、健太郎はひとつひとつ、大事に拾ってくれる。


「大したことじゃ、ないんだけど」

「大したことだよ。」

「え」

「震えて、何も考えられなくなるくらい。大したことだよ。つらかったでしょう」


なんでだろう。

なんで、心に直接入ってくる言葉を、くれるんだろう。


ぽろっと、涙が頬をこぼれ落ちた。

つらかったねって、“そんなこと”じゃないって、言ってくれるの。言ってもいいの。


「…悔しいな。そいつより先に、優に会えたらよかったのに。」


ぽろ、ぽろと、意図せず出てきた涙に、手を伸ばしかけて、健太郎は、ポケットから出したハンカチを渡した。


「……それとも、今もそいつのことが好きなのかな」

「ま、まさか」


優は首を振った。

引きずってはいるが、それがまだ好きなのかと言われると、きっと違う。




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